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其之四|第終章|エピローグ

 何もする事が出来なかった。

 為す術無く妙子ちゃんを連れ去られた俺達はその場を動けずにいた。


 思考停止。


 トラブルが発生した時に何もしない。

 それが悪手だと言う事は分かっている。


 何をすれば良いのか分からなくなり何も出来ない。

 それが悪手だと言う事は分かっている。


 だが、俺達は動けずにいた。


「大丈夫だって!!まさにぃは約束を守る男だから!!妙子はちゃんと帰ってくるって!!無事に帰すって言ってたでしょ!?だから大丈夫だから!!」


 自分がダンジョンに行きたいと言ったから。

 その責任を感じているのか。


 自分は何も出来なかった。

 その不甲斐なさを感じているのか。


 呪々が努めて明るく振る舞いながら声を上げた。


「チヨ。少し黙っておれ。気持ちは分かる。お主の発言も理解できる。だが、今は少し静かにしておいてくれ。頼む。」


 師匠にとっても黒木に対して何も出来なかったのは痛恨の極みだったのだろう。

 静かに告げるとゆっくり目を閉じた。


「俺も黒木とは色々あったが言った事を守らない様なヤツじゃないって事は知っている。今は考える時間が必要なだけだ。ありがとう。呪々。」


 俺がそう言い聞かせると呪々は力なく笑顔を作った。

 まだ、彼女の事は理解できていない。

 だが、今の彼女にとって精一杯の気遣いなのだろう。


 黒木は言った約束を守らないヤツじゃない。

 だが、言わなかった事をしないヤツでもない。

 俺の時がそうだった。


 黒木は俺を裏切ったワケではない。

 ただ、言わなかっただけだ。

 言わずに自分の信念の下で行動を起こしただけだ。

 あの世界で魔力を得るために。


 俺は知らずに黒木の全てを信じようとして傷ついた。

 それは裏切りと言えなくもない。

 だが、黒木からすれば言わなかっただけ。


 今回もそうだ。

 妙子ちゃんを無事に帰すとは言った。

 だが、それ以外は言わなかった。


 それが何を示すのか。

 今の俺には黒木の全てを呪々の様に信じる事は出来なかった。


 静寂の中で女神ニナが床に拳を打ち付ける音だけが響く。

 人の身では何も出来なかったニナさんがその様子を悔しそうに見ている。


 仕方ないよ。ニナさん。


 声を掛けようとしたが、その声が俺の体から発せられる事はなかった。


 そう言えるだけの気力が全く無かった。


 魔王に女神。


 今、こうやって五体満足で無事なのは奇跡だと言っても良いだろう。

 両者とも本気でやり合う気が無かったとは言え腐っても魔王と神だ。

 やり合えば何かしらの被害が出ただろう。

 だが、何の被害も無い。

 それは幸運だったと言える。


 だから、余計に自分達の不甲斐なさを痛感していた。

 一番大切な人だと自覚した直後にその人を守る事も出来なかったのだ。

 もう、笑うしかない。


 笑えるはずもなかった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 叫んだ。

 全てを吐き出すかの様に。


 呪々が駆け寄ろうとしたが、師匠がそれを止めて首を横に振る。


 情けなかった。

 悔しかった。


 この世界でも。

 人より優れた魔法を身に着けた俺でも。


 大切な人を連れ去られた。

 大切な人を守れなかった。


 あの時の様に。

 あの時、守りたかった人を奪われた時の様に。


 あの時とは状況が違う。

 きっと妙子ちゃんは無事に帰ってくるだろう。


 だが、妙子ちゃんを易々(やすやす)と連れ去られた事実が俺の身を引き裂く。


 何時間経っただろうか。

 いや。多分 一時間も経っていないだろう。

 数分も経っていないかも知れない。


 長く、長く感じる静寂の中で声を発したのは女神ニナだった。


「しゃーない。こうしていてもしゃーないわ!」


 散々、醜態を晒したからだろうか。

 残念な女神は猫を被るのを止めたらしい。


 これが本当の私だ!文句あるか!!


 と、言わんばかりに開き直りあぐらをかいてドシっと座ると声を上げた。


「どうしろってんだよ…。お前じゃどうにもならなかっただろ。」


 分かりきった事を言う女神ニナに悪態をついた。


 分かっている。

 このままじゃどうにもならないと。


 分かっている。

 女神ニナが悪いのではないと。


 残念だ。残念だ。と言っても今回の事は彼女の責任ではない。


 分かっているが、そう言わなければ俺が…。


「良いわよ。良いわよ。全て吐き出しなさい。誰かの責任にしないと自分を保てない時も有るわ。誰にもぶつけるられない感情を自分の中に抑え込んで拗らせるより全然良いわよ。恨まれるのも私達のお仕事なんだから好きなだけ恨みなさい。」


 そう言うと俺の頭を撫でた。

 俺が妙子ちゃんの頭を撫でるように。


「全てを吐き出したら動くわよ。さっきも言ったわよね。私は少し背中を押す事しか出来ない。あなた達が神と呼ぶ私達はちょっとした手助けしか出来ないのよ。気が付かれず事も無く寄り添うことしか出来ない。私達は本来そう言う存在なの。手助け(・・・)は出来ても行う(・・・)事は出来ないわ。私達の言葉をあなた達がどう解釈するのかなんて自由。「ちょっと!あんた!飲んだくれてないで働きなさいよ!」って、ちょっと注意しただけなのに曲解して「お酒!ダメ!絶対!」ってヒステリックにお酒を禁止する連中だって居るんだもの。お酒が好きな私からすれば「ちょ!おま!」って感じだけど、それで構わないの。行動するのはあなた達なんだもの。それで満足するならそれで良いわ。私の話なんて聞かなくても良い。このまま引きこもったって良いのよ?どうする?動かずにいる?それも良いわ。でも、違うでしょ?思考が読めなくても分かるわよ。藻掻いても。足掻いても。悔しくても。格好悪くても。今のあなたの中に有る気持ちは本物よね? 何も出来なく焦って不安になって。でも、どうにかしたいって気持ちは嘘じゃないわよね?その大切な人を取り戻したいと言う気持ち。私だってそうよ。大切な人を大切にしたいから動いているの。目を反らしたくなる事もある。聞きたくない事もある。図星を突かれて顔真っ赤する事だって有るかも知れない。休みなさい。動けないなら動ける様になるまで休めば良いわ。でもね。最後には自分で動かないと何も動かない。一歩でも半歩でも這ってでも動こうとしないと何も変わらない…。」


 床に転がった俺を撫でていた手を止め女神ニナが立ち上がる。


 そして、言い放った。


「動きなさい!さっきも言ったわよね!誰かに願う前に自分で行動なさいって!!背中を押されなければ動けないってならいくらでも押してやるわ! それこそ犯人が自供を始めそうな断崖絶壁のギリギリに立っていたって押してやるわよ!人間だろ!?人間だったら私の神聖な言葉にむせび泣いてるわよね!?スッキリしたら妙子ちゃんを連れ戻す為に動く!!あの子は私のお気に入りなんだからサッサと連れ戻しなさい!!それでケーキ食べに行くんだから!!必要ならそのケツを蹴ってやるわ!!泣いてスッキリしたなら動けるはずよ!! まぁ…。それでも動けないってなら無理強いはしないけど…。」


 なぜ、最後に弱気になるのか分からない。

 だけど、その様子がおかしくて思わず吹き出してしまったじゃないか…。


「ホント…。残念な女神だな。途中までは俺の心を捕らえたが、話が長すぎて涙も引っ込んだよ。もう少し言いたい事を まとめながら話さないと信者減るぞ?」


「はぁ?意味わかんない!!私の信者が減るわけないでしょ!!バーカ!バーカ!」


 俺の言葉にコロっと激高する女神。

 本当に信者が減る日は近いかも知れない。

 だが、こいつは少し信じて良いかも知れないと思った俺も居た。


 動けない時には何をしても動けないもんだ。

 一人の力で立ち上がれないなんてザラに有る。

 そんな時にこんなヤツが側に居てくれば…。

 あの時の俺も違った道を歩けたかも知れない。


 ・・・・・・。


 まあ、ニコさんの姿をしているって事も有るけどな。


 ただ、良くわからないが長話も無駄じゃなかった。

 その点は、さすが女神と言う感じなのかも知れない。


 涙が引くと共に前を向く事が出来た。


「で、何かアテが有るのか?逃げた場所の心当たりとか?連れ戻すって言っても場所も分からないんじゃ連れ戻せないだろ?アレか?神様的なアレでアレするのか?」


 もう大丈夫だと主張するようにフザケて見せる。

 その様子を見て師匠も呪々もニナさんも呆れているが気にしない。


 醜態は散々見せた。

 今更、格好悪い姿を見られた所で痛くも痒くもないのだから。


「アレアレうるさいわよ。って言うかアレしようとしてもアレがアレだからアレするのも難しいのよねー。昔もそうだけど本気で隠れられたら見つける事は不可能に近いのよ。」


「じゃあ、どうすんだよ?ホント使えない女神だな…。散々煽ってこれかよ?」


 冗談半分で長々と励まされた礼を返す。

 気軽に接しられて嬉しそうな表情を見せる彼女の反応を見ると問題ないらしい。


 女神って立場やら、星の外周を回る方の月に居ると言う話から察するにコイツは確実にボッチだ。気心の知れた関係的な接し方をされてテンションが少し上っているのが見て取れる。


 喜んでくれているのは何よりだが長考が過ぎるんじゃないだろうか。

 ジッとしたまま動かなくなった。


「おい?大丈夫かよ?さすがにおかしいだろ?まさか、ニコさんの体とか精神がお前のチカラに負けて壊れ始めてるとかじゃないだろうな???」


 多分、女神ニナは大丈夫だろう。

 だが、よく考えたら歴戦の冒険者とは言えニコさんは普通の人間だ。


 教会の上層部なら、そんな訓練もしているかも知れないが一般人が神の力を降ろして耐えられるのか不安になった俺はニコさんの体を揺らして顔をペチペチと叩いた。


「ったく。痛いわよ。この子の体は大丈夫よ。それくらい加減するってば。だけど、この子じゃ処理速度が追いつかなくてフリーズしかけたみたいね。」


 良かった。正気を取り戻したようだ。

 だが、俺の心配も当たらずといえども遠からずと言う感じだったらしい。


「あー。やっぱりダメね。グランドサーチをかけてみたけど、この子じゃ範囲も狭ければ精度も不十分だわ。どうしようかしら。今の子って確かオッサンよね?ったく。何もこんなギリで戻って来なくても良いのに。でも、スペック的には頼るしかないのか…。あーん!もぉ!オッサンになんて入りたくないのに!!」


 いや…。


 正気は取り戻してないのかも知れないし、これがコイツの正気なのかも知れない。


 何かブツブツ言いながら体をくねらせる姿を見せられれば、コイツとの付き合いは考えようと思うのも仕方がないのではないだろうか。


「オーケー。覚悟を決めたわ。どうするとしてもパ■を見つけなければ話になんないもんね!行くわよ!王都へ!!」


 何を覚悟したのか分からない。

 でも、残念女神の中で王都に向かうと言う決断が下されたようだ。


 まあ、遅かれ早かれ報告の為に王都には向かわなければならなかっただろう。

 それが少し早くなっただけだ。


 周りを見回す。

 師匠も呪々もニナさんも異論はないらしい。

 サムズアップをして実に良い顔をしている。

 呪々にいたってはお出かけの予感にワクワクしているのがよく分かる。


 そんな俺達の様子を見て微笑む顔はどこか羨ましげだった。


 顔を下に向け左右に振る。

 どこか寂しそうで何かを振り払い諦めようとしているかのように。


「おい。大丈夫か?」


 その様子を見て何か声を掛けなければいけない。

 そう思ったが上手い言葉は出ない。


「何がよ?あったりまえでしょ?」


 短くそう言うと両手を後ろ手に組みそっぽを向く。

 顔を。表情を見られたく無いと言うように。


 そして、全てを振り払うかの様に。


 俺の前に前に現れた時の様に。


 片手を天に突き上げて大声で叫んだ。


「さあ!待ってさいよ!!王都!!私達の戦いは始まったばかりよ!!」


 いや…。その通りなのだが…。


 もっと、他のセリフが有っただろうが!?


 何とも不吉なフラグを立てる残念な女神に親しみを感じながら俺達は王都に向かう。


 誰かに願う前に。

 誰かに頼る前に。

 自分で行動なさい!


 残念な女神の言葉を思い出しながら。


どうも。となりの新兵ちゃんです。


エイプリルフールと言う事で十時っても二十二時の事だよ!ぷぎゃー!!

と、言うネタも考えてはいたのですが、凄く感じが悪いので止めておきました。


はい。と、言う事で何とか其之四が終わりました。

思った以上に、これまで以上に、出てこなかった感じでしたが、何とか無事終える事が出来ました。


いや。しかし…。

なんで、あたしゃエピローグを涙ポロポロこぼしながら書いてたのだろうか。

読み返しても意味が分からん。


いや。長台詞のところで変なテンション入っちゃって書きながら泣いてたんですけどね…。

読み返しても大した事を書いてないと言うね…。

季節の変わり目って恐ろしいです。

情緒がいつもより不安定になって怖いですよ…。


そして、前後しますが本編ね。

前回ので味をしめてタイトルから伏せ字ですけど…。

タイトル「■■」とか「■と■」になりそうだったのを何とか思いとどまりました。


その辺り、伏せ字に関しては其之五で。

前回の黒木さんの話からも分かる様に「クソどうでも良いわ!」って感じのアレなのですが、徐々に伏せ字も解除されていくと思います。


晴人と妙子ちゃんのアレもアレしていくのでアレしながら待って頂ければと。


そして、いつもどおり其之四でEXストーリーを来週ちょこっと書いて其之五に移行します。


前にあとがきで少し触れましたが予定では其之五で終了と考えています。

早いものでもうすぐ一年ですか。

夏までに締めくくれるかな?

手探りでお話を作ると言う自慰行為をして来ましたが一年経っても語彙や表現の幅が狭くてお恥ずかしい限りです…。


毎話更新する度に読んでくださっている方は少ないと思いますが、ブックマークや評価を頂ける度に、アクセスを頂く度に、励みとなりました。本当にありがとうございます。


今しばらくお付き合い頂ければ幸いです。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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