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謎の世界に生まれ落ちて10年の月日が経った。
そしてあれほど待ち望んでいた情報も大量に手に入れられた。此処はアルディス王国の首都アルディスであること、自分は長男であり、アルフ・シュルツということ、神経質な顔をした男は父親でありファルス・シュルツということ、ベッドに横たわっていた美人は母親でありアリアということ、前世の魔法は使えるが体が持たなかったり、道具や触媒がなかったりといったことが原因でほとんどが使用不能にだっえない。しかもよりによって強力なものばかりが。それに加えこの世界は元の世界に比べはるかに魔法のレベルが低い。この家を出るまでにはもう少し時間がかかるか。
さて考察も終えたことだし、そろそろ先生を呼ぶか。
「せんせ~い、この問題解き終わりました~。答え合わせ、ついでに次の問題をお願いしま~す。」
「はいはいただいま~。」
そしてたゆんたゆんと柔らかそうなスイカをぶらさげた水色のローブを着た女が小走りでこちらに走ってきた。それにしても何を食ったらあんな立派なものになるのかが不思議だ。初めて見たとき思わず
「ありがとうございます!!!」
と言ったのはいい思い出だ。などとくだらないことを考えている内に到着した。ローブのずれやしわを直しながら(ついでに息を整えながら)さぞ驚いたように聞く。
「ぜえぜえ、え!もう終わったんですか!はやすぎますよ~。まさか、カンニングとかしてませんよね?」
じろり、とじっくり確かめる目でこっちを見ているようようなのでこういってやった。
「まさか。こんな簡単な問題カンニングどころか先生すら要りませんよ。それよりもっとレベルが高い問題を出してください。飽きました。」
と懇切丁寧にお願いしたのに、返ってくる反応は
「は、はうううう」
と、可愛らしいもしくは庇護欲をかられる声をだしながら、縮こまってしまった。普通の男ならコロリ、と来てしまうような仕草なのだが、生憎そういうのとは無縁の生活をしてきたので、そういう感情は雀の涙ほども湧かず、ただただ冷静に
「いいからはやく丸付け&次の問題を。」
と懇切丁寧に言ったのだが、こちらをオークに捕まった姫騎士の様な目できっ、と睨んで、
「なんでこんな早く終わるんですか!?これでもかなり難しい問題ばかり選びましたよ!?貴方より歳が5つや6つ大きい人たちが頭を悩ませて悩ませて1、2問解けたら超ハッピーって問題ばかりですよ!なのに、ななな何でこうも簡単にとけるんですか!?」
「そりゃ簡単ですから。とーぜんでしょ。」
まあこっちには知識と言う名のアドバンテージが有るからな。前世にいた時の古代ギリシャの数学、中東の天文学、日本の和算とかやってきたからな。あの鬼畜過ぎる難易度や、もはや殺意すら湧いてきたとんちに比べれば、この程度鼻で笑うどころか変顔しながらできる。そんな俺の心の中は当然知らず、目の前にいる教師はガックリと肩をおとし、
「なんで他の教科担当の教師たちが死ぬほど勉強しているのが分かりました。そりゃこんなに頭良いんだから、下手したら学院の研究員と同格以上じゃないですか?」
「そりゃあ分かりませんよ。まだ学院に行けませんから。」
「それでもあと2ヶ月ちょいじゃゃないですか。そこでも主席もしくは最上位のクラスにはいるんじゃないですか?」
「まあ問題より難易度が低かったら余裕どころか10分で終わらせて残りは寝ます。それしか時間の使い道はありませんから。」
ここで言う学院とはこの大陸最高峰の学校でアルカディア魔法学院といい、この国全ての学校を統括しているところである。正確には首都に有るのが本校であり、その他の学校を支部校と呼ぶ。受験は10歳からで小等部3年、中等部3年、高等部3年の計9年間学びそこから先は国に仕えるなり、そのまま学院で働いていたり、あるいは自由に旅したりと自由だ。もちろん他国の王侯貴族も通う名門中の名門でいまだ階級制が残る国では平民の者はここを卒業しているかどうかで人生が変わると言われるほどだ。まあ俺が通うことになる所だけどな。
「はあ、分かりました。今度は卒業試験レベルの問題で多くの在校生、卒業生を泣かせてきた問題を持ってきましょう。」
「ありがとうございます。」
溜息と共に吐き出された言葉にニコニコとしている俺氏。うん、シュールすぎる。とまあ後は自由時間なのでいつも通り書庫に篭もろう。今日こそはなんとしてもこの世界だけの魔術を見つけてみせる。そう決意して俺は向かう。
隣の部屋へ
家庭教師達に無理を言って屋敷のはずれで書庫に近いところで教えてくれるように頼んだ甲斐があったよあはっはっはっは。
そのまま俺は書庫に入った。どうせ夕餉の時間になったら屋敷の使用人がここにやって来るだろう。そして俺は魔法書を読む作業へと没頭した。
4時間後
ふう、今日も収穫無しか。有るのは全て俺の術より弱いか、下位交換や劣化版しか無かった。学院の図書館に匹敵すると言われる我が家の書庫ですらだめとは。そんなことを考えながらとぼとぼと歩くと
バサッボスッキュタッ
1瞬の出来事だった。上から麻袋を持った男が降ってきて、袋の中に俺を入れ、袋の口を縛り、そのまま背負って走り去った。
っと分析している場合じゃねぇ!!
俺は袋を破ろうとするがその瞬間腹を殴れた。どうやら襲撃者は複数らしいな。さて、この状況をどう切り抜けるか。自分の数万と10年で蓄えた知識をフル活用して最適解を探ろうとする。しかしこいつ等の足はかなり速いらしくあっという間に目的地についてそのままポィッと捨てられた。
暫くじっとしていたが男達が行ってから魔術で袋を燃やして脱出できた。近くに人はいない。じゃあやることやるか。まず土遁で地面に穴を作り、仮の家とする。さて明日は辺りを探索するかな。