第7話 アルバス到着
フールに引っ張られる形で森を抜けた礼治はその少し離れた先にあった貿易の街『アルバス』の門手前に到着していた。
門手前では街で儲けを出すために多くの荷物を積んだ商人の乗る馬車が五十メートル近く並んでいた。二人もそれにならい列の最後尾に並んだ。
「結構時間が掛かりそうだな」
余りの人の多さに少し驚いた礼治である。
「そうですね。流石はヒューマン国一番の貿易の街ですね」
「これだけ並んでたら待つ間暇だな」
「それでは待つ間にこの街について勉強しましょう。<クイ>」
と、フールはおなじみとなった眼鏡を掛けてこの街のことの説明を始めた。
「この街アルバスは先ほどもいった通りでヒューマン国一番の貿易の街と栄えており、そのお陰で物の物価が安い値段になっております。因みにこの世界の通貨は下から言って、『石貨』『鉄貨』『銅貨』『銀貨』『金貨』『白金貨』となっておりまして単位は「ナグル」です。因みに礼治様の【アイテムボックス(極)】の中に財布が入っており、中には鉄貨と銅貨と銀貨と金貨がそれぞれ十枚ずつ入っております」
実際に礼治は【マジックボックス(極)】の中から財布を取り出し確認してみると確かに入っていた。
因みにこの世界の通貨を日本円にすると
『石貨』1ナグル=十円
『鉄貨』10ナグル=百円
『銅貨』100ナグル=千円
『銀貨』1,000ナグル=一万円
『金貨』10,000ナグル=十万円
『白金貨』100,000ナグル=百万円
となる。
そうこうしているうちに門まであと十メートルに差し掛かかった時であった。礼治達の前に並んでいた商人のところに割り込みをしようとする五人の集団がいた。いわゆるゴロツキである。
「おい、俺様達はこの街でいずれ有名になる『オーガの角』だ。怪我したくなかったらさっさとどきな」
「それは困ります。私は少しでも早く街につかなければなりません」
「調子に乗ってんじゃねえぞジジイ!さっさとどきやがれ‼︎」
「そうだぜ爺さんよう。退いたほうが自分の身の為だぜ」
そんな光景に礼治は隣にいるフールに尋ねてみた。
「なあフール。アレを俺が治めても大丈夫そうか?」
「え!礼治様がですか⁉︎もう少ししたら街の警備兵が騒ぎを聞きつけてくると思いますよ?」
礼治の質問にフールは少し驚きながら礼治の方に顔を向けて尋ね返す。
「そうだろうけどさあ。その間に何かあったらいけないし。それに商人に恩を売れば何れその恩がなんらかの形で自分に返ってくると思うんだけど、どうかな?」
礼治は再びフールに問いかける。
「流石は礼治様です。はい、問題はありません。もし仮に街の警備兵が礼治様のことを問題を起こしたゴロツキと間違えたとしても私はもちろんのこと。他の商人の方々が証人になってくれるはずなので安心して雑魚どもを払ってください」
礼治はそれを聞いた後、フールをその場に残してゴロツキどものところへと向かった。
「うっせえんだよジジイがよ‼︎」
ゴロツキの一人が商人に殴りかかろうとしていた。
礼治は急いで商人とゴロツキの間に入り、殴りかかろうとしたゴロツキの腹を思いっきり蹴飛ばした。
ゴロツキはそのまま後ろに吹っ飛び白目を向けて地面に仰向けで倒れた。
他のゴロツキ達は何が起こったのか理解できずにいたがすぐに突然割り込んできた礼治に怒鳴り声を上げた。
「おい!ガキの分際で何しやがる!俺様達を『オーガの角』と知っての行いか!ああん⁉︎」
「そうだぜガキ!外野は迷惑料を払ってさっさとどっかに行きやがれ‼︎」
「おうそうだ。お前確か綺麗な姉ちゃんを連れてたな。有り金全部と美人な姉ちゃんを置いてさっさと消えな‼︎」
ゴロツキ達は口々に礼治を脅しにかかる。
因みに『姉ちゃん』とはもちろんフールのことであり、礼治はそんなゴロツキ達の耳障りな怒鳴り声を無視して右の手のひらを前に向けた。
「【タロットマジック】小アルカナ、杖」
呪文を唱えると手元に杖が出てきた。
その杖は長さが五十センチ位で、質の良い木から作られたのかとても綺麗な杖で真っ直ぐに削ら持ち手の部分は丁度良く礼治の手にフィットしていた。また、杖の上部分はキャンドルスタンドのように丸い台になっていてロウソクを置く部分には大人の拳ひとつ分の大きさの紅い色の宝石が埋め込まれており、礼治は【鑑定(極)】を使ってみると
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火の杖 LV.1
火魔法
LV.1 火矢
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と表示された。
突然何もないところから杖が出てきたことに驚いていたゴロツキどもだったが一人が何かを勘違いしたらしく。
「へへ、分かってんじゃねえかガキ」
そのゴロツキが徐に礼治の持つ杖に手を伸ばしてきた。
もちろん礼治はゴロツキに杖をやるつもりは無く、ゴロツキの手を杖で払い、無防備な脇腹めがけて杖を勢いよくお見舞いした。
「グワァア⁈」
杖が脇腹に直撃したゴロツキは横に吹っ飛びながら飛んでいった先の地面に倒れ込んだ。
仲間が二人も倒され、他のゴロツキ達は腰にさげていた鞘から剣を抜いて構えた。
「テメエよくも仲間に手を出しやがったな!さっさと有り金を全部寄越して消えればよかったものお‼︎」
「このガキが!ただで済むと思うなよ‼︎」
罵声を飛ばしてくるゴロツキだったが礼治は怯むことなく残るゴロツキ達に目を向ける。
「煩いですよ『ゴブリンの頭』さん。あんた達から仕掛けてんじゃん。それより今降参しないと他の二人よりももっと痛い目にあいますよ」
ゴロツキ達に対しわざと挑発する。
「誰が『ゴブリンの頭』だ‼︎もう許さん死ね‼︎」
ゴロツキ達三人は一斉に掛かってきた。
それを見て礼治は簡単な挑発に乗ってきたので半ば呆れながらも杖の宝石の部分を空に向けて呪文を唱えた。
「【火矢】」
すると礼治の真上に火の矢が出現し、その数九本。
それを見たゴロツキ達はすぐに足を止め今度は我先にと逃げようとした。しかし、忠告を無視した奴らを見逃す程礼治は甘くなく、火の矢を一人に三本ずつ飛ばした。
火の矢はゴロツキの腕や脚などの急所以外の身体の部位を貫いた。
「「「ギィヤーーーー‼︎」」」
ゴロツキ三人はその痛みに先程の怒鳴り声よりも大きな声を上げその場に倒れた。
ゴロツキ達全員が倒れた瞬間、それを見ていた商人達が一斉に拍手し始めた。
それに驚く礼治だったが、そのすぐ後に警備兵が駆けつけてきて案の定ゴロツキに間違われた礼治だったがすぐ近くにいた商人達が駆けつけた警備兵に事情を説明し、間違った事への謝罪とゴロツキ達を退治した事に感謝し、警備兵達はゴロツキ達を連れて去っていった。
また、礼治はゴロツキから絡まれていた商人の男性から感謝され。
「流石は礼治様。スゴくステキでしたよ」
フールからはスゴく褒められた。
その後は列に戻り、しばらくして門のところに辿り着くと先程の警備兵が受付をしており。再度感謝されると普通は身分証を持っていないと仮身分証を発行するために金を払わないと行けないんだが感謝の気持ちとしてフールの分と合わせて仮身分証の発行代金が免除してもらえたのだ。
二人はこれに感謝して街に入って行くのであった。