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本の虫

雑学って言うか、雑読でフラグが回避できたっぽい? 2 残念な人々

作者: 向井司

ムシ注意。

続けるつもりはないけど、このネタだけは書いておきたかった。

夏のうちにーー!



 ステファノ学園の図書館で、今日も今日とて私は本を読んでいる。


 図書館の最奥の机に座っているのは、軽イケメンのテオことテオドールとワイルドイケメンのガウことガウェインだ。あと一人、ふわイケメンのエドことエドワードがいるが今日は欠席だ。


 っていうか、この一週間ばかり体調不良による自宅療養なんだとか。


 四人いても、互いに適当に本を読んでいるので、会話はさして多くない。なので一人減っても、静かさはあまり変わらない。


 初めの頃は多少批評を言い合ったりもしたけど、興味の対象が決定的に噛み合わない三人では、議論が成立しなかった。

 テオは動物特化だし、ガウは昆虫特化。エドは植物特化。

 全く被らない。

 本人たちが、心底面白いと思った本は全て私が発端なので、この妙には笑うしかない。


 論戦にならないから、静かでよい。

 私は図書館での論戦は希望しない。

 なので、今日も平和に読書中。


 って、思っていたらその静けさが破られた。


 療養中だったはずのエドがやって来たのだ。


「もう聞いてよ! 僕の大事な温室が滅茶苦茶なんだよ!」


 エドはぷりぷり怒りながら、私たちの所まで来ると椅子に腰を下ろした。

 口調は怒っているが、場所柄を弁えて小声なので、今一つ怒り度数が計れない。


「他の花たちも持って行かれたんだ。根刮ぎ!」

「あー、そうかぁ」


 テオは視線を明後日の方へ向けた。


「まあ、そうなるよな」


 ガウは明明後日の方を見る。


「ですよねー」


 私はページから視線を上げなかった。


「みんな酷い。慰めてもくれないんだ」


 私たちの塩対応にエドが拗ねた。


「そんなこと言っても…」

「ニトグリ草に手を出したお前が悪い」


 テオが濁した言葉の先を、ガウがバッサリ切り捨てた。


「ダッテ、知ラナカッタンダモン」

「嘘をつけ!」


 白々しい返答に、流石のテオも突っ込んだ。


 ニトグリ草。

 今回の最大の問題点だ。


 これ、十五年前迄は暗殺に使われていた幻と呼ばれる毒草だったのよね。

 何で幻かと言うと、この毒を使われた人は、心臓麻痺で死ぬのだ。

 じわじわ死ぬか、一瞬で死ぬかは毒の量に依る。しかも、魔素が全く含まれないものなので、不審な死に方でも、調べが付かない。

 心臓麻痺としか診断できない。

 現代で言うところの、心筋梗塞、急性心不全だ。

 実にヤバい薬草なんだよね。


 しかし、さっきも言ったように、二十年前にメディナさんの弟子筋によってニトグリ草の効能が発見され五年後に特定された。まあ、ニトグリ草自体はメディナさんがとっくに見つけていたんだけど、薬効には触れてなかったんだよね。だから関連性は不明のままだった。

 その薬効まで研究で調べ上げたのが、弟子筋ってこと。

 しかもその後の研究の結果、心臓病の特効薬が抽出されることになった。

 毒薬が薬となったのだ。一大発見だ。


 しかし元は劇薬だ。ニトグリ草は国の管理となり、扱えるのは薬剤省のみだ。


 当然、一貴族の温室にあったら大変不味いのである。


「お前、他の毒草の栽培もバレたんだろう?」

「だから、騎士団のガサ入れ食らったんだろうが」

「僕は、観葉植物しか育ててないもん」


 テオとガウの突っ込みに、またもやエドはしらばっくれた。


 騎士団のガサ入れは、ガウが拾って来た情報だ。あくまでも極秘だったが、幼なじみのガウの耳に入らない訳がない。


 斯くして、エドは自宅療養と言う名目で謹慎を食らっていたのだ。

 これは、テオ情報だ。


「だからって、ニトグリ草はなあ…」

「苗なんて良く手に入ったな?」

「苗? 僕が手に入れたのは種だよ。薄紫の綺麗な花が咲くっていう」

「よく種から、花を咲かせましたねぇ」

「頑張ったんだよ」


 テオは胸を張った。


 ニトグリ草の栽培はかなり難しいっていうのにね。

 あっさりやらかしてしまうところがね…


 しかも薄紫の綺麗な花ときた。


 これはあれだ。

 芥子育ててバレて捕まった時、『ポピーだって聞いたんです!』ってやつだ。

 芥子とポピーは似てるらしい。ひなげしっていうくらいだから?


 それで誤魔化せるとは思えないけど、言いきったんだろうねぇ。

 だから謹慎で済んだんだろう。

 ふわイケメンの本領発揮か。

 恐ろしいことだ。


「本当に、物の限度がないな」


 ため息をつくガウに、エドは食ってかかった。


「そんなこと言ったって、道にメガヘラクレスの幼虫が落ちてたら拾うだろ?」

「メガヘラクレス…」


 あ、ガウが食い付いてしまった。


 メガヘラクレスは、生存確認されている、世界最大のかぶと虫だ。確か大きさは軽自動車くらい。南の暗黒大陸で発見された。

 勿論、ファイブさんが見つけた、魔甲虫だ。


「でなけりゃ、ギガタイラントの幼虫とか。拾うよね? 絶対拾うよね!」

「ギ…ギガタイラント…」


 ギガタイラントは生存確認されている世界最大のクワガタだ。大きさは軽自動車…以下略。


 成体が軽自動車だと、幼虫は最低でも丸まった状態でタイヤくらいはあるらしい。

 その大きさを想像しているのか、ガウが自分の両手で謎の円と直方体を作っている。

 間違いなく、幼虫を想像してる…


 でもさ、道にタイヤ大の幼虫が落ちてたら怖いよね。

 しかも、メガヘラクレスは一年に一度脱皮して、八年で成虫になるんだよ。

 ってことは、蛹前の幼虫は軽自動車弱…怖っ!

 想像したら鳥肌立った。

 そんな幼虫は見たくない。遭いたくない。


 そんなことを考えつつ、微妙な顔をしているテオと私だ。

 と、エドがテオに視線を向ける。


「テオだって、ミノタ牛の子牛ががいたら拾うよね!」

「ミノタ牛かあ…それは拾うな」


 ミノタ牛はロドリス豚と同じ、魔獣から家畜化された牛だ。ちなみに脚は六本あり、大変気性が激しい。飼育するのはロドリス豚より大変だとか。

 しかし、とてつもない運動量を要する結果、ミノタ牛の赤身肉は最高級品となった。

 この世界は霜降り最強ではない。むしろ専門家の手に依って熟成された赤身が至高なのよね。

 一口だけ食べたことがあるけど、本当にに美味しかったあ。


 じゅるり。


 はっ、危ない危ない。涎が…


「ユーリだって、大魔道大全落ちてたら拾うでしょ?」


 今度は私にお鉢が回ってきた。ユーリはわたしのことだ。ユーリシアだからユーリ。


「大全は…拾いませんね」


 魔道大全なんて、魔道の専門書だよ。それなりの知識がないと読めないもの。

 生憎と、それだけの知識を私は有してない。

 なので読めない本は拾わない。私は本を読むことが好きなのだ。読めない本に興味はない。


「ぐっ…じゃあ…じゃあ、偉人伝記のファイブ&シトラス&メディナ!」

「それは拾いますね」

「拾うね」

「拾うな」

「僕も拾う」


 皆の意見が合った。


 ファイブさんたちの伝記とか、あったら読みたいよね。

 でも、この図書館にはないんだよ。探してるんだけど、まだ存在を確認できていない。


 例えば、ファイブさんは暗黒大陸でメガヘラクレスとか発見した訳だけど、観察記はお弟子さんが書いている。暗黒大陸で、ファイブさんに何があったんだろうか。

 もしかして、メガヘラクレスとかにモグモグされちゃったんだろうか。それとも年には勝てなかったってやつ?

 その辺りが大変気になるのよ。

 弟子の人たちの誰かが、絶対に書いてると思うんだけどなあ。

 奇特過ぎて、出回ってないのかなあ。


 図書館での観察記類の待遇を考えるとねえ。


「王立図書館にはないんですかねぇ…」

「一度、行きたいよね」


 王立図書館なんて、王都まで出向かないと無理だ。ちなみにこの学園都市からは馬車で三、四日くらいかかる。

 学生にはちと辛い。日数的にも移動費的にも。


 あと、私たち一応貴族なので、いきなり王都に単独で出向く訳にはいかない。

 黙って行ったら、大騒ぎになるよね。


「いつか行こう。秋の休みとか…」

「感謝祭か…」

「いいねえ」


 三人はいきなりお出かけ計画を企て始めた。


 まあ、計画するのは楽しいよね。実現するかは置いておいても。


「そう言えば、レレイでファゴット梨のタルトが出てるはずだよ」


 不意に思い出したエドが呟く。

 謹慎していたわりに、流行りを押さえてるね。謹慎は全く堪えてないとみた。


「いいですねえ」


 旬のファゴット梨は瑞々しくて美味しいよね。タルト最高。


「今から行くか」

「エドの『快気祝い』も兼ねて」

「ありがとー」


 快気祝いに含みがあるが、エドは気にしない。このふわイケメンはメンタル強いね。


 しかしまあ、反対する理由もないので賛成する。

 私たち四人は図書館を後にした。


 途中、中庭を通りかかると、木陰のベンチに第三王子とヒロインちゃんの姿が見えた。

 ヒロインちゃんは転生者ではないらしく、第三王子と可愛らしい恋愛を続行中だ。


「マークス様とエレノア嬢だ」

「仲、いいよね」

「…ユーリって、許嫁候補じゃなかった?」


 テオが不思議そうに私を見る。私は頷く。


「今は…第八候補くらいですか」

「僕聞いたことあるけど、筆頭じゃなかった?」

「初お披露目の時まで、です」


 そう、私は第三王子マークスの許嫁だった。確か六歳のお披露目の日までは第一候補だったんだけどね。


「今は第八? 何かあったのか?」

「お披露目の日に、マークス様にカナブンぶつけちゃったんですよー」


 中庭を後に歩きながら、けろりと告白すると三人が凄い勢いで私を見た。

 ちょ、圧が凄いから。


「カナブン?」


 やはり真っ先に聞いてきたのはガウだ。


「わざとじゃないんですよ。頭に何かが当たって、ゴミかしらと見もしないで後ろにぽいって捨てたら、そこに何故かマークス様がいらしたんですねえ。で、カナブンがおでこに当たってギャン泣き?」


 あれはびっくりしたなあ。

 背後でいきなりギャン泣きなんだもん。


「どうも、私を驚かせようと忍び足だったみたいで…私、全く気が付かなくて…」


 後ろに誰かいるってわかってたら、カナブン捨てたりしなかったよ。


「結果として、マークス様のトラウマになってしまったみたいで、第一候補からその日のうちに外れました」


 後から見たら、良い結果だよね。お陰で私は第三王子の許嫁の位置から離れることができたんだから。

 ちなみに、マークスはカナブンと私が原因だとは言ってないらしい。

 カナブン、デコに当たってギャン泣きとか、さすがにプライドが許さなかったみたい。


「六歳でしょ? カナブンがおでこに当たったら、僕も泣くかも」


 エドはちょっと同情的だ。でも、君、花に着いたアブラムシはソッコーで駆逐するよね?

 アブラムシは別なの。そうですか。


「お二人が良い関係を築けるといいですね」

「今の感じからすると、大丈夫じゃないかなあ」


 とりあえず、私たちは暖かく二人を見守ることにした。

 やることは、見守る。ただそれのみ!

 以上。


「早く、許嫁候補から外れるといいな」

「本当に」


 しみじみ頷く私は、三人の思惑など、知るよしもなかった。


おわり




世界一大きなクワガタの名前は、なんとも座りが悪いので変更しました。

異世界だし。

もし、アマゾンのジャングル奥深くで、軽自動車大のクワガタが発見されたら、タイラントと名付けてもらいたい!ww



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