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ハワイアンソウル  作者: Natary
命の水
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変化


ジルはきっぱりといった。


“セイラが悲しむ。”


テトの目に初めて悲しげな影が浮かんだ。


“セイラは悲しむか?”


妖精のテトに初めて迷いが浮かんだ。


“ああ、悲しむ。君は帰らなくてはいけない。”


ジルは言った。そしてきっぱりと思った。不思議と迷いや恐怖はなかった。



“僕の命を使おう。


家に帰るだけなんだろ?


そしたら蘇らせなくてもラナに会える。


君の恋人はまだこの世にいるんだ。テトは残ってセイラの側にいなくてはいけない”


ジルは覚悟を決めたように大きく息をした。

ジルの体が大きくなったようにテトには見えた。


ジルの体の中からじわりじわりと金色の光が滲み出てくる。

やがて金色の光はジルの体中を包み込み大きく輝いた。



“僕の命をここに捧げる。もって行くがいい。カネの水をテトのもとへ”



強く、強く念じる。やがてジルの金色に包まれた体から白い光が浮かび上がり、

全体を包むように光の強さを増していく。テトも目を開けてられないくらいのまぶしい光が洞窟を明るく照らす。


どんどん光は大きくなる。太陽を直視したかのような大きな光だ。




“ああ、ペレが言っていたのはこのエネルギーか。



ジルがピュアソウルに変わっていく。”



その光はテトが持っていたピュアソウルの結晶にどんどん吸い込まれていく。


テトの手から離れたピュアソウルの結晶は宙に浮かびくるくる周りながら一つになる。

ジルの体から放たれた光を吸ってどんどん大きくなる。

やがて洞窟いっぱいぐらいの球状になったピュアソウルの集合体はまるで小さな太陽のように光を吸いきって中に浮かんだ。



“ピュアソウルに変化するときのエネルギーってこのことか。”



テトがつぶやいた。アースを癒すピュアソウルエナジー体。


ぼわんぼわんと浮かびながら漂う光の玉はゆったりと回転していた。



なんて幻想的な光景なんだろう。


洞窟全体がピュアソウルのエナジーで清められたように清清しい空気になっている。




“僕の命と引き換えにカネの水を”



ジルが決意したようにもう一度言ったとき、


周りの洞窟が秒速で後ろにさーっと流れた。瞬間移動したようにテトとジルは巨人の前にいた。



どこから現れたのかと思うほど洞窟に不具合大きさの男が背中を丸めるように岩に腰掛けている。


座っていないと動けないぐらい頭は天井すれすれだ。あごはしゃくれ、髪はぼさぼさで、ごつごつして手をさすりながら低い声でテトとジルに話しかけた。



“カネの水が欲しいのか?”


のそーっとした鈍い声は長い間誰とも話していなかったようだった


。巨人は退屈そうにそういった。何万年もここにいたのだろうか。

日の光になれていないのか、ピュアソウルのエナジー体をまぶしそうに見ている。



“神を連れてきたのか?”



巨人がつぶやいた。



“いや、ピュアソウルだ。ヒイアカに導かれてきた。”


“なぜ、カネの水がいるんだ。女神に案内させてまで。”


暗闇の中に慣れていた巨人が自分のいる洞窟が明るく浮かび上がっているのでものめずらしそうにあたりを見回している。



“こんな来客は久しぶりだ。ここは水以外なんにもないんだ。退屈だ。”


巨人はテトとジルを歓迎しているように見えた。


それほど広くない洞窟は巨人がそこに座れるだけのスペースをやっと確保したように四面を厚い岩盤に囲まれ、

牢屋のようだった。陶器の皿のような大木を切り抜いたような器が中央にあって、そこに岩盤をつたって水がぽた、

ぽたっと落ちている。どうやらこれがカネの水らしい。



“カネの水を少しもらいにきた。蘇らせたい人がいるんだ”



テトが言った。



“妖精が生に執着するのか?”



“いや、ただ愛する人が望むから。”


テトが答えた。


“愛か、ロマンだな。”


ふふっと巨人が笑ったように見えた。


“人間に恋したのか?妖精が”


巨人はおかしそうに言った。



“素敵な子なんだ。”


とテトが答えた。


“お前もか?”


巨人が突然ジルをぎろっとにらんでいった。


“そうです。妹のラナを蘇らせたいのです。”


“自分の意思で帰ったピュアソウルをまた呼び出すのか?”


巨人は不思議そうに言った。洞窟の中にいても色々なことがわかるらしい。


“そう思ってここまできました。けれど、命を差し出さなくてはもらえないと分かった。

ぼくは僕の命を使います。僕がラナの方へいくことにしました。テトは恋人の側にいなくてはいけません。”


ジルは巨人をまっすぐ見据えていった。


“ジル。”


テトはジルの進化をまぶしそうに見つめる。見事なピュアソウルに変身したジルは神々しいほどだった。


巨人はしばらく考えているようだった。


“いいさ。少しぐらい分けてやる。”


巨人はひょうたんのような形の水筒に取り出した。


巨人の横にはぽたん、ぽたんと岩場から水滴が落ちてたまったカネの水を、

巨人は自分の手のひらをジョウロのように泉の中に沈め、器用にひょうたんの中に水を入れると、栓をして差し出した。


“ここまで誰かが来たのは久しぶりだ。僕も退屈しのぎになったよ。”


ジルが拍子抜けしてそれを受け取る。


“僕の命はいらないのか?”


“そうだな。本当はそういうルールなんだけど、ピュアソウルに変化するところなんてめったに見れないし、

僕が光を見たのは数百年ぶりだ。あのエナジー体はものすごくきれいだし、

久しぶりに洞窟が明るくなって楽しかった。退屈しのぎになったよ。”

といって巨人はフォーフォフォフォと笑った。


久しぶりに楽しかったから、特別にやるよ。巨人はそういった。


“ペレも見逃してくれると思うよ。”

ジルとテトは顔を見合わせる。



“なんだよ、もしかしてペレが作ったルールかよ。”

テトが吹き出した。


“そうさ、ペレはたくさんのルールを作った。それで命のバランスが保たれている。

でもまあ、一つぐらい狂ってもペレも何も言わないさ。どうせみんないずれ死ぬ。少しずれただけだ。”


巨人はおかしそうに言って、もう一度フォーッフォッフォフォと笑った。


ジルは神妙な面持ちでカネの水を受け取った。


“まったくペレも人騒がせだな。”


とテトは言ってにやっと笑った。


“ジルがピュアソウルになるための仕掛けか。”


神々はとことん人間に優しい。いつでも試練とともにチャンスを用意している。



なんのことだかわからないがジルは自分が成長しているのを感じた

。魂が軽く、わくわくする希望に満ちている。

表にでるとジルはつぶやいた。


“はあ、世界はこんなに美しかったかな。”



光の美しさ、遠くに広がる青い海。手前を覆いつくす濃いグリーン。


“そうさ、気づけば世界はいつも美しい。

人間はないものねだりをしながら、アレが足りない、コレが足りないっていつも文句ばかりいうけどさ、

手に入れているものを見つめなおせばそのすばらしさにため息がでるさ。

ないものより持っているものを見つめて生きれば幸せはそこにある。

天国も地獄も、心のありようだからな。自分が今手に入れている幸せを見つめれば、

そこが天国になる。気づけば、毎朝空が青いというだけで感動して泣けてくるさ。”


テトが言った。そうだな。まったく外の世界は美しかった。



“僕は、今まで何を見てきたのかな。側にあるものは近すぎて見えないのかな。”


ジルは心から思った。今あるものに感謝して生きればその瞬間そこが天国になる。


“さあ、このピュアソウルのエナジー体をアースに奉納しにいかなくちゃ。”


テトが言った。


“ジル、お前と一緒に行けて俺は嬉しいよ。お前いやつだな”


“ははは。コーヒーくれるからだろ?”


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