妖精と人間の子供
セイラに事情を聞いてくるといって飛び出したテトを二人の男は手持ちぶさたで待っていた。
やがて数時間がたったとき、テトが淡い緑色の髪をふわっとおろし、髪と同じ色の瞳が美しい妖精を連れてきた。
“セイラだ。”
セイラを見た瞬間、リアンは眼に涙をいっぱい浮かべた。
“初めまして。ずっと探していたんです。私も”
ちょっとはにかんで笑ったセイラを思わず手のひらで包み込む。
“言わなくてもわかる。リリーにそっくりだ。”
そういってセイラを眺める。
“やっぱりな”
テトは満足げにその光景を眺めた。
“君のお母さんはどうしてる?”
“お母さんは、あのことで体を痛めたけれど、元気にしています。妖精ですから。”
セイラはそう言って微笑んだ。テトと同じように羽から光がこぼれ落ちる。
女性らしい柔らかな物腰のセイラを愛しむようにテトが見守っている。
“体を痛めた??”
“そう、悪魔と取引してしまったでしょ?それで。”
“どこが悪いのかな??”
心配そうに男が聞く
“取引をしてから3日間。人間の体を手に入れたあと、もし3日で去らなければ、体の感覚を一つずつ失うと言われていました。
あなたの側を離れられなかった母は、それでもずっとあなたと一緒にいようと思っていました。
4日目の朝、母は聴覚を失いました。耳が聞こえなくなったんです。
そして5日目の朝、今度は声を失いました。そして、其の日、母は私がおなかにいると気づいた。
これ以上感覚を失うと子供を育てられなくなる。母はそう思ってあなたの側を去る決意をしました。
もし、母とあなたがもう一度あったら、二人とも命を失います。
妖精と人間は恋してはいけないことになっているのです。私の存在が問題なんです。
人間と妖精とのハーフなんて存在してはいけない命。
私は母と妖精として生きる道を選びました。あなたを探していたのはこのことを伝えるためです。
決して母を探してはいけません。二人ともそのまま命を失います。
母は死を恐れてはいません。妖精ですから。
けれど、わたしは母を失いたくはない。
半分人間の私にはどうしても目の前からいなくなる事実を受け入れられないんです。
母はもう一度あなたに会えるとわかったらすぐにでも飛んできてしまう。
私はそれが怖くて怖くて。絶対に会わないで欲しいんです。“
セイラは懇願した。
“妖精が体が悪いなんて聞いたこと無いぞ。”
“テトは言った。”
“そう、全てが特別なんです。悪魔と取引なんて恐ろしいタブーを犯しています。許されないことです。私の存在も。”
“わかったよ。”
リアンは優しくセイラに言った。
“君を悲しませるようなことはしない。僕の愛する娘だ。だけどね、セイラ、僕と君のお母さんは本気で愛し合った。
そして君が生まれた。そのどこがいけない?生まれてくる命にタブーなんてあるものか。
セイラ。胸を張って生きてくれ。妖精としてでも、人間としてでも構わない。命を輝かせてほしい。”
“リアン。私は本当にあなたを探していました。”
セイラは再び男の胸に抱きついた。
“優しい人でよかった。私のお父さん。”
“そうさ、セイラ、君は特別だ。この世の中に1人だ。
僕は君の特別なところに引かれたのさ。妖精の陽気さの中に、人間の切なさを持つ君に。本当に君は美しいよ”
テトもそう言って彼女を抱きしめた。
セイラは初めて自分の命を認められたような安心と幸せの中にいた。
恋人と父親。二人の男性がセイラの命を認めてくれた。それが何よりも嬉しく感じた。
私は望まれて生まれてきた命。リアンの言葉がセイラの支えとなった。