6 前編
金髪エルフ視点です。前の話を見てくれればより楽しめると思います。
「まだこっちにくるわ!」
自分に群がろうとする蟲を突き殺しながら、心の中で思っていたことをそのまま吐き出す。そうで無ければ気が狂ってしまいそうだった。襲い掛かって来る輩は皆醜悪極まりなく、保存食も食肉植物にあらかたやられて、体力精神共に限界に近い。そんな状態であと何時間も戦い続ける気力も無いし、装備も壊れかけて色々とやばい。
死の恐怖に怖晒される中で頭によぎったのは、故郷に残した家族や忘れ難い思い出などではなく忌まわしき死の森に訪れるきっかけとなった馴染みの酒場での出来事だった。
―4日前―
「明日から死の森に挑戦しようと思う。」
唐突にリーダーである大剣使いエリックが唐突にそんなふざけたことを言い出した。いつもくだらないことを言っているが、今度のは流石に洒落にならない。酒場全体が葬式のように静まり返った。
「おい、誰かいい医者連れて来い。ついでにこの馬鹿の脳みそいじくって真人間に戻してやれ。」
いかにも魔導師っぽい格好をした(その通りなのだが)のフリッツが
「いや、このまま、どこかにすてよ。そのほうが、しぜんに、かえる。もりの、いきものの、やくにたつ。」
ローブを頭から足先まですっぽり隠した暗殺者風のシーフ(よく殺し屋と間違われていやらしいがそう見られたくないならせめてもう少し顔を見せるべきだと思う)であるシャルの2人が、ズタボコに攻める。
「シャル,切り刻んでいいわよ。フリッツ、貴方の一番得意な火属性の魔法で塵すら残さず燃やし尽くしなさい。」
「さんせい、だけど、なんで、そんな、とちくるったこと、いったのか、はかせるべき。」
シャルが至極当たり前なことを言う。確かにその通りだ。いったいどこのアホにこんなこと吹き込まれたのか、それが気になる。
「シャル、それ採用。」
そして首をくるりと馬鹿のほうに向け、
「アンタいったいどこのアホにこんな事やれって言われたの?他の酒場で自慢して引っ込む事ができなくなったから、て言う理由とかは無しよ。」
あらかじめ退路を断っておく。それでまともな理由が出てくれば今回のような無茶も、良くて財布から銅貨すら残らないほど飲んで騒ぐ、悪ければ半殺しならぬ九分九厘殺しの刑に処す。
固唾を呑んで返答を待っていると、馬鹿は重々しく口を開いた。
「いや、俺が勝手に行くだけだ。暫く戻れなさそうだから一声かけた。」
は?
「いきなり何を言い出すのよ、遂に頭が狂っちゃった?」
だが、固まっているかのように顔はピクリとも動かない。いつもは反論したり、無駄な弁解をしたりするが、今日に至ってはまるで何も言わない。
「俺は元々あの近くに住む貴族の出だ。だが領地の近く蟲が出て討伐に向かった俺以外の家族、領民、全て殺された。生きているのは俺だけだ。あの時から10数年、もう逃げ惑い、隠れるしか能が無かった俺ではない。」
おちゃらけた雰囲気は消え、そこに居たのは脳筋馬鹿ではなく王国のSランク序列1位、『紅き剣』のリーダー、エリック・アイゼンだった。
それから間も無く装備を整え、十分な蓄えをもって挑戦し、今の絶体絶命(逃亡中)の状態に至る
「どうする!?行き止まりよ!?」
所用がありしばらく更新できませんでした。平にご容赦を。