巨人の声
“よし、行こうジル。”
テトに押されるように中に入ると、入り口はまたすっと塞がった。
出れるかな。と一瞬不安になる。
途端、黒い煙が向こうから襲ってくる。
テトが叫ぶ。
“ジル、不安を消せ。自分の中の不安を消すんだ。ここではお前の不安が形になって攻めてくる。それが魔物だ。”
ジルは必死に打ち消す。大丈夫。大丈夫。きっと出れる。
すると黒い煙はすっと消えた。
“人間にとっては大変な場所なんだ。一瞬たりとも不安を感じるな。感じたら必死に打ち消せ。
死の恐怖が襲ってきたとしてもだ。もし、死の恐怖を感じてそれを不安に想ったら一瞬でやられるぞ。”
テトが言った。
“待ってくれ。人間には無理じゃないか。怖いものは怖い。”
“大丈夫だ。ジル。カイからホオポノポノを教わっただろう?
常に記憶をゼロにしろ。不安は記憶から来る場合が多い。潜在意識をゼロの状態にして自分をクリーニングし続けろ。
そして、愛のエナジーで満たしておくんだ。
ジルは必死に繰り替える
I love you I love you
すべて上手くいく。
自分の中をクリーニング。心をゼロの状態に。
なんども繰り返すことでだんだんと上手く意識できるようになってくる。
“大丈夫。ペレが指示した。お前は選ばれたソウル。きっと打ち勝てる”
テトが励ます。妖精の陽気さが少しうらめしかった。
はじめに説明しておいてくれ。
“初めから知っていたらなにか変わるのか?心の準備なんてすると不安の種をまくだけだろ?”
テトがおかしそうにいった。
“やるしかない時のほうが多い。目の前のことに集中しろ。”
テトは声をかけ続ける。実際、テトに話しかけていてもらわないとすぐに逃げ出したくなるような場所だった。
“魔物を作るのはおまえ自身だ。忘れるな。”
テトはジルを励まし続けた。
“明かりを”
テトは強く念じて通路に明かりを灯した。
“弱いけど仕方ない。俺も色々意識を分散しないといけないから”
とテトは言った。想い続けることは容易くない。
“大丈夫、絶対に大丈夫”
ジルは声にだして言い続ける。
“絶対に大丈夫。”
“絶対に大丈夫。大丈夫・・・・・”
“そうかな。本当に大丈夫か?”
不気味な声がする。
“惑わされるな。巨人の声だ。”
テトが激を飛ばす。
“お前はここに、閉じ込められ、食べるものも飲むものもなく、誰にも見つからずに死ぬんだ”
あざ笑うような声だ。一瞬、ジルが恐怖を感じる。ここで餓死する自分。
前方から黒い煙がものすごい勢いでジルを包む。
“テト、”
“ジル、声にだせ。お前は絶対大丈夫だ。”
“大丈夫だ。ここからカネの水をもらってラナを呼び戻す。”
念じるようにジルが言う。何度も、何度も。
黒い影が薄くなってジルから離れた。
“油断するな。巨人は色々しかけてくる。”
テトが言ったようにしばらく行くとまた声がする。
“人間の絶滅は決定だ。人間ごとにき覆せるものか。”
“お前が来る場所ではない。お前が何をしたところで、人間は消滅する”
巨人の声はひっきりなしにジルを責めてくる。
自分がちっぽけな自分一人が人間を救えるのかと。
“お前ごときにアースが救えるか?たとえ救って何になる?どうせお前はあと数十年の命。
アースが人間を絶滅させたってお前に関係あるのか?人間がいないほうがアースは幸せかもしれないぞ。”
巨人の声がこだまする。
“耳を貸すな。クリーニングしろ。すぐに心をゼロの状態にするんだ。心の中の隙をついて話しかけてくるんだ。”
“僕の愛するインナーチャイルド。僕が守る。心を愛のエナジーで満たす。今はカネの水のことだけを考える。”
“いいぞ、その調子だ。”
テトが励ます。
巨人がついに一際大きな声で呼びかけた。
“これを成功させて何になる?カネの水を取ってラナが蘇ってもテトは死ぬぞ”
“なんだって?”
思わず大きな声で反応するジル。
“テトは知っている。命をコントロールする水を取りにきた妖精はその命を差し出すことになっている。
命の量をコントロールする。それがルールだ。”
“本当なのか?”
ジルの中で驚きと不安が交差する。
“耳を貸すな。”
テトが言う。
“本当なのかテト?カネの水を得たらテトは死ぬのか?”
“ああ、引き換えだ。命の量はバランスをとらなくてはいけない。”
“聞いてないぞ、リリーをよみがえらせたって君が死んだら意味ないじゃないか。”
“意味?意味なんて必要か?セイラが望んだことだ。”
“セイラも君が死ぬなんて知らないはずだ。”
“僕は死など恐れない。家に帰るだけだ。”
“違う。セイラは半分人間だ。そんな風に考えられないよ”
ジルが必死に言う。黒い煙が前方からものすごい勢いでジルに向かってくる。
“気にするなジル。集中するんだ。命を差し出さないとカネの水はもらえない。
それがルールだ。僕はまた生まれてくる。いいか、カネの水をもったら急いで帰れ。あとはヒイアカが教えてくれる”
テトは言った。
“嫌だ。テトを失って帰るなんて絶対に嫌だ。”