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第3話 自分を見てくれる人

そこには何もない真っ暗な世界が広がっており、礼治は一人でそこに立っていた。


(此処はどこだ?フールはどこに行ったんだ?)


先程まで一緒にいた筈のフールが近くにはおらず、心配してそこらを探し続ける。しかし、此処にはフールはおらず、ましてや此処が夢の中であることを礼治が知る由もなかった。

焦りながらフールを探す礼治であったが、突然辺り一面が光りだし、あまりの眩しさに目を強く瞑った。

そうしてから十数秒後、目が光りになれ瞼を開いていくとそこには信じられない光景があった。

それは大きい道路に車が五月蠅い音を鳴らしながら何台も走っており、辺りには高いビルが立ち並び、歩道には汗水をたらしながら営業に行くサラリーマン、今から学校に勉強しに行く小学生、友達と楽しい会話で盛り上がる女子高生グループなどの沢山の人が行き交っていた。


そう此処は礼治が異世界転生する前、つまりは礼治の住んでいたで地球だった。


自分がなぜ此処にいるかわからずにいる礼治の目の前からある人物が歩いてきた。

それを見た礼治はまたしても驚き、思考が一時停止した。何故ならそこに居たのは会社に行くときに着るスーツを着た異世界に転生する前の25歳の時の自分だったからだ。

そこで礼治はすぐに動きもう一人の自分を止めようとした。しかし、それはできなかった。

何故なら触れることが出来なかったからだ。

何回も止めようとしたが手が通り抜け触れないのである。

何故此処までしてもう一人の自分を止めようとしているのかというと。


(お願いだ止まってくれ!行かないでくれ!あそこにはもう行きたくない‼︎)


しかし、もう一人の自分はなんの抵抗もできずにただもう一人の自分から何か得体の知らないもので引っ張られており、礼治はただそれについて行くしかなかった。

そしてもう一人の自分がついにそこに辿り着いでしまった。


その場所は周りのビルよりさらに高く大きいビルであり、そこは間違える筈もない礼治が働いていた会社、つまり礼治の父親が経営している会社だった。


礼治の父親は礼治が中学生の頃、妻を病気で亡くなっていたが、それを理由に仕事を休むことができずに働き続け、礼治の生活費や学費を男手一つで稼いでいた。

礼治はそんな父親に憧れ、また尊敬していた。だからこそ礼治はタロット占い師になると言う夢を諦め必死になって勉強し続けて難関の高校と大学を無事に卒業した後、直ぐに父親の働く会社に就職し、父親に少しでも恩返しができるように仕事を頑張った。


そして会社に入ってしばらく経った頃から父親が偶に自分を占ってくれと礼治の所に来るようになった。

その時礼治はただの気晴らし程度にと思い、またどんな形であれ尊敬している父親が自分を頼って来てくれているようでとても嬉しかった。

そんな尊敬できる父親だからこそ、これからも父親のように頑張り、父親を支えようと心に決めていた。


『あの日が来るまでは』


そうしてもう一人の礼治は父親がいる社長室の前に立っていた。

その時は父親に頼まれた仕事の報告と占いの結果を報告をしに訪れていたのだ。


礼治が社長室のドアをノックしようとした時、中から会話が聞こえて来た。


「いやはや。そんなたいしたことはありませんよ。ハハハハハ!」


ドアの向こうから礼治の父親の笑い声が聞こえて来た。

どうやらお得意先の取り引き相手と会話をしていたようだ。

このまま立ち聞きしていたら本当はダメだが。しかし、父親が普段はどの様にして取り引きを行っているのかが知りたく。また、その技を盗むチャンスだと思いそのまま礼治は耳を傾ける。


「そういえば、あの報告書はまだですかね」


「それはご心配なく。もうじきうちの息子が持ってくる筈ですから」


<ビク>


礼治はいきなり自分のことが話しにでてきたので驚き、もう少しの所で大切な書類を落とす所だった。


(今、俺の持っているこの書類がそこまで重要だったとは思はなかったな。まあ、父さんから直接頼まれた仕事だったからある程度は重要なのは分かっていたけどそこまで大切だったのか)


と今の状況を心の底から喜んだ。

本来なら此処で直ぐにでもこの書類を渡さなければならないが、もっと父親が自分のことをどう思っているかもう少し聞いていたかった。


「そんなに優秀な息子さんがいて羨ましい限りですなー」


この言葉に父親はどう答えてくれるのか期待をする。


「あいつはタダの金を稼いでくれる『道具』としか思っていませんよ」


父親の放った言葉に礼治の思考が停止してしまった。

その言葉に礼治は今、何が起こったかわからずにいた。父親が自分のことを『道具』としか見ていなかったのだと、どうしても信じられなかった。

何かの聞き間違いであってほしいが礼治の思いとは裏腹に会話が進んでいく。


「あいつのお陰でそちらとこのような両社が利益を出す事が出来るのであいつの『占い』には本当に助かっておりますよ。ハハハハハ」


「本当に素晴らしゅうございますね。貴方の息子さんは」


「あいつの扱いも簡単でな。少しだけ褒めれば褒美だと思いまた私の願った通りに働く本当に『犬』のような存在ですよ」


これ以上礼治はもう耐えれなくなり社長室の前から離れた。

途中でお茶を運びに来たOLとあったので書類を渡し体調が優れないので暫く休むと嘘の伝言を残し礼治は逃げるようにして会社を去った。


(今までの俺の努力はなんだったんだ?)


礼治はただ『道具』として『占い』をして『犬』のように扱われ、自分の努力が何だったのかが馬鹿らしくなってきた。


その後礼治は銀行でお金を全財産を引き出し、携帯ショップで新しい携帯を買い、家に帰った後服を着替え、着替えなどを二、三日分準備し家を出て新幹線に何回も乗り換えながら行方を眩ませた。


会社、もとい父親から逃げてから半年以上がたった頃、礼治はしばらくしてから父親の会社が潰れた事を知り、目標を見失った礼治はこれからどうしようかと考えていると手にはタロットカードが握られていた。


此処まで来る時に今まで集めてきたタロットカードは全て捨ててきたのだがこのカードだけは捨てられなかった。

このカードは今は亡き母親が礼治が10歳の時に誕生日プレゼントとしてくれたカードであった。


その時礼治は何を思ってたのか自分自身の事を占い始めた。

普通占いは自分自身の事を占う事が出来ないとされているがそれでも占う礼治がそこにいた。

そして、そんな時に占って引いたカードは『NO.17 スター』の正位置であった。

意味は、希望、閃き、出会い、未来、願いが叶う、である。


「ハハハハハ…」


その結果を見た礼治は思わず笑ってしまった。

今の自分に何が残っているのかと。でも、完全に外れているとは思えない自分がおり、頑張ろうと思える自分がいた。


そう思った礼治は後先考えずに占い師になるために自分が今まで稼いだお金を使って店を作ったが夢は叶えられずに礼治はこの世を去ったのであった。


しかし、その後で異世界転生をして元神のフールと出会い一緒旅をする事になり、あながちあの占いが当たっているのであった。


そう礼治が思っているとフールに今直ぐに会いたくなった。

礼治は直ぐにフールを探し始めた。


「フール!どこ行ったんだ返事をしてくれー!頼むから出てきてくれー‼︎」


大声で叫びながらフールを探した。しかし、歩けど歩けど一向にフールは見つからず唯々暗い道が続くだけであった。


「頼むから出てきてくれよ!お願いだから、一緒いてくれよフールーー‼︎」


そう叫ぶと何処からか声がした。

とても小さいがはっきりと聞こえ、礼治は直ぐに声のする方向へ走った。

途中で躓いたり、転んだりしても立ち上がり、声のする方向え走った。

すると目の前から光が現れてそこから。


「主人様、しっかりして下さい主人様!フールは此処におります!私は主人様のお側にずっとおります‼︎」


フールの声が聞こえ、礼治はそこに何も躊躇わずに突っ込んだ。



〜SIDE:フール〜


フールは主人である礼治が倒れてからずっと休まずに薬草を集めたり動物を狩ったり魔獣が気を失っている礼治に近づかないよう倒したり、後は礼治が起きたら直ぐにご飯を食べれるようにとスープを作ったりと礼治のために行動していた。


暫くして辺りが暗くなり始め、夜が近づいてきたのでフールは焚き火をするための枯れ枝を集めて礼治の側へと戻る。すると気を失っていた礼治が何かにうなされていたのだ。

フールは枯れ枝を放り投げてから直ぐに礼治の側に駆け寄る。


「主人様大丈夫ですか⁉︎しっかりして下さい‼︎」


フールは必死になって声掛けをしていると礼治が何かを呟いていることに気づく。


「フール…返事を…、頼む…出て着て…」


礼治は夢の中でフールを呼んでいたのだ。


「主人様!フールは此処におります‼︎目を開けて下さい‼︎」


フールは何もできない自分自身に腹を立てながらも必死になってそう叫び続ける。


「頼む…フール…お願い…一緒に…フール…」


「主人様!しっかりして下さい主人様!フールは此処におります!主人様のお側にずっとおります!主人様ーー‼︎」


礼治の途切れ途切れの呟きにフールは涙を流しながらも礼治の手を強く握りながらそう叫び続けた。


すると、礼治の瞼がピクリと動き、少しづつ瞼が開き始めた。


〜SIDE:礼治〜


礼治の意識がおぼろげながらも覚醒し、瞼を開くと礼治の直ぐ側では涙を流しながら叫ぶフールがいた。礼治がその光景を見た時に意識が完全に覚醒して直ぐに身体を起こした。しかし、それが礼治とフールとの位置が悪く。


<ゴツン>


「「痛え(い)ーー」」


お互いに頭を思いっきりぶつけてしまい数十秒の間あまりの痛さに体を倒して悶絶してしまったのだ。


それからしばらくして、痛みが少しましになったのかフールは頭をさすりながら未だに痛みに悶える礼治に声を掛けた。


「主人様大丈夫ですか? 先程まで何かに魘されておりましたが?」


この声を聞いた礼治は痛みをそっちのけで起き上がり、フールの胸に抱きついてしまった。


「⁈ あ、主人に様!いったいどうなさったんですか⁉︎」


フールは礼治のいきなりの行動に驚きを隠せずにいた。


「フールごめん、…ヒック、少しの間。少しの間だけこのままでいさせてくれ…」


フールは礼治の震えている声と体に気付くと何も言わずに頭と背中を優しく撫で始めてくれた。


「主人様大丈夫ですよ。落ち着くまで私の胸をお使い下さい」


「うぅ、うわーーーーーーーーーーーーーー」


最後にその言葉を聞いた瞬間、礼治は自分の中に溜めていたものを全て吐き出すかのように泣き出した。

フールは何も言わずに唯々、礼治が泣き止み落ち着きを取り戻すまでずっと背中を摩り続けていた。

礼治はフールのお陰で人の温もりを久しぶりに感じることができ、とても安心してしまう礼治自身がそこにいた。


〜一時間後〜

子供みたいに泣いて暫くして落ち着いた礼治はフールが作ってくれた心から暖まる美味しいスープを食べ、また少し涙を流してしまった。

次にフールの【生活魔法】の『クリーン』で身体を綺麗にさしてもらった後、これも【生活魔法】の一つ『クリエイト』で造った土版のかまくらの中で二人はお互いに向き合いながら座っていた。

その間フールは気を遣ってか何も聞かずに唯々礼治がなにかを話すのを待っていてくれた。


「なあフール。俺の過去を調べたって言っていたから今まで俺の人生に何があったのか知ってるんだよな?」


「はい…知っております」


フールは礼治の質問に静かに答える。


「なら色々と被るところが有るだろうけど、俺がどんな人生を送ってきたのかを心情を踏まえてから話すから聞いてくれるかな?」


「はい」


フールはそれだけ答えて首を縦に振る。

礼治はフールの返事を聞いてから自分自身の過去を話し始めた。

礼治が今まで自分がどれ程頑張っていたのか、自分がただの『道具』に過ぎなかったこと、自分は会社から逃げたこと、自分には『占い』以外に何もなかったことを全て話した。

その間フールは話を聞いているだけで何も喋らずに聞いていた。


「……ってなことがあって俺はここに居るわけ。本当にバカだよな俺は。俺をただの『道具』としか扱ってなかった父親に褒めれて喜んでて本当に何だったんだろうな。俺ですら自分の存在がわからなくてさ、本当に俺は『占い』ができるただの『犬』だと思えてくるよ」


「そんなことはありません」


自暴自棄になっていた礼治の言葉をフールはハッキリと否定した。


「そんなことはないだって?…じゃあ何だよこれは‼︎これの何処が違うんだよ‼︎」


礼治はあろうことかフールに怒りをぶつけてしまった。フールに怒りをぶつけるのは間違いだと分かっている礼治だが、今の自分では怒りを抑えることができなかった。


「何も違わねえじゃねえか⁉︎、俺はただの『犬』として命令された事をこなし。ただの『占い』の『道具』として父親の手のひらの上で踊らされていた。ただそれだけじゃないか‼︎‼︎」


礼治は自分の存在を人として認識することができずにいた。


「私は礼治様のことは礼治様としか思いませんが、何か違いますか?」


心が不安定になっていた礼治に対し、フールのその言葉が礼治の心の中にある黒い物体にヒビを入れた。


「……自分は自分……?」


礼治はただそれだけを呟いた。


「そうです!礼治様は礼治様でございます。たとえ礼治様が占いをできなかったとしても、身体の何処かが無くなったとしても、増えたとしても、ツノが生え翼が生え悪魔になったとしても、性転移して女性になったとしても、獣になろうが、虫になろうが、魔獣になろうが、礼治様は礼治様であってそれ以上でもそれ以下でも有りません‼︎‼︎」


心の中にある黒い物体は全体にひびが走っていく。


「なので礼治様は御自身の存在を否定しないで下さい!私は何があったとしても礼治様についていきます。使い魔としてではなく私自身として心から礼治様について行きます‼︎」


その言葉で黒い物体は心の中から消え去った。

出会ってまだ一日も経っていないけれど、今まで自分の全てを見ていてくれたフールによって。

礼治はこれにより自分を見てくれているフールに抱く感情が高まり、その所為で欲望を抑えきれなくなり、勢いよくフールに抱きつき、キスをし、服を脱がし押し倒した。

その時フールはなんの抵抗もすることなく礼治の欲望を受け止めた。


その夜は静かな森の中で二人の声だけが響いていた。

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