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ここは何処だ?私は確かにあの時死んだはずだ。それは生命を維持するための魔法を全て切った他ならぬ私自身が一番よく知っている。ならば此処は一体何処なのだ?仄かに暖かく、まるでこの世に存在する全ての害意から護ってくれる様な感覚は?懐かしい様な、うれしいようなこの感じは何だろう?
ドクン!ドクン!
なんだ!なにが起きている!
急に起きた強烈な震動で俺は記憶の探索から現時点の所在地及び状況の打破に切り替わった。しかしそれでも違和感は拭えない。この様な事態は初めてのはずなのに、先ほどから感じる妙な既視感は一体なんなんだ?俺はこれを1度経験したことが有るのか?
ギュウウウウ!ギュウウウウウウウ!!!
そうこうしてるしてる間にも謎の震動は治まるどころか強さを増すばかりだ。ん?なんだ?あんな所に一筋の光が見えるぞ。・・・・・・しょうがない。他の全ての選択肢が閉ざされている以上、あの光に向かって進むしかない。
そうして俺は警戒しながらもその光の筋をたどり始めた。ゆっくりと、ゆっくりと、慎重に慎重を重ねその光の筋の果てにたどり着いた瞬間目が潰れる様な眩しい光に覆われ。次に目を開いた時には、俺は、
「おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!」
赤ん坊になっていた。え?嘘?なんでええええええええええ?!?!?!?!?!?!?!?!?
百歩譲って化け物に食われるならともかくなんで赤ん坊なの!?近くに俺を抱き上げている奴等が居る。しょうがないあいつ等の会話から情報を得るしかないな。そうと決まれば早速聞き耳をたてて会話を盗み聞く。しかし、
「#%&’%#(’!%%#&!*+!{><***>!」
「+;、:m@*‘*;}>・、”#$%&”&&’!」
なんだこれは?こんな言語なんか聞いたことが無い。情報の取得はさらなる謎が増やしただけだ。しかしまあなんでこの人達はこんなにハイテンションなのだろう?ああそうか俺が生まれたからか。
俺は混乱して若干目がくるくる回っているが、それでも周囲の大人たちは大はしゃぎしている。誰か気付けよ!こっちはこんな頭を使っているんだぞ!チクショウ!それでも文句を言おうとすると、
「おぎゃあ!」
しか出せない。チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
なぜ俺がこんな目に遭わなければならないんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!あっはい、前世の報いですね。はい、わかりました。そうやって現実逃避していると
「$%’;:<!」
急にドアが開いて、神経質そうな男が入ってきた。だれだ?そのテンションのまま近くにいた、服装からして使用人の様な男性になにか尋ねると、雄たけびをあげて何度もガッツポーズをとっている。ああそうか息子が産まれて妻も無事だから・・・・・ん、ちょっと待てよ?俺産んだ人は何処だ?周りの人間の反応からして恐らくは近くにいるはずだろうけど。
そしておれはぐるぐると首を動かして辺りを見回す。すると、ベッドに横たわる、尋常じゃないほど汗をかいている美人が居た。出産は体力の消費がとても激しいと聞く。ならば汗の量的にこの人で間違いないだろう。こっちを向いて聖母の様な笑みをうかべている。うん、間違いなく女が俺の母親だ。
さあ、情報を整理しよう。まず、俺は生まれ変わった。前世の人格と記憶があることから、恐らくはこの体の元の持ち主は死んだ、もしくは心の奥底にでも眠っているのだろう。前世で得た魔法《知識》は使えるかどうか分からないがその検証は別の機会に行う。
次にこの場所から脱出できるか?無理だ。できたとしても生き残れはしないだろう。周りにある道具から察するに文明レベルは中世程度。なにせ設備が酷過ぎるし、医者は普通白衣を着るものだ、断じて黒いローブは纏ってはいけない、不吉すぎる。
自宅出産と言うことは物凄い金持ちか貧乏人だろう。産婆がいない時点でこの二択に絞られるからな。貧乏では無いな。使用人達や両親が着ている服は高そうだし、家具も複雑な彫刻を刻まれていて素人の仕事とは思えない。うん、裕福な商人かある程度の地位に就いている貴族もしくは軍人である可能性が高い。まあ、この検証も必要だがな。
以上の情報を考察した結果が出た。
今はまだ一人立ちできそうに無いので、少なくとも自分の身を守れる位の歳になるまでこの家に居る。
この家はかなり裕福なのでねだれば書物くらい買ってくれるし家庭教師を雇って教えを請うのも悪くない。
最悪の場合図書館にでも行けばいいだろう、此処が僻地でもない限り1つ位あるだろうし。
そうやって知識と体力を蓄えてその日になれば口で丸め込む。あとは両親の夜のレスリングに期待するしかないな。頼むぞ!父の息子と母の娘!
さて、これからどうするか決まったし、この状況をどうにかするか。
現在俺は目の前の父親らしき人物に抱っこされている。それだけならまだいいが、目と鼻の先で変をするのは止めて欲しい。気持ち悪いし吐き気がする。こいつを追っ払うか。
「うんぎゃーーーーーーー!(うぜぇんだよカスが!!!)」
そのこえにびびって俺の目論見通りすぐさま手を離した。が、計算外の出来事が起きた。受け止めてくれる人物がおらずそのまま頭をぶつけて気絶してしまった。
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