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『真実の貌』02

 アナト率いる会談組は相変わらず険しい山道に苦闘していた。

 視界はごつごつした足場と頭上の蒼穹ばかりで、狂ってしまいそうなほど退屈だ。十数分ほど前から眼下に白雲の海が見渡せるようになった事くらいが唯一、変化と言えるかもしれない。

 魔法少女たちの士気もすっかり下がり、元より無口なシルヴィアはともかく、休憩時間に談笑していた面々まで揃って口を閉ざしている。ただ一人の例外を除いて。

「寒いですねー。このへんは鳥って飛んでないんですね? あっ、あれ鳥かな? 鷹? それとも鷲? というか鷹と鷲って何が違うんですか?」

「……」

 周囲の雰囲気などお構いなしに喋り続ける、鬱陶しいほどに快活な少女。シルヴィアの隣に陣取った彼女は、イシュタルでも取り分け“やかましい子”として知られている崇城綾那≪そうじょうあやな≫だ。後頭部に三つ編みを四つ垂らしているのがトレードマークで、本人曰く「三つ編みを四つにしたら三つ編みより凄い」らしい。

 十四歳と緋桐に並ぶ年齢でありながら、対照的にまったく落ち着きというものがない無邪気な性格を可愛がられる反面、こういった場面では少々面倒臭がられるきらいがある。どうやら彼女はシルヴィアがお気に入りのようで、普段チームが異なるために話す機会が少ないぶん、同席すると必ずと言っていいほど付きっ切りで話しかけている。今回シルヴィアが急遽追加されたことは、ある意味でほかの魔法少女たちにとって幸運だった。しかし普通なら否応なく綾那の話し相手に巻き込まれてしまうところも、シルヴィアは平然と聞き流せてしまう。その点ではあまり効果がないとも言えた。

「鷹ってちょっと怖いけど、でもなんか可愛いですよねー。なんていうかー、クール萌え? みたいな? シルヴィアちゃんみたいで。でもシルヴィアちゃんのほうが可愛いです! 最近、新入りの子がいっつもシルヴィアちゃんの横にいますよねー。やっぱりあの子もシルヴィアちゃん可愛い~! って言ってます?」

「……」

「無言ってことは……はっ! 言ってるんですかー!! やっぱりー!? イチャイチャしちゃってズルいズルいー! うらやまー!!」

「……」

 ちなみにシルヴィアの沈黙にはなんの含みもない。

 それから更にしばらく歩くと、ようやく次の転移ポイントが見えてくる。開けた平らな岩場だ。ここを乗り切れば次の転移先はいくらか楽な環境になると先程、アナトが言っていた。ようやく一区切りが見えてきたことで、魔法少女たちは一同に安堵の溜息を漏らす。

 だがほっとしたのも束の間、転移ポイントの近辺に二十人ほどの人影があることに気づくと、瞬時に緊迫した空気に切り替わる。どうやらあちらも魔法少女の集団のようで、中心には眷属と思われる猫の獣人が立っている。

「あれは……フラムトゥグルーヴのシャレムかな」

 殺伐とした雰囲気のなか、アナトがあっけらかんと呟いた。どうやら見知った相手らしい。アナトと同様にいまひとつ緊張感を欠く綾那は、聞き慣れない単語の羅列に頭を抱える。

「フラ……なんとかグルーヴってなんですかー?」

「フラムトゥグルーヴ。シャレムが運営する魔法少女組織さ。あっちも会談に出席する集団だけど……別のルートから進んでいたはずだ」

 話しながら進むうちに転移ポイントまで辿り着いたアナトは、相変わらずすこしも動じる様子を見せず、挨拶代わりに片手をあげた。

「アナトじゃないか。このあたりが君らの進行ルートだったとは」

「近い所を通るだろうとは思ってたけど、そちらのルートは別の山じゃなかったかい?」

「あぁ。実は先刻、クル・ヌ・ギアらしき部隊に襲撃されて逃げてきたんだ。ひとまず全員無傷で済んだが、念のためここで休憩を取っていた」

 クル・ヌ・ギアの名が出るや、警戒を解いた魔法少女たちに再び緊張が走る。最悪の事態は思わぬうちに近付いてきていたようだ。

「……それが本当ならまずいね。僕たちが合流したことで中々の大所帯になってしまった。見つけてくれと言っているようなものだよ。相手の人数はどれくらいだったんだい?」

「大体二十人ほど、こちらの遠征隊と大差ないな。だが合流したことで倍になった……いっそのこと共闘して返り討ちにしてくれようか?」

「いや、二組とも早いうちに転移してしまおう。会場でより多くの組織と合流したほうが得策だよ。クル・ヌ・ギアの兵力は侮れない」

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