『真実の貌』08
迷宮じみた洞窟の最深部、複数の照明機材が置かれ一段と明るい広間に、発掘隊の求めていたであろうものはあった。
三階建ての小さなアパートくらいなら丸ごと収まりきってしまうであろうその広間の壁、三面すべてに隅々まで精緻な壁画が描かれている。規模・状態・希少性とどれを取っても考古学的価値は計り知れない。しかしどういうわけか、広間の四隅には丸みを帯びた爆薬と思しき無数の袋が配置されている。よく見ると壁そのものにも人為的に穿たれた穴が数ヶ所あり、それぞれ前述の爆薬が詰め込まれている。
解せないことに、発掘隊の目的は調査などではなく遺跡の抹消だったのだ。いや、そもそも美津島グループが送り込んだ人員は発掘隊ですらなかった。
首を傾げる相模の視線は次に、地面に散乱するいくつかのプリントを捉えた。紙面には調査結果が記載されているようで、壁画の接写とその図解で構成されている。
「なんだよ、これ……」
図解によると、壁画の中央に描かれているのは“大いなる災厄”の運び手・エーデルワイスで、その周辺を取り囲むのは星の眷属・幻獣たち。壁画はエーデルワイスの命を奪い合う幻獣たちの闘争を描いており、人間が彼らを神として崇拝していたことを示しているのだという。
覚醒したエーデルワイスの出で立ちを描いた図には資料的価値がある一方、“星の管理権”を賭けた闘争の示唆は社会秩序を揺るがしかねない重大な事実である。早急に破壊し、隠蔽する必要がある――――図解は以上にように総括されている。
歴史を根底から覆すような事柄がさも当然の如く整然と記されているの紙面に、相模はおぞましいほどの寒気を覚えた。
幻獣たちは遥か太古の昔から地球に存在していた。そして“星の管理権”とやらを賭けてエーデルワイス――災厄の運び手を奪い合っている。これが事実とするなら、異能社会の構築そのものが壮大な欺瞞だったということになる。
「瀬川さん……この社会の真実って、こういう事だったのか……?」
書類から得られた情報を、推測を交えながら再構成するとこうなる。
エーデルワイスと称される存在は地上を滅ぼしかねない災厄の運び手でありながら、同時にその命を奪った者に“星の管理権”を与える機能を備えている。幻獣たちによる“星の管理権”の争奪戦は遥か太古から続いており、五十年前に人類の前に姿を現したのは美津島グループや魔法少女のように、彼らが人間を利用することを覚えたからなのかもしれない。
シリウスが言っていた事の意味が、少しずつだが分かりはじめる。彼が憤り、憎む世界の支配者たちが――――その真なる企みが。