第2話 蔓の少女
――その日、少年はいつものようにユリの花を一輪つみ、神殿の前に立った。
夜生種による度重なる襲撃で、石で造られたこの神殿には亀裂が走り、穴もあいている。
その穴からは蔦や蔓がはびこり、また壁にはコケがたくさん生えていて、かつては白かった太陽の神殿も、いまでは緑色に変わってしまった。
光陽種である少年は、週に一度ここへ来てユリの花を捧げ、神に祈る。
――早く僕たちに太陽の神子を、と。
それが彼の役目だからだ。
少年は石の階段をのぼり、神殿の扉の取っ手をにぎろうとして気づく。扉のすき間から光がもれていた。
(誰かいるのかな…?今日は僕が祈りの日だったはずだけど…)
少年は不審に思って扉を開けてみる。
すると中では、まばゆいほどの光が神殿の中央から発されていた。
まぶしすぎて少年はそれを直視することができない。
光がおさまると、少年はその発光体に近づき、その姿を見て目を見開いた。
「お、女の子…!」
光を発していたのは他でもなく、黒髪の女だった。しかも蔓で全身をしばられている。
「なんでこんな所に…。とにかく神官様に伝えなくちゃ…!」
少年はそうつぶやくと、慌しく神殿を飛び出して行った。
ユリの花をそこに忘れて……――
ココロは、神殿にあいた穴から差し込む太陽の光で目覚めた。
しばらくボーっとして脳ミソを起動させる準備をする。そして夢のことを思い出す。
(今日の夢は一段とまた変わった夢だったなぁ…。絵にミステリアスな現象が起こって、怖くなって逃げようとしたら、絵の中から蔓がのびてきて引きずり込まれちゃったんだもんなぁ…。我ながらすごい想像力。)
笑いをもらし、夢の世界を思い出して楽しんだ後、のびをしようとして体が不自由なことに気づく。
自分をしばっているその存在を見て、ココロの顔はいっきに青ざめた。
「………ウソでしょ。…あれ…夢じゃないわけ…?」
自分の体は蔓によって身動きできない状態になっていた。夢と思っていたあの出来事が現実に起こっている。
よくよく見れば、ここはホテルのふかふかのベッドじゃない。見たこともない硬い石の祭壇の上だ。
「やだ…。だって沙織、迎えに来るって言ってた…。…もしかして私、向こうでは行方不明者…?やだよそんなの!まだ修学旅行3日しか経ってないのに…。」
それに、とココロは自分の心の中でつぶやく。
(好きな人にだってまだ告白してないのに…。)
ココロはこの修学旅行で、幼馴染みのクラスメイトに告白するつもりでいた。
最近、いい感じになっていたのだ。
もう会えない、そう思うとココロは、こんなことなら早く告白しておけばよかった、と後悔して目に涙を浮かべた。
「誰か…私をあそこに戻してよぉ…!」
ココロがそう叫んだとき、神殿の扉が外から開けられた。