第15話 テンプレは色々と面倒
「おいそこのガキ!チョット待ちやがれ‼︎」
礼治は本日二度目のテンプレに心の底から溜息をつくしかなかった。
面倒ごとには関わりたくはない礼治が後ろを振り向くとそこには二十代位のヒューマン族の男性冒険者が三人いた。
「俺様はEランクパーティー『狼の牙』のリーダーのジルだ。新人の分際で何大金を手に入れてんだよ。調子に乗ってんじゃねえぞガキ‼︎」
「しかも女を連れながらマリーちゃんと楽しそうに話しやがって!死にてえのかクソガキが‼︎」
(一日に二回もテンプレは勘弁して欲しいな…)
リーダー格の男とその取り巻きの一人が新人である礼治に対して脅し始める。
一方で『狼の牙』という冒険者パーティーに絡まれた礼治は正直にいって相手にするのは面倒臭く、かと言って無視をすると更に面倒臭くなりそうなので、嫌々ながらもこれに対応する。
「すみませんが俺は別に調子に乗ってませんよ。報酬は確かに多いですが、それを自慢しているわけでは有りません。それからフールは俺の大事なパートナーであり、マリーさんとは依頼報酬とランク昇格の事しか話していませんのであなた方にとやかく言われる筋合いはありませんが?」
「それを調子に乗ってるって言うんだよクソガキが‼︎ 謝罪として金と女を置いて消えやがれ‼︎」
礼治の言葉にもう一人の取り巻きが冒険者になってすぐに絡んできた冒険者と同じことを言ってきたので、礼治はまた溜息をついてしまった。
「なんで俺があんたらに金とフールを渡さないといけないんだよ。金は俺とフールの二人で稼いだモノだし、フールはモノでもねえしお前らみてえな奴に俺の大切なフールを渡すわけないだろうが」
「なんだとクソガキ‼︎ 新人の分際でいい気になりやがって‼︎その大口を叩けないようにしてやるから覚悟しやがれ‼︎‼︎」
礼治の言葉にキレたリーダー格の男がそう言って礼治に殴りかかった。
礼治は今朝みたいに男を一旦外に投げ飛ばそうと構えに入ろうとした次の瞬間。
<ビュン>
礼治の真横を何かが音を立てながら凄い勢いで通り過ぎ、殴りかかってきた男に直撃した。
男はそのまま吹っ飛び、ギルドの壁に衝突し床に俯けの状態で倒れて気を失ってしまった。
礼治は前にも似たことがあった為にすぐに後ろを振り返るとそこには案の定、両手を構えてドス黒いオーラを放つフールがいた。
先ほどの礼治の真横を通り過ぎたのはフールが放った風魔法の一つ【風球】だった。
「私の礼治様をクソ呼ばわりにするゴミはこの私が排除します!礼治様を侮辱したことを地獄で後悔しなさい‼︎」
自分達のリーダーが吹き飛ばされた状況を把握できずに困惑していた取り巻きの二人であるが、フールの放つドス黒いオーラと強い殺気を当てられ、あまりの恐怖に腰が抜け、その場でガタガタと震えだした。
「フール落ち着け!ギルドの中で暴れたら大変だから一旦落ち着け‼︎」
その状況でこのままではギルドが無事では済まないと察した礼治はフールを落ち着かせる為にフールと取り巻き二人の間に入る。
「礼治様は離れて下さいませ。私はあのゴミ達を排除しなければなりません」
しかし、礼治がいくら静めさせようとしても、自分が愛する主人を馬鹿にされ、更には危害を加えようとした奴等にフールの怒りが治るはずがなかった。
もう怒りを抑えることのできないフールを礼治は強行手段で抑えることにした。
「【タロットマジック】小アルカナ、聖杯」
呪文を唱えて『水の聖杯』を異空間から取り出し、今朝の水魔法で回復させた時に新しく覚えていた魔法を使う。
「【水鎖】」
呪文唱えると聖杯の中から水の鎖が勢いよく飛び出し、その勢いのままフールの身体全体を水の鎖が縛る。
これで一先ずは大丈夫だろうと思った礼治だったが、それは甘い考えであった。
「こんなモノーーーー‼︎」
フールはなんと力ずくで水の鎖を引き千切ろうとしていたのである。
しかも水の鎖はフールの筋力に耐えきれそうになく、このままでは直ぐに鎖は千切れてしまう。
「なんか他に手は…!そうだ‼︎」
この状態を対処できる方法がないか考えを巡らせる礼治はある一つの解決策を思いつくと右の手のひらを前に向ける。
「【タロットマジック】大アルカナ、NO.15『デビル』」
呪文を唱えると光を放ち悪魔が描かれたカードが出現して消えると同時に光の中からボサボサの赤髪に赤目の十代後半で腕に鋼の鎖を巻きつけている色黒の男が現れた。
「おうレイジの兄貴、初めましてだな。俺の名前はサタンだ。よろしくな」
サタンと名乗った色黒の男が挨拶してきたが今はそれどころじゃない。
「ゴメン!挨拶は後‼︎今すぐフールを抑えてくれ‼︎」
「レイジの兄貴?なんでフールの姐御を抑えないと…って⁈ わかったぜレイジの兄貴!俺に任せろ‼︎【悪魔鎖】‼︎」
サタンは礼治が何を言っているか分かっていなかったがフールを見た瞬間、フールの放つドス黒いオーラを感じ状況を理解してすぐさま呪文を唱えた。
サタンが呪文を唱えると腕に巻かれていた鋼の鎖が延び水の鎖を引き千切る一歩手前だったフールに巻きついた。
「うわ⁈キャア!」
今度はサタンの鎖が巻きつけられたフールはバランスを崩してその場に倒れ込んだ。
「サタン!何故邪魔をするんですか⁉︎私は礼治様をクソ扱いしたゴミどもを排除しなければいけません‼︎早くこの鎖を解きなさい‼︎」
フールはサタンの鎖に縛られ身動きがとれなくなったが未だにドス黒いオーラを放っており、サタンに鎖を解くように訴えた。
「悪いなフールの姐御。幾らフールの姐御の頼みでも俺らの主であるレイジの兄貴のお願いの前にはどうしようもできないぜ」
それに対してサタンはフールの訴えには応じなかった。
「サタンはフールの足の方を持ってくれ‼︎ここから運ぶぞ!」
「了解だぜレイジの兄貴。そう言うわけでちょいと失礼するぜ」
「礼治様!それにサタンもチョット待ってください‼︎」
フールは身体を動かす事が出来ない為に口で抵抗するが礼治はそれを完全に無視する。
「サタンいくぞ!せーの‼︎」
礼治の掛け声と同時に鎖を巻き付けられて芋虫状態になっているフールをサタンと二人で抱え上げる。
「ギルドの皆さん大変お騒がせしてしまいすみませんでした‼︎失礼します‼︎‼︎」
礼治は迷惑をかけてしまったギルドに謝罪をしてからフールを抱え、サタンと一緒にギルドの外に飛びだした。
この時、スキルの【隠密】を使って周りから気配を隠しながら宿屋に向かうことができた。しかし、ある茶色のローブを着てフードを深く被っていた人物の横を通り過ぎた時、その人物は礼治が【隠密】を使っているにもかかわらず礼治に気づき振り返るがそんな事に気付いていなかった礼治はもう遠い彼方へ走っていっており、声を掛けることができなかった。
そのフードを被った人物は暫く走り去った礼治たちの方向を眺めた後、ニヤリと口角を上げて微笑んでからギルドに向かうのであった。