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其之一|第三章|猫耳女子高生が現れた!コマンド?

2017年06月07日 加筆・修正

 湿気を含んだ空気が全身を覆う。

 湿度管理は行っているので不快ではないが少し肌寒い。

 夕食を終えた晴人はシンクに洗い物を残したまま、地下の工房に向かった。


 本業で使っている工房は地下深くに有りひんやりとしている。

 地上の『家屋』兼『工房』兼『店舗』と比べると、薬品や食品を保存するにはバッチリの環境だ。


 低温で保存しなければいけない材料などを管理する場合には重宝する。

 問題点として、こっちの工房は地下深くに有りイチイチ取りに来るのが面倒なくらいである。

 引きこもり生活も長くなると、手の届く範囲に物があって欲しいものだ。

 イチイチと地下の部屋まで来て物を取りに来るなんて、正直ゴメンなのだが地上では保存出来ない物も多いので仕方がない。


 仕方がないので冷蔵・冷凍が必要な物や、薬などの材料以外は置かないようにしている。

 研究などでこっちにこもる事も有るので、保存の効く食料を少し。資料となる本。表に出しておけないような本。あとは机代わりにコタツの様な物を置いてるだけだ。

 自治組織の会議など雑用の為に地上には出ないといけないとかが無ければ、ずっと地下に引きこもって居たいのだが、そうも言ってられない。


 今すぐにでも地下に引きこもってて良いよと言われれば、ずっと引きこもって居られる自信はあるのだが…。


 街の状況を把握して維持・管理するには、ずっと地下で引きこもっているワケにも行かないのである。


 街の連中には内緒にしているが、実はあの街を含む周辺の土地・建物の全ては俺の物だったりする。

 資金は師匠から借金をし、開拓団を募集して開墾。上の街の建設も一従事者として自ら参加した。

 大まかな維持・管理は信頼できる他の者にある程度任せているが、この街の実際の運営者は俺であり状況によって細かな指示を出す。


 そう。自動で金を稼ぎ、俺が安心して引きこもる為に師匠が叩き込んでくれた術の一つが『街の運営』である。


 商売として街を個人で運営するなんて博打と言っても良い。

 と、言うか元の世界ではそんな事を個人で出来るとは思えない。

 少なくとも自殺失敗前の元の生活ではそんな事は考えられなかったし、そんな事をできる人間が居たとしても個人で新たな街を開くなんて事はゲイツでもしないだろう。


 本来、街と言うのは利便性や環境と言う条件の元に自然に人が集まり、自然に街が形成される。


 現代の街が計画的に造られている様に思うかも知れないが、それはその土地の先人たちが開拓した上に造られているので、もともとの下地が有るから成立する話なのだ。


 俺のように開拓団を募集し、自ら荒れた大地を開拓し、この土地の決まり通り開拓者に分配された開拓地を金や貴金属で買い取り、街を拡大しつつ人を呼び込み、街の全てを掌握するなどと言う行動は大博打。


 大博打と言うか大馬鹿である。


 だが、この世界では、そう言う事を秘密裏に行っている者は意外と居る。

 俺を助けてくれた、うちの師匠もその一人だ。


 街道から大きく外れない辺りに街を造り、人が集まるアトラクションを用意する。

 アトラクション目的で人が集まれば、そこにはアトラクション以外の商売も生まれる。

 商売が成立するなら、仕事を求めて人が集まる。

 人が集まれば、商売が拡大する。

 立地と条件。人の流れを作ってやれば金が動く。

 立地と条件が整った街で、施設や土地を格安の条件で貸し出し、事業者に有利な条件を整え、仕事を増やす事で、更なる人の流れを呼び込み街を活性化する。

 これは未開の土地が豊富なココだから出来る事だとは思うが、上手くハマれば一生引きこもっていられる条件が整うと言うワケだ。


 まあ、ここまで思惑通りに事が進むとは思わなかったが。


 本業の事を考えると更なる拡張も必要になってくる気もする。

 だが、街の方はここまでくれば、指示と許可を出すだけで自然と整備が進むだろう。

 取り敢えず、今はある程度の状況を把握しておき、もう少し落ち着いたら本業の方に力を入れれば良い。


 せっかく、地下まで降りてきたんだ。本業を円滑に行うためにも朝になるまでに作業を終わらせよう。


「さて。そろそろ時間もアレだし、始めるか。」


 時刻は深夜の二時前。


「まあ、間に合うか。」


 マーケットで買ってきた猫の耳と尻尾、馬の脚と馬の大事な部分をテーブルに置いておく。

 後で必要になってくるから手の届く範囲で。

 皿に入れたスッポンの生き血に、レモンの果汁を少々。

 これは生命力と若々しさのシンボルだ。


「・・・ッ」


 右小指の先をナイフで少し切り俺の血を、生き血に加えてかき混ぜて…


「生と死の間に住まいし魂の道標となれ。」


 そう唱えると、赤かった生き血が青白く輝き出す。

 小指でかき混ぜながら俺の血を馴染ませる事で、俺に隷属する使い魔が呼び出せる。

 本日の目的は力仕事と、上の店の店番ができるくらいの知能を持った使い魔の召喚だ。


 すっぽんの生き血と俺の血が馴染んだ所で磨き上げた床に召喚陣を描き始める。


 二重の円と逆三角形を描く。

 これは束縛と隷属を表す基本の形だ、

 今回はランダムで召喚するから、万が一の場合に備える。

 これをしておかないと、最悪の場合は使い魔が暴走して俺が食われる事となる。


 使い魔の単独活動も考えられので監視も必要だろう。

 中心に目のマークを書きで監視ができるようにしておく。


 店番を任せたいのでコミュニケーション能力は問題がない程度に備えておいてほしい。

 そっち方面の記述もしておくか。

 計算だと問題ないはずだが念には念を入れておいて損をする事はない。


 他にも条件を書き込み、最後に希望するだいたいの大きさと人型の姿絵を書き加える。


「うむ。いい感じだ。召喚陣の方は完璧だな。」


 召喚陣の確認が終わったら、次は『贄』の配置だ。

 この『贄』を配置する事で、希望の能力をステータスに上乗せ出来る。

 何がしたいかによっても『贄』の使い方が変わるのだが、その話はまた別の機会にしよう。


 今回は贄として『猫の耳』と『猫の尻尾』を配置する事で魅了の効果を。

 『馬の脚』と『馬の大事な部分』を配置する事で怪力の効果を付与する。

 この程度の『贄』だと、効果の幅はランダムなので少し不安は残るが、最悪でも愛想が良くて荷物持ちが出来るくらいに力持ちなら許容範囲だろう。


「よし。こんなものだな。」

 疲れている割には仕上がりも良く、意外と早く準備が出来た。


「まだ、時間まで少しあるな。」

 集中力を上げるために地下で冷やしてストックしているコーヒー牛乳を入れて一口すする。

 疲れた頭と体にコーヒー牛乳の甘さと冷たさが染み渡る。


 召喚術は、召喚陣も大事だが召喚する時間やタイミングも重要となる。

 何かを召喚するには適切な時間と言うものが有って、逢魔が時や丑三つ時と言うのがそれだ。

 個人的な経験則で言うと、逢魔が時には人外が呼び出しやすく、丑三つ時には人に近い者が呼び出しやすい。


 今回、この時間に召喚を行うのは人前に出せる人型の使い魔をランダム召喚で召喚する。


 運が良ければ人型の最高峰である神や神に近い存在を召喚出来るだろうし、運が悪くても受肉したゴーストやサキュバス・インキュバス辺りくらいは引けるだろう。

 まあ、神なんて引いてしまった時には、さすがにお帰り頂くか違う仕事をして頂く事になるだろう。今回の場合はある意味ハズレである。

 使い魔として召喚したとは言え、神様を使い魔として使うのはさすがに気を使うしコストパフォーマンスも悪い。


 もちろん、ランダム召喚ではなく召喚対象を決めて召喚出来なくもないが…

 そうなると条件が一気に厳しくなる。

 召喚対象によって条件の難易度は変わって来るが、ランダム召喚のように適当な贄では召喚に失敗する。


 マーケットで買ってきた贄では質や鮮度が足りない。

 また、召喚対象に由来する贄が必要なので、それに必要な素材を揃えなくてはいけない。

 召喚陣と言うのはいわゆる公式。

 正しい答えを出そうとすると、正しい公式通りに計算をしなければならないのと同じだ。

 召喚の精度を上げようとすると、より正確に召喚陣を描き、より必要な条件を準備してやらないといけなくなる。


 個人的な感覚的には、検索エンジンで条件を複数設定してやるほど、検索結果が絞りこめるのと似た感じじゃないかと俺は思っている。


 以前に、ミノタウロスっぽい者を召喚した際には、生きた牛を解体し必要な部分を選別し、1週間以内にギロチンで処刑された罪人の死体を調達して、分度器や定規で正しく召喚陣を描き、一千字近くの条件を適切な場所に書き記すと言う重労働を行って初めて召喚する為の準備が完了したと言う状態になる。


 その上に、充分な魔力量を蓄え、詠唱の完了時間を秒単位で指定の時間にピッタリ合わせなければならず、発動に失敗すると1秒単位のズレで失敗し、召喚対象ではなく召喚対象に似たような者が召喚される。


 何度かミノタウロス系を召喚しているが…。

 失敗してディフォルメされた二足歩行のかわいい牛を召喚した時には、親の交尾を見てしまった時の様な何とも言えない気持ちになったものだ…。


 きっと、エロイムエッサイムの男の子も同じ様な苦労をしているに違いない。

 マンガやアニメで簡単に召喚している様に見えるのは、見えるだけなので召喚者の苦労を知ってほしい!

 なお、召喚陣と素材を圧縮して時間固定された物や、召喚した者を圧縮して封じ込めた物も裏で流通しているが、小物で給料の三ヶ月分。大物だと国が買える値段の物も有るには有るが値段を考えると手の出るものじゃないのであまりオススメは出来ない。

 コマンド選択でリヴァイアサンを召喚出来るとかマジでクソゲーなので、良い子は召喚の醍醐味を楽しむために是非とも通常召喚を行ってほしい。


「さて、そろそろ時間だな。」


 時刻は深夜二時二十分。

 この程度の召喚なら1分有れば問題ないだろう。

 後は、微調整をして二時二十二分を狙う。

 当たりを引くかハズレを引くか。

 その辺りはコンマ0.1秒の運次第と言う所か。

 保険として宝石が埋め込まれた儀式用のカトラスを構えて詠唱を始める。



「死と生の間に住まいし魂よ。我が呼びかけに応えよ。」



 詠唱を始めると召喚陣が青白く光りだす。

 徐々に魔力を込めて、力を持っていかれないようにする。

 焦って魔力を注ぎすぎると召喚陣が決壊する可能性がある。

 ゆっくりと魔力を込めて行き、丁度いい所で次の詠唱を行う。



「我が求めに応じ、我が血を寄る辺とし、我が捧げし贄を喰らい、その姿を現世に表せ。」



 召喚陣は光をさらに増し光の中にシルエットが浮かび上がる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇぇぇ???」

 人の言葉を発している気がする。

 これはハズレじゃないな。

 俺はコイツを逃さない様に更に魔力を込めて最後の詠唱を唱えた。



「我が使い魔よ。汝の姿を我が前に晒し、血と贄の契約に応じ現界せよ!」



 詠唱を終えると、ひときわ強い光を放ち完全に俺の視界を奪う。

 あふれる光の中に何者かの気配は感じる。

 召喚自体は成功したようだ。


 束縛や隷属が失敗していた場合、最悪はこの時点で襲われて「THE END」と言う事も有る。

 だが、今回はその心配も無さそうだ。


 光は和らぎ視界が戻ってくる。

 緩やかに光が収まって召喚陣の中に何者かのシルエットは確認出来る。


 普通なら、このあたりで召喚された者は跪き自分が何者かを告げるのだが…


 ・・・・・・。


 反応が無い。


「失敗か?」


 ここまで来ても失敗している可能性は無いとは言えないので、相手が名乗る前に近づくのは危険なのだが…。


「仕方ない。異常事態だ。確かめるか。」


 最悪の場合、相手を封印する為の儀式用カトラスを構えて召喚陣に近づく。

 光の中でぼんやりしか見えないが、何者かは召喚されているようだ…。

 大きさ的には一三〇センチ後半から一四〇センチ前半。

 翼などは無く、人型タイプのようだ。


 動きはない。


 更に歩みを進めて相手を目視出来る位置まで進む。

 猫耳の様な物が見え、女性タイプ。

 そして、ブレザーの制服の様な衣装。

 と、言うかどこかで見た事がある高校の制服だ。


 うん。意味が分からない。


 俺の前に現れたのは、ぐったり寝転がっている猫耳の女子高生だった…。

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