其之五|第二章|基本、女神はタチが悪い
気持ちを切り替えた俺達は王都へと向かった。
妙子ちゃんが連れ去られ、自分の無力さを悔いる気持ちが消え去ったかと言うと、モヤモヤとした気持ちを引きずっていないとは言えないが、残念な女神が言う様にダンジョンの奥底でイジケているワケにも行かず、行動を起こすしか選択肢は無かった。
黒木が妙子ちゃんに危害を加える可能性は、呪々が言っていた様に少ないかも知れないが、無事に帰すの一言で妙子ちゃんを連れ去った黒木の言葉を全て信じられるワケもなかった。
今後、どの様な展開が待っているとしても、女神と魔王の問題に巻き込まれないよう、妙子ちゃんの安全を確保して連れ戻すのは必須。その後にでもやり合うならやり合ってくれれば良い。
妙子ちゃんの身の安全を確保する上で両陣営の問題に巻き込まれ、問題解決の為に翻弄させられるのだろうけど…。
容易に想像出来る面倒臭さよりも、今は使える物は全て使ってでも黒木の居場所を特定する方が先決だった。
王都への道中で残念な女神に確認した所、黒木が少し漏らしていたようにヤツの目的は黒木が居た元の世界に帰る事だとか。
それならとっとと帰らせれば良いじゃないかと俺は思うのだが、女神側にはそうもいかない事情があるらしい。
俺達の居た世界に封印したのと、黒木が居た元の世界に戻すのと、どんな違いが有るのかは知らないが、女神ニナ的には黒木を黒木が居た元の世界に戻すワケにはいかないらしい。
神様達が何をしたいのかは分からないが、現状としては女神ニナに協力するしかないだろう。
黒木が隠れ潜んでいる場所も分からないのだから、今のままでは動きようがない。
本音を言えば、勝利者側だけの言い分を鵜呑みにして、敗者側の言い分を聞かないまま協力すると言うのは問題を拗らせるだけだと思うのだが、王を使えば潜伏場所の特定が出来るかも知れないと言われれば協力しないワケにもいかなかった。
どのみち、今の俺では為す術がないのが現状だ。
敗者の言い分は妙子ちゃんが何かしらの方法で聞き出してくれるだろう。
幸か不幸か両陣営に分かれて行動を共にする事になったのだ。
こちらはこちらで勝者側の言い分を聞き出して、問題解決とは言わずとも妙子ちゃんを安全に救い出す手がかりとしよう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「で?いつまでニコさんに憑依してんだ?」
王都に到着し、王宮侍従長であるリンダさんの案内で待合室に通された俺は残念な女神に聞いた。
ニコさんの顔色を見る限りでは今の所は問題ない様に見えるが、道中で聞いた女神ニナの話によると継続して耐性の無い者に降り続けるのは人間にとって良くないらしい。
そりゃ、そうだろう。体内に異物が混入しているのだから平気なワケがない。
万が一、肉体的に何の問題が無かったとしても、自我を抑え込まれて自分の体を勝手に使われているのだから、精神的な負担は相当なモノだろう。
信仰心がエネルギーとして集まりやすい王都に着けば、依り代を必要とせずに単独での実体化も可能だと言う話だったのだが、待合室に用意されたケーキを見るなり飛びついて、のんきに食べ干されては文句の一つも言いたくなるってもんだ。
「わーってる。わーってるわよ。でも、この子はタダでさえ私を降ろして余計なエネルギー消費してるのよ?エネルギー補給もせずに無理をさせればエネルギーを使い切ってカピカピに乾燥しちゃうわよ? 若く見えても無尽蔵にエネルギーが生成される十代や二十代の子とは違うんだから仕方ないじゃない!」
と、もっともらしい事を言いながら、残念な女神は綺麗に盛られたお菓子を乱雑にパクパクと口に運んだ。
言わんとしている事は分からなくもない。
何をするにもエネルギーは必要だ。
消費すれば補給をしなければならない。
動物であれ何であれ、それは一定の法則で構成された、この世界の原則と言っても良い。
だが、この様子をニコさんが見たら何と言うだろうか。
女神ニナの言う様にニコさんは若くない。
今では正式な年齢は秘匿されているが、昔から付き合いの有る俺は彼女が三十代も半ばを過ぎたと知っている。と、同時に彼女がその美貌と女性らしさを大切にしている事を知っていた。
昔はどちらかと言うとダークな…。いや。あれは人付き合いが苦手なタイプの腐女子だったニコさんが二十代後半に差し掛かり、自分が元々持っていた美貌を活かして、彼女の父が経営する「夢見る冒険者亭」の手伝いを始めた頃の事だ。最初は酷かった。まともにオーダーも取れなかった彼女が日々の努力で今の彼女になった事を俺は知っていた。
それがどうだろうか。残念な女神のニナに操られた今の姿は。
もし、ニコさんの意識が健在なら。
行動の自由が許されていたなら。
ニコさんは暴れだしていただろう。
俺達に気を許しているのか、すっかり地が出っぱなしの女神が、まるでニナさんの様に…。いや。ニナさん以上に雑な行動を、自分の体を使ってされていると言う事実に我慢ならなかっただろう。
冒険者を引退して引きこもりがちだった彼女に何が有って自分を変えようと思ったのか。父親を嫌っていた彼女が「夢見る冒険者亭」を手伝おうと思ったのか。人付き合いが苦手だったのに「夢見る冒険者亭」を自分の生活の場所として選んだのか。
それを俺も知らない。
だが、当時の彼女。そして、今の彼女の努力を知っているだけに、ガサツな女神の所業を目の当たりにして俺は涙を禁じ得なかった。
「ちょっ!泣くくらい食べたかったなら最初から言いなさいよ!私だって必要だから食べてただけなんだし、独り占めしたかったワケじゃないんだからね!他の子だって普通に食べてるんだし遠慮する事なんて無かったのに!そんなにお菓子を食べたかったなら残りはあなたが全部食べれば良いわよ!必要なエネルギーも補給出来た事だし残りは好きにすれば良いわ!」
何を勘違いしたのか、まるで俺が意地汚いかの様な事を言って席から離れると少し広めのスペースに移動して飛び跳ねて軽く運動を始める。
そして、軽い準備運動を終えた女神は叫んだ。
「よし!行くわよ!!遠からんものは音に聞け!!近くば寄って目にも見よ!!この女神降臨の妙技を!!!」
その声に、女神が一人抜けた事でお菓子が食べやすくなり更に激しいお菓子の争奪戦を繰り広げていた女子三人も振り向き、小さく「おぉー」と言いながら拍手を送った。
その拍手に気を良くしたのか女神も女神でフフンと鼻を鳴らすと口上を続ける。
「さて!お立ち会い!この世界では精神しか降臨させられないわたくし女神ニナですが、見事に実体化すれば大きな拍手をお願い致します!」
女神の降臨と言うか実体化なんてのは、もっとこう…。神聖な出来事のはずなのに…。こいつの趣味かは知らないが口上のせいですっかり場末の演芸場の様な様相と化している。
そして、これだ…。
「いよ!ほっ!」
と、言いながら横腹を叩きだした。
あぁ…。このアクション。俺は知っている。
俺が思っている通りなら、この後に広がるのは地獄絵図だろう…。
「うぷ…うぷぷ…」
俺の心配を他所に横腹を叩き続ける女神。
次第にニコさんの喉元が大きく膨らみだした…。
どうやら、確定のようだ。
「えろえろえろえろ~~~~ごぺ…ごぺぺぺ…」
俺が確信したと同時に、ニコさんの可愛らしい顔が歪んで口元からは、光に包まれたニュルンとしたモノが豪快にうにょんと吐き出された。
最悪だ…。この女神。
よりにもよってニコさんの口から人間サイズで吐き出されやがった…。
「ゲホン!ゲホン!」
女神と思われるモノを吐き出したニコさんが、その反動で真後ろに倒れ込み頭を打ったのか、頭を抱えながら咳き込んでいる。
「ニコ!大丈夫か!?」
ニナさんが駆け寄った。
目の前であんな物を見せられては驚きで動けなくなってしまうものだと思うのだが、それよりもニコさんが心配だったのだろう。素早く駆け寄って介抱する。ニナさんにとって家族の様にニコさんが大事な存在だと言う事がよく分かる出来事だった。
「だ…大丈夫よ…。ゲポ…。」
ニコさんが短く答えた。
あんな物を口から吐き出させられたのだ。大丈夫だと言いつつも、さっきまで綺麗に彩られていたお菓子であろう吐瀉物を吐き出しながら、未だに光をまとって輝いているゲル状のプヨプヨしたモノを睨みつけると気を取り戻したニコさんが喚き散らした。
「大丈夫だけど…。大丈夫だけど…。そこのあんたーーー!!そこの残念女神!!この私に何させんのよ!!キレイで可愛いニコちゃんのイメージが台無しじゃないの!!!!何が「ちょっとボールくらいの大きさで口から出るから少し苦しいかも知れないけど大丈夫!」だぁ!?どこの世界に幅も長さも人間サイズのボールあるってのよ!?頭おかしいんじゃないの!?苦しいどころの話じゃないっての!!降臨されて感じ取った悲しそうな感覚とかを共有して少しでも同情した私が間違ってたわ!!もうちょっとマシな方法は無かったっての!?あんたに身体を乗っ取られたのは緊急の事態として納得して体を貸してあげてたし、あんたの説明にも納得したのは私だけど、まさかこんなに酷いカタチで裏切られるとは思っても無かったわよ!!このクソ女神野郎が!!!」
ニコさんの本性を知るものが三人と、全く状況を気にせずお菓子に集中してる呪々しか居ないからニコさんが気にする「作り上げてきたイメージ」っての自体が全く無い状態だ。
だから、彼女のイメージが傷つく心配は無い。
だが、体を乗っ取った女神と乗っ取られたニコさんの間で、何かしらのやり取りや約束があったのだろう。
もう少しマイルドな感じで体から出ていく。とか、言われていたとしたら。あからさまに騙されたニコさんが怒るのも無理も無かった。
騙されたと思っても仕方ないくらい可愛そうな顔になっていたのだから。
あまつさえ、親しい俺達でも見た事のない酷い顔を晒し、口から謎の物体を吐き出させられたのだ。ニコさんが怒るのも仕方なかった。
「いやー。わりぃ。わりぃ。でも、口から出なけりゃ反対側から出るしか無かったんだし、私としては感謝して欲しい所なんだけど?」
と、未だにゲル状の物体から声が響いた。
その口調はニコさんから出た事でニコさんの影響が弱まったのか、どちらかと言うとニナさんの様な粗暴な口調に変わっていた。
こう言うタイプに何を言っても無駄だと経験から知っているのかニコさんも頭を抱えて恨みがましそうに睨みつけるしかないようだ。
「で?私達の信仰する女神様はスライム娘なの?いつまでゲル状のままでいるのよ?馬鹿女神さま?」
と、軽い嫌味をぶつけるのが精一杯と言う感じだった。
「あら。そうね。これは失礼!」
悪びれるでもなく女神ニナと思われる物体から声が響くと、一層光り輝き謎の物体からニョキニョキと人のカタチをした何かが形成される。
足から徐々にスライム状の何かが積み重なり上へ上へと。
段々と人間っぽい形になって丸みを帯びた女性らしい形状へと…。
その光景はニコさんの口から吐き出されたゲル状の物体とは思えない程に美しい神秘的な光景だった。
その場に居たみんなが目を奪われた事だろう。
そう。その身体に色彩が宿るまでは。
「ちょっ!あんた!!なんで裸なのよ!?」
女神に降臨された事で女神の所業に耐性が出来たのか最初にマッパの女神に気がついたのはニコさんだった。
「なっ!これは…!!!」
ガコン!ゴキ!
その裸体が俺の網膜に焼き付く前に組み伏せられ、首が通常ではあり得ない方向に捻じ曲げられた。
「にぐぅわ!!!」
俺は声にならない悲鳴を上げる。その上からニナさんの狼狽した声が響いた。
「おまおまおまおまおま!!なんで私に似た顔で真っ裸なんだよ!!ニコが恥ずかしい思いをするのは構わない!だがな!!被害をこっちに及ぼすな!!バカか!?バカなのか!?私が恥ずかしい思いをするのは許さんぞ!!」
なるほど。一瞬しか見えなかったが言われてみれば確かに実体化した残念な女神の顔や身体はニナさんに似ていた。と、言うかニナさんが女神ニナに似ているのか?そっくりそのままと言う感じでは無かったが、どことなく似たような雰囲気とフォルムだった。
つまり、ニナさんは俺に自分と似た真っ裸な女神の姿を見られないようにと組み伏せたらしい…。
「いやいや。普段は部屋じゃ裸族だし。それに服なんてこの方法じゃ作り出せないわよ。この世界の住人なら知ってるでしょ?私達は何でも出来るワケじゃない。全知全能じゃないんだから変に頼らないでねって?」
「「出来なさすぎるにも程があるわ!!!!」」
部屋中にニコさんとニナさんの叫び声が響いた。
お嫁に行けなくなるくらいの酷い顔で口から謎物体を吐き出させられたニコさん。
自分にそっくりな顔で自分にそっくりな裸体を前触れも無く晒されたニナさん。
何も纏おうとしない女神に文句をぶつける二人によって、俺が部屋を追い出されたのは言うまでもない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ…。まったくなにやってんだ…。」
部屋追い出された俺は壁に寄り掛かると頭を抱えた。
こんな所で遊んでる場合じゃないのに。
出し物としては面白くなかったとは言えない。
いや。面白かった。
ニコさんのあんな顔は二度と見れないだろうし、ニナさんが本気で狼狽する姿なんてのは滅多に見られるものじゃない。
ただ、それを楽しんでいる余裕は無かった。
黒木を信用しないワケじゃない。
出来れば信用したい。
でも、何かを打ち合わせして事に及んだワケじゃない。
黒木は自分の都合で自分勝手に妙子ちゃんを連れ去った。
俺を自殺に追いやっただけでなく今度は誘拐だ。
黒木の願い通りヤツが元居た世界に戻ったなら妙子ちゃんは戻ってくるかも知れないが、自分勝手なヤツの行動を思うとヤツを信じろと言う方が無理な話だ。
と、言うかどうしてこうなった?
俺の視点でモノを言うと、ダンジョンの地下十階で女神が現れずに、黒木が静かに元居た世界に戻ってしまえば終わる話だった。帰りたいと言うなら帰してしまえば解決のはずだ。
女神が現れたのは黒木のミスなのだが、少なくとも女神が現れなければ黒木は元の世界に戻り、妙子ちゃんも連れ去られなかったのではないだろうか?
黒木を信用する信用しないと言う事もアレなのだが、それ以上にここまで問題が拗れた事に納得出来ず、ずっとモヤモヤしている。
それに俺が落ち着かないのにはもう一つ理由があった。
それは時間だ。
これだけ待たされるのはオカシイ。
遊んでいる時間も惜しいと言うのに待合室に通されて三十分以上が経っている。
今回はアーノルド…。
もとい、アイリス王女の邪魔も無いはずなのにヤケに時間が掛かっている。
この前は黒木がこの世界に戻ってきたワケでも無かったし、アイリス王女が何を思ったのか俺を待合室に閉じ込めて時間を引き伸ばしたから時間が掛かっていただけだ。
だが、今回は違う。
魔王カルキノスがこの世界に戻ってきた。
そして、アイリス王女が何かしらの妨害工作をしているワケでもない。
この世界の住人。特に魔王カルキノスの迎撃の為に肉体的な異種交配を繰り返して魔王に対する兵器として造られた『王』にとって魔王の再来は最も優先すべき緊急事態のはずだ。
それこそ、雑務など放り出して駆けつけるくらいの出来事なのだ。
三十分以上も待たされるなど考えられない。
『これは、王側でも問題が発生しているのか…。』と、考えていた時だった。
「ハルト様?部屋の外で何をされているのですか?」
声を掛けられた。
リンダさんに連れられてやってきた、少しゲッソリしてるっぽいアイリス王女に。
そして、もう一人。
ニコさんに似た別人がリンダさんの影に隠れてこちらを伺っていた。
「あ。いや。何でも無い。それよりもそちらは?」
答えは分かっていた。
しかし、聞かない訳にはいかなかった。
アイリス王女がリンダさんとアイコンタクトを取り頷く。
「ハルト様。信じられないかも知れませんが…。こちらは現世に降臨し実体化された女神ニコ様です。くれぐれも失礼の無い様にお願い致します。」
アイリス王女には珍しくキッと目に力を込めて。
あぁ。そう言う事か。
つまり、時間が掛かったのはこう言う事なのだろう。
「アイリス王女がゲロるのを嫌がって時間が掛かったのか…。」
「な!?なぜ、ハルト様が王家に伝わる秘技を知ってるのですか!?どうして!?って言うか!!私は嫌がってないですから!!ニコ様がお父様から出るのはイヤだって駄々をこねて、準備してなかった私がお迎えする為の準備に時間が掛かっただけですから!!」
おっと。どうやら思った事を口に出して言ってしまっていたらしい。
だとしても、秘技やら事情やらダダ漏れなのは王女として良いのだろうか?
と、思いつつも時間が惜しかった俺は立ち上がった。
「知ってるもなにも片割れがこっちに居たからな。」
と、言ってドアをノックする。
アイリス王女とリンダさんは何を言っているのか分からないと言う表情だったが、女神ニコは分かっているようだ。自分の予測が確信を得たと言う顔をしていた。
「ハルトさん?あー。もうちょっと待って!あっ。大丈夫そう!入っていいわよ!」
ニコさんが一人で問答を繰り返したと思ったら、こちらの返事も無しにドアを開け放った。
開け放たれたドアから爽やかな風が吹き抜ける。
浄化されたかの様な空気が廊下を駆け抜けた。
その中心にはニナさんの予備の着替えを着たのだろうか。
ニナさんよりも多少お淑やかに見えるニナさん似の美人が立っていた。
「待たせたな。私としては裸でも良かったんだけど、二人がうるさくてな。」
腐っても女神と言う所だろう。
ニナさんの予備のタンクトップに短パンと言う姿なのに神々しく見える。
そう言う意味で言うと女神ニコも神聖な雰囲気を持っているだが、これがニコさんの姿で残念な姿を晒しまくった女神ニナかと思うと、その神々しさは三割増しだった。
「ニナ。ウィーッス。」
不覚にも見入ってしまった俺の後ろから今までに聞いた事の無い誰かの声がした。
誰の声か確認するまでもない。
さっきまで一言も発しなかった女神ニコの声だ。
「ニコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
その声に女神ニナの神々しさは吹き飛び、猫まっしぐらと言うよりも、この場合は主人が帰ってきた時の犬のように女神ニコにまっしぐらする女神ニナ。
「ニコ!ニコ!ニコ!ニコォォォォォォ!」
「ニナ…。ウザイ…。」
そして、女神ニコの言う様に女神ニナのウザさが五割増しになった。
「はぁ!?はぁ!?どうなってるんですか!?どうして女神ニナが降臨してるだけじゃなくて現界しているんですか?って言うかなんて姿なんですか!?リンダさん!お召し物を!!お召し物を持ってきて!!」
女神ニナの姿に慌てふためくアイリス王女。
女神ニナのお召し物を取りにダッシュするリンダさん。
「「えぇ!?王女様!?」」
アイリス王女に気がついて跪くニコさんとニナさん。
「はるとー!お茶おかわり!」
それを気にせず、黙々とお菓子を食べ続けている師匠と呪々。
場は本題である魔王の再来とは別の次元で混乱していた。
はぁ…。
何千年越しに魔王の帰還と言う大イベントが自分の代で降り掛かったのだ。
王女自らテンションが上ったり、取り乱したりしても仕方がない。
俺達、外野がそれに巻き込まれてバタバタしてしまうのも仕方ないだろう。
だが、本来の課題である「魔王の帰還」とは違う事情でバタバタと混乱する女神サイドの様子は、この先の展開を表しているかのようだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、再び待合室から追い出される俺…。
部屋の中からは、さながら女子更衣室かの様な黄色い声が漏れ聞こえていた。
まあ、魔王カルキノスがこの世界に戻ってきたと言っても宣戦布告をしたワケでも無ければ、武力攻撃を行ったワケでもない。
まだ、余裕が有ると言えば余裕が有る状態なのは分かる。
だが、女神ニコが王都で現界していた事を考えると神様サイドにとって緊急事態なのは間違いないのだろう。
だけど。今の様子を見る限りでは、そこまで緊迫しているワケでもないらしい。
じゃなきゃ、リンダさんが楽しそうに大量の衣装を持って戻って来るワケがない。
俺が知ってる限り、集まったメンバーの中でリンダさんが一番まともなのだから。
急を要すなるならビシバシと場を仕切って行動に移しているだろう。
現状を考えると女神相手に着せ替え遊びをするくらいの余裕は有るって事だ。
俺としては妙子ちゃんの事が心配だから、今すぐにでも行動したい所なのだが…。
双子の女神に王女アイリス。そして、一番マトモそうなリンダさんまでがあの調子。
黒木に対して策が有りそうな中心人物が動かないのでは俺には何も出来ない。
取り敢えず、今は待つしかなかった。
実感が無い。
そう言う事なのかも知れない。
それを報告しに来たのが気心の知れた俺だと言う事が拍車をかけている。
前回、黒木がポテトイーターを操った時は本当に魔王カルキノスなのかと言う真贋はハッキリしなかった。そう。あの時は。
あの出来事で多少は王女アイリスと親しくなった。と、言うか一方的に懐かれた俺が二度目の報告に来たのだ。この世界の広さを考えると二度も魔王と名乗る者と同じ人間が遭遇する確率なんて限りなくゼロに近い。そんな確率でまた俺が魔王が帰還したと報告しに来たのだ。全て信じる事は出来ない気持ちも分からなくもない。
魔王が本当に戻ってきたと言う実感がないのだろうか…。
いや。そうなのだろうか?
ポッカリと訪れた暇な時間が俺を冷静にさせる。
本当にそうなのだろうか?
俺よりも事情を知っている『王』達の余裕に疑問を感じた。
確かに、黒木が何か行動を起こしたワケではない。
ダンジョン地下十階に現れて逃走しただけだ。
その際に妙子ちゃんを人質として連れ去った事が自体を面倒にしているだけ。
それ以外には、この世界に今の所は被害をもたらしていない。
緊迫感が無くても仕方がないのかも知れない。
加えて、その報告をしたのが俺だ。
この広い世界で何度も個人が魔王と対峙するなんて低い確率を信じられない。
俺が嘘をついていなくとも、事実が曖昧で実証出来ない報告だけでは真実とは認定されにくいのも当然だ。
虚偽だろうと、真実だろうと関係ない。
それは受け取る側の印象次第だと言える。
俺が「魔王は帰ってきてます!」と言った所で確かめられなければ意味がないのだ。
最初ならいず知らずだ。
最初ならその報告のインパクトにより過剰に動くのは必然。
だが、二度目ともなると緊急性も一段下がる。
当然だ。国防と言うかこの世界の防衛の為に人を動かすにも金がかかる。
初動で何も無かったのだから、同じ人間が二度目の報告をしたなら慎重に様子を見るだろう。
王家に近い機関が魔王と遭遇したワケでもない。
俺は単なるちょっと名の知れた一般人程度なのだから。
証拠を検証して真実だと実証されるまでは本格的には動かないのではないだろうか。
だが、アイリス王女やリンダさんの余裕は、それとは違う何かを感じさせていた。
女神ニコが現界している事も、そう思わせる一因だ。
魔王が帰還している事は確信している。
その可能性は高い気がする。
その上で、何かしらの事情により時間稼ぎをしている。
彼女達の行動に疑問を感じずにはいられなかった。
* * * * *
「ハルト。入っていいぞ。」
何分経っただろうか。
俺を冷静にするには充分な時間が経った頃、ドアが開き不機嫌そうなニナさんによって待合室に通された。
「ブッ!ぶふょ!!!」
不意を突かれた。
部屋に入るなり俺は思わず吹き出した。
これは吹き出すなと言う方が無理だろう。
部屋に入ると、ニナさんとよく似た顔で、女神ニナが中世ヨーロッパの貴族や王族の様なヒラッヒラとした実に装飾華美でキラッキラしたドレスに身を包み、同じくヒラッヒラとした実に装飾華美でキラッキラしたドレスを身にまとった女神ニコを癒やし顔で撫で回している姿が目に飛び込んできたのだ。
しかも、一時期キャバ嬢の間で流行ったすっごい高さの盛り髪で…。
そして、その姿を自分で見ないようにと恥ずかしそうにうつむくニコさんとニナさんの様子が俺のツボを更に刺激した。
その滑稽な光景に俺は笑い転げてしまった。
「ダーハッハハッハ!ヒー。勘弁してくれ。似合わない…。似合わないって…。勘弁してくれよ。今は…今は…それどころじゃ…。アーッハッハッハ…。ダメだ。息が…。息が…。できな…。」
「ちょっと!ハルトさん!なに笑ってんのよ!可愛いでしょうが!当然よね!私の顔をした女神様が着飾ってるんだから可愛くないワケがないでしょ!?なに笑ってるのよ!!」
俺の様子を見て、女神達の格好に居たたまれなくなったのかニコさんが大声を上げて誤魔化しに入る。
「ま、まぁ…。私も頑張ればこれくらい可愛く着飾れるってこったな…。」
その様子に自分も何か言わないといけないと思ったのかニナさんが見当違いな事を言い始めた。
どちらも、見慣れない自分の様な女神達の姿に恥ずかしさ感じてだと思うが、その様子が更に俺の笑いのツボを迎撃して更に笑い転げた。
「チッ…。鬱陶しいわい!!!」
ガス!
いつの間にか近づいていたのか不機嫌そうな師匠が、床で転げ回る俺の横腹を強烈に蹴り上げて俺の笑いを強制終了させた。
「ゲホッゲホッ!師匠…さすがにそれは手荒すぎ…」
笑いを強制終了されて冷静になった俺が周りを見回すと…。
そこには女神達と同様にキラキラドレスで着飾った女性陣。
女神ニナと女神ニコのインパクトの強さに目に入っていなかったが…。
どうやら、女性陣は俺が部屋を出されている間にとても有意義な時間を過ごしていたようだ。
お姫様の様なドレスが着れてクルクルと嬉しそうに回っている呪々は別として、師匠とニナさんが不機嫌そうだった原因はコレなのだろう。
特に、この二人は他人が餌食になっている時にはケタケタ笑い転げるクセに、自分が標的にされると途端にブチ切れるタイプだからな…。
女神パワーとか謎パワーで、体の自由やら何やらを奪われて無理矢理にドレスを着させられたのだろう。
ブスっと不機嫌な二人の視線が「笑うなよ!」と俺を見つめている。
「プププ…。」
ガス!ドカ!
二人の不機嫌そうな顔に思わず吹き出した俺のみぞおちに師匠とニナさんの踵が落とされたのは必然だった。
「さて。余興はこれくらいでよかろう? 貴様らの思惑に乗ってやったんだ。そろそろ話を聞こうか? こんな下らん事では時間稼ぎにもなるまいて。 何を隠しておる? 事と次第によっては例え「神」や「王」であっても容赦はせんぞ?」
痛みに悶絶する俺を他所に、師匠が「神」と「王」を見据えて言い放った。
俺も考えていた疑問を「神」と「王」を。
「えっ…。あの…。何を仰っているのか…。」
アイリス王女が目を泳がせながら言いよどんだ。
明らかに怪しい…。
何かを知っているが言えない事を隠せないでいる。
「そーだ!そーだ!なに言ってるのか分からない!隠してる事なんてねーよ!」
アイリス王女に呼応するように女神ニナが騒ぎ出した。
・・・・・。
多分、こいつには知らされてないのだろう。
騒ぐ女神ニナを見ないようにと目をそらす王女アイリスの挙動不審っぷりは誰の目から見ても明らかだった。
師匠も馬鹿丸出しの女神ニナには目もくれず、チョロそうなアイリス王女だけを見据えていた。
「ニナ。ウッサイ…。ダマレ…。」
そして、頭の上で騒がれた女神ニコが指をバッテンにして女神ニナの口を塞ぐ。
女神ニコの様子はニコさんを幼くした…と、言うか一時期引きこもっていた時のニコさんっぽくて何となく可愛らしさと不安定さを感じさせるが、その目は何かを知っている様な目をしていた。
「残念女神は放っておくとして。俺も違和感を感じていた。さすがに二度目の魔王目撃報告とは言えお前ら余裕すぎるだろ?前回の事を考えても流石に引き伸ばしすぎだ。本来なら緊急で「王」に謁見が許されるはずなんだろ?今回はアーノルドの邪魔も無い。なら、今ここに「王」が居ないのは何故だ?俺達が未だに待合室でグダグダしているのはどうしてだ?この茶番が無ければ既に「王」を交えて対策を審議している頃だろう。納得の行く説明を聞かせてもらおうか。」
立ち上がるタイミングを失っていた俺も立ち上がって、首謀者であろうリンダさんにゆっくりと詰め寄った。
「仕方ありませんね…。こうなったらお話しましょう…。」
隠しきれない思ったのかリンダさんが眉間を押さえながらと観念した様に声をひねり出した。
「待って!リンダさん!それではアレに触れずにはいられないじゃないですか!?それでは神々と王の威信が損なわれます!!場合によっては種族間の抗争に発展する可能性だって!!」
リンダさんの言葉に慌てて王女アイリスが割って入った。
今回の引き伸ばしは魔王関連の何らかの情報。
そして、それに関係する王族の秘匿事項が関わっているらしい。
その情報を明かす事で、最悪の場合には種族間抗争に発展する。
それ程の情報だと言う事をアイリス王女の発言は示していた。
それは、同時にこの世界の平穏の為に俺達にはこの件に関して引いて欲しい。
今回は関わらないで欲しい。と、暗に伝えているかのようだった。
だが、俺達としては…。いや。俺は引き下がれない。
無事だと思うが、一人連れ去られた妙子ちゃんの事を思うと引き下がれなかった。
「分かった。だが、引き下がれない。こっちも妙子ちゃんを連れ去られて気持ちの余裕が無いからな。取引だ。俺達に関する秘匿事項に関して。既に知ってるかも知れないが、こっちもそれなりの秘密を明かそう。それを聞いて神や王の事情に釣り合うと思ったなら、そちらの情報も教えてくれ。お互いの立場をハッキリさせて協力関係を結ぶか決めれば良い。ある程度は知ってるんだろ?最悪の場合、俺達はそちらの思惑通りに動かないと言う手段に出る事も出来るって事を。」
つまり、この世界の事情に縛られない異世界人の俺達は、この世界の王や神と敵対する事も出来るとアイリス王女に伝えた。
半分はハッタリだ。だが、異世界から来た人間である俺達が、この世界のイザコザに付き合う義理は無い。最悪の場合は黒木の側に付いて異世界移動の方法を聞き出し元居た世界に帰れば良いだけだ。
もちろん。黒木と接触出来たとして、黒木から異世界移動の方法を聞いたとして、実行に移すのは容易ではないと言うのは黒木の行動からも分かる。
簡単に異世界移動が出来るなら黒木はダンジョンの地下十階で異世界移動の魔法を発動していただろうし、何千年前の戦いでもこの世界の神々なんて放っておいて黒木は黒木が元居た世界に戻れていただろう。
俺達がその知識を知り、その準備を全て終えて、この世界から俺達の居た元の世界に逃げ出すとしても何かしらの問題に突き当たる可能性が高い。
異世界移動の方法が不確かな状態で王や神と敵対するのは得策ではない。
ハッタリだ。
だが、最悪の場合はそうなっても仕方ないと覚悟して口に出した。
もちろん、アイリス王女やリンダさんを信用してのブラフ。
でも、師匠はその意図を汲んでくれているのだろう。
交渉が決裂した時にはすぐに逃げ出せるようにとニコさんやニナさん。そして呪々を密かに一ヶ所に集めてくれている。
「分かりました。情報の価値とハルト様が秘密を打ち明けて情報を裏付けする事で生じるリスクを加味して話せる範囲で話しましょう。言い損になる可能性も有りますが、それを覚悟でお話頂けますか?」
アイリス王女は、これまでにない真剣な目で俺を見据えた。
俺も無言で頷き応えて話し始める。
内容は簡単。こう伝えるだけだ。
「俺、妙子ちゃん、師匠、呪々は、この世界の住人ではない。魔王カルキノスが封印された世界で生まれ育った異世界人だ。魔王側に付いて異世界移動の方法を伝授されれば、お前達のイザコザなんて知ったこっちゃない。元の世界に戻って平和に暮らせる。ドンパチしたいならお前達だけで勝手にすればいい。まあ、俺達が魔王側に付けば、魔王を元居た世界に逃がす事でお前達がドンパチする相手を失うか、魔王と結託してお前達を叩き潰す事も可能だろうがな。」
確定させた。
俺達がこの世界の異物である事を。
女神が知っているんだ。
アイリス王女達が知っていないワケもないだろう。
重要度はそれほど高くないかも知れない。
だが、俺がこの賭けにベッド出来る情報はコレしかなかった。
魔王側に付くかも知れないと言うハッタリを加えて。
「え?異世界人ってなんですか?まったまたー!冗談が過ぎますよ!ハルト様!」
だが、返ってきた反応は俺の予想とは違うモノだった。
そんな事はあり得ないとばかりにケタケタと笑われてしまった。
いや!マジですから!ホントですから!
その反応の困惑した俺はリンダさんに視線を送り助けを求める。
「ハルト様。私もその情報は初耳です。もし、本当に異世界人だとしても…。もっと…。こう…。何と言うか生存環境も違うでしょうから異形の姿をしているのでは?腕は六本とか顔が三つ付いているとか? それに対してハルト様を始め皆様は私達と同じ姿をしており、同じ環境で生きておられます。それを素直に信じる事は…。」
アイリス王女よりはマシだったが、リンダさんもリンダさんで半信半疑以下。
全く信じないとは言わないが、信じられるには証拠が足りないと言いたげだった。
「ハッ!!もしや見えない部分に二本三本とアレが付いてるのでは!?」
「違います!!本数もカタチも同じだ!!この世界の男と同じだってのは確認済みだっての!!何度も言わせんな!!恥ずかしい!!」
なんだろう…。このやり取り。少し前にも話した気がするのだが…。
どうして、この世界の子はそっちに持って行きたがるのか…。
「え?何の事を言ってるのですか?ハルト様の見えない部分に一体何が?」
「アイリス様…。実は…。ゴニョゴニョゴニョ…。」
「なっ!!!そうなのですか!?そうなのですか!?私も小さな頃にお父様のを見ただけですけど、そうなのですか!?え?でも、先程ハルト様は他の殿方を同じなのは確認済みだって…。同じだったって言う事は…。ハッ!!つまり!つまり!!やっぱりハルト様はそう言うご趣味が!?やっぱり!?」
「体も普通なら、そう言う趣味も無い!!いい加減にしろよ!!お前ら!!!」
リンダさんが何を話して、アイリス王女がどこまで妄想を到達させたのかは分からないが敢えて聞かないでおこう。そう。聞かないでおこう。
それよりもだ。
「俺達が異世界人だって証拠が必要ならそこの女神が証言してくれるだろう。下らない妄想をする前に答えを聞かせろ。さっきも言ったが俺達にはお前達に捕らわれずに行動すると言う選択肢が有る。お前達の事情なんて放っておいて黒木…じゃなかった。魔王に協力してアイツの望み通りアイツが元居た世界に戻るの手伝った方が俺達にとっても、この世界にとっても都合が良い事なんじゃないか?俺達がどう行動するにも、そっちの事情に関する情報が足りない。お前達勝者側が言う様に「太古の魔王の物語」が伝えるように、魔王が悪の権化だと言うなら、魔王自らこの世界を離れて元の世界に戻るって言ってるんだから万々歳じゃないか? 魔王が元の世界に戻りたいってのはお前達も知っているんだろ? なぜ、引き止めて攻撃しないといけない? お前達の行動には一連性も合理性も無いんだよ。その辺りも含めてちゃんと説明しろ。変な妄想をする前にな。」
と、言いつつも。
そこまで話せと言う約束ではない事は分かっていた。
約束では王女たちは引き延ばそうとしている理由だけ話せば良い。
だが、このドタバタと混乱しているのに乗じて全部ゲロってもらおうと、多少多めに吹っかけた感じだ。
それに、必要以上の事も聞く事でハードルを上げて、後から少しハードルを下げた話題を振る事で人間は口が軽くなるものである。
そう言う効果も期待して俺はアイリス王女を問いただした。
しかし、答えは思わぬ方向から飛んできたのだ。
困ったアイリス王女が女神ニナと女神ニコに視線を送る。
それは俺達が異世界人だと言う確認をしたかったのかも知れない。
もしくは、どこまで話して良いのかと言う確認をしたかったのかも知れない。
だが、女神ニナは誰に気兼ねするでも無く自ら話し始めた。
「良いわよ。その子達が異世界人だってのも本当だし。あなた達はやらないでしょうけど、迫害されたり実験体にされる可能性とかの危険を承知で自ら告白したんだから、教えてあげれば良いわよ。それとなく真実を織り交ぜ、本当に触れられたくない部分は下手な嘘とかつかずに黙れば良いだけ。万が一、ポロリしちゃってもワードサーチで核心部分の禁則事項は私達の声でさえ音にならずに掻き消されるんだから。その辺りは気にしなくても大丈夫だし。パパが身勝手にこの世界を捨てて元の世界に戻るってのを止めて、私達と一緒にずっと幸せに過ごして欲しいって部分を上手く誤魔化してくれれば問題ないわよ。」
そう、言い終わると良きに計らえと言わんばかりに持っていた羽根扇で口元を隠して「オォォォホッホッホッ」とイラっとくる高笑いをする。
この残念な女神がそう言う性格で隠し事が出来ない性格っぽいのは分かっていたが、正面から「言えない事は言わなければ良いのよ!」と、交渉相手の前で言い放つ馬鹿さ加減には少し呆れてしまう…。
「はぁ…。そうですか…。じゃあ、そうしますけど…。」
ほら見ろ…。
好き勝手言って肝心な部分を丸投げされたアイリス王女が困っているじゃないか。
「お前なー。つくづく残念な女神だな。交渉相手の前でそんな本音をぶち撒けられちゃアイリス王女やリンダさんもやりにくいだろ?大体、なんだ?パパと一緒に居たいから元の世界に戻さないって。お前は子供か!!!」
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何も考えてない呪々を除く、その場に居た全ての者の空気が凍りついた。
「アッ。モウイラナイオモテ、リソース確保デ、ワードサーチ系キッテキタ。」
「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
あまりの恥ずかしさに赤面して女神ニナが転がりまわる。
何千年も王家の秘匿事項として、このくっだらない理由を隠し続けてきた王家代表のアイリス王女はフラフラと倒れて気を失った。
リンダさんはそれを見て取り乱し衛生兵を大声で呼ぶ始末。
この世界の住人であるニコさんとニナさんは床を叩きながら大笑い。
俺達、異世界人はその阿鼻叫喚を見ながら呆れるしかなかった。
いや。呪々だけは相変わらず嬉しそうにお菓子を頬張っている。
この際、どうでも良いけど。
期せずして知る事になった何千年前に繰り広げられた大乱戦の真相。
世界を巻き込んだ「太古の魔王」との戦い。
それが、実にどうでも良い理由から巻き起こされた事を。
本人達にとっては大事な事だったのだろう。
だが、俺達にとっても。この世界の住人の大半がどうでも良いと思うだろう理由。
些細な問題が発端であっただろうと容易に想像出来る原因を俺達が取り除かないと言う予感…。いや。確信をしつつも、今は転げ回る女神をただ見つめる事しか出来なかった。
はい。どうも。となりの新兵ちゃんです。
連休が終わってしまいますね…。憂鬱です。
病院通いも一週間で終わり、連休前はバタバタし、連休中も帰ってきた友人の相手をしたりと忙しく、今週もアップ出来ないんじゃないかと諦めかけましたが、何とか連休中にアップする事が出来ました。
欲を言えばもう少しノンビリしたかった…。
どうにも、其之五で取り敢えずは〆るつもりで書いているのでキータッチが重いと言うか、配分が上手く行かないと言うか、今回はプロローグからずっと難産です。連休中も合間をみてはメモっていたのですがまとまらないと言うね。
この後、ハルト達はイザコザを解決する為に奔走するのでしょうが、もう少し引っ張っておくべきだったのでは無いかと思いつつも、いくつか走り書きした展開を入れていく事を考えると敵対理由をここで出しておくべきなのかなっと言う判断をしたのですが…。あと八話分。引っ張れるのだろうか…。
いや。正直、まだ序盤だと言うのに敵対理由をここで出しちゃって良かったのか…。
出したとしても次話だろうとも思ったのですが、出してしまいました。
そして、ここに来てまた新キャラの投入。
予定の範囲内ですけど女神ニコさん。
活躍の機会がいっぱい有るかは分かりませんが、大事な場面を担って欲しいと思っています。
キャラ的にはダークでコミュ障な感じで、女神的な部分ではデバフで相手に嫌がらせをしたり、索敵など補助的な役割を担う神様と言ったイメージ。
上手く使えるかは分かりませんが頑張って使っていければ…。
あと、そろそろサブキャラも出してあげたい所なのですが。
そんな伏線有った気がするけど、ここでいきなり?と言う感じの展開しか思いつかずに、自分の未熟さにガックリくる毎日です(´・ω・`)
うん。ちょっとあとがきなのに長いですね。
愚痴ってないで一休みして続きを考えます。
投稿当日に読まれた方は、カレンダー通りならお休みが取れていれば連休もあと一日。
有意義な休日をお楽しみ下さい。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




