第1話 教会の絵
飛行機から降りると、外が暑いのに初めて気がついた。
空から照りつける太陽が痛い。
ココロは麦わら帽子を深くかぶった。
今は夏休み。そして彼女は高校の修学旅行で、ここイタリアに来ていた。
涼川 心、16歳。
彼女の長い夏はここから始まる。
イタリア中部にある世界最小の国、バチカン。修学旅行3日目はそこに多くある教会を訪ねまわる。
4つ目の教会の奥深くにある一つの部屋に来たとき、ココロはそこに飾られている一枚の絵に釘づけになっていた。法衣を着た老人が、十字架をヴァンパイアにつきつけている絵だ。
「ココロ、次の教会行くってさ。」
ふたつ結びをした友人がココロのところへ来て言った。ココロは絵を見ながら答える。
「沙織。この絵、なんか不思議な感じしない?」
ココロがそう言うと、沙織は首をかしげてココロの隣りで絵を見た。
「別になにも感じないけど…。」
「…なんか懐かしいの。どっかで見たような…」
沙織は眉間にしわを寄せた。
「それってもしかしてデジャヴュってやつ?よくあるわよ。それよりも、もううちらしかこの教会に残ってないんですでけど。」
他の班はおそらく次の教会か、お昼ご飯を食べに行ったことだろう。この教会はあまり有名ではなくむしろあること自体、現地の人でも、知らない人がいるかもしれない。
来たときも観光客は非常に少なく、今この教会にいるのはココロと沙織だけだ。
「ねぇ沙織、先行ってていいよ。私もう少し見てたいから。」
「ううん、待ってる。じゃ私も他の絵見てこようかな。ちょっと経ったらまた迎えに来るから。」
そう言って沙織は部屋から出て行った。一人になったココロは自分の手元のパンフレットを見た。
「この絵、【月と太陽】っていう題名なんだ…。」
ココロは独り言を言って気づく。おかしい。
この絵には月も太陽も描かれていない。なのにこの題名は変だ。
そしてココロはもう一つ不思議なことに気づいた。
「なにこの文字…。」
先ほどはあきらかに書かれていなかった文字が、絵の左隅に書いてあった。ココロはその文字をなぞり、声にしてみる。
「≪太陽が満ちるとき月は陰る。月が満ちるとき太陽は陰る。≫何言ってんの、これ。そんなの当たり前じゃない。」
彼女がそう呟くと、一瞬、絵が光ったように見えた。
(…?)
ココロは不気味に思い、身を翻そうとしたその時、ココロをもっと不気味な思いにさせることが起こった。
「絵の…絵に描かれている人たちが消えてる…!!」
ココロはたまらず、全速力で部屋の出口へ向かった。あと一、二歩で部屋から出られたというのに、彼女は出られなかった。
絵から伸びた蔓が、彼女の手足を掴んでいたのだ。信じられない光景にココロは必死でもがき、叫びまくる。
しかし努力もむなしく助けは来ず、そのまま絵の中へ取り込まれてしまった。
読んでいただきありがとうございました!
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