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EX-1.1|Do you even think that you can believe the devil?

 人間と言う生き物は自分の都合が良いと思う事を信じたがる。

 冷静に判断しなければいけない窮地の場面でも、自分の都合の良い様に解釈をしてドツボにハマる。


 そして、気が付いた時には抜け出せなくなり思考を停止させる。


「糸氏さん。本当にありがとうね。もし、ご迷惑でなければ、またご飯でも食べにきてね。妙子の話をもっと聞かせてもらいたいの。」


 そう。このババアの様に。


「はい。私も妙子ちゃんの事が心配なので、分かった事が有れば報告に伺いますね。」


 ババアを信じさせるのは実に簡単だった。

 仲の良い友人を装うだけでホイホイと家に中に入れ、クソ不味いメシを振る舞う。

 伊丹妙子の異変にも気が付かず、この私が伊丹妙子を追い詰めた首謀者だとも疑わずに。

 伊丹妙子が私の呪いで苦しんでいた事も知らずに。


 こんな不感症の親に育てられた割には、よく曲がりもせずに健やかに育ったものだ。

 わたし好みの潰しがいのある真っ直ぐな子に。


 伊丹妙子の母親と知り合ってからと言うもの、私は度々彼女の家を訪れていた。


 逃した獲物が大きかったと言う事は無い。

 伊丹妙子は、どこにでもいる普通の十七歳の女子だ。

 普通の家庭で、普通に育った、普通に幸せな女の子と言って良いだろう。

 獲物としては私が狙うどこにでも居る一般的な女の子。

 でも、その思春期の普通の女子が抱える複雑な負の感情と言うのは非常に美味で私の好物だ。

 幾重にも呪いをかけ、何ヶ月もかけて熟成させた負の感情を孕んだ伊丹妙子。


 それ以外、伊丹妙子は普通の女の子と言えるだろう。


 普通じゃない部分があったとするなら、それはその消え方だ。

 私の栄養となるべく何重にも施された呪いの数々。

 食べごろまで追い詰められた伊丹妙子が、ある日スルッと逃げ出した。


 私に感知される事なく。


 あぁ。


 実に不可解だ。

 実に不愉快だ。


 そして、口惜しい。


 逃した獲物は大きくはないが理由も分からず消えられると言うのは面白くない。


 鈴は付けていた。

 普通なら逃げ出そうとしても無駄だ。

 この街から逃げ出そうと行動すれば鈴が鳴る。

 そう。鈴が鳴るはずだった。


 だが、ある日突然伊丹妙子はこの世界から消えた。


 神隠し?

 ハッ。ヘソで茶が沸く。


 確かに、この世にはいわゆる神やそれに類似する者が居たような痕跡は有る。

 今回の件も正に神の御業と言ってもおかしくはないだろう。

 だが、神の御業だと言うなら伊丹妙子が消えると言うのはおかしな話だ。

 消える必要など全くないのだから。


 大体、神隠しと言われる現象には、私達側の何者かが関わっている場合が多い。


 この国では不可思議な事をまとめて神とする。

 それだけじゃない。

 全ての物にも魂が有ると言う考え方をし、長年使われた物や粗末に扱われた物も神格化する。


 それは、ある種の封印の様な物。


 魔の物や不可思議な物を神格化して特別な場所に祀る事で、荒ぶる魂を鎮め、封印とし、境界とし、おいそれと触れられ様に崇め奉る事で、それらが人間に障れない環境を作ると言うのが、この国の人間が考えた『人外』との距離の取り方であり付き合い方。


 近づきすぎた人間を罰を使って追い払うのが「神」だとするなら、自分の領域に誘い込み喰らい尽くすのが「魔の者」であり、神隠しと言うワケだ。


 神と呼ばれる不可思議な者たちは人に近づきすぎると障る。

 それは、この国の神々だけでなく、西洋の神々にも言える事だ。

 そう。神と言われる存在達は善だろうが悪だろうが人間にとっては濃度の高い毒なのだ。


 濃度の濃い酸素と同じで、恩恵を受けられる濃度と言うのは決まっている。


 この国には「触らぬ神に祟りなし」と言う言葉が有るが、神からだろうと、人間からだろうと何の対策も無しに近づけば、その濃度により人間は傷つき、神は穢れに染まり、魔の者は玩具を得る。


 本来、この国で言う所の「神」と言うのはそう言う者なのだ。


 アブラハムの神を感じた事など無いが、もしも本当にヤツがこの地球を作って過去に人間に干渉していたとしても、直接は何も出来なかっただろう。


 故に神よりも神格の低い天使なんて存在を利用して干渉していたのかも知れないが、目に見えて人間に干渉をしなくなり、その威光も感じる事の出来ない現在の世界では確かめる術もない。


 だから、人間がこれだけヤラかしている状況でも何の干渉も行わない神が、伊丹妙子だけをひっそりと連れ去ると言う可能性は無いと言える。


 そんな事をしてヤツに何の得があると言うのだ?

 魔の者の仕業だとしても、私がつばをつけた伊丹妙子を連れ去るとは考えにくい。

 私たちは意外と綺麗好きなのだから。

 他人がつばをつけた者など喰らおうなどとは思わないはずだ。


 過去にゼウスが人妻だろうと見境なく手を付けたように、伊丹妙子を連れ去ってハメ倒すとでも言うのか?


 もし、ゼウスの様な蛮行が行われているのだとしても連れ去る必要が有るのか?

 どう考えてもナンセンスだ。


 様々な神については、私も調べた事がある。

 調べた事は有るが、誰かが隠匿しているのでは無いかと思うくらいに、どの線を辿っても途中で糸はプツリと切れる。


 特にアブラハムの神については、その傾向が顕著だ。

 ヤツが居たであろうと言う事は確かだと思われる。

 神の存在を隠しているのか、神がもう居ない事を隠しているのか、神が去った事を隠しているのか、神が今も何者かを通して密かに干渉している事を隠しているのか。


 それに繋がる確証はいずれも無い。


 ただ、言えるのはヤツと言う存在は実に人間的で気が短く、その割には今となっては天使を介しても接触をしてこないヘタレだと言う事だ。


「そんなヤツが伊丹妙子を連れ去る理由が分からない…。」


 その点からも、今回の件に神が関わっているとは言い難い気がする。

 そう。そんな事をする前にやる事があるはずだ。


「もし、ヤツがこっちの世界に復権するなら、まず行うのは…。」


 神がこの地球で目に見えて復権を図ろうとした時に邪魔になるのはきっと私達だ。

 何をするよりも前に真っ先に、いわゆる『魔の者』である私達が排除される。

 何をおいても私達が掃除されるのは間違いないだろう。


 私達の仲間の多くは危機感を持たずに、ここ数百年の神が居ない世界を楽しんでいる。

 魔力が少ないこの世界だが、私達が生きるための魔力は人間の負の感情から精製出来るから生きるのに困る事はない。

 元々、怠惰な私達だ。困る事が無ければ行動しないと言うのは自然な姿だとも言える。


 だが、再び神がこの世界に干渉してくる可能性は本当に無いのだろうか?

 答えは誰も分からない。


 だからこそ、備える必要が有ると言える。

 実際にヨーロッパ辺りの盟主と言える悪魔や魔人には、神の再来に備えている者は多い。

 だが、圧倒的多数の小物が神の再来に備える事はない。

 私のように日々を生きるために人間の負の感情を啜るのが良い所だ。


「いっそ、地獄に繋がるか、顕現でもしてくれれば手っ取り早いのに。」


 多分、地上に棲息する魔の者の中に地獄を見た者は居ないだろう。

 この地域での『鬼』と同じように裏返った者がほとんどだ。

 悪魔の末裔と言う魔の者も居るらしいが、希少種な上に真贋を確認する術もない。

 なによりも、そう言う『人物』にお目通りが叶うことなど無いのだから。


「まあ、居るかも分からない神の心配をするよりも、今は伊丹妙子だ。」


 小物は小物らしく、今を生きるためのエサを確保する事だけを考えよう。

 だが、分からない事を分からないままにしておくのは何をするにも良くない事だ。

 勉強でもそうだが、学生の頃に逃げていた勉強が人生の選択の幅を狭めるなんて事は、そこら中に蔓延している。


 伊丹妙子の事は諦めるとしても、今回の事をある程度調べておく事で、今後の参考にはなるかも知れない。


「取り敢えず、あの魔力の残り香は今回の収穫だな。」


 何度か伊丹妙子の家に訪れた事で、いくつか分かった事がある。


 その一つが伊丹妙子の部屋に残る濃い魔力の残り香。

 この世界では考えられない程の魔力の痕跡が伊丹妙子の部屋に残っていると言う事。


「あれは、魔の者の仕業だとは思えないな…。」


 そう。あの濃い魔力の残り香は、私達が負の感情から得る魔力とは質が違った。

 もっと、高純度で極上の魔力の香り。

 賢者の石が、あんな感じだと言う事を聞いた事がある。

 いや。聞いた以上に芳醇で洗練された魔力の香り。

 生きている間にあんな澄み切った魔力の香りに出会えるとは思いもしなかった。


「そして、魔法陣の痕跡か…。」


 そして、もう一つ。

 あの部屋にあった魔法陣の痕跡。

 ぼんやりと分かる程度だったが、その魔法陣はその状態でもレベルの高い魔法陣だと言う事は分かった。


 実に美しく効率的な魔法陣。

 分かる範囲で書き写したが、何がどうなっているのか理解する事が出来ない。

 理解は出来ないが、これが高度な技術で組まれているのだけは本能的に理解が出来る。

 神が魔法陣を使うのかは知らないが、神業と言って良いだろう。

 ぼんやりとしか残っていない状態の魔法陣でも、人間や私達が使う魔法陣を比べると、この世界の魔法がどれだけ稚拙かと言う事がよく分かる。


 そう。私の呪いなど子供のお遊びと一緒だ。


「くそ…。何者かは知らないが腹立たしい…。」


 私が魔人に裏返って百年と少し。

 糸氏樹々と名乗り、この世界で生き残る為に試行錯誤した百年と少し。

 これでも、この国の中ではそこそこの立ち位置に居ると自負している。

 その私が太刀打ち出来ないであろう魔法陣を目の当たりにしたのだ。


「あれを伊丹妙子が?いや…。あの魔法陣の主に連れ去られたと考えた方が…。」


 そう。伊丹妙子があの魔法陣を構築できるワケがない。

 そうなると、魔法陣の主があの魔法陣を使って伊丹妙子を連れ去った可能性の方が高い。


 だが、普通の女子高校生である伊丹妙子を連れ去る意味が分からない。


 あの部屋でヒントは得た。

 しかし、そのヒントが結びつかない。

 そのヒントが事態を余計に混乱させる。


「私以外に伊丹妙子を連れ去って何のメリットが有ると言うのか?」


 しかも、この世界では滅多に見る事の無いであろう高い技術の魔法陣と高純度の魔力の残り香を残してまでだ。


「アレが完全に消えるまでに何度も調査するしか無いか…。」


 長期戦を覚悟し歩みを早める。

 辺りはすっかり闇に包まれていた。

 闇の中に浮かぶ地上の星。

 LEDの街灯がやけに眩しい。

 そして見上げても地上の星にかき消される本物の星。


 裏返る前、思えば私は星を見るのが好きな少女だった。

 それが原因なのか星すら霞ませる今の世の中が嫌いだった。

 出来れば街中にあまり居たくないと思うのも、そのせいなのだろう。


 姉と慕った恋敵の彼女とあんな事になり魔人へと裏返る前まで大好きだった夜空の星。

 それすら見えない今の世界が私は嫌いなのだろう。


「ふぅ。負けたと言う思いがこんな事を思い出させるのか?」


 この百年と少し。

 魔人として裏返った『生』の中で何度か敵わないと思い知らされる出来事は何度かあった。

 負けたと思い知らされた時に決まって思い出すのは彼女の事。

 一人の男を巡って、姉と慕った彼女と争った青春の日々。


 青春?

 言葉にすると恥ずかしくなる。


 私が人としての『生』の最後に命を散らしてまで争った純粋な恋の駆け引き。

 憎み、妬み、羨み、傷き、裏返った。

 一人の男を巡って争った甘酸っぱい思い出。


 今となっては取り戻せないと言うのに。


「はぁ。馬鹿らしい。魔人とて時間をどうこう出来るワケでなし。」


 私は踵を返すと街に足を向ける。


「巣に帰る前に食事でもして帰るか…。」


 さっさと帰って眠るつもりだったが、昔の事を思い出し眠れそうにない。

 味は最悪だが、そこら辺でたむろする馬鹿どもを恐怖のどん底に叩き落して負の感情を頂くとしよう。


 まだ、夜中の三時。

 探せば時間を無駄にする馬鹿どもがうろついているだろう。

 無駄な時間を浪費する馬鹿どもだ。

 居なくなっても対した損失はないだろう。


「どうせ役にも立たない命だ。精々、私の餌として良い声で鳴いてもらおうじゃないか。」


 私は小走りで街へと歩みを進めた。

 月だけがハッキリと姿を見せる夜の闇と人工的な明かりの中へ。

 まだ、夜の匂いが残る街の中へ。

どうも。となりの新兵ちゃんです。


タイトルはぐーぐる先生にお願いしたので間違っていても気にしないでください。

だいたい「あなたは悪魔を信じれると思いますか?」的な感じだったと思います。


と、言う事で今回は、そのうち本編に絡んでくるかも知れない糸氏樹々(いとうじ じゅじゅ)さんのお話でした。

簡単に問題ない程度でキャラ説明を入れておきますね。


すでに「其之一」を読んで頂けていれば分かると思いますが、伊丹妙子にしょっぼい呪いをかけて追い詰めたのが糸氏樹々です。


今回の話で過去の話を少し入れていますが、だいたい百年くらい前に痴情のもつれと言うしょっぼい理由により裏返って魔人となったそうです。

いわゆる「鬼」的な何かだと思って頂いて良いと思います。

鬼を祀る神社とかも有りますが「神」ではないので本人は「魔人」と呼称しているようです。

魔神ほどの力も有りませんし。


妙子ちゃんには恨みなどは有りませんが、妙子ちゃんの様に一見 朗らかで健やかそうな子を貶して喰らうのが好きなようです。


余程、悔しかったのか色々と妙子ちゃんの実家にて調べていますが、いかせんショッボイので解明には至っていないみたいです。

さすがに、本物の魔力の香りとハルトの高度な魔法陣には気がついていますが、ショッボイので現段階では理解出来ていないようです。


この後、どう繋げて行こうかは検討中ですが意味なくは出していないので、今後も糸氏樹々先生の活躍を期待して頂ければと思います。


それでは、またいつか。

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