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其之五|第一章|基本、魔王は脇が甘い

「ほら。強情にならずに素直に口を開けてごらん。」


 そう言うと黒木は私の口にそれを優しく押し付けてきた。

 濃厚な香りを放つソレが私の本能を刺激して言いなりになってしまいそうになる。


「クッ…。」


 口が歪む。

 受け入れると歯止めが効かなくなってしまう。

 そう感じた私は受け入れまいと口を固く結んだ。


 私も年頃の女の子だ。

 黒くテカるソレに興味が無い事はない。

 でも、いきなり私を連れ去った黒木のソレを受け入れる事など出来なかった。


「もうたまらないんだろ?不安を感じなくても良いさ。こんな状況だ。不安に思うのも分からなくもないが本能のままに受け入れればいい。」


 私の本心を見抜くかの様に優しく頭を撫でながら黒木は更にソレを押し付けた。


 甘い香りが私の鼻腔を刺激する。

 これは黒木の持つ香りなのだろうか。

 下腹部が熱くなり身体が受け入れようと準備を初めている。


 音が鳴った。


 粘る様な音が私の下腹部から鳴って恥ずかしさに赤面する。

 あぁ…。私はなんて浅ましいのだろう。

 ハルトさんを自殺に追い詰めた男。

 黒木は明確な敵だと言うのに押し付けられるニオイを嗅ぐ度に抵抗できなくなる。

 甘くて香ばしい香りに脳がとろけそうだ。


「ほら。一度受け入れれば自らもっと欲しいとおねだりする事になる。さあ、口を開けて受け入れるんだ。何も恥ずかしくはない。それは人間の本能なのだから。」


 黒木は優しく私の顎に左手を添えると少し力を入れて口を無理やり開かせた。


「…ぅぁ」


 口に溜まった唾液が溢れ出して唇から溢れ出す。


 それを見た黒木が満足そうにニヤリとすると、右手に持った黒くテカるソレを私の口に突き刺した。


 だめ…。

 もう耐えられない。

 私…。欲しい。凄く欲しくなってる。


 私も女だ…。

 その前に普通の人間なのだ…。

 師匠さんやハルトさんの様なバケモノ級の魔法使いでもない…。


 どんなに抵抗しようとも限界が有った。


 女として元来持っている欲望。

 人間としての生への執着心。


 黒木が突きつけるソレに抵抗できずにソレを受け入れてしまった。


「パクッ…。」


 口いっぱいに広がる香りに脳が蕩けそうになる。

 甘く、苦く、香ばしい。

 その香りが私の体中に広がり鼻から抜けた。

 縛られた身体をよじらせて身悶える。


「もっと…もっと欲しい…。」


 私は黒木に差し出されたソレを何度も何度も受け入れてしまった…。


 それは屈辱。

 貪り食う様に口に充てがわれるソレをくわえ込む。

 浅ましくソレを貪る自分に恥ずかしいと言う気持ちで張り裂けそうになる。


 でも、ソレが無くなるまで私は自分を止める事が出来なかった…。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ほら。大丈夫だっただろ?」


 私の惚けた表情に満足したのか黒木が優しい笑みを妙子に向ける。


「本当に…凄かったです。こんなの初めてで…。」


 その優しい笑みに気を許してしまったのか本音がポロリとこぼれ落ちた。


「俺の腕もまだまだ健在と言うワケだ。」


 そう言うと黒木は私に子供の様な笑顔を向けた。


 私には、この「黒木」という人…

 いや。魔王カルキノスがどう言う存在なのか分からない。


 ただ、ハルトさんには無い強引な所は有っても、その笑顔は何となく憎めない気がした。


 そしてあの…。

 無理やり食べさせられたエクレア…。

 ヤバイくらい絶品だったのだ。


 お腹が鳴るくらい腹ペコだったとは言え、それを差し引いても私の短い人生史上で最高のエクレアだったと言っても過言ではないと思う。


「えー!?ソレって黒木さんの手作りだったんですか!?どっか行ったと思ったら大量のエクレア持って帰ってきたから買ってきたのかと思ってましたよ!?」


 何故、エクレアだったのかは謎だけど。

 口ぶりからすると黒木の手作りらしい…。


 悪い人じゃなさそうだけど、機嫌を損ねるよりも上機嫌で居てくれた方が色々と聞き出せるかも知れない思った私は大袈裟に驚いて見せた。


「その通り!俺の手作りだ。向こうの世界でケーキやら洋菓子にハマった時期があってな。その中でも好物のエクレアは誰にも負けない自信が有る!俺の分まで食べられてしまうとは思って無かったけどな!はっはっは!」


 いや。どうしよう…。

 上機嫌でいてくれるなら、それに越した事はないのだけど…。

 思った以上にチョロそうで反応に困ってしまう。


 でも、チョロいならチョロいで聞き出せる事は聞き出してしまおう。

 状況やら関係性が分からないと何かするにも方針が決められない。

 私を甘く見てくれているなら好都合。

 少しずつ崩していこうと軽い話題を振ってみた。


「へー。ハルトさんもそうだけど、ハルトさんの周りの男の人ってなぜか料理が上手なんですよねー。あ。でも、黒木さんはお菓子専門とかですか?いくらお腹減ってても初見でエクレアをドーンって持ってくるのはどうなんだろうって感じで少し引いたんですけどー?」


 まあ、この程度の態度はジャブにもならないと思う。

 黒木も黒木で小娘と油断しているだろうし。

 向こうの世界で過ごしていたと言う事は、偏見報道で映し出されるいわゆる(・・・・)「JK」のイメージは持っているだろうから気安い感じで話した方が違和感を持たれにくい気がした。


「いやいや。女の子はお菓子が好きだろう?気持ちを落ち着かせるにも甘い物は効果的だ。まさか、全部食べられるとは思って無かったがな!はっはっは!ちなみに!晴人が料理上手なのは師匠が良いからだぞ?俺が手取り足取り教えてやったからな!」


 そう言うと弟子を褒められて喜ぶ師匠の様に満面の笑みでシンクの様な所に向かいエクレアがのっていた皿を放り込むとコーヒーを淹れ始めた。


「コーヒーで良いか?と、言っても紅茶が手にはいらなかったからコーヒー以外なら水しかないのだが…。」


「コーヒーで大丈夫です。って言うか聞く前に淹れ始めてたじゃないですかー。」


 (笑)的なニュアンスを含ませながら受け答えると、思春期の娘に声をかけても無視されなかった人生半ばを過ぎたお父さんの様な表情で嬉しそうに黒木はコーヒーとクッキーの用意を続けた。


 さっきも思ったけど、この黒木は本当に魔王なんだろうか?


 女の子はお菓子が好きだろうと言う固定観念。

 いや…。まあ…。好きですけど…。


 お父さんと言うか…。

 お爺ちゃんお婆ちゃんの家に行った時みたいな感じがする。


 何と言うか山盛りのお菓子を勧めてきて、「ジュース飲むか?オレンジが良いか?コーラか?もっと食え!もっと食え!」みたいな?


 何とも言えないゴリ押し感。


 挙げ句の果てに孫の為に買っておいたジュースの分だけコップを出して、ジュースを全種類コップに入れちゃうみたいな?


 この黒木にはそんな雰囲気を感じずにはいられない。


 初手でエクレア山盛りを無理矢理に押し付けてくきたのもそうだ。

 孫との距離感を測れないジイちゃんそのものと言っても過言じゃない。


 あと、感じたのは脇の甘さだ。


 ダンジョンでは腐女子がどうとか言って嫌っていた感じなのに、腐女子を前にして「ハルトさんに手取り足取り」とか言うパワーワードを放り込んでくる。


 何だろう?

 この脇の甘さは。

 誘い受けとしか思えない。


 そんな餌には釣られないクマーと華麗にスルーを決め込んだけど、冷静に考えてもハルトさんとのBL的な関係を弄って欲しいのではないかと言わんばかりの口ぶりに流石の私も若干引いてしまう。


 色々とやらかして私達の元々居た世界に飛ばされたと言う話だったけど…。

 この人がそこまでの仕打ちをされる様な大事をやらかしてしまったのか?

 少し信じ難かった。


 いや…。別の方面で何かしらやらかしてそうなニオイはプンプンするけど…。


 って、言うか異世界送りなどにしなくてもキツイお仕置き程度で済みそうな?

 何と言うか小者臭(こものしゅう)がプンプンする。


 黒木から臭うチョロさをヒシヒシと感じた私はBLネタで弄りたいのを我慢して、コーヒーを淹れ戻ってきた黒木にズバリ聞いてみた。


「で?黒木さんは何をやらかして私達が居た世界に飛ばされたんですか?まずはそこから説明してもらいましょうか。」


 自分で言っておいてアレなんだけど、何様だと。

 ただ、ハルトさんとこれまで付き合ってきた経験と、黒木から感じる雰囲気から、この程度の態度は許容範囲だと判断した。


 その証拠にカップに淹れたコーヒーを私に差し出すと向かいに座ってにこやかに話し始めた。


「いやいや。肝の座った子だな。本来なら他に言う事が有るんじゃないのか?人質なんだし「私をどうするつもりなの!?」とか「早く開放しないさいよ!」とか。無駄に取り乱したりせずに俺の事情を聞きたがるとか…。なるほど。晴人が側に置きたがるワケだ。」


 微妙に話を逸らそうとしているのが透けて見える。

 いや。わざとそう見せて私を試している気がした。

 チョロそうだと思ったけど、実は一筋縄ではいかない相手なのかも知れない。


 正直、私の知らないハルトさんの話も聞いてみたいけど。

 側に置いておきたいってどう言う意味で!?と、聞いてみたい気もするけど。

 それはもう少し後の話だ。


 こうしている間にもハルトさん達は女神サイドとして動き出していると思う。


 でも、ハルトさんならこう考えるはず。

 一方向からだけの言い分を聞いて全てを鵜呑みにはしないと。


 だったら、こちらの言い分を聞いておくのが今の私に出来る精一杯だ。

 そうする事で合流した時に無駄な時間を使わずにハルトさんの判断材料が増える。

 ハルトさんが聞く事で、黒木が言い出せない様な事も聞き出せるかも知れない。


 実は手強い相手かも知れないと感じつつも、私はもう一度覚悟を決めて切り込んだ。


「はいはい。そう言うのは良いですから。質問の意図は分かっていますよね?やめませんか?過剰におどけて見せて安心させたりとか、猫を被って油断を誘おうとか。お互い無駄っぽい気がするんですよね。ついでに私達の世界で犯した罪も置いておくとしましょう。聞いてもドン引きするだけでしょうから。今を解決する為に黒木さん側の言い分や経緯を聞いて判断材料を増やさないと私達も問題解決に協力出来ないと思うんですよ。ヤル気ならヤレるだけの能力を持っているんですよね?黒木さんは。でも、それを現段階でしないって事はヤル気は無いって事ですよね?だったら、事情を理解する事で私達が間を取り持てるかも知れませんよ?」


 私が言い切ると黒木は「フム…。」と短くつぶやき「考えるポーズ」をした。


 それは正に考えるポーズ。相手に対する礼儀として考えているフリをしているのだと言う事が答えを聞かなくても分かる。


 そりゃそうだろうとクチに出した私でも思う。


 誰かが介在する事で問題解決出来る程度の話なら、ここまで(こじ)れる事はなかっただろう。


 ただ。私達はどこまで行っても、この世界では余所者だ。

 いくら馴染もうが、何年この世界が生きようが、どこまで行っても余所者。


 これからの事に関しては多少関わる事も有るだろうけど、過去の事に関しては第三者の目線で話が出来る。そこには思い入れも偏見もない。当事者同士だけで話すよりも解決に近づくはずだ。


 私達に、両者が認める程度の能力や武力。もしくは交渉能力が有ればの話だけど。


「まあ、良い。話せる範囲なら話しておいても問題は無いだろう。エクレアを作りながらワールドレコードを検索した感じだと俺に関する情報は抹消されているみたいだし、当事者しか知らない核心部分に触れなければワードサーチにも引っかからないだろう。問題は自然交配のマルチキメラか…。アレがどの様な機能を持っているのか…。いや。アレで引っかからなかったなら問題ないのか…。ブツブツ…。」


 反応は悪くなかった。

 少なくとも黒木に関しては話す用意は有るっぽい。


 ただ、ハルトさんの元親友?だけあってか、考え込むと周りを忘れて一人の世界に入ってしまうタイプらしくブツブツを独り言を始めて思考に埋没ていった。


「取り敢えず。話してくれるって事で良いですか?謎ワードを残して一人で考え込まれても困るんですけどー?ワールドレコードやらワードサーチやら。想像は出来ますけど説明しながら一緒に考えてくれます?」


 まあ、こう言う時の対処法はハルトさんで心得ている。

 背中をバン!と叩いて こちらの世界に引き戻し、適切な会話をしてあげれば良い。

 考えているのに邪魔じゃないだろうかと遠慮して放置するのが一番ダメな対処法だ。


 特に時間が無い時には土足で家に上がり込むくらいの気持ちで接しないと、時間を無駄に消費するだけで結局は答えなんて出なかったと言う悲しい結末が待っているのだ。


「ぅお。すまない。説明するとワールドレコードと言うのはアレだな。この世界のアーカイブだ。特殊な権限が無いとアクセスすら出来ないが、アイツは俺に甘いからな。サブアカウントを残してくれていたようだ。ワードサーチはアレだ。さっき俺が核心部分に触れたらニナが飛んできただろ。一定のワード検閲を世界規模に張り巡らされていて、設定された秘匿事項が発せられると警報が発令されて管理者が飛んでくると言う仕組みだ。ここを含めた俺のセーフハウスは多次元位相構造になっていて世界に存在しつつ位相次元内に存在するからワードサーチの範囲外だと思うのだが、ワールドセーフティ関連の項目は権限の範囲外で確認する事が出来ない。万が一の事を考えると安易に核心部分に触れられない状態だと理解してくれ。有効範囲として捉えられているならダンジョンの二の舞になるからな。」


 なるほど。長々と説明してもらってアレだけど。

 つまり、こう言う事らしい。


「ベース認証とシステムのログインアカウントでログにはアクセス出来るけど、管理者権限が無いからセキュリティ設定にはアクセス出来ずに、NGワードの設定は確認出来ないから下手な事を言うとフィルタリングに引っかかりGM(ゲームマスター)が飛んでくるぞって状態なんですね?」


「おっ…おう…。そのとおりだ。」


 エクセレント!!

 長々と続いたオジさんの説明を半分以下で要約してやった!!

 ハルトさんもそうだけど、オジさんは変に考えすぎて説明が長いのがいけない。

 まあ、それは置いておくとして。

 つまりそう言う事らしい。


「と、なると。事情を説明しようにも話せないって事か…。もちろん書く事も?」


「そうだな。書けるなら既に書き始めているだろ?」


 それは分かっていたけど確認だ。

 思い込みや決めつけで行動しているとイザと言う時に痛い目に遭う。


 でも、困った…。

 話せない。書けない。と、なると事情を理解しようにも手段がない。


 魔王に関する文献が無いとか、異世界転移に関する資料が無いとかハルトさんが言っていたけど、きっとこのワードサーチによって女神ニナとか管理者?が、魔王関連の資料を抹消していったのだろう。


 結果、魔王は悪者と言う勝利者の言い分だけが残ったと…。


 歴史だけじゃなくて物語や歌とかの情報は、勝者やそれに寄生する者によって捻じ曲げられるのは知っていたけど、ここまで徹底的に世界の根幹から制限されたんじゃ生き証人って言うか当事者と言うか元凶が目の前にしてもどうにもならない。


 話す。書く。

 それ以外に伝えてもらう方法は無いのかな…。

 話せるだろう範囲で、これまでに何が有って、今に至るのかを説明する方法…。

 何か神様の強いたシステムに感知されずに聞き出せないものだろうか…。


 ふと思いついた。

 聞けば良いのではないかと。


 いやいや。チョット待って妙子。まだ焦る時間じゃないわよ。

 落ち着くの。落ち着くのよ。妙子。


 私は全てを知っているワケじゃない。

 質問の中で地雷を踏み抜く可能性は有る。

 踏み抜いたら最後だ。

 ダンジョンでの出来事の再現だ。

 ダンジョン地下十階と言う広い空間と師匠さんやハルトさんが居たから助かった。

 必死で防いでくれたから大きなダメージも無くこうしている。


 でも、ぱっと見た感じ2LDKの閉鎖空間でアレが再現されたとしたら…。

 黒木が私を守ってくれたとしても無事で居られるだろうか?


 怖かった。

 そう。それは純粋な恐怖だった。

 ちょっと魔法の才能が有るからと浮かれていた。

 でも、私は何も出来なかった。


 ハルトさんを。

 師匠さんを。

 呪々を。


 ニナさんを。

 ニコさんを。


 そして、自分自身すら。


 守る事も。

 防ぐ事も。

 逃げ出そうとも出来なかった。


 万が一の事が有った時に私は生きているのだろうか。

 もう、ハルトさんには会えないんじゃないだろうか。

 色々な不安が込み上げてきた。


「最悪の場合、私を連れて追跡されずに逃げ出せる準備はしていますか?」


 でも、前を向いた。

 問題を解決するには原因が分からないとどうにもならない。


 黒木は仮にも魔王と呼ばれた存在だ。

 万が一に場合にはさっきみたいに逃げおおせるだろう。

 それはさっき私を連れながらもやって見せた。

 全てを信じる事は出来なくても、その一点は信じても良い。


 黒木の目を真っ直ぐ見据えて聞いた。


「大丈夫だ。逃走経路から妨害工作まで準備は万全。何か有れば無事に逃げ出して他のセーフハウスに移る。その用意が有ってこそのセーフハウスだ。その点に関しては信用してくれて良いだろう。この世界に「太古の魔王の物語」として伝えられている最後の決戦の話の時だって、場所を特定されて攻め込まれたワケじゃない。色々あって呼び出しに応じてしまったのが失敗だっただけで。こちらからワザワザ位置を発信しなければ見つかる事もないだろう。だから、使い魔が準備を整えるまで何もしないと言うのも一つの手だが…。例え問題が解決しなくともお前達が納得する為に必要だと言うなら付き合ってやっても良いだろう…。」


 いやいや。あなたの問題でしょ?なぜ上から目線?って感じなんだけど。

 他人事の様に協力してやっても良いと言うワリには、期待を込めた視線を送ってくる黒木を見て、土下座して許しを請い自らお願いするくらいネチネチと言葉で責め立てようかとも思ったけど、責め立てる材料も少ないし、何よりも時間が勿体無いから、グッとこらえて一回頷き早速聞く(・・)事にした。


「オーケー。女神ニナが飛んでくるにもタイムラグが有るみたいだし、何かあった時には無駄な抵抗はせずに逃げ出しましょう。私の推測が正しければ言語や文字などに含まれる特定のワードだけが問題なんだと思います。そのワードを避けて私が質問をするので、正解なら首を縦に。間違っているなら横に振って下さい。答えられそうに無い事や説明が必要な時には詳細は言わなくて良いので「答えられない。」や「説明が必要だ。」など教えて下さい。話せそうな内容なら、そう告げた上で私の了承の後に補足説明などをお願いします。良いでしょうか?」


 私が黒木に確認を取ると首を縦に振り理解していると言う意思表示を示した。


「ありがとうございます。じゃあ、黒木さんがダンジョンでハルトさんに吐露(とろ)していた話。掻き消されたアレですね。あの掻き消されなかった部分から推測して質問をします。でも、まずは事前確認。アレだけの長話を部分的に掻き消すとなるとリアルタイムでは難しいと思います。それに長い話の中には関連性の薄い様な普通の単語も含まれていたのではないかと。つまり、前後の文脈を含めて検閲され関連性の高い場合に掻き消され警報が発令される。もしくは、それに準ずるシステムで検閲されていると考えて良いですか?」


 黒木は縦に首を振った。


 思った通りだ。


 私もボンヤリとしか覚えてないけど、黒木の話の中で掻き消された部分には明らかに人名や行動など、普通の生活でも使うだろう単語が消されているっぽい部分が有ったように思えた。


 例えば「ハルトさんは引きこもる為にダンジョンを建設した。」と言う情報を、ハルトさんが知られたくなくてフィルタリングするとしたら「■■■さんは■■■■る為に■■■■■を■■した。」って感じで掻き消される事になるだろう。


 ハルトさんと言う人名、ダンジョンと言う場所の名前、建設と言うありふれた単語。

 これらが文字列としてNGワード設定され、全てが掻き消されていては、日常生活に支障が出るどころの話ではない。


 私が「ハルトさん!」と普通に名前を呼んで掻き消されたら?

 私達が住む街で日常的に使われる「ダンジョン」言う単語が聞こえなくなったら?

 世界中で「建設」と言う単語が規制されたら?

 誰もが何か変だと考えるだろう。

 それでは意味がない。


 その単語を言う度に掻き消されるのだ。

 気にならない訳がない。

 気になったら調べたくなるのが人間だ。

 他にも消される単語は無いかと探し始める。


 消された単語を言った本人は何を言ったのか分かっているのだ。

 適当に単語を言って行けば、何が発音出来ないのかなんて容易に調べられる。

 それを集めて並べ替えれば遅かれ早かれ何かの秘密に辿り着くだろう。

 それでは神々の秘密を隠すのには役に立たない。


 黒木はダンジョンで長々と私達に話した。


 その話の長さと、話の内容が半分以上が掻き消された事実を踏まえて考えると、その中には日常的に使う単語や一般的な言葉が含まれていた事は想像出来る。


 でも、私達は日常生活で黒木が神々の秘密について話そうとして掻き消された様な異変を感じた事は無かった。


 少なくとも単語単位でNGワード設定がされていないのは確実だろう。

 MMOとかで下品な発言をする子の対策とはワケが違うのだ。


 MMOのように困ったユーザーが「おちんちん!おちんちん!」と言って周りに不快感を撒き散らすからと言って「おちんちん」と言う文字列をNGワード設定して「■■■■■!」と置換されたテキストを出力させれば良いと言うのとは次元が違う。


 どんな仕組みかは分からないけど、黒木の説明が無いと言う事は私の推測と実際のシステムとの差はそんなに無いと言う事なのだと思う。


 プロセスとしてはこんな感じかな?


 キーワードが発言されたりすると検閲が開始される。

 前後の発言をログとリアルタイムで検証して秘匿事項との近似性を検証。

 問題が無ければそのまま何も無く出力される。

 秘匿事項と合致する割合が一定以上なら声は掻き消される。

 その後、掻き消され編集された音声が違和感無く再生される。

 私達の認識上では連続性を持って普通に話しているかのように。


 大体、そんな感じなんだろう。


 それをどうやって実装しているのかは分からない。


 時間の巻き戻しからのカットイン?

 実際には時間を操作する事は出来ない思う。

 それが出来るなら過去に戻って黒木と言う根本を絶てば良い。

 極端な話。時間が巻き戻せるなら黒木が現れた時点まで巻き戻して抹殺すれば良い。

 その事から神様も時間を操作する事は出来ないのだろう。


 記憶の改ざん?

 記憶操作と言う可能性も考えたけど違うと思う。

 記憶操作が出来るなら全ての記憶を消せば良い。

 消せるなら私が今も女神ニナがニコちゃんに降りたのを覚えているのは変な話だ。


 黒木を捕まえたり抹殺した後に、女神ニナが現れた記憶やら関連情報を全て記憶から消せば、今頃は黒木が現れた事も忘れて何事も無かったかのように日常を過ごしていただろう。


 そう言えば、人間に危害は加えられない的な事も話してたっけ。

 神様も人間に直接何かを出来るワケじゃないのかも知れない。


 その方法は分からない。

 けど、私達が認識出来ない方法で何かしらの操作がされているのだと思う。

 取り敢えず、分からない事を考えていても仕方ない。


 何をどうすれば違和感なく発言に介入出来るのかが気にならないかと聞かれれば気になるし、自動でプログラム的にだとは思うけど会話の内容を検閲されていると言う事実に気持ち悪さを感じないかと聞かれれば気持ち悪い。


 ただ。今はそれを、この世界の神様にボヤいている場合じゃない。

 文句なら後でたっぷりと言ってやろう。


 今、大事なのは関連性や連続性が無ければ問題ないと言う事実だけ。


 私がNGワードに気をつけて黒木に問いかけ、検閲されるであろう言葉や文字ではなく黒木にはジェスチャーで解答させる事で原因を知り問題解決に繋げられるかも知れないって可能性が有ると言う事実だけが重要なのだ。


 気を取り直して私は黒木を尋問する事にした。


「じゃあ、まずは…。「若かった」とか「男だから仕方がない」って言ってましたけど、問題の根本って若気の至り的な何かなんですか?」


 私は質問を繰り返した。

 あの時、黒木が話した言葉を思い出しながら。


 私は質問を繰り返した。

 想像力をフル回転させ、細かく刻まれたピースを組み合わせて。


 そして、知る事になる。


 世界を巻き込んだ「太古の魔王」との戦い。

 それが、実にどうでも良い理由から巻き起こされた事を。


 本人達にとってはとても大事で、私達にとってはとてもどうでも良い。

 些細な問題が発端であった事を。


どうも。となりの新兵ちゃんです。

と、言う事で「其之五」のスタートです。

書き上げた後に寝落ちしてしまって投稿時間が遅くなりましたが…。


プロローグから意味不明ですね…。神様なんてのは支配者層が都合良く利用してき、異世界でもそれは同じなんだよ的な内容を書きたかったんですけど…。まあ、とっ散らかってるのはいつもの事なので見逃して下さい。


本編も何か最初の方がアレで最後の方もアレですけど…。


最初の方のアレは、黒木さんと言うキャラ考えていた時に何となくメモっていたのを採用したのですけど。思ったほど…アレではないですね…。


最後の方のアレは、ここで妙子ちゃんに色々と聞かせて、ある程度の内容を出そうかとも思っていたのですが、先の事を考えるとお話の最後までもたないと考えてモノローグで締める事になってしまいました。


次話以降で徐々に小出しにして行くと思います。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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