第6話 二人目の大アルカナ
フールが魔法をぶっ放して数分後。
礼治の頰に傷を付けた狼はフールの魔法により塵一つ残さずに消え去っており、その張本人であるフールは礼治に向かって土下座をして謝罪していた。
「礼治様。本当に申し訳ございません。幾らあの獣が礼治様の整ったお顔に傷をつけたからといって、我を忘れ礼治様の獲物を横取りしてしまい本当に申し訳ございません。私は反省するためここで死にます‼︎」
フールはそう言うとマジックバックから包丁を取り出し、本気で腹を刺そうとした。
もちろんそれを礼治は本気で止めに入る。
「イヤイヤイヤ‼︎死ぬのはダメだから‼︎早く包丁をしまって頼むから‼︎‼︎」
「しかし、私は礼治様の使い魔です。そんな私が礼治様の命令を無視したのは変わりありません。私死にます」
フールは途中から泣きながら死のうとしていた。
「分かった!分かったから‼︎じゃあ命令‼︎反省するのはいいが死ぬな‼︎これは命令だからな‼︎」
「わかりました。では、死なない程度で反省します」
今度は包丁を肩に向けた。
「だから包丁は下ろせー‼︎」
礼治とフールによる葛藤(?)は約一時間に及び続いた。
〜約一時間後〜
礼治の説得によりフールはなんとか落ち着きを取り戻した。
「礼治様。ご迷惑をお掛けして本当に申し訳ございませんでした」
「だからその話しはもういいって。俺が気を抜いてしまったからあんな事になったんだからこれでお互い様な」
「…はい…。それでは礼治様。お早く傷をお直しくださいませ」
フールは少し不満がありながらも納得してくれて今度は礼治の頬の傷をすぐに治療するよう急かしてきた。
ここでもしも空気を読めない奴がいて、フールに「お前がすぐに落ち着かなかったから治療するのが遅れたんじゃないか」っと言っていたら礼治とフールの第二ラウンドが始まっていた事だろう。
礼治にはもうそんなに体力が残っておらず、そうならなかった事に感謝していた。
「治療といえばあれだな」
『タロットマジック』の大アルカナの1つにそれに該当するものを思い浮かべた礼治は魔法を発動するために右の手のひらを前に向けた。
「【タロットマジック】大アルカナNO.20『ジャッチメント』」
呪文を唱えると目の前にラッパを持った天使の描かれたカードが光を放ち出現した。
因みにこのカードには回復の他に復活や再出発という意味もある。
そうこうしているうちにカードが消え光の中から今度はカードの絵と同じでラッパを持った少女が現れた。
その少女の容姿は小学一年ぐらいの身長120センチで幼い顔立ち。髪はショートボブで色はブラウンと目の色と同じであった。
見た感じ青空の下で元気に走っていそうな活発な印象をもたせた少し日の光で少し焼けたような肌に白いワンピースを着て背中からは白い翼を生やしていた。
そんな少女は顔を上げると目の前にいた礼治と目があった。
「はは、初めまして主様。ボ…じゃなかった。私は大アルカナの一人『ジャッジメント』のトランと呼ばれています。これか…じゃなくて、以後よろしくお願いします」
トランと名乗った少女は敬語に余り慣れていないのか所々で言葉を言い直していた。
礼治はトランと同じ目線の高さになるようにしゃがみこんだ。
「初めましてトラン。俺の名前は礼治。できれば主様じゃなくて名前で呼んでくれないかな。後は敬語に慣れてないんなら無理に使わなくていいよ」
「本当にいい…だから違う…よろしいんですか、レイジ様?」
礼治の言葉を聞いたトランは一瞬ホットした顔をしたがすぐに顔を曇らして呼び方だけを変えてから再度尋ねてきた。
「ああ、大丈夫。どんな言葉遣いでも人を傷つける言葉じゃない限りは大丈夫だから心配しなくてもいいよ」
礼治の言葉に再びホットしたトランであり、今度は笑顔になって喋り始めた。
「それじゃあ改めて、ボクの名前はトラン。レイジ兄の力になれる事は傷の治療や状態異常の回復で主に後方支援が得意だからどんな敵と戦っていても安心してね。ボクがすぐに治してあげるから。レイジ兄はボクをちゃんと頼ってね」
(グフッ‼︎)
トランはまさかのボクっ子であり、一人息子で兄弟がいなかった礼治にとって「レイジ兄」と呼ばれるのに免疫がなく、あまりの衝撃に礼治は思わず顔を逸らしてしまった。
「やっぱりダメだったの…?」
顔を逸らしてしまった礼治はトランの言葉を聞いた瞬間、慌て顔を戻すとトランは泣き出す一歩手前だった。
「全然ダメじゃないよ!ただ、初めてそんな風に呼ばれたから恥ずかしくてついね‼︎だからさ泣かないでね」
礼治は慌ててトランを宥める。
「…本当に?」
「ああ、本当だよ。だからそんな顔をしないで笑ってくれると嬉しいな?」
礼治の言葉にトランはまた笑顔に戻り、礼治はホッとした。
「わかったよレイジ兄。これからも普通にこう喋るね。ところでレイジ兄はなんでボクを呼んだの?」
呼び出されたトランは本来の目的について礼治に尋ねた。
「そういや忘れてた。この傷を治してくれないかな?」
そう言って礼治は左の頬の傷をトランに見せる。
「その傷を?別にそんな大した傷じゃないよ?」
「それもそうなんだけどフールがなあ」
礼治はトランに説明しながらフールがいる方向に目を向けるとそこには体操座りをして頬をこれでもかという位に膨らまして拗ねているフールがいた。
「いいですねぇ二人で楽しそうに会話して私だけ除け者ですか?はいはい別にいいですよ〜だ。別に私は気にしませんから」
目尻に涙を流しながらフールは顔を背けた。
それを見た礼治は慌ててフールをなだめる。
「ごめんフール。別にわざとしたわけじゃないからな。許してくれないかな頼む」
「ふんだ。幾ら礼治様だからって許しませんから」
なおも機嫌を直さないフール。
「じゃあどうしたら機嫌を直してくれるんだ?」
その言葉にフールは反応した。
「何でもしてくれましすか?」
フールは礼治に目だけを向けてそう尋ねる。
「ああ…、その、俺のできる範囲で頼む」
礼治はフールにそう返答し、どんな頼みごとをされるか身構えた。
「それなら頭を優しく撫で撫でして下さい」
「へぇ?」
フールの要求に身構えていた礼治は拍子抜けした。
何故ならもっと無理難題を押し付けられると思ったからである。
「そんなことでいいのか?」
「はい。私は礼治様から頭を優しく撫で撫でして頂くことを所望します」
そう言われたのでフールが望む通りに礼治はフールの側によりフールの頭を優しく撫でた。
礼治に頭を撫でられていたフールは口角の筋力が緩くなり、とても幸せそうな顔をしていた。
「これで機嫌を直してくれたか?」
暫く頭を撫で続けるとフールの顔全体の筋力がこれでもかと言うくらいに緩み
「ひゃいれいひぇしゃま、ふゅーるはとてもみゃんひょくてす。訳(はい礼治様、フールはとても満足です。)」
とフールは返事した。
フールが落ち着いたところで礼治は今度こそトランに傷を治して貰おうと振り返る。
「ってことで、傷の治療を頼むトラン」
「わかったよレイジ兄。じゃあ治療するね」
早速とばかりにトランはずっと左手に持っていたラッパを構え大きく息を吸い、ラッパに勢いよく息を吹き込み軽やかな音色を奏で始めた。
その美しい音色に礼治は我を忘れトランの演奏に聴き入っていた。
そしてトランの演奏が終わると頬の傷が治っていることに気づき、トランの演奏と実力に拍手を送る。
「傷を治してくれてありがとうトラン。それにしてもトランの演奏すごかったよ。治療以外の時でまた聴かせてくれないか?」
「ありがとうレイジ兄。でもボクなんてまだまだだよ///」
礼治に褒められたことがあまりにも嬉しかったトランは顔を赤く染め、恥ずかしくなったのか下を向き、もじもじしだした。
「そんな謙遜しなくてもいいですよ。トランはもっと自信を持っていいんですよ」
いつの間にか復活したフールもトランを褒める。
「ありがとうフール姉。レイジ兄も褒めてくれてありがとう」
トランは褒めてくれた二人に子供らしい笑顔でお礼を言う。
「じゃあそろそろボクは戻るね。またボクの演奏を聴きたくなったらいつでも呼んでねレイジ兄。あとフール姉は一旦こっちに戻って来てよね。ボクも他のみんなも速く報告を待ってるんだから。じゃあまたね。バイバイ」
トランはそう言って手を振って光の中に消えていった。
「なあフール、トランが最後に言ったことって「さあ、礼治様!もうすぐ森を抜けますので日が沈まないうちにさっさと街に向かいましょう!」おいフール!俺はまだ話してる途中だぞ‼︎」
礼治がトランの最後に言った事に何のことかを尋ねようとした途中、フールは礼治の話を強引に終わらせ、森を抜ける為に礼治の手を掴み走っていった。
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トラン:大アルカナNO.20『ジャッチメント』
正位置の意味
回復、発展、再開、強い精神力、決断の時、復活、チャンスの訪れ
逆位置の意味
決断できない、チャンスに恵まれない、優柔不断、幻滅、精神力に欠ける、縁がない