298話 力試し
勝負の合図はしたものの目の前のおじいさんは攻撃を仕掛けてこない。
手にはナイフを持ってる………と言うことは近接型の戦い方或いは、スピード型で…っ!?
後ろっ!?
背後に言い知れぬ違和感を感じ視線を向けます。
黒い影?いや!闇魔法ですか………。
躱す?いや、この規模なら初歩魔法。追尾能力を持たせることも簡単。
もし、追尾してきたら避けきれない!!
相殺するしかないです!
影魔法は地面から攻撃を発動する特性上、相手魔法の射線に割り込み相殺させるのには時間が掛かりますし間に合いません。……………他の魔法なら手元から発動できます。威力は落ちますが……[シャドウランス]!
っ!後ろもですか!
殺気を感じ振り返ると後ろから攻撃が。
まだ魔法を発動したばかりなのに早速隙を狙っておじいさんがナイフを投げてきています。しかも3本も。
………そりゃ、別に投げナイフって使い方もありますけど、如何にも接近戦やりますよ。って感じでナイフを構えていたのに。
今度は影魔法処か闇魔法すら間に合いません。
1本のナイフを弾き、躱しきれなかった2本を弾きます。
そしてそれと同時に後ろでは魔法がぶつかり合い、相殺されたような音が聞こえてきました。
しかし、それに安堵する暇もありません。
おじいさんはナイフ攻撃に対応したニキスのほんの僅かな隙を狙い、更に攻撃を仕掛けるために距離を縮めてきます。
おじいさんは手には何も持っていない………攻撃が読めません。
下手に近付かれてはリスクが高過ぎます。
距離を取り、相手の攻撃を見極めれなければ、すぐにやられてしまいかねません。
話は変わりますが、今ニキス達がいるこの草原回りに木すらなく、一見影魔法を使うには不向きにも見えます。
しかし、その草の下には影が確かにあります。
まあ、草の細い影なのでかなりの割合で日差しが入っていています。
[影移動][影転移]発動中は他の[影魔法]を使うことができず、発動には自身の体のサイズ以上の影の広さが必要であるという魔法の使用上使えそうにないですが、その他の魔法ならむしろ[影魔法]を使うのに適した土地と言えます。
何せここは草原、何処まで逃げようとも足元を含め、相手の四方八方すべての方向に影があり、何処を起点としても攻撃を行えます。
そして魔法なら多少体のバランスを崩していようが問題なく発動出来ます。
ならばこのチャンスは逃せません。
相手が距離を詰めてきている背後から…………[シャドウローズ]。
「っ!?」
………………。
「なるほどなるほど。恐ろしい。まさか[影魔法]の使い手とはの………。あの状況で冷静に対処するだけでなく反撃までしてくるとは末恐ろしい。」
まさか………躱されるとは………。
角度的なことを言えば確実に見えていなかった筈です………ましてや[影魔法]には匂いも音もありません……。
つまり、マスターの使う[魔力視(状態異常妄想)]に似た魔力感知系スキル、或いは単純に簡単には範囲を拡げるスキルかは知りませんが、何らかの力がないと探知できない筈でした。………と言うことはそう言うことなんでしょう。
「嘘!?………あのジィ様の初撃を初見で凌ぐなんて……。」
「じゃから言ったじゃろミクリ?面白いものを見れる……と。」
「…………。」
「話をしているところ申し訳ないですが…………[シャドウローズ]」
相手を囲むように[シャドウローズ]を発動させます。
次からはずっとニキスのターンです。影魔法で囲んでしまい、ニキスの土俵で一方的にタコ殴りにさせていただきます。
おじいさんは………敏捷値もさることながら……それ以上の戦闘技術ですね。
ニキスの[シャドウローズ]により四方八方から沢山の影の槍が攻撃を仕掛けているのに、ニキスの攻撃をある程度誘導する事で僅な空間しかないのに全て躱しきっています。
躱すだけならニキスでも出来ます。それこそ敏捷値25000以上のゴリ押しでこのおじいさんと遜色ないレベルで行けるでしょう。
ですが、自身の位置を調整することで二手三手先の魔法を自分の都合のいいように誘導する。
ニキスもなんとか相手の思惑を越えれるように相手の嫌そうな方向から攻撃しますが、それすら相手の誘導の範疇といった感じさえ感じます。
ですが、それならそれでも構いません。
相手を影で囲んでいる以上、相手はニキスを視認することもできず、ましてや影魔法による包囲網を突破することも不可能。
ニキスはこのペースを維持すれば、最低でも一時間は攻撃し続けれます。
おじいさん。貴方はその絶妙な調整を必要とする戦闘を一時間も変わらずに続けられますか?
[シャドウローズ]による包囲網が始まり、早五分。
早速チャンスが来ました。
相手が攻撃を躱しそこねバランスを崩しました。
勝機!全方位より[シャドウローズ]による影の槍を放ちます。
……如何に戦闘技術・敏捷値が優れていようとも躱しきません。
さて、後は間違っても命を奪わぬように加減しなければ。
「え…………。」
目の前の想定外の事態に目が点になります。
ニキスの[シャドウローズ]による全方位攻撃、その一部が消されました。
相手の手には………水の剣?
つまりは………水魔法で影魔法を相殺された?いえ!そうではないです。
相手の水魔法による剣は今なお健在。
攻撃手数を増やすべく、一つ一つの魔法に割く魔力を減らしていました。それに対して相手の剣はたった一本の剣に魔力を集中させたものお互いがぶつかり合えばどうなるかは判りきったこと。
一瞬のうちにニキスとの間を遮っていた影の包囲網が切り裂かれ、距離を詰めてきます。
思ったよりニキス視点が長引きました。
後一話で終わらしたいですが、もしかしたら二話になるかも?
ヒスイ視点も待ってますので………………早目に主人公視点も書きたいところではありますがしばしお待ちを。
後はやはり気になるのが戦闘シーンの表現。
皆さんにどんな感じか伝わっているといいんですが………………………………。




