其之三|第零章|プロローグ
「そうそう。この世界には様々な種族が共存しているのさ。」
俺がこの世界に住む種族が人間だけではないと聞いたのは、この世界に召喚され体力が戻りつつある頃だった。
親友だと思っていたあいつに追い詰められ、睡眠薬を大量に飲んで自殺を図った俺。
その直後、俺はこの世界に召喚された。
人間を召喚すると言う異常事態。
師匠の長い魔法使い生活でも初めての経験だったそうだ。
「しかも、その召喚物が死にかけていると言う大失態にに大慌てだったさね。全く。」と、未だに言われ、既に師匠の中で俺と再会した時のネタと化している。
俺の身体を徹底的に調べて、睡眠薬を全部吐き出させ、師匠の解毒により一命を取り留めた俺を一生懸命看病してくれた事には感謝するが、そろそろ許して欲しいものだ。
口に出して感謝を伝えると、すぐに調子に乗るので感謝を伝える機会はなかなか無いが、壊れかけていた俺が今の状態まで回復出来たのは、師匠のお陰だと言って間違いないだろう。
師匠が看病しながら色々と話してくれた話の一つが、この世界に住む人々の話。
この世界について何も知らない俺に一つ一つ丁寧に教えてくれた。
この世界が剣と魔法の世界であると言う事。
師匠が魔法使いであると言う事。
魔術が有り、魔法が有り、神の威光が目に見えて感じられる世界だと言う事。
そして、魔獣が居て、魔族が居て、亜人種が居ると言う事。
今までの常識が全て覆される世界。
師匠が話す全てが衝撃的で最初は信じられなかった。
師匠にとっては普通の話を普通にしているだけ。
だが、俺がいちいち驚くのが面白かったのか色々な話を事細かに教えてくれた。
「マジですか…。俺も十代の頃にはそんな世界に憧れはしましたけど、こんなラノベ展開が自分の身に降りかかるなんて。」
俺の両親が厳しかった事も有り、親の期待に応えると言うストレスの逃げ場として小中高とゲームに依存していた時期があった。
勉強をこなして空き時間を作り、いかに親に隠れてゲームをするかが青春の日々の全てだったとも言える。
高校で留学をしたのを切っ掛けに、その時の経験から目標が出来てゲームとの距離を取り始め、目標を叶えるために勉強に打ち込んだので、社会人になるまではゲームやファンタジーなんて疎遠になっていたが、根本的には嫌いじゃない世界観だ。
その世界が、この部屋の外には広がっている。
その事実に心を踊らせた事は、今も鮮明に覚えている。
「ラノベと言うのが何かは知らないが、きみの元いた世界の様にヒューマン系だけでこの世界が構成されている訳ではない。確かにこの世界でもヒューマン系の数は多いが、他の種族の方がこの星に貢献している割合は大きいだろうさ。」
この話を聞いた時には具体的にどう言う事なのかは理解できなかった。
この世界でも、人間が多く繁栄しているが、実際に仕切っているのは他種族なのだろうかと言う想像は出来た。
だが、種族の特徴やらパワーバランスやら交流やら関係性などについては教えて貰えなかった。
こちらに来て間もない俺の反応を楽しみたかったらしい。
詳しく教えて欲しいと言ってはみたものの「まあ、それは自分の目で見てからのお楽しみさね。」と言う言葉を素直に受け入れて、それ以上はしつこく聞かなかったので「あの時はきみの反応が面白くなかったから話すのを止めたのさ。」と、後に聞かされる事になる。
あの時、もう少しネバって聞いていれば、もうちょっと早くこの世界に住む人々の事を知れていたのかもしれない。
次にこの世界の種族について知る機会が訪れたのは、師匠に同行していわゆるエルフが住む森へ招かれた時の事だった。
飛行魔法で自分と俺を浮かべて空を飛びながら、エルフが住む森へ行く際の道中に師匠が色々と話してくれた。
何かしらの原因で、こちらの世界と元の世界に共通概念が有るのかも知れないが、こちらの世界のエルフも俺が想像したままのエルフであった。
森に住み、自然を守り、長命で美しい種族。
師匠曰く「この世界の木々を守り、自然と人との橋渡しをする種族」なのだそうだ。
そこが違っていた。
俺の認識では、エルフと言う種族は他種族を嫌い、森を荒らす者を決して許さない種族と言うイメージだったが、この世界では自然と人との橋渡しをしているという、実に友好的な種族だったのだ。
他にもエルフと言うとドワーフとの仲も悪いと言うイメージだが、そう言う事も無いらしい。
エルフも自我の有る生物だ。
感情も有れば憤怒もする。
人間同様に好き嫌いも有る。
過去にはドワーフや人間と争った事も有るらしいが、もう今はそんな事は無いと言う。
全てが全てとは言えないだろうが、そうなったのはこの世界の歴史が関係する。
『太古の魔王の物語』
この物語は事実を元に今も伝えられている伝説だ。
何千年と言う長い時間の流れと、勝利者側が書いた物語として伝わっているので、都合よくコミカルに語られる事も多いが、その千年にも及ぶ戦いは熾烈を極めたそうだ。
異世界から魔王カルキノスが手下を引き連れて現れ、この世界の全てと対峙した。
その戦いの中で、双月に住まう双子女神の下に魔族を除く全ての種族が結束し、魔王カルキノスを封印した事により魔王との戦いは終結する事となる。
よく有るの話なら、その結束も忘れて平和な時間と共に過去の因縁が再燃し種族間抗争が勃発するのだろうが、この世界ではそうなる事は無かった。
先の戦いで力を貸した双子の女神が発した警告。
~異世界から現れた魔王は再び舞い戻るだろう。人々よ備えるのだ。~
その言葉を信じて、人々は更に結束を強くする事となる。
方法は簡単だ。
女神の助言により、これまでタブーとされてきた種族間での血による結びつきを作る事で結束を促した。
~それぞれの種族から優秀な男女を選んで最も優秀な者同士で婚姻関係を結んで子を宿せ。そして生まれた子を世界の王とせよ。~
これが、この世界を統べる王家の始まりだった。
その後は、長子が男子の場合は女子を、女子の場合は男子を、各種族からその時に最も優秀な者を選出し婚姻させる事で血は紡がれ、今に至ると言う。
現王もそうした王達の末裔。
全ての種族の特徴を持った『王』と言う種族は人工的に創られた。
混血に混血を重ねて既に『王』と言う種族として確立している。
全ての種族の特徴を併せ持つ王。
その子供には王のパートナーとなった種族の特徴がより強く出る。
パートナーがエルフなら魔力が、ドワーフなら身体能力が、ホビットなら素早や器用さが。
それは、次の王が必要とする能力だとも言われている。
ちなみに王の容姿は、王家に迎え入れた親に左右される事は無く、全ての種族を合わせたような中性的な顔立ちで生まれ、どの種族を親として生まれたとしても身長は人間の平均身長を少し低くしたくらいに育つらしい。
親となったパートナーの種族を引き合いに「現王はハーフエルフだそうだ。」と言う言い方をする事も有るが、それはあくまでも民衆の間で現王が近々で、どの系統を引き継いでいるか話す際の話し言葉の様なもの。
それは何かの差別や区別と言う事ではなく、この世界の要となる王がどの様な王なのか理解を深める為の会話にすぎず、現王がどの様な王なのか深く知りたいと民衆に思われるくらい愛されている存在なのだそうだ。
少なくとも、腫れ物の様に扱われる事は無く、どの様な王なのか口にも出来ないと言う事はない。
もちろん、王の存在や在り方について一般の民衆が物申す事は出来ないが、そう言う考えを持つ者は少数派で、ほとんど居ない。
良くも悪くも人は情報に流されやすい生き物だ。
王が創られる起源となった「太古の魔王の物語」ですら何千年も経った今ではコミカルに語られる童話と化している。
王の正当性を歪められ、王家打倒と言う流れも考えられなくはない。
だが、これまでその様な事は無かったらしい。
有っても、それが叶うことは無かった。
生きる伝説として存在し続ける王家。
そして、その存在を理解し敬い慕う民衆。
王が責任を果たし、民衆はそれを見て感じ生きている世界。
その絆は強く小悪党が覆せるものではない。
そう考えると民衆に慕われ敬われる王は幸せな王なのだと言えるだろう。
こうした『王』の存在により、この世界の平和は成り立っており、そうやって紡がれた血の結束が、この世界のバランスを保っている。
「ふむ。何にせよ王と言う存在が、この世界をまとめているんですね。」
その時は、それだけだと思っていた。
「まあ、そう言う一面も有るさね。だが、王も万能じゃないからね。だから、私達の様な者が今回の様に依頼を受けて動くのさね。」
そう。王にも解決が出来ない問題は存在し、時にその問題は知恵者に委ねられる事がある。
この時の問題もそう言う類いの問題だった。
「まあ、今回の問題は難しい仕事じゃないさ。さっさとドラゴンにはお帰り頂いてエルフの作る果実酒を堪能するだけの簡単なお仕事さね。きみはしっかりと見て今後の糧となさい!」
そう言うと師匠はエルフの森に向けて速度を上げた。
初めて生身で空を飛ぶと言う初心者の俺を忘れたかの様に。
だが、急ぐのには理由があったらしい。
それを知ったのは随分と後の事だった。
そう。
この世界には王だけでは解決の出来ない問題が平和に見える世界の影に潜んでいるのだ。
どうも。となりの新兵ちゃんです。
と、言う事「其之三」のリリースです。
第一章も同時にアップしたかったのですが、忙しくてあまり進んでないので、のんびりと待って頂ければと。
其之三では、たぶん他種族とかの話がちょっと絡んでくると思います。
この世界での王様やら神様やらの話もちょこちょこ入れて行ければ良いなとは思っています。
が、どの様に仕上がるかは私も分かっていないので、どうなる事やら。
ただ、ハルトさんは今回もおんもで遊ばされそうな気がします…。
ダンジョン関連の話とか引きこもらせてあげたいんですけど、状況がそうさせてくれない気が…。
出来れば「其之三」の間にダンジョン関連の話とか書きたいんですけど、色々と引っ張りまわされそうです。
まあ、どうなるかも含めてお楽しみ頂ければ幸いです。
と、言う事で今回もお付き合い頂きありがとうございました。
それでは、またいつか。




