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其之一|第六章|二人の夜明け

2017年06月07日 加筆・修正

「取り敢えず、今日出来る事はもうない。」


 晴人の宣言により、これ以上の議論や考察は打ち切られた。

 実際に、私が何かを話しても解決には結びつきそうもない。


 私を追い込んだあいつの話をすれば何かヒントになるかも知れないけど、こっちに居ない相手の話をしても解決に直接繋がる事は無い様な気がする。


 後々、必要になってくるかも知れないけど、私もハルトさんも疲れているのは目に見えて明らかだ。今はゆっくり休みたい。


「もう、五時前か。もう少し早く眠れると思っていたのに散々だな。」

 晴人がひとりごちた。


「と、言う事は今って朝の五時ですか?明け方なのに真っ暗ですね。冬ですか?」

 素朴な疑問をハルトさんに投げかける。


「あぁ。ここは地下なんだわ。俺の本業の方の拠点で、拡張したくて使い魔を召喚したんだが、妙子ちゃんが現れたってワケだ。」


 何だかよく分からないけど、変な言い回しだ。

 いつもの私なら色々とツッコンで聞くところだけど、良い切り返しが思いつかない。

 何となく、思い浮かんだ事を聞いてみる。


「へぇ~。本業ってわざわざ言うって事は副業も有るんですか?」


「そうだ。全てにおいてどれもが本業でもあるんだが、この街で俺はポーションなどを売る『薬屋』として認識されている。それ以外の仕事は内緒だ。良いな?」


 ハルトさんの言葉に「はーい!」と返事はしたものの何だか違和感がある。

 何だかそれじゃない感があってモヤモヤする。

 もう迷惑は散々かけているんだから、一つや二つ増えた所で変わらないかな?

 わからない事は、この際素直に聞いてみよう。


「あの。何だかたまにハルトさんの言葉に違和感と言うかモヤモヤっとした感じを受けるんですけど。何というかハルトさんの言う事をきかないといけないみたいな?」


 驚いた顔で私を見つめるハルトさん。

 何か変な事を言ったかな?

 不思議そうにハルトさんを見つめていると観念した様に勝手に話しだした。


「それに気がつくか。凄いな。」


 どう言う意味だろうか?

 よく分からない?

 私は疑問を聞いただけだ。

 何が凄いと言うのだろうか?

 さっきのモヤモヤとは違う疑問を感じてジーっとハルトさんを見つめて無言のプレッシャーをかけてみる。


 仕方ないなと言う顔で私を見つつ何となくどう説明するか考えている気がする。


「う~ん。そうだな。取り敢えず地上に戻るから歩きながら話そうか。」


 と、言って歩きだした。

 うん。と頷くと私もハルトさんの後を追う。


 何も無い壁の前にハルトさんが立つと壁がスッと消えて階段が現れた。


「おぉ!凄い!初めてここが魔法の有る世界だと実感しました!」


 ハルトさんは「ハハハ…」と軽く苦笑いすると、階段の方に進んで手招きをする。

 私も続いて部屋を出ると自動で閉まり普通の壁と見分けがつかない。

 ハルトさんが歩きだすと階段に灯りがともる。


「うん!これはセンサーで灯りが付くのと同じだから特に不思議じゃない!」

「これも一応、魔法を使った技術だけどね。確かにあっちじゃ珍しくもないか。」


 何となく、気が抜けたのか素のハルトさんが見えた気がした。

 表情は見えないけど、声が優しく微笑んでいる様に聞こえる。

 そして、思い出したかの様に、さっき聞いた話の答えを教えてくれた。


「さっきの話だがな。それは召喚時に隷属の設定をしているからだ。」


 隷属って言うとエスとエムみたいなアレ!?


「えっ!?それって手篭め?!越後屋!?貞操の危機!?」

「馬鹿もん。使い魔をランダムで召喚するんだ。一定の縛りが無いと召喚した瞬間に首チョンパだ。わかるな?」


 軽くパチンと頭を叩かれる。

 叩かれると言うか撫でられると言うか何だかくすぐったい感じだった。


「あー!そーいうことですか!!」


 一瞬、ビックリしたけど言われてみれば何となく納得がいく。

 つまり、部屋に腹ペコのライオンを入れるのに何も対策してなければ食べられちゃうって事ね。


「あと、俺の仕事の性質上、秘匿事項も多い。今回は知能の持ったタイプを召喚したんだから知り得た情報を守秘させるたぐいの縛りが必要になる。それが隷属だ。」


「なるほど。口約束だけでは信用できないくらいヤッバイ秘密があるって事ざんすね!だんな!ゲッヘッヘ」


 話を聞いて理解できたので、ちょっと心に余裕が出てきた。

 少し雰囲気を変えようとおどけてみる。

 つまり、モンスターが裏切らないようにする為と、情報を漏らさない様にする為の手段って言う事なのね。

 言われてみればこれも必要な気がする。


「まあ、そんな所だが…。妙子ちゃん。キャラがおかしいよ。面白いから止めはしないが。例えば隷属の効果で、そのキャラを止めよう思えば止められる。おふざけを止めるようにとは絶対遵守事項に定めていないとは言え、絶対遵守事項以外の事でも緩やかな強制力を発動する事もできる。試してみるかい?抵抗を試みてダイスが設定値を上回れば抵抗できるかもよ?」


「TRPGですか…。」


 何というかハルトさんは所々で濃ゆい人だ。

 分かる私もどうかしてると思うけど。


「お。妙子ちゃんイケるクチかい?」


 同士を見つけたとワクワクしてるのが声のトーンから分かる。

 何というかハルトさんって顔はそこまで悪くないのに残念な子な感じがプンプンする。


「いいえ。知識として知ってるだけでプレイした事ありません。」


「残念。」


 と言う声は明らかにトーンダウンしていた。

 実はわかりやすい人なのかも知れない。


「まあ、この世界では必要無いと言えば必要ないか。と、言う事で妙子ちゃんは薬屋以外の俺の仕事に関する事柄に関する発言は、強制的に知らない設定での発言に置き換わるから混乱しないように。あと、度を越して俺が不利になる様な発言や行動にはペナルティが発動するので注意するように。あ。これは俺の師匠の趣味だから恨まないでね。俺はこの方法でしか召喚術式を知らん。わかった?」


『はい!』と素直に返事をしそうになったが何かおかしい。

 違和感が膨れ上がったあと妙にスッキリした気分になった。


「ペナルティってなんですか?」

「クソ。抵抗したか。」


 晴人が小さくつぶやく。

 な!こっちが「クソ」って毒づきたい!

 やっぱり何かされてた!


「ペナルティってどんなペナルティなんですか?ねーねー!ペーナールーティーってなんですかぁ!?」


 答えないハルトさんにしつこく食い下がる!

 このまま流されてはいけない気がする!

 お顔はニッコリ。

 心はカンカン。

 内容を聞くまでは引き下がれない予感がするぅ!


「これは俺の師匠の趣味でな。この召喚術式で召喚された者は『本気の反逆の意思』を発した際に、召喚された者が嫌がる事柄より上位五つが選出されランダムで実行される仕様が組み込まれている。」


 ??????

 意味が分からない。

 ニッコリ


「例を示せと言う顔をしてるね。わかった。わかった。」


 ため息をつき、晴人は続ける。

 本当に嫌そうな顔で。


「妙子ちゃん。もし君が俺を殺そうとするくらいの裏切りを行った場合。もしくはそれを実行しようと言う意思を固めた場合。次の五つの中からランダムで君が嫌がる効果が発動する!具体的に言うと!」


① 一定期間、君が気にしているムダ毛の濃さが1.5倍になる。

② 一定期間、君が嫌いな鶏の皮しか食べられなくなる。なお、食べないと一生解除されない。

③ 一時間、マッチョの裸体を見続ける。なお、マッチョ裸体を見るための方法はある程度の選択出来るが『非常に強力な強制力』が働く。

④ 書き溜めたポエムを街で朗読。なお、観客は五人以上とする。

⑤ お父さんのパンツと一緒に洗濯。なお、お父さんのパンツを入手出来ない場合は近くのおじさんパンツを入手しこれを行う。



「なんだんでずがぁぁぁぁぁ!ごればぁぁぁぁぁぁぁ!」



 妙子の黄金の左が唸りをあげる!

 魂の声が木霊する!

 その拳は晴人の顎に向けて放たれた!


 グォォオオン!と、唸る拳が晴人の顎を捉える!


「 イ ケ ル 」


 確実に仕留める。

 妙子の拳に力が込められる。

 ペチン・・・


 ノーダメージ


「すまないね。さっきは規制前でまともに喰らったが、無闇に怪力を発揮されては困るからパワーセーブする様に設定させてもらった。さすがに怪力が付与されている妙子ちゃんに殴られるのは色々不都合なんでね。」


 そんな事はどうでも良い!

 そんな事はどうでも良い!

 そんな事はどうでも良い!


「ぞんなごどよりぼぉ!なんなんでずがぁごれぇ!ひみづばぐろだいがいでどぅがぁ!?!?!?!?」


「落ち着け。落ち着け。妙子ちゃんの気持ちはよく分かる。まだ、こんなのは取り乱す様なペナルティじゃない。俺なんて師匠に条件を操作されて『マッチョを誘惑しベットイン直前に誘導効果が切れて正気に戻る』の一択なんだぞ。本気で師匠の抹殺しようなど決意した瞬間に記憶を無くして、気が付いた時にはマッチョにベットで犯されそうになってると言う酷いペナルティが課せられているんだ。それに比べればマシだろ?」


「・・・。趣味の良い師匠さんですね。でも、私はハルトさんだったら『ショタ×ハルトさん』で、誘い受けの方が良いと思います。」


「ああ。まあ。なんだ。取り敢えず正気を取り戻してくれてなによりだ。…と、言うか正気なのか?」


「正気です!でも、このペナルティひどいですよぉ!何というか凄く!凄く!言葉にできない!凄く!凄くです!」


 ハルトさんの話を聞いて、もう何とも言えない感情が込み上げてくる。

 何とも言い表せずに言葉にするなら「凄く!凄く!」以上に表現が出来ない。


「わかる。凄く!凄く!だよな!しかも、万が一、ペナルティが完全発動する前に間違って殺ってしまえた日には一生発動し続けるんだぜ!酷いだろ!?しかも、ワザと発動までの時間を一瞬作ってるんだぜ!!」


「ひぃ!ひどい!ワザと殺らせた上に、こんな地味な責め苦を一生ですか!?いっそ殺して!!!!人でなし!!!!」


 何だかよく分からない所で意気投合した。

 数時間前まで全くお互いを知らなかったオジさんとプリティな女子高生の私が意気投合するのに充分な理由である。

 それくらい酷いペナルティだ!


「そうなんだよ。趣味が悪いんだよ。召喚者が居たらまだ途中解除も出来なくもないんだよ。人間の召喚を想定していないとは言え地味な上に嫌すぎて召喚される者に同情するくらいだ…。師匠の所の悪魔系のヤツなんて『シスターをナンパ』とか『教会の見習いシスターに花束を』とか『シスターに改宗するから結婚してくれと言う』とか、どんだけシスター縛りなんだよって…。」


 悪魔に対して悪魔的な嫌がらせ…。


「うわぁ…」


 凄く引いた。十七歳と言う私の短い人生の中で最も引いた。


 鬼畜だ。ハルトさんの師匠は鬼畜だ。

 そんな人に私の呪いを相談して大丈夫なのだろうか!?

 出来れば、その師匠さんには会いたくない気がする。


 あまりもの衝撃の為、ハルトさんに色々と聞きたい事があったが忘れてしまった。

 それくらい衝撃を受けたペナルティの話。


 もし、ハルトさんの師匠に会う機会があっても絶対に敵には回さない。

 例え、ハルトさんを犠牲にしてでも。


 ピコーン


 ・・・・・・。


「ハルトさん。地上についたら洗濯したいのでパンツを貸してくださびぃ…。ハルトさんを犠牲にしてまで師匠さんから逃げようとかしませんからぁ…。」


「ああ。俺のパンツで良かったら。気にするな。」

『大丈夫。わかるよ。』と言う哀れみの目をしてハルトさんが頷く。


 恐ろしい…。

 ハルトさんの師匠は恐ろし子…。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 衝撃的なペナルティ話から十五分くらい経っただろうか。

 私たちは黙々と階段を上り続けた。


 あまりにも衝撃的な事実にショックを受けた事もあるが、色々と今日起こった事を自分の中で整理しかったと言う事もある。

 ハルトさんはそれを察してくれたのか黙って前を歩いてくれている。


「テレポーターは有るんだが故障してて使えないんだ。今度、直しておく。」


 と、途中で話してくれて以降、二人とも階段を上る事に集中していた。

 これが全てここ二時間ちょっとの話なんだ。


 順応する私も私だけど、あまりにもアレすぎて流れに乗るしかない。

 召喚だとか、呪いだとか、魔法とか。

 数時間前は考えもしなかった事だ。

 考えたとしてもゲームでのスキル回しとか、あくまでも架空の話だもの。


 幸いハルトさんは優しい人っぽい。

 それだけは救いな気がする。

 そう言えばハルトさんがどうして死のうと思ったのか?

 もっと詳しく聞きたいって思ってた気もするなぁ。


 話をしていると自殺とかしそうな人じゃない気がする。

 なんと言うか、ポロポロと崩れるメッキっぽい何かが自殺の可能性を最後まで否定しきれない気がするけど、気さえ張っていれば他人とのコミュニケーションも何とか乗り越えて円満な人間関係を築ける人と言う感じがする。


 二十代後半から三十代前半で、顔もそんなに悪い感じじゃない。

 身長も一七〇センチくらいで平均的だ。

 体も意外と筋肉質だったし、オジさんって言う感じもあまりしない。

 高校生にレトロゲーネタをブッ込んでくる所はオッサンっぽいけど…。

 それを除けば平均点以上のオジさんじゃないかな?


 ハルトさんについて色々と疑問は残っているけど結論としては悪い人じゃなさそうだ。

 少し落ち着いたら疑問については改めて聞いてみよう。


 何となくだけど、私達は馬が合う感じがする。

 これは予感だけど、長い付き合いになるのは間違いないと思う。

 兄妹みたいな関係になるのか、親友みたいな関係になるのか、恋人みたいな関係になるのかはわからない。


 うーん?恋人はないかな?


 でも、違う世界でたった一人。同じ世界からここに来た人。

 私以上に苦労したはずだ。


 少しでも手助けしてあげられれば良いなと思う。



「おっし。もう少しだ。着いたら取り敢えず軽くメシを食おう!風呂に入って昼まで寝るぞ!どうせ教会が開くのは昼過ぎだ!仮眠して相談に行こう!」



「はい!ハルトさん!」



 私は元気よく応えると、朝日が差し込むちょっと小さめの部屋に飛び込んだ!

 生まれ変わったかの様に世界は眩しい!

 昨日の夜が嘘のように気分は晴れやかだ!


 家族の事は少し気になる…。

 でも、今はただ悩んでも元の世界に戻れるワケじゃない…。


 だったら、今ここで私が出来る事を出来るだけやるべきだ。

 そうすれば、何か方法が見つかるかも知れない!

 どんなに落ち込んでも、落ち込んでるだけじゃ元の世界には戻れないもの。

 それなら、とにかく動いて方法を見つける努力はしよう。

 動かなければ何も変わらない…。


 だから。


 きっと、ここが私の新しい世界への入口なんだ!

 朝日が差し込む小さな部屋で妙子は新たな一歩を踏み出した。

 逆光の中でハルトさんのシルエットが笑っている気がする。

 何となくそれに安心感を覚える。


 ハルトさんが言う様に


 とりあえず、ごはんを食べよう。

 とりあえず、お風呂に入ろう。

 とりあえず、ぐっすり寝よう。


 私の新しい世界はそこから始まるんだ!

最初からここまで読んで下さり有難うございます。

さぞ、読みにくい上にハルトの説明ゼリフが長くアレだったのではないでしょうか・・・。

これには設定的なアレがアレなのですが、多分もう少し先でもハルトの長い説明セリフが続くと思いますが、きっと妙子との生活の中で改めてくれる日が来る事と思います。


この物語はこの二人を中心に進行します。

もう少し先まで書いてはいるのですが、取り敢えずは主人公の二人がこの回で一息ついたので、更新のペースを抑えて、ストックを見直しつつ一定の納得がいったらアップしていくつもりです。


拙い文章ではありますが、今後も楽しんで下さる方がいらっしゃるなら嬉しい限りです。


【お詫び】

「1の4 お前はもう死んでいるのかも知れないし、死んでないのかも知れない。」で、チンコチンコと言いたかったのは妙子ではなく私です!謹んでお詫び申し上げます!

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