予兆
テトに言われるまでもなくシンディークムにはラナの踊りがペレに愛されていると確信した出来事が何度かあった。
フラシスターとともに奉納フラをするためにハワイ島へ合宿に言った。
ペレは時々フラシスターたちにいたずらをして自分の存在をアピールしたりするので、
オアフに戻ったあとフラシスターたちは
“買ったシェルのネックレスがどこを探してもない。ここに入れたのに。。”
とか
“火口にレイを捧げようと思って持っていったら何度投げても自分の手の中に返ってきてしまって、
ペレはこのレイ嫌いなのかしら。代わりに私の髪飾りを風に巻き上げてもって行ったわ。“
など少し不思議な体験を披露しあうのが通例になっていた。
その日、ラナの奉納フラは困難を極めていた。
火口に着いたときはへとへとになるほど風が強く、長い髪を巻き上げるほどで、立っているのがやっとの強風に
“これじゃ踊れないかもしれない”とシンディーも思っていた。
ラナは
“大丈夫。踊れるわ”
というと一人すっと立ち上がる。
何か確信があるように強いまなざし。
この子はやはり違うわ。とクムは神々しいものを見るように見守った。
いつものように雨がさーっと降る。そして風がぴたりとやんだ。
“ペレがラナのフラを見たがっているんだわ。”
シンディーは確信した。
そしてラナが踊りだす。ペレをたたえるカヒコが終わるとまた風が吹き出した。
ラナは一人火口に向かってうなずいている。
“ペレの声が聞こえたの?”
シンディーが聞くと
“いいえ、ただそんな気がしただけです”
とラナが笑った。なんて言っていたのかしら。
シンディーには確かにラナがペレと話しているように見えた。
ラナはペレに愛されている。シンディーには少しうらやましいほどだと思った。
“それにしてもラナは美しいな。フラダンサーとして生きてきた回数が多いんだ。
ラナは生まれてくる前もフラダンサーだった。その前も、その前も。年期が違うな”
テトがラナのフラに惚れ惚れしながらジルに言った。
“ジル。花がどうして美しいか知っているか?”
ラナを見つめながらジルが答える
“考えたこともないな。”
“心が美しいからさ。”
“花はただ花だからきれいなのさ。心がきれいだからただそこにあるだけで美しいんだ。
美しいものは人の心を動かす。それだけ人はマナに敏感なんだ”
そうか、それならラナは花のようだな。
情熱的に大きく開く八重のハイビスカス。
赤でもなく淡いピンクでもない。真紅の八重のハイビスカス。そこではたと気づく。
ハイビスカスか、長くは咲かない花だな。
踊るラナのまわりにふわーっと金色の光が見えた気がした。
踊り終わったラナはふーっと長い息を吐いた。そして、一瞬顔をしかめるとこめかみを押さえた。
“あれ、どうしたのかしら。”
立ちくらみをしたようにふらっ足元が危うい。
“ラナ?”
心配したシンディーが声をかける。
“大丈夫?どうしたの?”
心配をかけまいとすぐに笑顔に戻るラナ。
“大丈夫。少し頭痛がするの。カウチを使わせてもらってもいいですか?”
“もちろん。少し休みなさい。いつも元気なラナがおかしいわね。疲れているのかしら。”
それは少し頭痛というぐらいの顔色ではなかった。どんどん顔色が悪くなっていく。
その様子をみて凍りつくジル。
“まさか?”