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9歳の誕生日を迎えた。

まぁ、いつも通りだ。


今年もリンネアからの祈りを貰った。



いつもと違うことがあるとすればオズワルドだった。

皆がそろった夕食の後、オズワルドは家族に向かって宣言する。


『この女の子の洋服も、抱っこするのも今年限りです。』


皆固まったあと、口々に反対する。


「ダメよ!

こんなに可愛いオズちゃんが見れなくなるなんて!」

お母様の言葉だ。


「そうだぞ。

毎年楽しみにしているんだから。

それにお父様に抱っこされるのは好きだろう?」

これはお父様。


「疲れたときに絵姿を眺めると癒されるんだ。

抱っこがなくなれば俺はストレスで胃に穴が開くかもしれない。」

アル兄様。


「どんな衣装を着せるかを毎年順番に決めているんだ。

来年は私の番なんだ!」

イアン兄様。


「俺はオズを抱っこすることが生き甲斐なんだ。」

ウィル兄様。


「この日を楽しみに1年を頑張っているんだ。

僕の楽しみを奪うのかい?」

エド兄様。


皆の必死さに少し呆れてしまう。


しかし、これは教育に良くない。


両親たちはもう遅い。

ちょっといきすぎた親バカだと思うことにしよう。


しかし、兄様たちはまだ間に合うかもしれない。

前世の息子を思い出し、可愛いなぁと思っていた。

ちょっとブラコンではあるとは思っていたが、流石に行き過ぎだ。

大人として修正してやらねばなるまい。


真面目な顔を作り、冷静に問い掛ける。


『お父様、お母様、そして兄様たち。

本当にそれがいいとお思いなのですか?


私は来年10歳なのですよ。

その歳の男の子に女の子のお洋服を着せ、抱っこすることがいいとでも...?』


空気が凍る。

部屋が沈黙に包まれる。


誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえる。

意を決したように話し掛けてきたのはウィル兄様だった。


「その...

す、すまない。

確かにオズの言う通り、今年で終わりにしよう。


し、しかし、抱擁やキスなんかはいいのだろう?

それに一緒に寝るのも...」


最後の方は消え入るような声で聞き取りにくい。


抱擁やキスは普通に仲が良ければすることだから問題ない。

しかし、一緒に寝るのはどうだろうか。


少し思うところはあるものの、一度に無くしてしまうのは良くないかもしれない。

それに、一緒に寝るぐらいなら仲のいい兄弟ならあり得るのかもしれない。


『ご理解いただけて何よりです。

抱擁、キス、寝るのは構いませんよ。』


皆がホッと息をつくのがわかった。

そんなに緊張することだっただろうか?



まだ緊張の残る皆を置いて部屋に戻る。



一方、残った皆はというと...


「こ、こわかったわ...(母)」


「美しい顔の無表情というのは怖いものがあるな。(父)」


「宮廷のどの人よりも迫力があった気がする。(アル)」


「オズが怒ったのは初めて見ました。(イアン)」


「魔物の前に立つときよりも緊張したぞ。(ウィル)」


「オズを怒らせてはいけないのがわかったよ。(エド)」


「しかし、ウィルはよく添い寝の許可を取れたな!

出かしたぞ(アル)」


「本当に!

添い寝まで禁止では生きる活力が湧いてきませんからね。(イアン)」


「ん?

そういえば、今年までって言っていたよな?(父)」


「あ、そういえばそうだね。

ということは、今年はまだ抱っこしていい...?(エド)」


そんな会話が繰り広げられていたとか。





翌日、お父様から呼ばれていたため、執務室へ向かう。


中には見慣れない若い男性が立っていた。

お父様が紹介してくれる。


「よくきたね。

彼はシリル。

チェシャー子爵の三男だ。

エドと同級生で、エドからの紹介なんだ。

非常に優秀でね、オズの侍従になってもらうつもりだ。

学園には1人しか連れて行けないだろう?

同性の方が何かと都合がいいからね。」


お父様がそう言うとシリルも丁寧に挨拶してくれた。


しばらく相性を見てから決めるそうだ。



お父様は紹介が終わったシリルを一旦外に出す。

そして、伺うように尋ねてきた。


「今年はまだ抱っこしていいのかい?」


『そうですね。

私は言ったことは守りますよ。』


オズワルドの同意に早速抱っこするお父様。


この日から以前にも増して抱っこされる日々が続くのであった。





誕生日から2ヶ月程を過ぎたある日。

ケリーが嬉しそうな顔で遊びに来てくれた。


その顔を見るに父との問題は解決したのだろう。



客間に通し、紅茶やお菓子を勧める。

ケリーが一息ついたのを見計らい声をかける。


『ケリー、嬉しそうだね。

お父様と話せたのかい?』


ケリーは益々笑みを深める。


「そうなんだ!

オズのおかげだよ。

ありがとう。」


『いや、ケリーが頑張ったからだよ。

私はちょっと背中を押しただけに過ぎない。』


「その背中を押してくれなければ、きっと僕はいつまでもウジウジしていたに違いないんだ。

本当に感謝しているんだよ。」


そして、ケリーは父とのことを話してくれた。



王都のスキナー邸に到着した翌日に想いをぶちまけた。


文官になりたいというケリーに

「キツいからと逃げようとするんじゃない!」と叱咤する父。


争いを察した、姉、兄、祖父が間に入る。


兄は父の味方をし、

「スキナー家たるもの騎士にならずしてどうする」

とケリーを責める。


しかし、姉は「稽古がキツいから逃げるのではないの?」と問いかけてきた。


ケリーが文官になりたいという想いを必死に伝えると、姉はケリーの味方をしてくれた。


そのまましばらくはギクシャクとした空気の中を過ごしたらしい。


毎日、兄や従兄弟から責められる。

それを見た姉がキレた。


「あなたたちいい加減にしなさいよ!

それが騎士のやることですか?

頭まで筋肉になってしまったの?」


兄たちも反論するが口では姉に勝てない。

更にトゲトゲとした空気になるも、父は沈黙。


そのまま1ヶ月半程して、父から呼び出された。


「すまなかった。

俺は息子の気持ちに気付いてあげられなかった。

子を想うあまり、立派な騎士に育て上げなければという想いに囚われていた。」


父の本音を聞かされ、嫌われていたわけではないと知り、嬉しくなる。


父は祖父に叱られたらしい。

「親が子どもの夢を潰してどうする。

夢を叶えるようにサポートするのが親であろう。」

そう言われて目が覚めた父はケリーを応援してくれるようになった。


しかし、剣の稽古は続けるようにと釘指しも忘れない。

剣は貴族の必須スキルだ。


まだ兄には「スキナー家たるもの」と言われるし、従兄弟からも「剣が下手だからと逃げた」と馬鹿にされる。


けれど、姉から

「あんな馬鹿たちの言うこと気にしなくていいのよ。あなたは文官としてのし上がり、見返したらいいの。」

と言われ、気にしないようにしている。

むしろ、活力にかえ、勉学に励んでいる。



ケリーの話を聞き終えて、頑張った友人が誇らしくなる。


『そんなことがあったのですか。

認めてもらえてよかったです。

やはりケリーが頑張ったからですよ。』


ケリーは少し照れた顔をして「ありがとう」と返してくれた。


そのあとはたわいもない話をして過ごした。





9歳も中頃に差し掛かり、涼しくなってきたある日のこと。


朝食の席でエド兄様からお出かけに誘われた。

今日は祭りがあるのだ。


「オズは祭りに行ったことがないだろ?

変装の魔道具も準備したし、一緒に行こうよ。


オズの髪色は目立つし、瞳に至っては王家の色だ。

祭りは勿論人が多い。

警備が難しくなる。

今まではオズの自衛手段が乏しかったのもあり行ったことはない。


変装の魔道具のバングルを見えない二の腕あたりに着ける。

すると、髪と瞳は平凡な茶色に変わる。

服も平民が着るようなものを着用する。


しかし、整った容姿に気品を感じさせる動きがどう見ても貴族だ。


準備したエドは元より隠せるとは思っていない。

余り目立たなく出来ればいいのだ。



大通りは沢山の人に溢れていた。

色々な食べ物の匂いが漂ってきて食欲をそそる。

あちこちで客を呼び込む声が聞こえる。


今日は獣人も多くいる。

獣人は高い身体能力と自由を好む性格のため冒険者をしているものが多い。

そのため、日中はあまり街中で見かけないのだ。


適当に屋台を覗きながら歩く。


道行く人たちがチラチラとエド兄様を見てるのがわかる。

エド兄様も変装はしているが美形なのには変わりなく、女性からの視線を集めている。


そんなエド兄様はオズワルドしか見ていない。


「オズ、あそこのジュースは甘いのにスッキリとしていてとても美味しいんだ。

1つだと多いから半分こしよう。」


エド兄様は器用に氷魔法を使いジュースを冷やして渡してくれる。


マンゴーとピーチとオレンジを混ぜたような、はじめは濃厚な甘さがあり、でも後味はスッキリとしていてとても美味しい。



しばらくは手を繋いで歩いていたのだが、お昼ぐらいの時間になると人が更に多くなってきたため、エド兄様から抱っこしたいと言われた。


エド兄様を無言で見上げると、少し焦ったように言葉を続ける。


「オズが抱っこを卒業っていうのはちゃんとわかっているよ。

でも、まだ9歳だろ?


それに、人が多いとはぐれるかもしれないし、オズだってその方が見やすいだろ?」


エド兄様の言うことは一理ある。


『では、お願いします。

重たいでしょうから疲れたら下ろしてくれて構いませんよ。』


オズからの許しを得て、エド兄様はパッと笑顔を咲かせる。

それを見ていたお姉様方がノックアウトされているのが横目にチラリと見えた。



その後もエド兄様は器用に抱っこしたまま、色々な屋台を見て歩く。


仲睦まじい美形兄弟の姿にオマケのオンパレードだった。


結局、邸宅に帰るまで抱っこしたままだった。

どうやら身体強化の魔法を使っていたらしい。


祭りで色々と食べてお腹いっぱいなので夕食は辞退し、お土産を家族や使用人たちに渡す。


今日は楽しい1日だった。

今度は友達と行きたいと思うのであった。





9歳ももうすぐ終わる。

遂にリンネア用の変装の魔道具が完成した。


変装の魔道具は既にあるので改良すればそんなに難しくないと思ったのだが、思いの外難しかった。


既存の物は元あるものの色を変えるだけだ。

リンネアの場合はまず特徴的な長い耳を隠さねばならない。

有るものを無くするというのが難しく、行き詰まってしまった。

なので、魔道具研究をしているエド兄様に相談しつ進めた。


エド兄様は高等部魔道具科を卒業し、正式に魔道具研究所に勤めている。

といっても、高等部魔道具科のある場所と同じだ。

学生から研究者になっただけで、殆どかわらない。

寮も研究者用の寮に移っただけだ。


魔方陣は主にオズが研究した。

以前にリンネアが使っていたという認識阻害の魔法を教えてもらい、そこからヒントを得た。

まだ、認識阻害の魔法自体は使えないものの、今回使ったのはその一部だけなのでそんなに難しくない。


その魔方陣を魔道具用に調整するのをエド兄様と相談して行った。


因みに、リンネアにそういった魔法はないのかと聞いたら、基本引きこもりのエルフはそういった魔法はあまり発展していないと言われた。


リンネアは魔法の知識は多いものの、開発したりするのは得意ではないようだ。



綺麗にラッピングしてリンネアに渡す。

リンネアはラッピングを解いて、バングルを取り出す。


変装の魔道具を参考にし形こそバングルではあるが、見た目はリンネア好みに可愛らしいものだ。

蔦に小さな鳥と花の模様を刻んでいる。


魔方陣は内側に刻み込んでいるため、一見すると可愛らしい装飾品にしかみえない。


魔力はリンネアから供給してもらうため魔石は着けていない。


「可愛い。

ん?これは魔道具?」


『さすがだね。

魔道具だよ。

着けてみてくれる?』


リンネアの耳は人間族の耳になり、綺麗な銀髪は明るい茶髪に、紫の瞳は青なる。

リンネアの白い肌と相まって異国人には見えるが、そんなに目立たない。


リンネアに鏡を差し出す。

覗き込んだリンネアの目が丸くする。


『ふふ。

ビックリした?


いつも私が贈った髪飾りを着けてくれているだろう?

なのに外出のときはフードを被ってしまうから勿体ないと思っていたんだ。


可愛いリンネアを皆に見てもらいたいと思ってね。

これを着けて一緒に出掛けてくれる?』


リンネアは頬を染め、オズワルドを見る。


「ありがとう。

私もせっかくの髪飾りが見せれなくて残念に思っていたのさ。

今度一緒に見せびらかしに行こう!」



因みにこの魔道具及び魔方陣は世に出すつもりはない。

姿を変えられるというのは悪用される可能性があるからだ。

リンネアだけの魔道具。

それでいい。

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