其之一|第四章|お前はもう死んでいるのかも知れないし、死んでないのかも知れない。
2017年06月07日 加筆・修正
うん。冷静になろう。
いや。冷静でいられるか!
猫耳女子高生ってどう考えてもおかしいだろJK!
「JKだけにJKって…」って!言ってる場合か!
「こっちに来てから十年、師匠の元で勉強し、必死に魔術を習得して魔法使いのレベルまで実力を身につけた俺とは言え…。」
これまでに師匠は、俺が元の世界に戻りたくなったら戻れるようにと、元の世界とのコンタクトを試みていた。
俺が行った方が繋がりがある分、元の世界との扉が開きやすい可能性も考えられると、師匠のサポートの元で俺が試した事もあった。
結果、接続するどころか、あっちの世界と接続する為のヒントすら、この十年で見つけられなかったのである。
「それが、今ここで? 特に何の変哲も無いランダム召喚で? どう見てもあっちの世界ならどこにでも居そうな『ちょっとカワイイかも?』程度の女子高生を召喚だとぉ!?」
意味がわからない。意味がわからない。意味がわからない。
どう見ても女子高生だ。俺が住んでいた世界の女子高生にしか見えない。
「いや…。しかし、猫耳だ。類似異世界から召喚された可能性も…。取り敢えずは観察だ…。断じてやましい気持ちはない…。検証だ…。」
取り敢えず、落ち着こう。
落ち着いて観察すれば、何かヒントが有るかも知れない。
もしかしたら、こう言う趣味のモンスターがどこかで生息しているだけなのかも知れないよな?な?
取り敢えず、落ち着いて冷静に観察する事する。
髪は黒髪でセミロングのポニーテール。
整った顔立ちでメガネっ娘。
日本人顔で綺麗タイプだが幼い感じは残っている。
だが中学生という感じには見えない。
服装はブレザータイプの制服。
この制服はあっちの世界で通勤中に見た事がある。
学校名までは覚えてないが確か有名高校だったはずだ。
そこまでは普通の女子高生に見える。
見えるのだが…
頭には猫耳が生えていて普通の位置にも人間の耳が有る。
スカートの下からは尻尾が伸びて気持ちよさそうにパタパタしている。
「猫耳だけじゃなかったぁぁぁああぁぁぁ!」
何だこれ?尻尾も?用意した『贄』と融合したのか?
上位召喚なら分かるがランダム召喚で『贄』が身体の一部になるなんて聞いた事がないぞ?
いやいや。もしかしたらワーキャット系とか、そっち系なのかも知れない。
・・・?
いやいやいや。
じゃあ、なんで見覚えのある制服着てんだよ!
その上、頭にネクタイをヨッパライ巻してるってどう言う事なんだ?
って、なんでこの子は頭にネクタイ巻いてるんだ?
イレギュラーすぎて意味が分からんぞ!
あれ?ちょっと待て。もし融合したとするなら馬はどうなった…。
魅了ステータスの『贄』として用意した猫耳と尻尾が身体に融合しているのは確認した。
じゃあ、怪力のステータスの『贄』として用意した馬の脚とチンコはどこに行った!?
ぱっと見た感じでは、この子の足や手が馬のそれになっている感じはしない…。
身体のサイズに合わせて縮小され、他の部分に融合している可能性も有るが…。
「ゴクリ…。調べてみるか…。」
俺がスカートに手を伸ばそうとする。
「あれ…?私、どうして?確かドアノブで死のうとして…?あれ?薄暗い?広い?どこ?私の部屋じゃない?」
クソ…。猫耳女子高生が気がついた…。
いや。クソじゃない。気が付いて良かった。
だが、これは…。
「はぁ。本当にここで日本語を聞く事になろうとは。」
俺に気がついた猫耳女子高生は座ったまま後ずさり身を固める。
「あの。どなたか分かりませんが、あなたはどなたなんですか!?ここはどこなんですか!?私、死んだんですか!?あの人の差し金ですか!?誘拐するんですか!?殺すんですか!?私のお部屋はどこですか?????」
駄目だ。混乱してるな。取り敢えずは落ち着かせるのが先決か。
それに、この感じ。
さっき呟いていた物騒なワードも合わせて考えると、俺と同じで生と死の狭間に居たって感じか。
大変、面倒である。面倒であるが召喚してしまったものは仕方がない。まずは話を聞いて状況を把握するしかないようだ。
「まあ、落ち着け。俺の事や俺の言う事は信じられない状態かも知れないが、答えられる事は答えよう。お前の状況や事情については知らないが、俺の分かる範囲で答えられる事は嘘なく答える。俺の師匠に誓うよ。」
俺の言葉に一応耳は傾けてくれているみたいだ。
何かを考えているポーズなのかこめかみに両手の人差し指を当てて「うーん」と唸っている。
俺が本当に悪い人なら、そんな油断を見せた段階で色々してるぞ?
とは、思ったが言わない方が良さそうだ。
しばらくすると深呼吸をして冷静になろうとしている。
落ち着きを取り戻したのか猫耳女子高生は少し困り顔で口を開いた。
「あの。あなたの師匠に誓われてもと言う気がしますけど…。とりあえず、今の状況を教えて下さい!えっと…だれでしたっけ?」
確かに。あまりの出来事に自己紹介もしていなかったな。これは召喚の儀式としても大事な事だと言うのに。猫耳女子高生に促され俺の名前を告げた。
「ああ。そうか。そうだな。俺は新戸。新戸晴人だ。『ニイド』でも『ハルト』でも好きなように呼んでくれ。そっちは?」
「あ!はい!伊丹妙子です。私も『イタミ』でも『タエコ』でもどっちでも良いです。」
俺の問いにハッとした顔をしつつ自己紹介をしてくれた。
自分から名乗るべきだと思ったのだろうか。
そんな様子から真面目な子なのかと言う印象を受ける。
『じゃあ、なんで猫耳にネクタイを酔っ払い巻き?』
とも、思うが嫌な予感がするので放置しておこう。
簡単な自己紹介は済ませた。
そろそろ、本題に入るべきだろう。
彼女もそう思ったのか、「「あの!」」と、声がぶつかり少し気まずい。
そんな中で聞きたい事が沢山有るのか、先に口を開いたのは彼女だった。
「あの。ハルトさん。何から聞いたら良いのか分かりませんが、私どうなったのでしょうか?私、色々な事があって。その…。自殺しようとして失敗して。失敗したと思ったんですけど、そしたら床が光りだして。気がついたらここに居て。ここは死後の世界か何かなんですか?私、本当に死んじゃったんですか?」
なるほど。
簡単な説明だったが俺と似た状態でこっちに来たのだろうと言う事は推測できる。
それが召喚のキーになっているかは分からないが、その可能性は有るのかも知れない。
詳しくは聞いてみないと分からないが、ある程度の説明は出来そうだ。
「伊丹さん。君が生きているか死んでいるかと言うと生きてはいる。自殺しようとして失敗したんだろ?君は助かっている。」
「本当ですか!?私、生きてるんですね!!死んでないんだ!!」
そう。生きてはいるんだが…。
だけど、伝えなくてはいけない。俺が師匠に伝えられたように。
「ああ。でも、君の存在はあっちで消滅していると思われる。多分。」
「あっち?消滅?」
そう言うと伊丹妙子は首をかしげた。
まあ、当然だろう。
俺もこっちに来たばかりの時は、師匠に丁寧に説明されても、ワケが分からなくて理解できなかったのだから。
それを受け入れるには、彼女は若すぎる。ショックで取り乱したりしなければ良いのだが…。
少し考えたが、いつかは教えなければいけない事だ。
早めに知ったほうが彼女のためだ。
気持ちを切り替えて彼女に伝える事にする。
「俺も確認できたワケじゃないから明確な答えは提示できないが、俺達は恐らく肉体ごとこちらの世界に召喚されている。もしくは肉体を残し魂だけがこちらに召喚され受肉した可能性も考えられる。」
「しょうかん?じゅにく?おいしいお肉かなにかかなぁ?」
猫耳をピクピクさせながら首を傾げる伊丹妙子。
・・・・・・。
『あぁああああ!くそ!イチイチかわいいな!くそ!こっちはシリアスに話してるのに理解出来てからか彼女自身が天然なのか尽く緊張感を破壊してくる!天然なのかチャーム効果なのかも分からん!頭が痛くなりそうだ!なんだ!その猫耳と尻尾は!お肉じゃない!受肉だ!』
俺は、緊張感をぶち壊され、どうしたものかと頭を抱えながら話を続ける。
「つまり。ここは俺達が住んでいた世界じゃない。いわゆる異世界と言われるヤツだ。元いた世界とは全く違う世界。もしかしたら平行世界かも知れないし、どこか遠くの惑星かも知れない。とにかく俺達が住んでいた地球とは別の場所だと言う事を理解して欲しい。そこで俺は使い魔の召喚を行い、なぜか君が召喚された。ここまでは良いか?」
伊丹妙子の表情が困惑の色に変わる。
そりゃそうだろう。異世界だとか言われた所で信じられないのが普通だ。
召喚だとか言われても信じられるはずがない。
俺だってそうだった。睡眠薬を大量に飲み自殺したはずだったのに気がついたら露出度の高い魔女のコスプレをした巨乳のお姉さんに看病されていたんだから。
何がどうなったかなんて理解出来るワケがなかった。
巨乳魔女って!
クスリが別の方向にキマって精神が壊れたんだと思っても仕方ないだろう?
クスリが良い方に入ってるんだと思うだろ?
うんうん。分かるよ。伊丹妙子ちゃん。
今は困惑して良いんだよ。今は分からなくて良いんだ。
と、彼女の顔を見るとなぜかキラキラ目を輝かせてる。
「マジですか?異世界召喚モノキターーーーーーーーーーーーーーーー!?」
はぁ??
「召喚って事は魔法的な何かが使えるって事ですよね?もしくはそれに準ずる科学技術があるって事ですよね?時代考証は?この世界って地球で言うとどれくらいの年代っぽいですか?スチームパンクですか?スペオペですか?王道のファンタジーですか?ハルトさんの格好を見る感じファンタジーですよね?魔法使いですか?魔法使いなんですか?ハルトさん魔法使いなんですか?魔術師と言う可能性も考えられますか?マッドサイエンティストですか?」
あぁ。この子アレだ。
きっとこの子あっち系だ。
こんな話を聞いて目をキラッキラさせるなんてアッチ系で間違いない…。
「・・・。ちょっと落ち着こう。妙子ちゃん。ちょっと待ってくれ。取り敢えずは落ち着いてくれ。このコーヒー牛乳はサービスだ。取り敢えず飲んで落ち着いてくれ。」
工房にストックしているコーヒー牛乳を注いで差し出すと美味しそうに飲み始める。
何なんだろう。
この子は。
とてもついさっきまで自殺しようとしていたとは思えない…。
そして、なんだろう。
この小動物感。
餌付けしている感じがする。
気を取り直して話を続けなければいけないのに脱力感を感じる…。
「取り敢えず、この世界の事は一旦置いておいて…。あぁ。何を話そうとしていたんだか。あぁ。取り敢えずは状況認識だな。妙子ちゃんも、ここは別の世界で、俺は…正確にはちょっと違うが魔法使い的な何かだと言う事は認識してくれたと思う。」
うんうんと頷きながら、どこからか見つけてきたのかスットクしてたパンをコーヒー牛乳につけて食べる妙子。
「俺は今回、使い魔を召喚するために召喚陣を作って召喚の儀式を行ったんだが、そこでなぜか君が召喚されてしまった。」
聞いているのか聞いていないのか分からないが勝手にコーヒー牛乳をおかわりする妙子。
「これは推測だが、俺も自殺をしようとして昏睡状態の時に、この世界に召喚されている。」
妙子の猫耳がピクンと反応する。
俺も自殺しようとしたと言う事、その際に召喚された事。
彼女も引っかかる部分が有ったのだろう。
「これは今まで仮説だったんだが。いや。今も仮説には変わらないのだが。妙子ちゃんのケースも合わせて考えると、精神的に追い詰められた極限状態の時に、死に直面する事で何らかの作用が発生し、召喚のゲートがあっちと繋がったんじゃないかと推測している。」
またもや「う~ん」と唸って彼女は両手の人差し指をこめかみに当てて考え込む。
確かに、理解しようにも理解しがたい話ではある。
俺も言っていて自信がないが状況証拠を見ると、精神的なストレスや自殺と言う行為が少なからず関係している。可能性が無いとは言えない。
「つまり、自殺するほど追い詰められたイカれた人間が、この世界に召喚されちゃうって事ですか??」
うん。この子はアレな子だと思う。色々な所で色々な物が抜けている気がする。
「あの。そうだね。えっと。そうとは限らないかな。それから少し言い方を考えよう妙子ちゃん…。」
「はーい!」と妙子は返事すると、話の続きがありそうなのを察してくれたのか大人しく聞く体制のまま待機してくれている。
「おほん。まあ、何らかの要因で地球などから召喚される可能性が有り、俺達のケースを考えると自殺をしようする生と死の狭間の様な状況が発動条件となる可能性は高い感じだね。もしかしたらタイミングが合えば自殺じゃなくて事故などで発動する可能性は有るかも知れないけど、異世界の人間が召喚されると言うのは稀な事で、検証できるほどの事例は無く、その事実を隠匿されている可能性も考えると完全に実証をするのは難しい。同じ様な状態で俺達がこっちに来たことを考えると自殺と言う発動条件の一つだとも言えるし、実は単なる偶然でそんな条件は無いのかも知れない。」
「ふへー。」と気のない相槌を打ちつつ妙子は自分の猫耳をいじっている。
ホント。この子なんで自殺しようとしたのだろう…。
雰囲気からはそんなタイプには全く見えない…。
「あのー。この猫耳ってなんですか?しっぽもあるみたいなんですけど?」
それな。俺も知りたかったが、妙子ちゃんも分からないと言う事は飾りでも無ければ、ワーキャット疑惑も晴れたと言う事になる。
じゃあ、どうして?となるが、「それは俺もよくわからない。」と、正直に告げた。
その答えがご不満なのか「はぁ?」と凄んで、すごい顔で妙子が睨んでくる…。
それは俺が知りたい。推測は出来るがなぜそうなったのかよくわからないのが現状だ。
取り敢えず、召喚に関して説明をしつつ、その推測を教えるしかないか…。
「正確に言うと、なぜそこに猫耳が生えてしまったのかが分からないと言うか…。今回、使い魔を召喚して妙子ちゃんが召喚されたのは、さっき話したよね?」
「うんうん。」
「召喚には目標を定めて召喚する方法と、一定の範囲内でランダムに召喚する方法が有るんだ。」
「何だかゲームのガチャみたいな感じですか?」
「イメージ的にはそう考えてくれても良い。目標を定めて召喚するのは厳選した材料や特別な準備が大変なの。だから、特に大きな指定が無い場合はランダムで行うワケ。今回の場合だと人型の妖精や悪魔を召喚したかったから、その条件を召喚陣で指定し、俺の店で店番させたり荷物持ちをさせたかったからその条件に必要そうなステータスを付与する為に、魅了の素材として『猫の耳』と『猫の尻尾』を。怪力の素材として『馬の脚』と『大事な部分』を用意したワケだけど、なぜか猫耳としっぽだけが君の身体と融合して召喚されたみたいなんだ。普通の召喚だとそう言う事は発生しないんだけど…」
と、大事な部分はボカして説明する。
「馬はどうなったんだろう?『馬の脚』と…?『大事な部分』ってなんですか??」
なんだろう。この子は。するっとスルーさせたのに、どうして地雷に踏み込んでくるんだ…。
「そうだね。馬の部分が無いんだ。必要な素材さえ揃えればステータスの振り幅は有るものの効果は付与されるはずだから、猫の部分だけ身体に融合すると言うのは変な感じがするんだよね。どこかに融合されている可能性も有るかも知れないけど…。」
「『馬の大事な部分』ってなんですか??」
「まあ、俺たちみたいに地球の人間に限らず、人間が召喚される事自体が特殊な事例で、普通は有るはずの無い事だから、何らかの補正の意味もあって『猫の耳』と『尻尾』が融合され…」
「ねえねえ!ハルトさん!『馬の大事な部分』ってなんですか??」
「チンコだよ!馬のペニス!おちんちん!馬の脚とチンコはコッチではチカラの象徴なの!チカラ系のステータスを付与する時には必須のアイテムなの!女の子だと配慮して言わなかったのにどうして自分から地雷に踏み込んでくるんだ?きみは?????」
あまりものしつこさにキレてしまう。
なぜ、オブラートに包んで言っているのかが分からないなら直接的に言うしか無い。
必要なら女子高生だからって容赦しないのが俺の流儀だ。
((((ガーン))))
さすがの事態に真っ青になる妙子。
人がわざわざボカして言ってるのに、この子はやっぱりアレなのかも知れない。
「じゃあなんですか?ねこみみが付いてるって事は、う・・うまのお・・・・がついてるかも知れないって事ですか?どこに!?どこに!?まだキスもした事ないのにそんなモノ付いてたらお嫁にも行けないじゃないですかぁぁ!!わーん!!もうやだしぬー!!」
うん。まあ、そう考えても仕方ないよね。
俺も一瞬考えてはいた。
だから、考えないようにしてにスルーしていたと言う所もある。
猫耳女子高生に尻尾まで生えてると言う事は一緒に素材として使った馬関連の素材が融合していないとは、馬の部分を見てもいないのに言い切れないのだから。
馬並みのアレが生えた女子高生なんてもう何と言えば良いのか…。
「取り敢えず、妙子ちゃん。さっき、お互い自己紹介をしたよね?あの時点で俺と君の間には主従契約は完了している。この召喚陣で召喚された君のステータスをマスターである俺は見る事が出来るんだ。どう言う状況なのか把握したいからステータスを確認をしてみても良いかな?」
「ぐすん…。それってどう言う事ですか…?」
「外面的な情報と、能力を数値化した情報、あとは大体の気分や状態などかな?例えば店番をしている時に強盗が入ってきて魔法で眠らされたなどステータス異常が発生した時とかにはステータスにその状態が表示されて、設定さえしていれば俺に通知されるみたいな?そう言う情報をマスターは見ようと思えば視覚的に見えるんだ。」
「ぐすん…。それってどのくらいの情報が表示されるんですかぁ…?チンコ生えてるとか表示されるんですかぁ?体重何キロとか表示されませんよねぇ?」
なんだ…。このチンココンボは…。
こいつは絶対自殺するタイプじゃない。
なんでこんなのが自殺しようとしたんだ?
「あー。チンコに関してはステータスを見てみないと分からないけど、身長とか体重は表示されるかなぁ…。急激な体重増加は重力攻撃を受けてる可能性も有るから基本データは把握していないと何かあった時に対処できないし…」
「仕方ない…。見ても…良いですよ……。でも、必要ない所は見ないでください…ね?」
あー。何か疲れる…。何なんだろうこの子。凄く疲れる……。
なんだろうか。これがジェネレーションギャップなのか…。
取り敢えず、ステータスを見てみるか…。
『!!!!!!』
「なるほど。そういう事か…。でも。なぜ?あっちでこれを?」
困惑する俺に困惑する妙子ちゃん。これはちゃんと話を聞いた方が良さそうだ。
「妙子ちゃん!どうでも良い事を先に済ませるよ!チンコは生えてない!馬系の素材は内部的に消化されていて、猫系の素材だけが何らかの原因で表面に融合されたみたいだ。それよりも…」
だが、そんな事は本題ではない。
「良かったぁ…。馬のおちんちんは付いてないんですね!」
更に本題ではないのだが…。
ああ。これはきっと言いたいだけだ…。
「あれ?でも、良かったような?良くないような?内部的に消化ってどう言う事ですか??」
「あー。そんな事はどうでも良いんだが。君は色々と『馬並み』って事だ。それよりも…」
「それよりもってなんですか!?『馬並み』ってなんですか!?」
「良いから!わかった!説明するから!まずは俺の話を聞いて!生死に関わる大事な話なんだから!」
馬並みが気になるようだが、取り敢えず黙ってこっちを見てくれた。
「ステータスを見てみた結果、分かった事がいくつか有る。」
妙子を見ると真剣な眼差しで見つめている。
さすがに生死に関わるとなると天然でも真剣に聞いてくれるみたいだ。
また、チンコチンコ言われたのではたまったもんじゃない。
「まずは肉体面。取り敢えず肉体的には猫の部分以外は問題ない。耳が四つあるのが気持ち悪いとか、尻尾が変な感じがしてイヤだとか受け入れられるならメリットしかないと思われる。馬の部分に関してはステータス的にも『馬並み』としか表示されていないから推測にしかならないが、力のステータス値を見た感じだと効果は発動しているので運動能力に関する記述じゃないかと思う。君は『馬並み』のチカラを持った猫耳怪力メガネっ娘女子高生と言う以外は普通の『伊丹妙子』と言って良いだろう。猫耳は付いた事やステータス効果が付与されて何が出来て何が出来ないかの確認は後回しで良いだろう。」
言葉を切ったタイミングで妙子が何か言おうとするが、その言葉を遮り続ける。
ここで口を挟まれるとまたグダグダするのは目に見えているからな!
「だが、召喚以前からと発生していると思われるステータス異常が有る。」
「召喚以前から?ステータス異常ですか??それって毒とかマヒとか?」
理解が早くて助かる。
ここで躓いては手間がかかる。ここからが大事なのでゆっくりとした口調で聞き逃さないように、そのステータス異常の状態を伝える。
「そう。状態異常とか言われる事もあるな。落ち着いて聞いて欲しいんだが君には死の呪いがかけられている。」
「え?え?え?」と、あまりにも現実感の無い『死の呪い』と言う言葉に妙子は困惑した。
そうなるのも仕方がない。召喚以前からのステータス異常など俺にも説明が出来ない。
さっきまで彼女の居た世界では呪いなど普段の生活で関わる事など無いのだから。
「順を追って説明する。俺も口に出して考えないと考えがまとまらない程度に困惑しているから付き合ってくれ。あと心当たりがあったり考えられる理由など有れば教えて欲しい。さすがにこのまま死なれては寝覚めが悪い。」
頭が追いつかない俺の様子に、事態の大変さを感じてくれたのか「わかりました…」と頷くと、ギュッと手を結んで少し震えている気がする。
「簡単に言うと、この呪いは時限式のエンカウントタイプ。ランダムな時間にランダムな効果が発動する呪いのようだ。幸いな事に効果は一つの呪いで一日一回。ランダムに指定された時間に何も発動されなければ呪い自体も消滅する。だから。今日、何も無かったならランダムで選ばれた効果は「ハズレ」と言う事で呪いは解除されるワケだ。」
「え?じゃあ!今日何もなければ助かるんですね!!!やったー!」
と、喜ぶ妙子だが問題はそこではない。
「その通りだ。今日何も無ければ今日は助かる。」
「え?あれ?きょうは?」
気が付いてくれたようだ。ある程度気が付いてくれないと、これから言う事にもっとショックを受けるだろう。
「ああ。『今日は』だ。君には二千四百八十二日分この呪いが重ねがけされている。」
「にせん?」
「そうだ。二千四百八十二日分の呪いだ。」
「え?意味がわからないんですけど?それも召喚の影響なの!?」
何も知らない彼女がそう思うのも仕方がない。
言ってる俺でも意味が分からないのだから。
彼女の疑問を少しずつでも解消する事で答えに近づけるなら良いのだが、こんな事をする相手だ。きっと証拠は残していないだろう。
取り敢えず、今できるのは彼女に理解してもらう事だけだ。
「いや。それはない。召喚する対象にそんな呪いをかける意味がないからな。基本的に召喚される対象は、召喚前の状態でそのまま召喚される。例えば妙子ちゃんは目が悪いからメガネをかけているよね?召喚されてもそのままだ。俺が視力強化や索敵強化などの属性を召喚時に付与していれば視力は改善されるし、逆に強力な召喚対象を召喚し意のままに従わせる為に視力を奪うなどすれば視力は無くなる。だが、その他のステータスはそのままで召喚されるワケだ。何もしなければそのままの妙子ちゃんが召喚される事となる。」
「え?でも…?呪いって。元いた世界のこの時代に?」
「この時代にだから困惑してる。妙子ちゃんも知っての通り、あっちでは魔力も神威も無いに等しい。何かの原因で失われたのか。元々無かったのかは確認出来ないが、現状で感じられないと言うのが、あっちでの常識だ。」
「そうですよね。ゲームとか物語の中だけのお話だもん。」
「その通りだ。俺もそうだと思っていたが、今の俺たちの状態を考えるとどうだ?地球生まれの俺でも勉強して体得すれば『魔法』と呼ばれる技術を操れる。」
「もしかして魔法って勉強すれば私でも使えるようになるの!?」
「ああ。可能だ。こっちの世界ではね。魔法や魔術、神術は少し異なるが、基本的に学問で技術だ。例えば電気。コイルに電気を流せば熱が発生する。電力量と抵抗など計算して設計すれば電気ストーブが造れる。それはそうなると知っていて電気と言うエネルギーが有るから作れて使えるワケだ。魔法も同じ様に言葉や図形など公式にそって設計し、体内に蓄積されたマナ火種とし、空間中のマナと言うエネルギーを魔術反応させる事で魔法が使える。ただ、それはこの世界での話。さっきも話した通り、あっちでは魔法を発動させるためのエネルギーがほとんどない。少なくとも普通の人間が感じられない。昔はあったのかも知れないし、それを集められる特殊な人間が居たのかも知れない。もしかしたら何千年も昔にこっちからあっちに何かの理由で飛ばされた人間が居て、蓄積された魔力量だけで魔法を使い、それが伝説として語られている可能性もある。だが、多くは空想の中の出来事として認識されているのは俺たちの共通認識だと思う。」
「でも、その呪いって私が向こうに居た頃にかけられているんですよね…?」
「だから状況が見えないんだ。向こうで魔法が使えたとしても、こっちに比べると子供の遊びレベルだと思う。呪いや呪術は人の悪意が大きなエネルギーとなるとは言えマナの薄い地球では儀式も無しに人を呪い、ましてや呪いをこんなに重ねがけできるとは思えない。もし、悪意だけでこれだけの呪いをかけるとするなら狂っている。仮に出来たとしてもそんなの人間が出来る事じゃない。人間じゃなくなっている可能性だって考えられる。いや。でも、あっちで人を変質させる程のマナが有るワケがないな…。悪魔や魔物が現界してと言うのも無理がある。あんだけ信者が居て神的な存在が神威を示せない土地だぞ?いや。あれは神しか出来ない赦しを司祭が行うなど勘違いした行為による影響か。えー?でも、そうなると向こうで神威が発動しないのは勘違い宗教がマイナスの祈りを行っているからか?あー。でも。マナの発生はそことは関係ないはずだから、どちらかと言うとマナを必要とする呪いには当てはまるはずがないよな…ブツブツブツ」
ある程度、説明し終わり色々な可能性を考える。
あまりにも異常な呪いを目の当たりにして俺も余裕が無い。
口で説明し終わっても全然考えがまとまらないのだ。
どうすれば、こんな呪いをあっちの世界でかけられるんだ?
こんな事が出来る人間がいるとは思えないし、する意味も分からない。
一人、考え込んでいると痺れを切らしたのか大きな声で妙子が叫んだ。
「あのー!ハルトさん!結局、私はどうすれば良いんですか?このままだとどうなっちゃうんですか?」
事はそんなに単純じゃないが、このままだとどうなるのかを単純明快に教えるしかないな。
最悪の場合を覚悟してもらわないといけない事実に変わりはない。
多少、心苦しくはあるが、今はそれしかできないだろう。
俺は覚悟を決めると、単純明快な答えを妙子ちゃんに伝える。
「あー。悪い。少し色々違う方に頭が行っていた。結論から言うと、このままだと妙子ちゃんは確実に死ぬ。以上。」
『え?』
『えぇ?』
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええぇぇぇぇ!?』
アッサリと告げられた確実に死ぬ宣言に妙子はただただ呆然とするしか無かった。