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6歳の誕生日を迎えた。

今年は女の子のお洋服とは別にネックレスをプレゼントされた。


小さな魔石のシンプルなものだ。

これも魔道具らしい。


魔力を流すと対になっているもう1つの魔石と引き合うように動く。

動くといっても弱い力で障害物があればすぐに止まってしまう程度だ。

誘拐、迷子防止らしい。






さて、文字が読めるようになってからというものの、様々な勉強をしてきた。

前世は薬の研究をしていたことから魔法薬については特に興味がある。


しかし、この魔法薬というのは余り発展していない。


これには、医療行為の住み分けが関係してくる。


先ず貴族であれば治癒魔法を使う。

外傷に関しては治癒魔法を使えば地球の比ではない程に優秀だ。

内臓疾患なども治癒魔法である程度治せる。

でもそれはあくまで弱ってしまった内臓を治癒し、元の機能を取り戻すというものである。

なので、ウイルスなどが原因のものは処置なしとなる。

そういった場合は対処療法しかない。


貴族の医者といえば、王立学園高等部魔法科で医療魔法を学んだものがなる。

とても数が少ない。



次に平民は魔力があまりないので薬草を使う。

勿論効果は治癒魔法と比べられない程劣る。

平民は医者と呼ばず薬師と呼ばれる。

基本的に世襲制であり、こちらも数が少ない。



魔法薬を作るにはこの医療魔法、場合によっては他の属性魔法と薬草の知識が必要になる。


しかし、貴族は魔法を使えない平民を見下しているので協力することはない。

魔法を学ぶのに時間を費やす貴族、薬草を学ぶのに時間を費やす平民。

交わることはないのだ。


魔力を学び、薬草を学べる天才だけしか魔法薬を得ることは出来ない。


以上の理由で魔法薬の研究はされているものの遅々として進まないのだ。



オズワルドは将来的に魔法薬の研究をし、新薬を開発したい。

しかし、現状では難しいだろうなと思う。


先ずは人材確保が必要だ。

平民と関われる魔法知識豊富な貴族と、薬草の知識を豊富に持った平民が必要になる。


しかし、優秀な人間というのは進むべき道が決まっていることが多い。

育てることを視野にいれた方がいい。

その方が確実だ。


貴族であれば下位貴族なら平民と関わることも可能であろう。

更に魔力が低いため、騎士や魔法師として登用、出世するこは少なくなる。

仕方なしに文官になるものも多いと聞く。

魔法の勉強をしたいのに文官になる。


平民であれば勉強したい、伸し上がりたいと思っているものも多くいると思う。

平民は基本的に親の仕事を引き継ぐ。

農民の子は農民。

商人の子は商人。

しかし、多くを引き継げるのは大体が長子だ。

下になればなる程相続できるものは少なくなる。

そういった者は安い賃金で細々と暮らすか、危険を承知で冒険者などになるかだ。


このような者たちを確保できれば研究も進みそうだ。

いくら天才と云えど1人で出来ることなどたかが知れている。



そのためにはお金が必要だ。

幸いに基礎化粧品やヘアケア用品で定期的な収入はある。

これからは更に開発して収入を得ること。


そして、魔力を増やすことにしよう。

人材はどうにか出来ても魔力はどうにもならない。

研究はある程度任せることが出来たとしても実験には魔力が必要だ。


魔力を増やすには毎日インフルエンザのような症状に耐えねばならない。

辛いが目標があればやる気になる。

気合いがあればなんとかなる!





魔力を増やす決意をして3ヶ月ほど経った。

思ったより順調だ。


事前に家族へは魔力増加することを話したのだが、揃って反対された。

そんな無茶しなくてもいい!と。


しかし、将来は魔法薬を作りたいこと。

研究し、新薬を開発したいこと。

そのためには多くの魔力が必要であること。


以上を丁寧に説明し、オズワルドが折れることはないとわかると仕方なく認めてくれた。

魔力操作は本人の意思のみでしか動かせないため諦めたようだ。

絶対に無茶はしないという約束はさせられたが。


最初の1週間はお布団が友達だった。

徐々に慣れ、動けるようになった。

1ヶ月もすれば日々の鍛練や勉強もこなせるようになった。

今では魔力増加しながらも下級魔法が扱える。


人間の適応能力はすごい。

慣れればなんとかなるものだな。



そして今日は領地にいる前バッハシュタイン公爵夫妻のもとへと旅立つ。


5歳のお披露目会で誘われていたが中々まとまった時間がとれずに遅くなってしまった。



お見送りにお母様とウィル兄様が来てくれた。

ウィル兄様がオズワルドを抱き上げ顔を覗き込んでくる。


「本当に行ってしまうのか?

旅は危ないぞ。」


眉間にシワを寄せて尋ねてくる。

お母様も心配そうな顔をし、ウィル兄様の言葉に同意するように頷く。


「そうよ。

お母様は心配で心配で。

オズちゃんはとても愛らしい容姿をしているでしょう。

善からぬ事を考える者から狙われるかもしれないわ。」


『大丈夫ですよ。

そのために護衛をつけて下さったのでしょう?

兄様たちから貰った守りの魔石も身に付けています。』


そう返すも納得できないらしい。

このような会話はここ最近ずっと行われている。

どんなに言葉を尽くしても心配が消えないことは学習済みだ。


昨日なんてオズワルドを膝に抱えたお父様が善からぬ想像をしてしまったのか目が潤んでいた。


『そろそろ出ないと遅くなり危なくなってしまいます。』と、適当なところで話を切り上げ出発することにする。


お母様とウィル兄様からのキスを受け、オズワルドもキスを返して馬車に乗り込む。


4頭の馬が引く馬車にオズワルド、リサ、先生が乗り込む。

その周りには護衛が4人。

ヒスイも同行する。


馬車はゆっくりとスタートし、王都を出ると徐々にスピードをあげる。

途中の街で宿を取り、それなりの日数をかけて領地へ行くこととなる。



トラブルに巻き込まれないため、街に着いても宿から出ることなく過ごしていたので少し窮屈な旅ではあったが、その甲斐あって何事もなく無事にバッハシュタイン家本邸に着いた。


前バッハシュタイン公爵夫妻が温かく迎えてくれる。


「おぉ!

しばらく見ぬうちに大きくなったな。」


お祖父様が軽く抱擁してくれる。


「遠いところをよく来てくれましたね。

今日はゆっくり休んで頂戴。

部屋を用意しているわ。」


続いてお祖母様の抱擁も受ける。


『お久しぶりです。

お祖父様、お祖母様。


わざわざありがとうございます。』



部屋へと案内してもらい、確かに疲れていたのでベッドに横になる。



少し休憩するつもりが寝てしまっていたらしい。

起きたら翌日の昼前だった。


服装を整え、改めて挨拶をしに行く。

お祖母様しかおらず、お祖父様は出掛けているらしい。

お祖母様に誘われ、少し早めの昼食を取る。


「オズが来てくれて嬉しいわ。

今日はゆっくり休んで、問題なければ明日からは色々なところに案内するわ。

バッハシュタイン領はとてもいいところだから、きっとオズも気に入ってくれるはずよ。」


『ありがとうございます。

私も会えて嬉しいです。


明日からとても楽しみです!』





夕食の席でお祖父様から引き合わせたい人がいると聞かされる。


『引き合わせたい人ですか?』


「そうだ。

隣の領地、スキナー伯爵の前当主とその孫だ。」


スキナー伯爵家は代々騎士の家系だ。

伯爵なので魔力は少なくないが、多くもない。

それなのにとても優秀な成績を残す実力のある家系なんだとか。

相手の剣をいなしたり、相手の力を利用したりすることで消費魔力を減らす。

素早い動きで翻弄し、ここぞというときに魔力を使い攻撃する戦いかたをするらしい。

お祖父様の勘によるとオズワルドはこういった戦いかたが向いているのだとか。


まだ剣の型だけしか習っていないオズワルドの為に師になってくれるようお願いしてくれたらしい。

「お互いに気が合えば」ということで了承も得ているとのこと。


また、孫がオズワルドと同い年のため仲良くなれればということらしい。


剣の師と新しい友達。

どちらも嬉しい!

喜んでお祖父様にお願いする。


『それは楽しみです!

宜しくお願いします。』


笑顔のオズワルドにお祖父様も白い歯をみせ笑ってくれた。




翌日からはお祖母様の宣言通り、街や花畑、川に森に連れて行ってくれた。

王都では基本引きこもりだったので、すごく楽しい。



そして、1週間程で前スキナー伯爵とその孫であろう男の子がやってきた。


「はじめまして。

ロジャー・スキナーと申します。」


先ずは前スキナー伯爵が挨拶し、そのあとに男の子が続く。


「はじめまして。

ケイリー・スキナーです。

よろしくお願いします。」


ロジャー様は体つきはそこまで大きくない。

しかし、しっかりと鍛えているであろう引き締まった体をしている。


対して、ケイリーはまだ6歳ぐらいというのもあるだろうが、あまり騎士一家の子には見えない。

大人しそうに見える。


しばらくはここ本邸に滞在して相性を見るそうだ。


オズワルドは1日でお祖父様にお願いする。

丁寧で紳士な対応。

凛とした佇まい。

何よりも実力を見せるためとバッハシュタイン家の騎士と戦った姿に一目惚れしたのだ。


更に3日後に剣の師となることが決定した。

お眼鏡にかなったらしい。

日々コツコツと鍛練や勉強する姿と、孫と仲良くなれて安心したようだ。


ケイリーはやはり大人しい子だった。

少し引っ込み思案で同年代の子には下に見られることが多かったようだ。


はじめは警戒していたようだが、オズワルドが優しく、そしてしつこくなりすぎない程度に構えば、徐々に警戒心を解いてくれた。


今は“ケリー”と呼ぶことを許してくれた程に懐いてくれている。



このまま師匠とケリーはバッハシュタイン家本邸に滞在することとなり、本格的な剣の鍛練が始まった。





もうすぐで7歳になろうというある日。

本邸の敷地内でケリーと鍛練しているところにお祖父様が興奮した様子で駆け寄ってきた。


振っていた剣を止め、お祖父様を迎え入れる。


「オズ!

ついに見つけたぞ!


こんなに早く見つかるなんて、きっとオズは神にも愛されているのだろう!」


『お祖父様、お帰りなさい。

そんなに興奮しているなんて珍しいですね。

何が見つかったのですか?』


そう問うと、少し冷静になったのか咳払いして話し始めた。


「これだよ。

(ふくろう)の卵だ。


決して他の人に触らせてはいけないからな。」


そう言って革袋から革の手袋をはめた手で掴んで渡してくれた。

受け取ったそれは透明の鶏の卵より小ぶりの卵だった。

とても卵には見えない。


しげしげと見るオズワルドにお祖父様が説明してくれた。



魔梟は魔馬と一緒で魔力を持った梟だ。

風と雷の魔法が使える。

敵と遭遇すれば雷魔法で怯ませ、風魔法を使いとんでもないスピードで逃げる。


魔梟は子育てしない。

卵を産み落とすだけだ。

卵はとても堅く、ちょっとやそっとでは割れることはない。


周囲の魔力を吸収して孵る。

初めは透明で鶏の卵より小ぶりなサイズだが、魔力の吸収とともに色が付き大きくなる。


最終的に色は樹液のような黄色を薄いのと濃いのとでマーブル模様に、サイズは女性の手のひらに乗せれるぐらいになる。


まだ魔力を殆ど吸収していない透明な状態で回収し、他の魔力と混ぜることなく成長させ、孵すことが出来れば深い繋がりの従魔獣となるのだ。


この深い繋がりになることで、何となくではあるが意思の疎通ができるようになり、魔梟の目を借りることができる。

魔梟が見ていることをそのまま見れるのだ。


この魔梟を欲している人は多い。

しかし、魔梟自体が珍しく、卵はもっと珍しい。


森の奥、普段は人が入ってこないような場所の木の根元などに産み落とされる。


普段人が入らないから歩きにくいし足元はよく見えない。

更に透明な卵だ。

見付けるのは至難のわざだ。


今回お祖父様は魔力を通さない特殊な革を使った袋と手袋を使って回収してきた。

この方法を使い、見付けたら持って来るよう依頼するばいいように思えるが、これも中々に難しい。

しばらく魔力が吸収出来ないと卵が崩れてしまうのだ。

大体5時間ほどだという。


今回は8ヶ月程で見付かったが普通はこんなに早く見付からない。

イシュミラ王国全体でも年に1つも見付からないのだとか。


そんないつ見付かるかもわからないものを森近くに拠点を置き待ち続ける人はそうそう居ない。


お祖父様も自分の魔梟を見付けるのに17年もかかったらしい。


そんなものをお祖父様はオズワルドが来てから毎日探してくれていたらしい。

確かに毎日多くの騎士を引き連れて出掛けているとは思っていたが、まさか自分のためとは思っていなかった。


お祖母様も執務を代わりにこなし、お祖父様に時間を作ってあげていたようだ。


そんな2人の行動にジワジワと心が温かくなる。

お祖父様、お祖母様に感謝の言葉を述べ、キスを贈る。

お祖父様のデレデレ顔が見れた。

お祖母様は頬を染めて喜んでくれた。


それからは洋服の下に首から袋を下げ、肌身離さず過ごした。


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