残り一本
目の前には爆弾。
たくさんのケーブル、たくさんの切った痕。
そして残ったのは2本のケーブル。
どちらかが起爆用、どちらかがダミーだ。
と思う。
もしかしたら両方ともダミーなのかもしれないし、両方とも起爆用なのかもしれない。
「さあ、どっちだ」
思わず口にする。
それほどの緊迫感、耳の中で脈打つ心臓があるほどだ。
どっちだ、どっちだ。
思えば思うほど、どっちも怪しく思えてくる。
「ええい、儘よ」
俺はそこで両方切るという思い切った決断をすることにした。
「あの時の決断は、本当に死ぬ覚悟だった」
「だろうな」
帰りの車の中で、俺は同僚に話す。
「ま、生き残ったことに感謝だ」
「しかし、まとめて切っちまうとはな。その胆力は見習いたいねぇ」
同僚が笑いながら言うが、そんなことはない。
「んなこと言って、失敗したらドカンだからな」
「違いねぇ」
それでも生きているっていうことは、素晴らしい。
それをかみしめながら、俺は車に揺られていた。