別れと疑問
テトを見るとテトも真剣な表情をしている。
“早すぎる。僕たちさっききたばかりだろう?”
“ジル、色んなことのスピードが加速しているのかもしれない。
それだけきっと緊急事態なんだ。アースが。”
“ちょっと待ってくれ。せめて両親を呼んでくる”
ジルはすでにもう泣きそうになってクムのうちを飛び出した。
訳もわからない状態の両親を無理やりクムのスタジオに連れて戻ってくる
“ジル、どうしたっていうの?突然現れて、ラナは少し眠っているだけよ”
シンディーは血相を変えているジルをびっくりしながら見つめている。
“テト、ラナはどう?”
“眠っているよ。”
“なんだっていうのジル?説明して欲しいわ。”
ジルの母親は怒ったように言ったあと、テトに眼を留める。
“まあ、メネフネ。私も小さい頃はたまに見えたけれど、大人になってからは初めて”
テトに会って嬉しそうなママを制してジルは言う。
“マム、説明は後だ。ラナがもうすぐ逝ってしまう。”
“行くってどこにだい?眠っているじゃないか。”
ジルの父親も突然のことにも訳がわからずにうろうろしている
“とにかくラナを起こそう。具合でも悪いのか?連れて帰ろう。”
ジルの父親がカウチに近づいてラナを優しく起こす。
“ラナ、具合が悪いのか?ラナ?お家で休もう。”
“ラナ、ラナ。帰ろう。”
ママも呼びかける。
“まあ、そんなに急がなくてもほんの少し休んでるだけですよ。皆どうしちゃったのかしら今日は。テトが来たからかしらね”
シンディーがとにかくお茶でも入れましょうと言って奥に入る。
“ラナ。ラナ。おきてラナ。”
ジルの母親も引き続き呼びかける。
“ハニー、様子がおかしいわ。こんなに呼んでいるのに起きないなんて。”
ジルの顔色が変わる。テトを見ると
“わかっているだろ”
という顔でジルを見る。
“嫌だ。嫌だ。ラナ。ラナ。”
ジルは取り乱してラナにすがりついた。
“なぜだ、なぜ起きない。”
“ラナが死んでしまった。僕の最愛の妹が。”
ジルの悲鳴がスタジオを包む。
“なんてこと。”
顔を覆って泣き出す両親。お茶を持って入ってきたシンディーはカップを床に落として立ち尽くすんでいる。
“だって、さっきまであんなに元気にフラを踊っていたじゃない。”
騒然となる。それぞれが訳もわからず取り乱している。
“ラナ、大変だ。悪夢のようだ。”
“ほんとうよ、さっきまで本当に元気に踊っていたのに”
“ああ、なんてこと、私より先に娘がこんなことになるなんて。”
ラナの母親は泣き崩れてしまった。
テトが混乱を落ち着けようとラナにすがっているジルに話しかける。
“ジル、落ち着け。ジル。ラナの顔を見てご覧。苦しまずに逝った。
ほら、ちゃんと見てご覧。お前の自慢の妹だろ。ピュアソウル。死ぬときでさえこんなに美しいんだ。”
ラナは微笑みながら眠っているようだった。ジルは涙に滲んで妹の顔がよく見えない。
“だめだ。ラナ。僕はとても耐えられない。君無しの人生なんて、僕の魂の半分が消えてしまったようじゃないか。”
“消えたりはしないよ。ジル。ラナは帰っただけだ。またすぐ会える”
テトが優しくジルに言う。泣きじゃくるジル。
“見てご覧、ジル。ラナの魂が行くよ”
テトがラナの胸に手を当てる。一筋の光がすーっと天に昇っていく。
“ああ、ラナ。逝かないで。僕たちいつも一緒だったじゃないか。”
ジルがその光にすがろうとする。
“ジル、泣かないで。またすぐ会えるわ。だっていつも同じでしょ?
きっとそういう風にできているのよ”ジルの頭の中でラナの声が聞こえた気がした
“ピュアソウルだ。ジル。”
テトから手渡されたラナのソウルを握りしめて、それを抱きしめるようにジルは嗚咽した。
“どうしてこんなことに。”
来る人すべてが口にしたこの言葉。診察した医師は言った。
“脳梗塞ですね。きっと踊っているうちにすでに頭部からかなりの内出血があったと思われます。
それで、急にカウチに横になった拍子に大量出血して死に至ったかと。”
頭の遠くでその言葉と両親の嗚咽を聴きながらジルはラナの言葉を繰り返していた。
“だっていつも同じだったじゃない。”
“ジル、またすぐ会えるさ。”
テトがいった。
“すぐっていつさ。僕も死ぬのか?どうしてさ、アースの機嫌をとるためにどうして僕らが犠牲になるんだ。”
ジルは怒りに燃えた眼でテトを見つめた。
“それは違う。アースは命をコントロールしたりしない。
俺たちは、死ぬことになっているピュアソウルを探しているだけさ。順番が違う。”
“じゃあ、誰が決めているんだ?その死をだれが決めているのさ。”
そんなこと。とテトは静かにいった。
“自分に決まっているだろ?ピュアソウルは自分でいろんなことを決めてこの世に来ている。
産まれてくる両親も、出会う人も初めから決まっている。だから絶妙なタイミングでいろんなことが起こる。”
“全部が計画どおりってことか?自分で決めた人生をただ計画通り生きて死んでいくのか?”
“違う。迷路のように、生きているときに選んだ道で起こることが違ってくる。
これを選んだらこっちにいく、
コレを選ばなかったらこっちへいくっていう具合に色んなオプションがあるんだ。
でもそのどの道も、結局自分で決めている。色んな道はあるけれど、その道すべてがクリアしたい課題に向かって進んでいる。
早く課題をクリアすれば早く逝くときもある。すべては魂の進化の為。
ピュアソウルはほとんど卒業試験に近い位置に居る。魂のレベルが高ければ若くして死ぬこともある。
他に役割があるからだ。ジル。お前本当にピュアソウルか?ピュアソウルならそういうことを本能で感じていてもいいはずなんだけどな。“
テトの疑問は隠しきれないほど大きくなっていた。
“知るか。僕はラナと99%同じ遺伝子でも、きっとその1%がピュアソウルかそうでないからの違いんんじゃないか?
僕はラナみたいに立派じゃなかった。魂が清らかだと思ったこともない。普通の人間なんだ。”
“そうなのか???間違えるってことがあるのかな。”
“神様だって時には間違えるんじゃないのか?
とにかく僕には荷が重過ぎるよ。大切な人に死はつらすぎる。また会える?そんな風に思えるか。”
ジルは苦しそうにいってうなだれた。
その様子をみてテトは思った。
“本当に間違えるってことがあるのか。こんな一大事に。いや一大事だからなのか。
とにかくペレにもう一度あって確認してこようか。”
誰もが早すぎるラナの死に参っていた。
カイルアはラナの死を悼むようにスコールが降った。
ジルとその家族の絶望にテトは息苦しくなっていた。
少し離れないと死んでしまう。テトは少し混乱していた。こんなに死に執着するピュアソウルがいるのか?
ジルは本当にピュアソウルなのか。