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国民カードを取得して1ヶ月ほど。

今日はウィル兄様が実地訓練から帰ってきた。



「あぁ!オズ!

久しぶりだね。


5歳おめでとう。

お披露目会に参加したかったのだけれど、許可が貰えなかったんだ。

ごめんよ。」


ギュッとオズワルドを抱き締め、沢山のキスを降らせながら、少ししょんぼりと謝ってくる。


『ウィル兄様、おかえりなさい。


気にしないで下さい。

お仕事だったのですから仕方ないです。』


「オズは優しい子だね。

ますます美人になってきたし、悪い虫がつかないか心配だよ。」


相変わらずの弟バカ発言は曖昧に笑って流す。

久しぶりのウィル兄様は体つきががっしりとして、筋肉が増えていた。

以前よりワイルド感が増え、ますますイケメンだ。



「オズにお土産を持って帰ってきたんだ!

喜んでくれると嬉しいのだけど...」


そう言って見せてくれたのは、乾燥された薬草や魔石、保存魔道具に収められた生の薬草と果物たち。


「オズは研究をしているのだろう?

これは俺の行った地方特産の物なんだ。」


『うわぁ!

すごい!


ありがとうウィル兄様!』


ウィル兄様のほっぺにキスをし、お礼を言うとウィル兄様はデレデレになる。



因みに、保存魔法をかけたり、保存魔道具に入れた植物を植え直しても枯れてしまうため、栽培はできない。


保存魔法は干渉属性で扱える者は少ない。

なので、保存魔道具も少なく、高価だ。



ウィル兄様は今日から5日間お休みだ。


曰く、オズ欠乏症となったウィル兄様は片時も離してくれなかった。

ご飯は隣、お風呂も一緒、果てにはベッドにまで入ってきた。


他の兄弟から「オズを1人占めするな!」と言われたが、

「じゃあ、お前たちは3年間もオズと離れて耐えられるのだな?」と反論。


兄弟たちは悔しそうな顔をしつつも、説得を諦めた。

耐えられないようだ。


さすがに次の日から抱っこはやめて貰ったものの、忠犬のようにずっと付いて離れない5日間を過ごしたのだった。


おはようからおやすみまでならぬ、

おはようからおはようまで。


そんなウィル兄様も仕事が始まり、日常が戻ってくる。





1ヶ月ほどが経ち、アル兄様の結婚式だ。


この世界の結婚式は教会で誓いをたてる。

参加するのは新郎、新婦の家族のみだ。


教会の奥、少し高くなった場所に司祭がいる。

その手前まで新郎新婦が一緒に歩み、腕を胸の前で交差させ跪く。


それぞれが誓いの言葉を述べ、司祭が承認する。

承認されたら立ち上がり、生涯の輪という魔道具を交換し身に着ける。


これで結婚式は終了だ。


殆どの貴族は結婚式の後に披露宴パーティーを開く。


平民の場合、魔道具はなく代わりのアクセサリーを交換するのだとか。


生涯の輪という魔道具は少し特殊で、自身の魔力を結晶化させて作る。

この結晶化は中々に大変であり、材料となる魔石もなるべく純度が高い物を準備するため時間がかかる。


別に純度が低くとも作れる。

しかし、鮮明度が変わるため、見た目でどれくらいの純度の物を使ったかがわかってしまう。

色は材料にした魔石の色になる。


愛であったり、財力、権力、貴族としての誇りを示すため、なるべく純度の高い物を準備するのが普通だ。


生涯の輪は輪っか状で身に着けることが出来れば形状は何でもいい。


一度身に着ければ外すことが出来なくなるので、他の装飾を邪魔しない指輪を選ぶ人が多い。


因みにサイズは自動調節される親切設計。

これぞファンタジー。


また、外せないので離縁することもない。


結婚式をするのは正妻だけが一般的。

必要に応じて第二夫人以降を娶ることもあるが書類だけで済ませる。


結婚式が必要な場合、生涯の輪ではなく普通のアクセサリーを女性にだけ贈る。


正妻であるのに結婚式を挙げず書類だけで済ませることは

“正妻とは認めない”だったり“大切にしていません”宣言である。



アル兄様たちが誓いの言葉を述べ、生涯の輪を交換する。

スタンダードな指輪で、どちらとも鮮やかな色だ。


恙無く結婚式を終え、披露宴パーティーが開かれる。

カートも来てくれた。


主役はアル兄様たちなので、オズワルドは挨拶を済ませたカートと談笑する。


「よう!オズ

久しぶりだな。

たまにはお前が遊びにこいよ。」


『カート、久しぶりだね。

会いに行きたくとも家族が許してくれないんだ。』


カートは苦笑いを浮かべる。


「まぁ、お前の家族の溺愛はすごいからな。

仕方ないから俺が遊びに行ってやる。」


カートがグイグイ来るのもあり、随分気安い態度になった。

咎めるどころか嬉しそうなのでそのままだ。


周りには話し掛けたそうにしている者がチラチラと様子を伺っている。

しかし、兄弟たちの鉄壁ガードのおかげで話し掛けられることはなく、カートとそのまま言葉を交わすことができた。





5歳も半分を過ぎた頃、お父様からの呼び出しがあった。


執務室の机で何やら書類を見ていたお父様はオズワルドが入室すると直ぐに手を止め顔を向けてくる。


「オズワルド、よく来たね。

実はテルフォード公爵子息のお披露目会に参加してもらおうと思ってね。」


『テルフォード公爵ですか?』


「うん、そう。

知っているとは思うがテルフォード公爵家は母上の実家だ。


母上の弟の息子が現テルフォード公で、その息子がオズワルドと同い年なんだ。

今から交流があった方が学園でも安心できると思うんだが、どうだろう?」


『ありがとうございます。

是非仲良くなりたいので、参加します。』


「よかった。

オズワルドならそう言うと思っていたよ。」



お父様との話が終わってから、先生に改めて礼儀作法やテルフォード公爵家についての復習をお願いする。


日々研磨しているとはいえ、オズワルドから訪問するのは初めてだ。

粗相のないようにしっかりと復習しておく。


テルフォード公爵家は代々宮廷魔法師を輩出する魔法師一家だ。

1つの属性に絞ることが一般的な中、2つの属性を扱うものが複数人出る数少ない家の1つである。



当日はお父様と一緒に馬車で向かう。

王都のテルフォード公爵邸で開催される予定で、軒数的にはバッハシュタイン公爵邸から離れてない。

しかし、それぞれの邸宅はとても広いため距離はそれなりに離れている。


テルフォード公爵邸はバッハシュタイン公爵邸と比べても遜色がない程に立派な建物であった。


会場にはすでに多くの人が集まっており、しばらくしてテルフォード公爵と子息の挨拶が始まった。


やはり公爵家というのは厳しく教育されるらしい。

前世にはこんな5歳児いなかったぞ。


全体への挨拶が終わったので、個別の挨拶に向かう。

こういう場は高位の者から挨拶して行く。

今日は王族がいないためオズワルドたちが最初だ。


お父様の挨拶の後にオズワルドも続く。


『お初お目にかかります。

オズワルド・バッハシュタインと申します。』


「初めまして。

ギルベアト・テルフォードです。

僕たちは再従兄弟にあたるんだよね。

仲良くしてもらえると嬉しいよ。」


『こちらこそ、仲良くしていただければ嬉しいです。

これからよろしくね。』


あまり長く話すと後が支えるので、手紙のやり取りの約束して離れる。



オズワルドたちの周りに人が集まるが、お父様が上手く対応し一部の人としか挨拶してない。


ある程度捌いて周りから人が減るとお父様が歩き出す。


「オズ、見てごらん。

あそこにいるのはブレイアム侯爵とそのご子息だ。

オズと同い年だから挨拶しておこう。」


そう言われ、お父様の視線の先を見る。

そこには恰幅のよい男性と同い年にしては大きめの男の子がいた。


確かブレイアム侯爵家は騎士の家系だ。

代々優秀な騎士を輩出しており、現在の第一師団副団長はブレイアム侯爵の弟が務めていたはずだ。


納得の体格である。


お父様とオズワルドが挨拶する。

ブレイアム侯爵は厳つい顔に笑顔を浮かべ返してくれる。


そして、ブレイアム侯爵子息も続く。


「初めまして。

クラーク・ブレイアムです。


よろしく!」


『同い年で一緒に学園に通うことになるからよかったら仲良くしてくれると嬉しいな。』


クラークはニカッと笑う。

「おう!

よろしくな。


オズワルド様は剣術に興味あるか?」


いきなりのフレンドリー対応にブレイアム侯爵の雰囲気が険しくなる。

表情は変わらないのにすごい。


『オズでいいよ。


まだ決まった型の練習だけだけど、毎日やってるよ。』


クラークに合わせて、多少口調を崩す。

オズワルドが合わせたのを見てブレイアム侯爵の雰囲気が少しマシになった。


きっと後から怒られるだろうなぁ。


そんなこと全く気にしていないクラークが無邪気に喜んでいる。


「そうか!

俺は騎士になりたいんだ。

よかったら一緒に練習しようぜ。


あ、俺はクラークでもクランキーでも好きに呼んでくれ。」


『そうだね。

私は嗜む程度のつもりだが、クラークと一緒なら上達しそうだ。』


そんな会話をしていると解散になった。



ギルベアトは大人しく、賢そう。

クラークは活発で人懐っこい。


新しい友達に胸が高鳴る。





5歳も残すこと3ヶ月。



ついに基礎化粧品が完成した。


化粧水と乳液が合わさったような物でこれ1つで大丈夫だ。

トロリとした乳白色でほのかに香る甘い香りはお好みで選べるよう3種類。


薔薇、ラベンダー、ジャスミン。

庭に咲く花をもらい精製したのだ。


試作品なのでこれからもっと増やす予定だ。


すでにお母様に試してもらい、大絶賛された。

美の革命だそうだ。


これもトリートメント同様にお父様に任せ売り出す。


トリートメントより手間がかかるし、大量には作れないのでかなり高価になるが、お母様曰く絶対売れるらしいのでお任せしてる。




そして今日はカート、ギル、クラークが我が家に遊びに来る。


ギルはギルベアトのことだ。

そう呼ぶように言われたのだ。


溺愛家族のおかげで友達と会うときは専ら我が家だ。

なので、自然と3人とも仲良くなった。


しかし、3人が集まるのは初めてである。



ほぼ同じタイミングで現れ部屋へと案内する。


「久しぶり!

俺が一番と思ったんだけどな。」


相変わらずの笑顔でクラークが話しかけてくる。


「ふん。

残念だったな。

俺が一番だ!」


そこにカートが割り込む。


「誰が一番かなんて、いいではないですか。


オズ、あなたが興味あると言っていた魔法書を持ってきましたよ」


ギルが続く。


そして、カートとクラークがまた自分はこれを持ってきたと主張し始める。


チビたちの可愛い争いに頬が緩む。


『ふふ。

皆、ありがとう。』


オズワルドがそう言うと3人の視線が集まる。

一斉に「いいんだ!オズが喜んでくれるなら」と返してくれる。


言い争いで少し興奮したのか顔が赤くなっている。


飲み物とお菓子を勧め、話し始めれば時を忘れるような楽しい時間になる。



楽しい時間というのはあっという間でそろそろお開き。


『楽しかったね。

皆が仲良くしてくれてよかったよ。

3人とも息ぴったりだね。』


とオズワルドが言うと、カートがギュッと抱き締めてくる。


「オズの一番は俺だからな!」


そこにクラークが加わる。

「オズの一番はわからないけど、俺の一番はオズだよ。」


そしてギルも。

「そうですね。

強要はいけません。

私の一番もオズですよ。」


いつも似たようなやり取りがある。

別れのときの挨拶のようなものだ。

微笑んで『ありがとう。私は皆のことが好きだよ。』と返す。


それぞれをお見送り。

賑やかだったのが静かになり少し寂しく感じる間もなく、イアン兄様に抱き上げられた。


オズワルドには聞こえなかったが、

「全く。可愛いオズにいらん匂いが着くじゃないか。」と言っていたとかいなかったとか...



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