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其之四|第八章|帰還

 球体。

 それは魅惑のカタチ。


 球体。

 それは全ての生物を魅了する形状。


 人間のみならず、一定以上の知能を有する生物は、この形状に魅了される。

 そして、ある衝動に支配されるのだ。


 投げる。

 打つ。

 蹴る。

 突く。

 弾く。

 追う。

 揉む。


 犬は主人にもう一度投げろとせがみ、猫は気が済むまで追い続け、人の子は延々と壁に投げてはキャッチして投げるを繰り返す。


 これはどの世界の生き物でも抑えきれない衝動だ。


 なぜ、生き物が球体に惹かれてしまうのかは分からない。

 球と言う形状が全てを構成する基礎だからなのかも知れない。

 球体を見た時に人も動物も得も言われぬ感情に支配されるのだ。


 球状の物が有れば投げたくなる。

 そこに棒が有れば打ち返したくなる。

 それは生物に組み込まれた本能なのかも知れない。

 そして、その衝動は「勝負」の方法として時に利用される事がある。


 俺と師匠が何かの決着を付ける際に(もち)いる方法もコレだった。


 ルールはシンプルで簡単。

 師匠が魔法を球状に圧縮して投げ放つ。

 俺がそれを魔法で編んだ棒で打ち返す。


 パワーとパワーのぶつかり合い。

 純粋な魔力と魔力の力比べ。


 師匠の放つ球を打ち返せなければ爆風で俺は吹き飛ぶ。

 俺が打ち返せれば師匠へのピッチャーライナーでダメージを与えられる。

 師匠に当てられなくとも打ち返されたと言うだけでも敗北感を負わせられる。

 明確な勝敗が目に見えると言うのも、この勝負の利点と言えるだろう。


 もちろん、お互い一流と言って良い魔法使いだ。

 負けた方がある程度のダメージを受けるのは必然。

 一定レベルを超えた魔法使いの渾身の一撃。

 当然、まともに当たれば怪我だけでは済まないだろう。

 だが、これを防げない時点で魔法使いとして生きている価値はない。

 これは、師弟としてでなく、魔法使いとしての真剣勝負なのだから。


 傍から見れば緊迫した場面で野球かよ!と思うかも知れない。


 だが、駆け引きに加えて純粋な魔力と魔力のぶつかり合い。

 これは魔法使い同志の戦いにおいて明確な決着をつける一つの方法なのだ。


 今回も明確な勝敗を決して終わるはずだった…。


 お互いの詠唱が終わる。

 先に詠唱を終えた俺は師匠を見据えて待つ。

 続いて詠唱を終えた師匠が顔を上げて俺を見つめる。


 魔力で編まれたバットのグリップを確かめながら、詠唱を終えたばかりの師匠の右手に収まる火球を確認する。


 詠唱からすると、いつもの通りの爆炎系の消える魔球だろう。

 師匠が右手には高圧縮された炎が渦巻きながら毒々しい光を放っていた。


 ちょっと遊びに来たワリには随分と本気のようだ。

 余程、スシ詰めグレーターデーモンがお気に召さなかったらしい。


『これは、帰ってからもネチネチと言われそうだな。』


 苦笑いを浮かべながら俺はバットに魔力を送ってアレに耐えられるよう強化した。

 打ち返す前に折られてしまっては元も子もない。

 そして、グリップを握り構える。


 静まり返った空間に俺を師匠の呼吸だけが響く。

 どうやら、師匠も準備が整ったようだ。


「行くぞ。晴人よ…。」


「バッチ来い。師匠。」


 お互いの声が響いた。

 やれやれ…。

 ついに名前を呼ばれてしまった。

 帰ってからニナさんとニコさんに説明しないワケにはいかないな。

 どう言い訳をしたものか。

 いや。既にバレているかも知れない。

 どちらにしても二人には説明しないといけないか。


 仕方ないと諦めて、今は師匠の動きだけに集中する。


 こちらの覚悟が決まったのを感じ取ったのか師匠が動き出した。

 ゆっくりと上体を起こしてセットポジションに入る。

 そして、大きく振りかぶり渾身の一撃を放った。


「喰らえ!!!無影無踪地獄炎球インブジブルヘルフレイム!!!」


 投球と共に師匠の声が響く。

 予想通り、爆炎系の消える魔球。

 火球が上下にうねりながら迫ってくる。

 だが、これはまやかしだ。

 正体はナックルボールの様な変化球。

 火球の熱で余計に上下にうねっているように見えているだけ。

 火球自体は俺に向かって一定の軌道で進んでいる。


 厄介なのは手前で大きく伸びながら落ちる点だ。

 火球の熱で発生した陽炎の効果で目で追っているだけだと突然消えた様に見える。

 消える前に軌道を予測して本体を捕らえなければ打ち仕損じる事になる。


 だが、本当に消えるわけではない。

 軌道計算さえ出来れば当てる事は出来る。

 後はどちらのチカラが上なのかの勝負だ。


「ここだ!! 重力ヲ調律スル(グラビティブロード)一振乃柱バット!!」


 球が消える直前でバットを叩きつける。

 手応えは有る。

 本番はここからだ。

 ここからが一筋縄ではいかない。


 バットの芯に捕らえられた火球が抵抗を続けて前に進もうと押し上げてくる。


 バットに喰らいつき、飛ばされまいと更にうねりを上げる。

 なおも前に進もうと回転数を増して俺の魔力をヘシ折ろうと抵抗を続けた。


 バットと火球が異音を上げる。

 ギュルギュルとゴロゴロと。

 魔力と魔力がぶつかり合い空間が歪み始めた。

 バットに魔力を注いでジワジワと火球を押し返すが流石は師匠の放った火球。

 そう簡単には打ち返されてはくれない。


「この!!!クソボールがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 更に更に魔力を注ぐ。

 ボコボコにされた部下達の事を思うと負けるワケにはいかなかった。

 無駄に配置されたグレーターデーモン。

 消化試合だと分かって配置に着いてくれた各属性の悪魔たち。

 嫌々ながらも出撃してくれた竜種の皆さん。


「ぬぅおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 せめて、一矢報いなければと全力で打ち返した。


 と、思った その時。


 俺のバットは空を切った。

 手応えが全く無く。

 気がつけば師匠の放った火球も俺のバットも消え、この空間の全てが闇に包まれた。


「なっ!?」


 俺は咄嗟に周りをサーモグラフィーで確認した。

 熱源は有る。フロアを照らしていた明かりが消えたワケではない。

 人の体温も感知出来た。

 師匠や退避させたパーティも無事そうだ。


「え!?なに?暗くなった!?明かりは!?」


 闇の中で妙子ちゃんや皆の声が響いている。

 音が届くと言う事は、異常な重力や何かが発生して全てを吸い込んでいると言うワケじゃなさそうだ。


 どちらかと言えば闇が光を塗りつぶしてるのか…。

 これまでに体験した事の無い事象に判断がつかない。

 何が起こっているのか分からない以上、混乱して動かれては面倒だ。


「妙子ちゃん!ジュジュ!動くなよ!檻の中から絶対に出るな!!」


 警告を発して俺は異常を探した。


 何かしらの特異点が生まれるとしたら魔力と魔力がぶつかり合った地点。

 何かが発生したならば俺の近くのはずだ。


 だが、反応が見つからない。

 いや…。異常が有るとすれば「何も無い」と言う事が異常。


「ニコ!ニナ!分かっておるな!?二人は任せたぞ!!」


 師匠も異常を感じてニコさんとニナさんに指示を飛ばした。

 俺の近くに有る「無」を感じ取ったのだろう。


 生物の生存域で「無」が発生する事など通常は無いのだ。

 これの違和感を感じられない師匠ではない。


「晴人!自分を全力で守る事だけ考えろ!!コッチの子らは私が任された!!」


 師匠が言うが早いか俺も返す。


「了解!! と、言いたいが流石に放置は出来ないでしょ。檻で囲ったらそうさせてもらいますよ!!」


 そう言いながら「無」が有る地点を予測してを魔力の檻で囲う為にいくつかの探知魔法を走らせる。


 何が起こるか分からないのだ。

 何重もの檻で囲ったとしても油断出来ない。

 出来るだけ正確な位置を割り出して的確に魔法を発動しなければ…。


「チッ…。早めに切り上げろ。無謀と勇気は別物じゃからな…。」


 師匠の忠告が聞こえた次の瞬間、事態が変化し始める。

 さっきまで「無」だった空間に(ひず)みが発生し始めた。

 俺と師匠は「無」が次第に歪みに変化し始めたのを確認すると身構える。


 何者かが現れようとしている。

 歪みの中から何者かが溢れ出そうをしている。

 闇や無ではない何かが這い出そうとしている。


 コレが出てくる事は抑えられない。

 直感で感じ取った俺は息を呑み出現を待つしか無かった。


『物質化すればワンチャン有るか…。』


「来るぞ!シールドは張っておる!身をかがめてショックに備えるのじゃ!!」


 師匠の指示は的確だった。

 正直、何が起きるかわからないのは師匠も同じ。

 だが、的確に状況に応じて判断し皆を守ってくれるだろう。

 妙子ちゃん達は師匠に任せよう。

 妙子ちゃん達は師匠が何とかしてくれる。

 師匠も最悪の場合はすぐに逃げようと考えて声を上げたのだろうから。


 師匠が妙子ちゃん達に指示を出した次の瞬間、事態は動き出した。


 轟音と揺れ。

 物理的な空気や地面の振動ではない。

 空間を…。いや。時空を揺らされる不思議な感覚が辺りに広がる。


 そして、割れる。


 何が割れるのかと聞かれたら答えられない。

 何かが割れてそこから何者かが現れる気配がした。

 それは召喚術と似たような光…。

 いや。闇を放ちながら、ゆっくりと産み出される。


 時間としては数分も無かっただろう。

 不思議な揺れと轟音が続き、静かにその鼓動を止めた。

 周りを見回すが物理的な被害は無い。

 俺が「無」が有ると感じた場所が歪んで見える以外は。


 だが、それも束の間。

 徐々にこの世界の(ことわり)が戻ってきた。


 光、音、空気。

 全てが「無」で包まれていたモノが戻ってきた。


 だが、あの場所は歪んだままだ。

 その中に何者かが居るのだけは感じられる。


 油断は出来ない。

 何か(・・・)が、こちら側に現れたのは間違いないのだから。


 視界がハッキリしてくると、まだ俺と師匠の魔力がぶつかり合った場所は煙を吐きながら陽炎を作っていた。熱によって溶けた床が赤々と煮えたぎっている。


 その周囲が僅かに歪んで見えた。


 この世界の法則が戻って来た事で随分とマシにはなったが薄っすらとモザイクを掛けられたかの様に。


 そして、その中心には一人の男の様な姿が徐々に浮かび上がる。


「ハハ…。ハハハ!ついに!ついにやったぞ!俺は戻って来た!!」


 中心部の何者かが叫んだ。

 叫んだその声は明らかに男の声。


 身長は俺くらいだろうか。

 体つきを見ても女性的な丸みはない。

 次第に見えてくる背格好。

 スエットの様なモノを着込み…。

 酷く頬がコケ、無精髭を蓄えた…。


 その男の顔に俺は見覚えがあった。

 その声は俺の聞き馴染みの有る声だった。


「黒木…。」


 その姿は俺を自殺に追いやった人物。


 黒木正義(くろき まさよし)


 ヤツそのもの。


 理解が追いつかない。


 なぜ、黒木が?

 妙子ちゃんの様に召喚したワケでもない。

 何故、ここにいるんだ?

 戻ってきた?

 どう言う事だ?


 思考がストップする。

 全てを俺から奪った黒木が目の前にいる。

 なぜだ?

 疑問が脳を埋め尽くす。



「黒木!!貴様なぜここに!?」


「まさにぃ!!!」


 俺が思考停止していると思わぬ所から声が響いた。


 師匠。

 そして、呪々。


 なぜ、二人が黒木を知っている?


 呪々は俺と同じ時代を生きていた。

 黒木を知っている可能性は有る。


 だが、師匠は少なくとも百年前に、この世界に来ているはずだ。

 なぜ、師匠が黒木を…。


「む。人が居るのか。なぜ、俺の仮の名を知っている…。」


 黒木と思われる何者かが、ゆらりを歩きながら周囲を見回した。

 まだ、目が見えていないのかも知れない。

 あんな異常な状態の場所から現れたのだ。

 普通の人間なら身体機能がおかしくなっていて当然だ。

 いや。生きている自体がおかしい。


「まさにぃ!チヨだよ!まさにぃ!迎えに来てくれたの!?」


 呪々の嬉しそうな声が響く。

 それは俺の知っている呪々ではなく、普通の少女の様な無邪気な声。


「何?チヨだと?チヨなのか!?どうしてチヨがここに?」


 その返事に黒木本人だと確信したのか嬉しそうに跳る呪々。

 だが、呪々とは対照的に師匠の表情はくもり怒りの表情で睨みつけていた。


「それはこっちのセリフじゃ!どう言う事じゃ!なぜ、貴様がここに()る!それに尋常でないマナ吸収力は何じゃ!?貴様は何者だ!?本当に黒木なのか!?」


 黒木の出現を目にして狼狽する師匠。

 狼狽しながらも相手の力量を見極めようとする辺りは流石だ。

 あまりもの出来事に放心状態だった俺は見逃していたが、尋常じゃ無い量のマナが黒木の周りの集まっり魔力に変換されていく。


「草木フネなのか…。それに晴人。奥に居るのは伊丹妙子か…。」


 師匠の声を聞き驚いた黒木が周囲を見回し口を開いた。

 突きつけられた問いに答える気は無いらしい。

 周りを見回した後は動きもせずに考え込んでいる。


「クッ…。昔の名を知っとると言う事は本当に黒木か…。黒木よ!貴様に汚されたその名は捨てた!フィーナ! フィーナ=グラスロッドと呼べ!!」


 その様子を見て頭に血がのぼったのか発言が支離滅裂。

 余程、師匠は「草木フネ」と言う元の世界の名で呼ばれたくないのか、自ら自己紹介をする始末だ。


 だが、その発言で少し三人の関係性が見えてきた。

 師匠が敵意を見せ「汚された」と言う人物。

 そして、呪々が再会して喜ぶ人物。


「師匠。もしかして黒木は前に聞かされたフィアンセなのか?」


「・・・・・・。」


 俺の問いに師匠は答えない。

 だが、更に黒木を睨みつける目にチカラがこもった事を考えると正解らしい。

 と、言う事は…。


「黒木。お前は悪魔だったのか?俺に近づいたのは魔力を得るためだったのか?」


 そう。師匠と呪々に聞いたフィアンセの正体は悪魔だったはずだ。


 つまり、黒木が悪魔だと言うなら、師匠の時と同じように、妙子ちゃんの時と同じように、俺は魔力の糧にされる為に自殺へと追いやられたと…。


「そうだな。あの世界で魔力を集める方法として分類すれば悪魔と言う事になるのだろうな。管理者や観察者以外があの世界で魔力を集めようとすれば悪魔的になるのは仕方のない事だ。晴人に近づいたのは偶然だったが強い魔力を提供してもらった。親友として感謝してるぞ。今度、お前が好きだったザッハトルテでも礼として作ってやろう。」


「なっ!?」


 平然と黒木は言ってのけた。

 あの時の俺の苦しみや悲しみなど知ったことではないかのように。

 やっと塞がった傷をザクザクと斬りつけるかのように。


「なるほどな。晴人を中途半端に追い詰めた卑怯者も貴様と言うワケか。師弟共々コケにされたものじゃな…。全く…。全く面白くないわぁぁぁぁ!!!くろきぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


 俺の事情を察した師匠の怒りが沸点に達したのだろう。

 師匠が魔法を込めた拳を黒木に向けた。


「師匠!ちょっと、待っ──────」


 黒木が、あちらの世界の悪魔だとしても呪々の弱さを考えると師匠の魔法をまとった拳で殴られては黒木もタダでは済まない。


 師匠もその点を考慮したからこそ拳で殴り掛かったのだろう。

 魔力は込められているから大怪我はするだろうが、死なない程度に加減をして。

 それでも大きなダメージを黒木が受けるものだと思っていた。


 だが、結果は違っていた。


「まだ、制御の感覚を取り戻せないな。手加減が出来なかった。すまん。」


 弾き飛ばされたのは師匠の方だった。

 黒木がスッと力を入れず腕を振るっただけで。


 師匠が手加減していたのもあっただろう。

 師匠が油断していたのもあったのだろう。

 だが、あの師匠がいとも簡単に近くの柱へと弾き飛ばされた。


「くっ…。油断したわ…。何じゃ…。貴様のそのチカラは…。」


 柱にぶつかる前にシールドを張ったのだろうか。

 見た目よりはダメージを受けてはいないみたいだが、打ち所が悪かったのか左腕を抑えながら立ち上がった。


「何じゃと問われてもな…。マナに乏しい向こうの世界では異世界間移動魔法用の魔力を貯める為にケチな呪術くらいしか使わなかったが、こちらに戻った事で本来の力を取り戻しただけだ。さすがに何千年も使ってないと制御もままならんがな。痛かっただろう。悪いな。」


 師匠の疑問に「大した事ではない」と言うかの如く黒木はサラっと答え、師匠に手を差し出して彼女を起き上がらせようとする。


 それを師匠が振り払うと黒木は寂しそうな表情で俺の方に顔を向けた。


 こちらに戻った?

 戻ったと言ったのか?

 どう言う事なのか理解できない。


 異世界間移動魔法?

 俺たちの様に偶然の召喚でこちらに来たのでは無く、自らの魔法で元の世界からこちらに戻ったと言うのか?


 俺や師匠が情報をいくら集めても、何度も実験を繰り返しても到達出来ない異世界間の移動を自らのチカラで行ったと言うのか?


 ここ数分の間に起こった出来事を整理しようにも頭が混乱してまとまらなかった。


「黒木…。意味が分からない。戻ったってなんだよ!?ここに戻ったって事は元はこっちに居たって事だろ?異世界間移動だと?何故、そんな事が出来る?お前はどうして向こうの世界に行ったんだよ!?そんなチカラを持ったお前がマナの乏しい向こうの世界にわざわざ行ったんだよ?なんで戻ってきて喜んでんだよ!?何なんだよお前は!?何者なんだよお前は? お前が!お前が居なければ俺は!!!この十年俺がどんな思いで!!!」


 気がつくと叫んでいた。

 溢れ出す疑問が止まらなかった。

 溢れ出す怒りが抑えられなかった。

 溢れ出す悲しみが流れ出した。


 違う。

 そんな事を聞きたいんじゃない。

 そんな事を言いたいんじゃない。

 俺は親友だと思っていたお前に裏切られた事が…。


 感情が爆発してよく分からなくなる。

 頭に血が上り上手く考えられない。

 自分で自分を制御出来ない。


 身は震え、目からは涙が溢れ出し、鼻からは鼻水を垂れ流し、気がつくと手のひらは血が流れるほど握られ、握りこぶしの中には無意識に発動したグラビティボールが握られていた。


「なぜ、俺が向こうに居たのか?俺としてはお前たちがこの世界に居る方が不思議なのだがな。俺に関する話がどの様に伝わっているかは知らんが…。その魔力。もしやと思ったがお前だったのだろ?あの時の魔法使いは。ならば、知っているのではないか?俺が何者なのかを。お前がこの世界で魔法使いとなり、俺の魔力を感じられるならばお前は知っているはずだ。」


 黒木がまとう魔力のニオイ。

 確かに知っている気がした。

 あの時とは比べ物にならないくらいに膨大なマナが集まっているが…。

 マナから変換された魔力のニオイは…。

 前にどこかで…。


「嘘だろ…。」


 黒木が?黒木がそうだと言うのか?

 黒木の言葉に狼狽する俺を見て師匠も気がついたようだ。

 黒木の正体を知り動けない俺とは違い素早く動く。

 妙子ちゃん達を守るために。


「どう言う事じゃ!!本当に貴様が…。貴様が…。」


 言葉が詰まる。

 師匠も確信しているに違いない。

 だが、認めたくないのだろう。

 この帰還を。


「この前も名乗っただろう?」


 俺も信じたくなかった。

 最悪の敵が戻って来た事を。


「魔王カルキノス。あいつらが語り継ぐであろう この名を。」


 魔王カルキノスの帰還を。

 認めたくなかった。


どうも。となりの新兵ちゃんです。


何とか今週も投稿出来ました。

出来れば、土曜の昼くらいまでに予約投稿とか出来ればと個人的には考えているのですが、忙しい時期に差し掛かってる事もあって、何とか今週も月曜さんが来る前に投稿出来たと言う感じです。


さて、これまで続けて読んでくださっていた方は予想されていたかも知れませんが、黒木さんも本編に参戦。お話を一旦まとめる方向で話が進めようと思っています。


この話の登場人物は全てにおいて残念な子たちなので、残念なオチが待ってそうですが最後までお付き合い頂ければ幸いです。


取り敢えずは、其之四を書き終えなければですが…。


と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。

それでは、またいつか。

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