邂逅
バトル回です
「ついたぞ、泉だ」
ガブラが顎で泉をさす。
俺は一目散に泉に駆け出し、水面に顔を突っ込んだ
…美味い…ただの水なのに…前世で飲んだミネラルウォーターの比じゃないなこれは…
「おいおい、慌てるなよ」
喉を鳴らして水を飲む俺に、ガブラが苦笑まじりに声をかけた。
「ぶはぁ!」
ようやく泉から顔を上げた俺は、初めて自身の姿を水面に見た。赤褐色の甲殻に同じ色の鱗に包まれ、肌色の翼膜が太陽に透けている。いかにも子竜といった見かけの頭部には、額から突き出た黒い円錐状の角が生えている。
ガブラと同じくらいの背丈しかない。
「なんだか、弱そうだな」
「会った時にいっただろ?生まれたばかりだと見ればわかるとな。俺もこんなに弱そうな状態の竜に実際に会ったことはない。」
その後ガブラは普通の竜なら親の加護下にいるぐらいじゃないのかと教えてくれた。
確かにこんなの弱そうな竜がいきなり世界に放たれてもただのエサだな。たぶんガブラより弱いし。
自分で言って情けなくなってきたぞ、早く成長しなければ。
「アクマはどうやったら成長できるんだ?」
「なんだ?早くデカくなりたいのか、まあ普通に生きていれば段々成長するがな、一番劇的なのは進化だな」
進化…神も言っていたな。
「どうやったら進化できるんだ?」
「頭に声が響いたことはあるか?俺たちは神の声と呼んでいるがな、それが伝えるレベルがある一定の高さになれば進化できるらしいぞ?ちなみに俺たちゴブリンは20で進化だな。」
なるほどな、この話の感じだと種族ごとに進化レベルは違うみたいだな。
「ちなみにガブラは何レベルなんだ?」
「よくぞ聞いてくれた!今19レベルでな、もう少しで進化できるんだ、そうすれば村のみんなも…ん?」
なんだ?様子が変わったぞ、嫌な予感がするな
「どうした?」
「身を隠すぞ、足音がする。おそらく二足歩行で数は2、そしてゴブリンではない。」
ガブラが冷や汗を滲ませながら伝えてくる。俺たちは近くの岩場に身を隠した。
脈拍が上がる、緊張から手が震える。俺に戦う力はまだないに等しい…もし敵ならば…
「おっ!やっぱりあっただろ水場!はやくこいよルナ!」
「ケン!もう森の中なんだから緊張感をもちなさい!」
あぁ…最悪な予想が当たってしまった
人族だ
剣士風の男が1人と、神官のような服を着た女が1人
チラリとガブラを見る
「…ここにいろ」
おい待て、なんだその覚悟を決めた目は
行くなよ、隠れてたら見つからないかもしれないだろ
俺の意図が伝わったのか、ガブラが口を開く
「お前の足跡や痕跡が奴らの向かう先に残っている。珍しい竜種の足跡だ、きっと捜索する。正面から戦うとなると2対1は厳しい」
「なら、俺もやる」
「…気持ちだけうけとるさ。ゴブリン族は、少なくとも俺の村のゴブリン達は赤ん坊に戦わせるようなことはしない。誇りがあるんだ」
その言葉を最後にガブラが動き出す。短剣を構え、男の方をターゲットにジリジリと距離を詰めていく。
まてよ、負けたら死ぬんだぞ?
なんであったばかりの俺のために戦えるんだよ。
そして、ガブラは脚力を爆発させ、男に飛びかかった。
狙いは、首。
男は気づいてない、殺った!そう思った
「ケン!」
一瞬の差だった。ガブラの短剣が男の首に到達する直前に、女の錫杖がガブラの背中に振り下ろされた
それでもガブラの勢いは止まらないが、その剣先は男の首を刺し貫くことはなく、右の肩口を斬りつけるのみだった。
「ぐぅっ!?くそ!ゴブリンか!下がってろルナ!」
体勢を整えた男にガブラが再度飛びかかる。男も剣を構え反撃する。
互角…にみえる。しかし肩の傷があってこの状況なら本来ならガブラは押されていたのだろう。やはりガブラの判断は正しかったのだ。
「ヒール!」
神官風の女から声が飛び、錫杖から光が男に流れ込む。
「ナイスだルナ!ゴブリンの討伐報酬もらってちょっといい飯食いにいこうぜ!」
直後、肩の傷が治った男はガブラを圧倒しはじめた。
徐々に切り傷の増えていくガブラ、それを嬉々として追い詰める男、笑顔で応援する女
絶体絶命の状況だ
しかし俺の心には恐怖以外の感情が生まれていた。
何もできない俺自身に、なにより俺たちの命をちょっとした小遣い程度に考える傲慢な人間どもに対するどす黒い怒りの感情が渦巻いていた。
理性と本能が争う
動くな タタカエ
逃げろ コロセ
そして理性は敗北し
本能に従い、行動を始めた
悪を為す
次回 悪行