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君との出会い

作者: 神崎錐

「椎名、何してるの?」


「ん?明日の(仕事を楽にする)準備」


「……明日休みだよ」


「……マジで?」


「マジで」


「……………………」





******************************





ところ変わって我が家。


「…………ふぅ」


家で寛ぐなんて何ヶ月ぶりだろうなぁ、と思いながらベッドにゴロンと寝転ぶ。


ここ最近は仕事が忙しく、家はほとんど寝泊まり以外で利用していなかった。


そのせいだろうか。


「……なんか埃っぽい」


寝転んだまま埃がポワポワとしている棚を見て少し顔をしかめる。


私は別にハウスダストアレルギーというわけではないけれど、人並みには綺礼好きなのでわりと埃が溜まってきているこの部屋が少し不快に感じた。


ということで。


ベッドから起き上がって、私は右手にはたき、左手にクイ○クル○イパーを手にした。


簡単ではあるが、これで私流のお掃除スタイルの完成である。


「さーて、やるか」


先ずは棚の上かな。

そう思って上を見たけど、よく考えたらエアコンの方が位置は上だなと思いいたった。でも普通に背が足りない。

脚立がいる。無ければ椅子でも可。

きょろきょろと少し見渡したところで目的の物を発見。


「たらららったらー。椎名は椅子代わりにしている脚立を見つけた」


某ゲームのノリで適当に呟きながら普段椅子に使っている脚立をエアコンの前に設置。


ちなみに椅子の代わりに使っている理由は丁度良い高さだったからの他に以前椅子を買いに行った時に行く道の途中の福引をやってみたら当たったのでこれ以上物増やすのも嫌だしこれでいいか、というノリで。その結果我が家に椅子という名称の物は存在していない。ついでにテーブルも無い。

あるのは引越し当時から私の部屋の中央を我が物顔で陣取る馬鹿でかいダンボールだけ。


まともな家具なんてベッドと棚ぐらいだ。その棚も全てカラーボックスだが、ダンボールよりはマシなはず。主に見た目と耐久的な面で。

まぁしかし。


「このダンボール…………もう潮時かなぁ」


長い間(二年くらい)物を載せ続けていたダンボールもいい加減ボロボロになってきた。


ついにカラーボックスに鞍替えする時が…………と思いながらはたきを動かす手を止めないのは仕様だ。

妙な所で面倒臭さが先立つため、私はいつまで経ってもダンボール机を処分する気がない。多分底が抜けるまで使っていると思う。


はたきをかけ終わるのはそれから数分のことだった。


「クイ○クルー○イパー」


そんな感じで仕上げに床の埃取り。

商品名をCMのノリで言った意味なんて無い。


休日ってテンション上がるよね。

今やってるのは掃除だけどそれでも上がるものは上がるんです。


「あーるー晴れたーひーるーさがりーいーちーばーへつづーく道ー」


そしてそれこそこの選曲に意味なんて無い。全てはノリ。


「にーばーしゃーがーゴートーゴートーこーうーしーを乗せーでゆくー。

なーにもー知らないーーこーうーしーさーえーー…………ん?」


そのノリで見える範囲の床を粗方終わらせて次と言わんばかりに機嫌良くベッド下にクイ○クル○イパーを滑らせると、先端に何か当たったっぽい感じの違和感が。


なんか落としてたっけなーと思いながらそれをクイ○クル○イパーの先端で引っ掛けて引っ張る。手応えは思ったより軽かったけど、構わず引っ張る。


「さて、何が出……」 


「………………」


「………………」


「………君何?」


「…………?」


「いや『?』じゃなくて」


そこには。


小さくて丸くて。

もふもふしてて毛が黒色で。

黒いつぶらな目が2つあって。

口が(多分)無い。


そんな見るからに不思議な生物がクイ○クル○イパーの上にちょこんと乗っかっていた。


そして今は私の手のひらに。あれいつの間に。


というか初めて見たよこんな生き物。

何なんだろなーこれ。


「…………」スリスリ


あ、なんか手に擦り寄ってきた。


「よしよし」なでなで


「…………」スリスリ


動物を撫でる要領で人差し指で不思議生物の頭らしきところを撫ででみると、黒いつぶらな目を細めて撫でている指に擦り寄ってきた。


……なんか猫みたいだな。可愛い。


「よーしよしよし」なでなで


「…………」スリスリ


「人懐っこいなー…………ん?」


そう呟いてなんとなく撫でた人差し指を見ると、そこにはなんと。


「わお」


木炭に直にに触れたかのように真っ黒な指先が。


次いで不思議な生物が乗っている手のひらの上も、よく見てみると同じ様に真っ黒。


…………うん。

これは間違いなく…………。


「君のせいだね」


「…………?」


「いや『?』じゃなくて。……ま、いいか」


取り敢えず。


「お風呂、1名様ご案内でーす」


「…………?」


連行した。




******************************




「……ふぅ」


「…………」スリスリ


「?……あぁ、よしよし」なでなで


「…………」スリスリ


「……本当に人懐っこいよなぁ。風呂入るのはあんなに嫌がってたのに。乾いた瞬間これだし」


そう。この不思議生物は水に入るのを物凄く嫌がった。風呂場を真っ黒にするほど嫌がった。(そして私も真っ黒になった)。


ま○くろくろ○けの如き所業に私は怯むことなく立ち向かった。


その小さな体を鷲掴みして(※手加減はしています)水を張った洗面器に突っ込んだ。するとどうだろうか。


張った水は一瞬で真っ黒になった。


まぁこれは想定内だと思って張りなおす。真っ黒にする。張りなおす。真っ黒にする。張りなおす。真っ黒にする。張りなおす。真っ黒にする……。


この作業をざっと二時間ほどやり続け、ようやく洗剤を使うレベルになった。


正直疲れた。


その後もボディーソープを三プッシュくらい使い、ついでにシャンプーとリンスーもワンプッシュずつ使って洗浄&ドライヤー乾燥。


結果、黒から灰色になった。


……この灰色はきっと落ちないな。


「………頑張ったのになぁ」


「…………?」


「……ん?あぁ、なんでもないよ」


気にしない気にしない、と撫でて気をそらす作戦。不思議生物は指に擦り寄ってきた。よし誤魔化せた。


まぁ、よく考えたら灰色が元の色って可能性もあるよね。ならもうベストも尽くしたし、もういいか。いいよね。うん。


ぶっちゃけこれ以上休日に余計なエネルギー使いたくない。


というか休日に何やってんだろなー私。だらけまくる予定が思いっきり狂ってるよ。


「なーんでこうなったんだろねー?」


「…………?」


「あ、ごめんよ。君に言っても仕方無いね」


こうするって決めたのは結局のところ自分自身なわけだし。


しかし。


これからどうするべきかなーこの子。

うちの子として置いとく?

でも家は本当に普段寝るくらいにしか使わないし、最悪餓死させそうな気がするしなぁ。

里親でも探すか?でもこんな生きものの存在知られた時点で手術台逝きになりそうだし。


出来れば我が家で面倒みたいけど、普段はどうしても放置する事になるしなぁ。


「ほんと、どうしたもんかねぇ……」


「…………」


「ん?どした?」


「…………」てん、てん、


「およよ。飛び跳ねてどこに行くというんだい君は」


「…………」てん、てん、


そう言っても不思議生物は構わず飛び跳ねてゆく。どこに行くのかなーとその先を見ると、そこには掃除に使ってそのまま置いてある埃だらけのクイ○クル○イパー…………ちょっと待って。


「待った待った。それ汚いから。くっついちゃダメだよ」


「…………」てん、てん、


「聞く耳持たず?だから待てよ、せっかく綺麗になったってのに…………て速っ」


捕獲すべく手を伸ばしてもひらりひらりと身軽に避けるばかりで、成果は一向に上がらない。何だ、意外に素早いぞこの子。手に掠りもしないってどういうことだ。さっき(風呂の時)は掴めたのに。汚れという弊害が無くなったからかそうなのか。くそう、こんな事なら洗わなければ………いやでも洗わなかったら家汚れるし…………。


「…………」てん、てん、ぽふっ


「あ、…………あぁー……」


そうこうする(考えている)うちに不思議生物はクイ○クル○イパーに着地完了。


また洗い直しか………。


そう考えながら虚ろな目で不思議生物を見つめると、ふと気がついた。


不思議生物の周りの埃、無くなってる。でも不思議生物に着いてるふうには見えない…………あ。


もしや。


「…………」


「…………君のご飯ってさ」


「…………」


「もしかして……埃?」


「…………」こくっ


……………………嗚呼。


「……だから、あんなとこにいたんだね…」


「…………」こくっ


「……心配する必要、なかったのか」


「…………?」


「嗚呼、気にしないで。こっちが勝手に悩んでただけだから…………あ、そうだ」


「…………?」


「君さ、良かったら…………うちの子にならない?」


「…………」こくっ


「決断早っ…………別にそんなすぐ決めてくれなくてもいーんだよ?じっくり決めなよ。決断するにはまだ短すぎるだろ?」


「…………」ふるふる


「そっか。じゃーまぁ」


宜しく。


そう言って右手を出すと、不思議生物は右手に乗ってきた。なんか勘違いしてないかこの子。んーでも……


「ま、いっか」


「…………?」


こうして、我が家に(埃限定の)お掃除生命体が住み着きましたとさ。

ちゃんちゃん。




後日談その一


「てかさー」


「…………?」


「君、ご飯が埃ならさ、なんであんなふうに全身汚れてたわけ?食べながらならあんな事普通ないんじゃないの?」


「…………」


「もしかして、片っ端から食べ散らかしてるうちにあーなったとか……」


「…………」


「……ま、いっか。もう終わった事だしね」


「…………」


真実は闇の中。




後日談その二


「ねぇ、思うんだけどさ」


「…………?」


「君ってそもそもどうやって家に入ってきたの?私ちゃんと鍵とか掛けてたはずなのに」


「…… ……」てん、てん、


「ん?どーしたの?」


不思議生物が扉に跳ねていくのを見てそう言う。そっちは行き止まりだよー、と言おうとした次の瞬間。


「…………」てん、……シュルルッ


「おぉ?え、マジか」


不思議生物は扉の隙間に吸い込まれるようにしていなくなった。

あぁ、移動ってこうやるのねと刹那に理解した。


数分後。


シュルルッ


「…………」


「あ、お帰り」


「…………」てん、てん……スリスリ


「ん、よしよし」なでなで


「…………」スリスリ


「(やっぱり癒されるなー)」



隙間から移動可。ただ理論は不明瞭。





後日談その三


「そーいえばさ」


「…………?」


「君の名前、まだ決めてなかったね」


「…………?」


「え?なんでかしげんの?」


「…………」


「(……なんか勘違いしてんのかなー)。んー……あ、言っておくけど『君』は名前じゃないからね。ただの呼び方」


「…………」シュン…


「(あ、落ち込んだっぽい)。だからさ、名前決めようと思うんだけど、ど?」


「…………」……こくっ


「ん。じゃーどんなのがいーかねぇ……」


名前って言っても色々あるしなぁ。


高橋、橋下、下山、山田、……うーん。

悩む。


あ、そうだ。前にネットで不思議生物の特徴(毛玉 未確認生物って感じに)いれて検索したらケセランパサランって出てきたからそれにちなんでみようかな。


あ、でもよく考えたらそれって猫に『猫』って名付けるのと同じことだよなぁ……それはなんだかなぁ。やめやめ。


でもならどうしようかな?


松田、田中、中津、津川、川崎……あれ、なんかしりとりみたくなってる。


でもどうしようかなー本当に。


もういっそ最初の案のままで突っ切ろうかなこの際。ろくな名前思いつきそうに無いし。


ケセランパサラン…………ケパン……セサラ……ケセラ……ランニ……セサラ……パサラ……やっぱ無理ぽ。


あとなんかあったかなー?

うーん……UMAだからユーマとかは……。


「…………!」てん、てん、


「ん?どしたの?」


「…………!…………!」てん、てん、


「……もしかしてさっきあげてったので気に入ったのあった?」


「…………」こくこく


「おー、マジか」


でもさっきなんて言ってたかなー……確かユーフォーかなんかって言ってたような……なんか違うな。もっと別の…………。


「……ユーマ」


「…………!」てん、てん、


「あ、これ?」


「…………」こくっ


「じゃ、けってー」



名前、決まりました。

しかも割とあっさり。


「じゃ、これからよろしくね。ユーマ」


「…………」こくっ


名前決定。

ついでに種族も(多分)判明。




後日談その四


「…………という事があってね」


「……そう。大変だったね」


「え?信じてくれるの?」


「…………うん。まぁ、信じるよ」


「わぁ、ありがとう。この話したのは佐倉が初めてだけど、正直言って信じてくれるとは思ってなかったから」


「…………なんで?」


「だって、佐倉って現実主義者じゃん?そんなはっきり言ってうっさん臭いもの、肉眼で確認しない限り信じてくれないって思ってたからさー」


だから、ちょっと驚いたんだ。

そう言って笑う同僚の姿。


そしてその同僚の左肩の上に、灰色の丸い小さな毛玉がひとつ。


毛玉には黒いつぶらな目が2つ付いていて、時折空気中をふよふよと漂っては同僚にくっついたりを繰り返している。


認めざるを得ないだろ。

こんなあからさまに目の前を彷徨いてんだから。


そのくせして宿り主の視界には決して入らないようにしているものだから、もう私がどうやっても椎名は毛玉がまさかこんなところ(職場)にまでついてきていることに気がつくことは無いんだろう。


椎名も変なところで現実主義者なものだから、視界に入れるまでは多分私が言っても冗談だと流す。そういう人間だ。だから捕獲して見せようとしたけど、ダメだった。速すぎて捕まえられない。手が掠りもしないって本当どういうことだ?しかもなんか私以外の人には見えてないっぽいし…………。


「どうしたのー?佐倉。なんか気分が落ち込んでるようだけど」


「…………いや、なんでもないよ」


「そっか。ならいーや」


でも、無理は禁物だよー。佐倉は時々こん詰めすぎちゃう時あるからねぇ。


そう言って笑う同僚。そして現在は同僚の頭上を漂う毛玉。心持ち勝ち誇ったような表情をしているように見えて非常に腹立たしい。


そんな様子の一人と一匹に向けて、うん、分かったと返して私は仕事に戻った。これ以上啀み合いしても仕方ないし……ね。傍目からは変人にしか見えないし。……うんドヤ顔やめろUMA。あと当たってくるな邪魔だ。


それから数日後、椎名が宝くじを当てて一攫千金を成し遂げたことが発覚したのは完全なる余談だ。




種族判明(確定)。






――わーい。今度も当たったよ。


――そっか。それも貯金に?


――うん。老後はこれで生活するんだ。


(……いい加減に気付け、同僚。

運が良いのレベルとっくに超えてるぞ)




ちゃんちゃん。




※注意


本作のケセランパサランの設定はほぼ捏造で す。


ケセランパサラン


掴むといい事が起こるという謎の毛玉。UMA。

(↑物凄く曖昧で不確か。)


ちなみに毛玉 不思議生物で検索すると出てく るのは本当です。

↑試した。


本物の情報が知りたいという方は調べてみてください。



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