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其之二|第四章|*きばこのなかにいる*

 あまりにもハルトさんが顔を出さないので様子を見にリビングに戻った。


「・・・・・・。」


 うん。どうしよう。

 師匠さんの入ってきた木箱がぷかぷか浮かんでいた。

 抜き足・差し足・忍び足と言った具合にそろりと外に向かっている感じだ。

 中身は十中八九でハルトさんだろう。


「怪力リミット解除!妙子ゴールデンアタックーーーーー!!!!!」


 一瞬悩んだけど、取り敢えずバレーボールのアタックの要領で木箱を撃ち落としておいた。


『ぐるぼぉあ!』


 叩き落された木箱から聞いた事の無い様なうめき声が聞こえる。

 まあ、ハルトさんもこれくらいじゃ昇天しないだろう。


「もー。ハールートーさーん!さっきのは冗談ですってばー!スネるとしても木箱に入ってプカプカ浮きながら家から逃げ出そうとか意味がわからないですよー?」


『・・・。』


 返事がない。ただの木箱のようだ。


 じゃない!


 これまでに無い鬱陶しさを見せるハルトさんに若干引いた。

 でも、さっきの会話でスネているのは確実のようで少し言い過ぎた感はあったのでグッと堪える。


「もー。ハルトさん!ごめんなさいってば!少し言い過ぎました!反省しています!師匠さんが色々話してくれるから、ちょっと乗っちゃっただけです!」


『どーせ、年相応の反応じゃないからな。放っておいてくれ。』


 木箱の中からボソボソと聞こえる声。

 ああ。どうしてくれようか。面倒くさい。

 いっそ、木箱を叩き割ろうか?

 いやいや。さすがにそれは中のハルトさんまで殺ってしまう事になる。

 でも、このまま放置は出来ない…。


「ハルトさん!さっきの話って十年も前の事じゃないですか!それに、こっちに召喚されてすぐの話ですよね!混乱して素の反応をしたとしてもおかしくないですよ!」


『どーせ、今もトラウマ引きずってますよーだ。』


 うん。大丈夫。

 ハルトさんなら空気が変わった事を察知して防御してくれるはず。

 これは反逆ではなく、ハルトさんを信じていないと出来ない事。

 そう!ハルトさんを信じるがゆえ!ハルトさんを助ける為の行為!


 全 て を ぶ っ 壊 す !


「怪力フルパワー開放!妙子ちゃん木箱クラーーーーッシュ!!!!」


 ズーン。


 私の拳が木箱とぶつかり重たい音が静かなリビングに響き渡る。


 な、なんだ・・・と・・・?

 拳は怪力の保護効果のお陰で何ともないけど、フルパワーでただの木箱を壊せない?

 何をした!何をした!ハルト!!


「あー。そりゃ、アイアンカーテンさね。これは徹底的に籠城する気かねぇ~?」


「師匠さん!!!」


 予想外の出来事に困惑をしていると、キッチンから師匠さんが顔を覗かせていた。

 まあ、あれだけ騒げば顔の一つも出すよね。

 しかし、木箱に籠城とか難儀な。

 木箱の中でと言うのが実に痛々しい…。

 そして、何と言うかいたたまれない!


「たすけてー!師匠衛門さーん!ハルトさんがスネましたー!」

「まあ、お腹が減ったら出てくるさね。取り敢えず、逃げ出せないようにだけしておくさ。」


 そう言うと師匠さんは手をかざす。

 その手に集まる『黒』

 黒と言うか漆黒。

 漆黒と言うか暗黒のそれが徐々にその黒さを増していく。


『グラビディチェーン』


 師匠さんから放たれた暗黒の鎖が木箱を覆って床に根を張る。

 さすがに事態の深刻さを感じたのか木箱の中からハルトさんのわめき声が聞こえてくる。


「これで逃げる事は出来ないさね。ハルト!出して欲しかったら、私には良いからタエコに謝りなさい。文句は私が全て聞いてあげるわ。」


 何というか師匠の男前さに惚れそうだ。

 同性同士だけど。

 私には百合趣味は無いけど。


『酷い!俺は悪くない!そっちが!特に師匠が謝るのが先だ!』


 ごもっともだけど、師匠さんに通る理屈じゃない気がする…。

 その証拠にとても満足そうなお顔をされている…。

 ハルトさん。ハルトさんの行動はどれも逆効果で師匠さんをとても喜ばせていますよ…。


 何というか、とてもハルトさんが哀れになってきた…。


「タエコ!そろそろニコが仕事上がる頃だろ?呼んできて!ニナも連れてこれそうだったらお願い!他にもタエコの呼びたい人が呼んで良いよ!あと、悪いが酒や料理もこれで買ってきな!」


 どう言う理屈だか分からないけど、師匠さんの豊満なおっぱいの谷間からにょきにょきと出てきたお財布袋が床に投げられ重い金属音を響かせる。


 ぉぅ…。すっごい大金。

 この全てが金貨とかどんだけ!?

 これはもう…。


「はい!じゃあ、リックさんと愉快な仲間たちも連れてきます!」


『ガタン!ガタン!ガタン!』


 木箱の中から壮絶な抵抗の声が聞こえる気がする…。

 ごめんなさい。ハルトさん。

 妙子は、この大金を思う存分使ってみたいと言う衝動を抑えられません。

 こんな面白そうな事にはあがらえない子です!


 ちょっとスネるつもりだったのだろうけど、木箱に入ったのが運の尽き。

 そう言う点ではハルトさんも悪いので諦めて下さい。

 最悪、師匠さんがみんなの記憶を忘れさせてくれるはず。

 負けないでね。ハルトさん…。

 妙子は皆を連れてきます。

 アデュー!


* * * * *


「ニコちゃん!お願い!ニナさんも連れて来いって姉御に言われてるんすよー!」


 オレンジジュースを飲みながら休憩を取っていたニコちゃんに事情を話してすがりつく。

 師匠さんの言いつけ通り、ニコちゃんとニナさんを捕獲する為、夢見る冒険者亭に来ていた。


 これまでの事を考えると、出来るだけ師匠さんの言うとおりに行動した方が無難だと言う私の賢明な判断だ。

 何かされると言う事じゃないと思うけど、ハルトさんの醜態をみんなに晒す事よりも、師匠さんの考えに従った方が後々お得なんじゃないかと、私の懐に有る大金が言っている。


「まあ、フィーナちゃんが来てるなら行くけどさ~。タエコちゃん…。何だか今日は三下のチンピラっぽいわよ。」


 笑顔でそう言うと、グラスによく冷えたオレンジジュースを注いで手渡してくれる。


 は!いけない妙子!落ち着くのよ!

 時として人間の言動は、その時の己を映す鏡となる。

 魂は師匠さんにお金で買われたとしても、心は一応ハルトさんを応援しているんだから言動までゲスくなっちゃダメ!

 落ち着けー!落ち着くのよ!妙子!


「まあ、仕方ないって言えば仕方ないけどね~。フィーナちゃんって色々と規格外だから卑屈になっても仕方ないとは思うわ~。」


 飲み終わったオレンジジュースのストローを口でくわえてプラプラさせながらニヤっとする。

 ニコちゃんと師匠さんとの関係は前にも聞いたけど、それ以外にも色々と私の知らない事実が有るのかも知れない。

 ニコちゃんもある意味で強烈だけど、師匠さんの存在感と言うか何というか、本能的に逆らってはいけない気がしてならない。


「って言うか、あの師匠さんは色々と強烈すぎてアレですよ!ニコちゃん!ハルトさんを手玉に取ってるのもアレですけど、それ以上にビジュアル的なアレとかアレですよ!!」


 何となくニコちゃんは味方な感じがして、これまでに溜まった感情が少し漏れ出す。


 まあ、ハルトさんはチョロそうなので、あの師匠さんなら手玉に取られても仕方ない気がするけど、何と言ってもそのビジュアルが強烈すぎて触れて良いのか?触れちゃダメなのか?その基準すら分からない。


「そりゃね。フィーナちゃんを目の当たりにすれば色々勝てないと思う…。特に胸。」

「そうですよね…。バインバインでした…。」

「そうよね。バインバインよね。」

「バインバインです。」

「バインバインで、あの衣装は『無いわー』って思うけど、それを言わせない圧力と言うか、風格と言うか、気品と言うか。フィーナちゃんはアレじゃないとダメって気がするから、心や感性がチグハグになっちゃって厄介よねー。」


 良かった。

 この世界でもあの衣装は『無いわー』と言う基準で間違ってないようだ。


 そう。バインバインであの衣装。


 普通に考えれば、あんな格好をして人前で日常生活をおくるなんてのは、頭のおかしい人だと思われても仕方が無いと思う。

 これまでに見てきた、この世界の人達の服装を見ても明らかだと思う。


 でも、師匠さんに関しては、あの格好の方がシックリくる気がするので何も言えなくなる。


 師匠さんと話してみたら意外と気さくなので、気安く「オメーそれないわー」とかチンピラばりに言ったとしても「そうかの?でも、気に入ってるから問題ないさね。」と受け流してくれそうだけど、それを言わせない何かが師匠さんには有る感じがする。


「不思議な人ですよねー。師匠さんって。」

「そうね~。まあ、普通に化物だけどね~。」

「そうですよねー。能力とは違う何かが半端ないですよねー。」

「魔法の効果とは明らかに違う何かを持っているのは確かね。」


 私とニコちゃんの認識は合致しているみたいだ。

 その美貌とは裏腹に全てを納得させてしまいそうな雰囲気。

 話しやすさもさることながら、同性ですら嫉妬を覚えない空気を纏っている。

 私のチャーム能力とかそう言うモノとは違う何かが師匠さんには有るのだ。

 木箱で自分を送ってくるオチャメさとかも相まって憎めない存在なのは間違いない。


「まあ、良いわ!休憩も終わるし、その前にちょっとパパと話してくる!」


 そう言うと白のサイハイソックスに包まれたすらっと綺麗な二本の脚を跳ね上げて、横に座っていたニコちゃんが椅子から立ち上がる。


 師匠さんも化物かも知れないけど、ニコちゃんも充分に化物感がある。

 自分がどう動けば可愛く綺麗に見えるのかが染み付いているのか、ちょっとした行動がイチイチかわいい。

 それは、女の私から見ても見惚れてしまう事が有るくらいだ。


 ほら。今もクルッとこっちを振り返って…。


「ニナもフィーナちゃんの頼みなら来てくれると思うわ!最悪わたしは行くからフィーナちゃんにはそう伝えておいて!」


 後ろ手を組んで、すごくかわいい笑顔でニッコリしてくる。


 うん。その笑顔からポーズまで完璧だ!

 私に、その笑顔を向けて何か得になるワケじゃないのに。


「さすが!ニコの姉御!頼りになるぅ~!一生ついていきますぜ!ゲヘヘ!」


 あまりもの、かわいさに惚れてしまいそうになる気恥ずかしさから思わず、おどけて見せた。

 そうしないと、萌え死にそうになる!

 どうしてハルトさんの周りには、こうも魅力的な人が多いのだろうか。


「いや。だからタエコちゃん。それ止めなって…。」


 眉を寄せて困り顔で肩を落して、お手本の様な『ガックリ』を頂きました!


 お客さんには見せないだろう、その表情を残して仕事に戻るニコさん。

 私の気恥ずかしさは誤魔化せたと思う。


 ちょっと崩れた困り顔もかわいいと言えばかわいいから、それはそれで良いモノだけど。

 何よりも他人にはあまり見せない表情を私には見せてくれる。

 その『お姉ちゃん』的な表情に嬉しくなる。


「こっちに来てから人運は良いのよねー。」


 元の世界での出来事が嘘みたいに、こっちに来てからの人間関係は良好だ。


 ハルトさんはあんなだけど、根っこの部分ではしっかりしていて良いお兄ちゃんだ。

 師匠さんもあんなだけど、少し話しただけでも信頼は出来る人だとわかる。

 ニコちゃんもあんなだけど、妹の様に可愛がってくれて、色々と気にかけてくれる。

 リックと愉快な仲間たちもあんなだけど、昔からの仲間の様に接してくれる。

 お店のお客さんたちもあんなだけど、実は親切な人が多い。


「これも幸せって言えるのかなぁー。」


 こっちの生活には満足しているし、人も優しいし、元の生活よりも楽しいし、やりがいがあるとも感じてはいる。


 でも。


 もし、向こうで私が『消えた』とするなら、お父さんやお母さんは凄く心配をして凄く悲しんでいるはずだ。


 普段は考えないようにしているけど…


 美味しい。


 嬉しい。


 楽しい。


 幸せな感情を感じた後には元の世界の事を思い出す。

 そして、心が苦しくなる。

 こうしている間にも、両親は心配しているはずだ。


「お母さんとか大丈夫かな。絶対、毎日泣いてるよね。」


 せめて、私が元気だと言う事くらい伝えられたなら、少しは安心してくれるだろうか。

 うーん…。元気だと分かったら分かったで泣き出しそうだけどね。


 元の世界に帰りたい。

 この世界で生きたい。


 両方の気持ちが混ざり合って、いつも気持ちが爆発しそうになる。

 状況が落ち着いて、状況に慣れて、状況を楽しめるようになって…。


 この世界に慣れれば慣れるほど、両方の気持ちが入り交じる。


『ズゴゴゴゴゴーーーーーー』


 ニコちゃんにもらったオレンジジュースを一気に飲み干す。


「うん!考えても仕方ない!どうにもならないなら今を楽しもう!」


 幸い資金はいっぱい有る!

 全部、使い切るつもりでパーティーの準備をしよう!


 気持ちを切り替えると、ニコちゃんがやったように両足を跳ね上げて椅子から立ち上がった。


* * * * *


 バックヤードからの帰り際、改めてお店でニコちゃんにニナさんの事と料理のデリバリーを頼んで夢見る冒険者亭を後にした。


 ここまでは順調。

 ニコちゃんに頼んでおいたからニナさんがもし来られなかったとしても、私の責任は果たした事になるので問題ない。

 ニナさんを連れて来られなければニコさんの責任だ。


「問題はリックと愉快な仲間たちかぁ…。」


 日が沈みかけているとは言え、この時間にダンジョンへ潜ったパーティが戻って来るとは限らない。

 ダンジョンに潜っていないなら捕まえるのは比較的に簡単だけど、携帯電話も無いこの世界で約束もしていない人を探すのは大変な事だ。


「こう言う時にハルトさんが使ってた『あの魔法』が欲しくなるなぁー。」


 この世界にも一応の通信手段は有る。

 それが人工精霊を飛ばしてメッセージのやり取りをする『メッセンジャー』の魔術だ。


 メッセージのやり取りに時間が少しかかるのと、その魔術や魔法を習得していないと使えないって言うデメリットは有るけど、通信手段の少ないこの世界では貴重な通信手段と言える。


 複数同時にメッセージが送れて、受け取った側が人工精霊を介して返信が出来ると言うのもポイントが高い。


 基本的な魔術や魔法を習得した人は、次にこの魔法を覚えるそうだ。

 MMOとかと一緒でこの世界の魔法職もダメージディーラーではある。

 でも、MMOと違うのは、この魔術で連絡役を担うのも魔法職の務め的な認識が有る事。

 MMOでは機能として、遠く離れていてもウィスパー(ささやき)が出来るけど、現実にはそうもいかないらしい。


 一応、簡易版的なこの魔法が込められた魔術道具が有るらしいけど、使い捨ての上に実に微妙な価格設定。

 これを使うのは魔法職の居ない脳筋パーティだけらしい。


「まあ、しゃーなしだ。お買い物を済ませつつ居そうな場所を探してみよう。」


 取り敢えず、瓶とかは持ち運びが面倒なので酒屋さんに配達をお願いする事にした。

 ニコちゃんとニナさんに師匠さんだけでもお酒の消費量は半端ない気がする。

 そこにリックと愉快な仲間たちが加わるとなると、普段のお酒の量じゃ足りないのは明白だ。


 怪力のリミットを解除すれば運べない量じゃないけど、注文しておいた料理の他に、追加でつまめる料理を作る事になるだろうから野菜とかお肉とかも買っておきたいし、荷物が増えるのが分かっているのに瓶のお酒を大量に持ち運ぶほど、私も馬鹿じゃない。


「じゃあ、そういう事でお願いします!」


 注文を終えてチップを渡し、時間通りに運んでもらえるようにお願いをして酒屋を後にした。


「あっれ~?タエコちゃんじゃね?おーい!タエコちゃーん!おれ!おれ!おれ参上!」


 ふぅ。やれやれだぜ。

 探す手間が省かれたと言うのはありがたい事だけど、相変わらずのリックのウザさにうんざりする。

 振り返ると他のパーティメンバー達もうんざりしている様子だった。


「あ!シーナさん!ローズさん!グリードさん!ちょうど良かった!」


 リックは言わなくても来ると思うので声をかけない。

 正直、あまり話したくないけど、声をかけなくても絡んでくるから敢えて無視しておく。

 多分、それがリックの正しい扱い方だと思う。

 それに、どんな状況でも嬉しそうだから問題ないと思う。


「あら?私達に何か用事でもあったのかしら?」


 ローズさんが不思議そうにしながらも近づいてきてくれる。

 なぜか頭をなでなでされているけど、今はされるがままにしておこう。


「えーとですね!ハルトさんの師匠さんが来ているので飲み会っぽくなりそうなんですけど、皆さん来ませんか?」


 もちろん、リックは周りでうるさいけど面倒なので相手をしない。


「あらあら~。私達もお呼ばれして良いのかしら~?」


 そう聞かれて大きく「うんうん」と頷く。


 シーナさんが礼儀として確認してくれるけど、こちらから誘っているのだから当然OKだ!

 それでも、こうやって確認してくれるって言う大人の対応は見習いたいと思う。

 と、言うかリックが見習えと言いたい!


「じゃあ~、お呼ばれしましょうか~?」


 と、ローズさんとグリードさんに顔を向けて同意を得る。


「そうだな。この後の予定と言っても飲むだけだからな。」

「ハルトさんの師匠には会いたいと思っていたの!ぜひ!」


 と、二人も同意してくれる。


 ・・・・・・。


 シーナさんにすらスルーさせるとは。

 リック…。恐るべし。


 私達の周りで「俺も行くー!俺も行くー!」と相変わらず騒いでいるけど、来るなと言っても来るだろうからリックに対する対応としては間違いじゃないと思う。


「もぉ~。あなたは言わなくても来るでしょ~?だからタエコちゃんも私も聞かなかったのよ~?」


 メッ!っとされたリックが照れ笑いをして大人しくなった。


「どう言う魔法ですか!?って言うかリック褒められてないし!私も褒めてないから!そこで照れない!」


 さすが、このパーティの実質的リーダーのシーナさん!

 リックの扱いには慣れている!

 けど、何でシーナさんにメッ!とされただけで照れ笑いをして大人しくなるのか意味が分からない!


「あ!やっとクチきいてくれた!俺も行って良いよな?良いよな?」


 うん。一瞬だった。

 やっぱり、リックへの対応はシーナさんに任せるのが正解らしい。


「はいはい。良いですよー。どーせ断っても来るだろうしー。何かやらかしたらニコちゃんとニナさんにお仕置きしてもらうから大丈夫ですよー。」


 そう言うと「うげ!」と短い声をあげて怯んだけど、リックは一人だけ仲間はずれとか耐えられないタイプだから何があっても来るだろう。


 その証拠に…。


「じゃあ!俺は先に行ってるから!」


 と、走り去ってしまった、

 その切り替えが少しでもハルトさんにあったなら、木箱の中に引きこもって、そのまま逃げ出そうとはしなかっただろうに…。


 ・・・・・・。


 すっかり忘れてたー!

 そう言えば、ハルトさんって今すっごい恥ずかしい状態で拘束されてるんだった!!

 そこに、リックが突入するって言う事は…。


 うん。あまり考えたくない。


 今日の宴も酷い状況になりそうだ…。


* * * * *


 買い物を終えてリックに取り残された私たちは家に向かって歩いていた。

 辺りは既に日が落ちて真っ暗でローズさんが魔法で出してくれた明かりがやけに眩しい。

 道すがら現在のハルトさんの状況を軽く説明しながら話しておく。

 リックみたいな事にはならないと思うけど、アレを何の予備知識も無しに見せられたら、私でも絶句して飲み会どころじゃないと思う。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


「ハルトも何と言うか不憫だな。」


 重いと言うか、呆れ返って何も言えない空気の中でグリードさんが口を開く。


「あははー。ですよねー。よりにもよって木箱に入らなくてもって感じですよねー。」


 もう、どうフォローして良いのかも分からないので困る。

 原因の一旦は私にも有るけど、何を思って木箱に入ってプカプカしていたのか未だに理解出来ない。

 と、言うか理解したくない。


 多分、私達の悪ノリした会話と行動で突発的にやった事なんだろうけど…。

 木箱に入って逃げ出すとかミミックか!と、私は言いたい!


「でも~。ハルトさんも最初に比べると接しやすくなりましたよね~。特にタエコちゃんが来てからは~?」


 何だかよく分からない方向のフォローがシーナさんから入る。


「まあ、そうですわね。最初に依頼を受けた時には目も合わせてくれませんでしたから。それを考えると、スネて木箱に入ってプカプカと浮きながら逃げだそうなんてお茶目の部類に入るかも知れませんわ。」


 お。ローズさんも話に乗っかってきた。

 でも、フォローになってない気がしますよ!ローズさん!


「まあ、そうだな。あの頃のハルトには壁があった。」


 いやいや。私からするとグリードさんも結構アレですよ?

 キャラ作りが行き過ぎてコミュ障にも見えますよ?


「本当に~。でも、なぜか放っておけない感じでしたよね~。」

「そうね。細かな所で気がきいて優しかったり、何かしらの信念が有るような感じで助けてあげたくなって。いつの間にか付き合うようになっていましたわね。」

「ああ。そうだな。」


 口々にハルトさんについて語りだす愉快な仲間たちの皆さん。


 あんな人だけど、何となくハルトさんについて話したくなる気持ちはわかる気がする。

 引きこもり願望が強かったり、脇が甘かったり、実はダンジョンマスターだったり。

 色々な面を持っているハルトさんだけど、ハルトさんの本質は誠実で、仲間思いで、優しくて。真剣に物事に向き合う。そんな人だ。


 あの人は、普通の人と言えば普通の人なのかも知れないけど、その本質的な部分はネガティブな印象をいつの間にか覆せるくらいの魅力を持っているのだと思う。


「まったく。こんなにみんなに愛されてるのに何やってるんだろう。あの人は。」


 少し腹が立つ。

 ハルトさんの一番の問題は、自分がどんなに人望を集めているのか自覚していないと言う所じゃないだろうか。


 接する人が少ないから自分では分かりにくいかも知れないけど、リックも、シーナさんも、ローズさんも、グリードさんも、ニコちゃんも、ニナさんも、夢見る冒険者亭のおやっさんも、週に何回か見かけるだけのお店の常連さんも、ハルトさんの事を気にかけている。そして、大好きなのだ。


 私がお買い物とかで街に出かけてた時に、まず最初に聞かれるのはハルトさんの様子だ。


『よぉ!タエコちゃん!最近、ハルトはどうしてる?』


 とか、挨拶の様に聞かれる。

 商売的には敵対関係に有りそうなアイテムショップのご主人にも聞かれるんだから。


 もちろん、そこには利害関係と言うものが有るかも知れない。

 そこから始まった関係なのかも知れない。


 でも、街を発展させる為に色々やっているハルトさんを街の人はちゃんと見ている。

 嫌だ。嫌だ。と言いつつも街の事となるとハルトさんは自ら動く。

 それは『引きこもりたい』と言うネガティブな理由からの行動かも知れない。

 だけど、街の人達はその仕事をちゃんと認めている。


 そして、そんなハルトさんを好きでいてくれている。


「よし。ひとはだ脱ぎますか!」


 私は、ひん曲がったハルトさんの根性を叩き直そうと決意を固める。


 まあ、何というか…。

 私もハルトさんが嫌いなワケじゃないから、もう少しシッカリして欲しいし…。

『引きこもりたい』って言うなら、それも良いかも知れないけど、もう少し自分が周りから信頼され愛されていると言う自覚くらいは持って欲しい。


 それに…。


 お兄ちゃんには格好良くあって欲しいと思うのは年下としての自然な欲求じゃないだろうか。


「お兄ちゃんとか呼んであげれば少しはシッカリしてくれるかなー?」


 まあ、そんなご褒美はあげないけどね!


 まずは、あの木箱から何とかして引っ張り出そう!

 引っ張り出して、今回の事をいじり倒してあげよう!


 そして…。


 ハルトさんが街の人達にどんなに愛されているのかを教えてあげよう。


 私を含めて。


 みんながハルトさんがどれだけ好きかと言う事を。


「みなさーん!このままじゃハルトさんも箱から出にくいと思うから、家に着くまで作戦会議しましょー!」


 私は、少し先を行くみんなを小走りで追いかけた。

お久しぶりです。

となりの新兵ちゃんです。


今回もアレな展開ですが次回もアレな展開が続きます。

まあ、上司やらが必要以上に絡んでくるとロクでもない事になるのはどの世界でも同じですよね。

それよりも次回以降からの「其之二」のオチに続く話が出てこないのが少し問題です。

全くのノープランなので、どうしよーと悩んでいますが…。

こう言う時は修行でしょうか?大会でしょうか?

まあ、どっちも大嫌いなのでアレですけど。

しばらく、時間は掛かるかも知れませんが何とかひねり出してみますね。

もっと先の話の案は有るんですけど、そこまでの話を繋げるのが大変です…。


取り敢えず、仕事などが忙しいのでアレですが、出来るだけ定期的にアップしていきたいと思っていますので、気長にお待ち頂ければと思います。


それでは、またいつか。

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