第3話 太陽の神子
開かれた扉から太陽の光がさしこむ。ココロはその眩しさに、目をそらした。
「この方ですね、ロタ。」
ロタと呼ばれた少年は、おどおどしく男の後ろでうなずく。
「なるほど。たしかに予言書に書かれたとおりです。ロタ、お前は城までひとっ走りして王に事を伝えて来なさい。我らにも太陽の神子が現れた、と。」
神官の言葉に、ぎょっとしてロタは彼を見上げる。
「城まで行くのかよ!?ウソだろ!だったらせめて馬をかしてくれよ、神官さま。」
「あいにく私の愛馬はいま足をケガしてるんです。それにお前にかすつもりもありませんしね。ロタ、つまみ食いをした罰はこれで帳消しにしますよ。どうします?」
神官の冷たい視線に、ロタはしぶしぶ承諾し太陽の光が降り注ぐなかを潔く走っていった。
それを手を振って見送った神官は、二人のやりとりを呆然と見ていたココロに振り向く。先ほどは逆光のせいもあり顔があまり分からなかったのだが、こうして見ると意外と若い男だった。しかもかなりの美貌の。
神官はココロに近づき、ココロの全身を縛りつけている蔓に手を当て、ぽそっと何かを呟く。
すると見る見るうちに先ほどまでは元気だった蔓は枯れてゆき、自力でちぎれるほどになった。
(優しそうで綺麗な人…。沙織の好みそうなタイプだな…。)
ココロはそう思って、ここに沙織がいないことを今さらながら寂しく思った。
「これで大丈夫ですよ。太陽の神子、私の名前はジュラと申します。できればあなたのお名前を教えて頂きたい。」
その微笑みにココロは一瞬ぽーっとしてしまったが、あわてて理性を取り戻した。
「わ、私の名前はココロっていいます。」
そしてジュラが言った気になる言葉について、付け加えた。
「あの、私その…なんとかの神子じゃありません。」
そのあわてぶりか、変わった名前かがおかしかったらしく神官はくすっと笑いをもらす。
「さすが神子さまは変わった名前でいらっしゃる。」
「……だから神子じゃなくてココロだってば。」
ココロが小声でぶつくさ言うと、ジュラはココロの前でひざまずき、手をとって唇を当てた。
その動作のせいでココロは真っ赤になり、顔から火がでそうだった。
「ここは光陽種が住む太陽の恩恵をうけた都、フアジャール。太陽の神子とはあなたのことです、ココロ。そして私は太陽の神に仕えるもの。つまりその子であるあなたは私にとって神にも等しい。詳しいことは王が話してくれるでしょう。」
ジュラは不敵な笑みを浮かべて言った。
ロタはその頃、全速力で城へと続く城下町の通りを走っていた。
「おやロタ。そんな急いでどこへ行くんだい?」
花に水をやっていた老女が走り去るロタに問う。ロタは肩ごしに答えた。
「城へ行くのさ。太陽の神子が現れたんだ!これで夜生種どもも好き勝手できないだろうよ!」
ロタは嬉しさのあまり、飛び跳ねてガッツポーズをした。
ロタがもう見えなくなったあと、老女は事の重要さをやっと理解し、びっくりして腰がぬけてしまったという。
やっとのことで城門まで辿り着いたロタは、息切れが激しくて死にそうだった。
けれどあえぎながらも何とか、かたく扉を閉ざすゴツい門番兵に言った。
「おい、頼むから門を開けてくれよ!急用なんだ、大変なんだって!!」
すると門番兵は落ちついた口調で一言。
「名乗れ。」
「だから俺の名前なんかどうでも… あーもうっ!太陽の神殿に仕える修道僧ロタだ!神官ジュラからの言伝により城まで参った!!」
すると門番兵はぴくり、と眉をあげた。
「なに。ジュラの言伝とな…?…少年、少しの間待たれよ。」
そう言うと門番兵は耳のピアスを外して、それに話しかけた。
「太陽の神殿に仕える者が訪ねて来ている。名前はロタというそうだ。ジュラの言伝で参ったと申しておる。用件は……」
言葉が途切れ、門番兵はちらりとロタを振り返る。
「用件は何だったかな?」
「…ッ!はじめからそれを訊けよ!太陽の神子が現れたんだ!!」
読んでくださったそこのあなた様がいて下さって私は幸せ者です。
実に私的な話ですが、ロタ好きです!言葉が悪いところとか特に…
ではこの場をかりて舞台設定について説明しておきます。
この世界、パディシャン=ブルカには夜生種と光陽種がいます。
夜生種は光陽種の血を好む吸血鬼です。光陽種とは何かというと、普通の人間です。
中にはジュラのように不思議な力をもった者もいますが…
それではこのへんで・。・゜*・。・゜*・。・゜*・。・゜*・。・゜*