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どうぞよろしくお願いします
ここは大陸屈指の軍事力を持つアルディス王国の首都アルディスの貴族の館である。
館の大きさは広くおそらくこの区画でも1、2を争うだろう。そんな豪奢な館の中で使用人たちがばたばたと動き回っていた。なぜならこの家でまもなく新しい命が産まれるからだ。
その中でやや大きめな一室に2人の男性が居た。一方は20代後半で神経質な顔をして忙しなく動いている。もう一方は20代前半で爽やかそうな青年で椅子に腰掛け優雅にティーカップを傾けている。
「うーむ、まだ産まれぬものか」
忙しなく動いていたほうの男が溜息と共にその言葉を吐き出した。その声色はかなり深刻で見れば男性の顔もかなり青くなっている。しかし、
「早すぎですし目障りです。もう少し待っていて下さい。もしくは座って待つとか覚えてください。立ってうろうろうろうろと歩くって子供ですか、貴方は?」
ティーカップを傾けていたほうの男はその言葉をばっさりと容赦なく切り捨てた。しかも毒をふんだんにこめて。
「なんだと!貴様の甥が産まれるだぞ!もう少し心配したらどうだ!あん!」
自分の心労と妻への愛情をまるっとコケにされた男は当然怒り狂う。が、
「普通の赤ん坊も大体このぐらい時間がかかるんですよ。知らないんですか?片手サイズのボールが穴の大きさ無視して転がり落ちるんですよ。戦場での止血と一緒にしないで下さい。大体兄さんは心配性なんですよ。体に良いもの食べて、適度に運動して、出産済みの人達からも話を聞いて今日のために心身共に最高の状態に保ち続けた自分の奥さんを信用できないのですか?んん?」
それがきっかけで集中砲火を浴びてしまった。全部その通りなので反論できない。
「んうっ!しかし」
「しかしも案山子もありません!お菓子はあるのでっ、そこにっ、座ってっ、下さいっ!」
「ぐわっ、なっ、何をする!」
男の抵抗も空しく椅子に力ずくで座らせられる。そして乱暴な手つきで菓子とティーポットとティーカップが置かれる。
「それは我が家の物だぞ!もうすこし優しく扱って」
「少し静かにしろやクソ兄貴!!!」
ついに敬語が抜け落ちてヤンキー口調になってしまった。そこからさらに何かが飛び出そうとした時
「おぎゃー、おぎゃー,おぎゃー!!」
赤ん坊が泣く声が聴こえ
「遂に産まれたか!」
純粋な喜びと息子に早く会いたいのと弟の説教から逃れるために神経質な顔をした男性は礼儀もマナーも無視してあっという間にある部屋に辿り着き、その扉を開け放った。それから、
「産まれたのか!!!」
と吼えた。それに気づいた近くの使用人が
「おめでとうございます!」
と言いその様子に安堵しながらも同時に嬉しさがこみ上げて来て、急いでその言葉を口にした。
「ああ!それよりも男か!女か!どっちだ!」
「はい!、元気な男の子でございます!」
それを聞いた瞬間男は、
「そうか!男か!よーしよし!」
喜びのあまり何度もその場でガッツボーズをした。そこに
「うふふ、あなた、喜ぶのもほどほどにしてこの子の顔を見てくれませんか?」
赤子を抱いてベッドに横たわる美人が聖母のような笑みで赤子を男に渡す。
「ほーら、ぱぱでちゅよ~」
男は顔をでろりとさせておりそれを見た使用人達は口には出さなかったが|(気持ち悪っ!)|と思ったことは後々語り継がれるであろう。そんなことは気にも留めず
「ぱぱでちゅよ~、れろれろば~」
と親バカぶりを存分に発揮していた。そして
「ああ、何気持ち悪い顔しているんですか兄上」
その顔を見た弟に即座に致死性の猛毒をぶっかけられる。情けが欠片ほども感じられない。ある意味才能である。そんな弟の一言を受け神経質そうな顔をした男、シュルツ家現当主ファルス・シュルツは即座に顔の色を変えて、
「気持ち悪いとは何だ!気持ち悪いとは!いくら我が弟と言えども言ってはならぬことがあるのだぞ!皆もそう思うよなあ?」
ファルスはそう言って苦笑しながら周りを見渡す。すると、目が合ったものから順に光の速さで目を逸らされる。その中には古くから仕えている者もいて不安になった彼は自分の妻で今は1児の母あるアリアに、縋る様な視線を向けて、
「な、なあ」
「ん、なに」
「私はそんなにキモっかたか?」
「あ、ところでこの子の名前はどうしましょうか」
瞬く間に話題をすり替える妻。その様子にファルスはがっかりしているが奇麗にスルーされて一同は子供の名前決めに熱中する。
「義姉上、ルーンという名前はいかかでしょうか?才気あふれる感じでいいと愚考しますが?」
「いえいえ、ショウという名前にしましょう。」
「な~に言っているんですか。それよりもヒューマがいいと思います」
熱中しすぎて完全にカオスとなり、場の収拾がつかなくなったころにそれまで空気だったファルス(親バカ野郎)が突如
ぼそっと
「‘アルフ’とかどうだろうか?」
といったら急にその場が静まり返ってその後ファルス以外の全員がファルスをじっ~~~~~~~~とみて流石のファルスもちょっとたじたじになりながら
「な、なんだ」
というもののじっ~~~~~~~と見て来るのは変わらずびびりはじめ冷や汗が流れ落ちる。そろそろ弁解をしようかなというところで
「・・・・いいですね」
「へ?」
「アルフですか!いい名前だと思います!」
「兄上にしてかなりいい名前を思いつきましたね。心の底から尊敬します。」
「おい、それどういう意味」
「じゃあ子供の名前はアルフでいいわね、皆」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
そうして王国4大貴族の1つシュルツ家にはじめての子供が産まれ、後に
死の森の支配者
魔蟲の王
と呼ばれることになるのだがそれは、まだ、少し未来のお話。
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