299話 力試し2
まさか、ニキスの影魔法による包囲網を突破できる術を持っていたなんて…………。
それなのに敢えてニキスの包囲網に収まり、ニキスを最も油断した瞬間をついて突破してくるとは。
…………勿論、ニキスも相手が影魔法を突破する可能性を考慮して戦闘してました。
ですが、打開策があるのに相手がニキスによって一方的に攻撃されるような状況に居続けるなんてあり得ない。
そう思っていつの間にか魔法による攻撃のみに集中していました。
その先入観を利用されてしまったということでしょう。
相手が距離を詰めてくる直線上に影魔法を置きますが、全て水の剣による一太刀の元に切り伏せられてしまいました。
一旦後ろに引いて距離を!
っ!?
何処まで用意周到なのですか!!
ニキスの後ろからは闇魔法の槍が飛んできています!
………………仕方ありません。後ろは影魔法で相殺………近接戦を許してしまうことになりますが、正面はナイフで受けるしかありません。
…………いえ、もうひとつ方法が……………。
相手が近付くに合わせて魔法の発動準備をします。
そしてニキスのナイフと相手の水の剣が切り結ぶ寸前、魔法を発動させます。
「っ痛っつ!!」
水の剣とナイフの刃先が衝突し、金属音が響くと同時にニキスの口からも痛みを訴える声が出ます。
その痛みは剣の打ち合いによるものではなく、背中に着弾した闇魔法の槍によるもの。
「嘘じゃろ!?」
ここで初めて相手の顔を驚愕の表情に変えてやることが出来ました。
ニキスとてステータスで言えばSランク或いはSSランク級の魔物です。魔耐値は最も低いステータスとはいえ、それでもレベルの力もあり何とかAランク魔物程度の魔耐値はあります。
目の前のおじいさんの戦闘を見る限り、敏捷値一番、次点で物理よりのステータス構成。
ステータスの総合力で言えば恐らくニキスとほぼ同等かそれより少し下回る程度。
ならば一撃で行動不能に追いやられる程ではない筈。
そう思い防御を捨てましたが、賭けには勝てたようです。
背中が焼ける様に熱い。流れ落ちる血を肌で感じられる程です………………ですが、直ぐに決着を着けるのであれば戦いに支障はありません!
接近し、ニキスを魔法と挟み込み、この一撃で決めるつもりの相手に対してニキスも仕掛けます。
相手はニキスが距離を空けて戦いたがっていたのをしっかり把握していたので、まさかニキスが接近戦を仕掛けてくるとは思わない筈です。
魔法の発動の兆候を読めるのかどうかは知らないですが、どちらでも関係ありません。
相殺の為の魔法が攻撃の為の魔法だと判断できる頃にはもう逃げ道は残していないのですから!
背中の傷を代償に作り出した影魔法が相手の背後より囲い混む様に攻撃します。
「ぬうっっ!!」
「………っ!」
相手が少し足に力を込めるような様子を見せた瞬間、5m程上空へ跳ね上がり、ニキスの影魔法を躱してしまいました。
あり得ません!
相手はニキスと刃をぶつけ合うことでバランスを崩してました。
そんな状態ではニキスの敏捷値を持ってしても不可能。戦闘技術がどうとかではなく、物理的に無理なのです!
それなのにそんなの事を実現できた………と言うことは何らかのスキル或いは魔道具………だったということです。
「嬢ちゃん………正気とは思えんのう。まさかあれを自ら受けるとは…………かなりの魔力を込めておったのは想像がついていたであろうに。………お陰でワシの足もこの通りじゃよ。」
ですが、何のダメージも与えれなかったわけでは無いようです。
相手の脚には躱し切れずに魔法によって抉れてしまった傷が残っています。
相手は脚に怪我を負ってます。これは戦闘能力に大きく影響します。対してニキスの怪我は戦闘能力には影響が低いです。
ですが、この背中の傷の深さから考えれば、時間が立てば経つほどコンディションが悪化してくるはず。
さっきと違って時間はニキスの味方ではなくなりました。
悠長に魔法で囲って時間を掛ける時間はなくなりました。
接近戦で短期決戦するしかありません!
「[シャドウローズ]」




