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ハワイアンソウル  作者: Natary
ラナ
39/48

強さと情熱

シンディーがCDを取り出してかける。激しいカヒコとちがってゆったりとしたアウアナが流れる。


“カレオーハーノ。”


イズラエルの優しい歌声。

故郷の家と自然をたたえた歌。

カレオハノとは権威と尊敬の声という意味だ。


ラナの優しい表情、ゆったりと動く指先。


フラは一瞬たりとも手が止まることがない。


山、月、風、すべてモーションで意味を表す手話のような踊りだ。

ゆれる腰。潮の満ち引きのようにゆったりとした古来からの動き。満足げにそれを眺めるクムフラ。


“私も昔はラナのようにきれいだったのよ”


とお茶目に笑った。


“知っているよ。君は美しかった。今でもあまりかわらないけど”


“まあ、妖精はお世辞も上手なのね。”


“お世辞じゃないさ、美しさは心のありようだからね”


テトはそういって優しく笑う。人間だったらかなりのプレイボーイに違いない。


“クーホーメー、クーホーメ。“


イズの甘い歌声が続く。ハラウに響く声の主はイズラエル・カマカヴィオレ。

通称イズ。340キロの巨体から出される美しい声で人々を魅了した僕の大好きな歌手だ。

けれど38歳という若さで逝ってしまった。彼もピュアソウルだっただろうか。


ゆったりとしたメロディーのカレオハノは僕とラナの大好きな歌だ。


カレオハノ、そうカレオハノがあなたの名称


私が生まれ育った土地、私の故郷、私が愛するふるさと、それはケアウカハ


名高し、それはケアウカハ


ラナは不思議とハワイ島の歌が好きだった。ペレに愛されたフラダンサーだからなのか。


ラナのフラを眺めながら、ジルの頭の中には走馬灯のように昔のラナの姿が浮かびあがった。




思えば、ラナは常に勇敢だった。


ティーンネージャーになった頃、こんなことがあった。


ラナのクラスには色んな国の子が混ざっていて、

中には母国から離れたばかりで英語が上手くない子も混ざっていた。

日本から来たゆりという子は内気な性格もあってなかなか馴染めず英語の上達も遅かった。

ラナは何かにつけてゆりをかばっていた。


ある日、クリスという白人の女の子がゆりをからかい出した。


“ゆり、もう一度言ってみて、なんて言ってるのか分からないわ。

あなたってサンキューもまともに言えないのね。日本人ってなんでこんなに英語が下手なのかしら。イライラするわ”


メインランドの白人主義の地域からハワイにきたばかりのクリスは高飛車なところがあってクラスでも浮いていた。


ラナがクリスの前に立っていった。


“クリス、じゃあ、あんたは日本語が話せるっていうの?

日本語話してみなさいよ。産まれてから英語しか話してないくせにそれができるからってなんでそんなにえばってるのよ。”


ラナはきっとクリスを見据えて言う。


“なんなのよ。ラナ。あんただってイラつくでしょ?

なんだってここはこんなにアジア人がえばっているのよ。

白人と同じレベルだと思っているわけ?私がいたところではみんなバカにしていたわ。貧相で礼儀を知らない東洋人はアメリカに来るなって。”


“もう一度言って見なさいよ。あんたの肌が白いからってそれがなんだっていうの。

ここはハワイよ。コスモポリタンな島よ。少しこの子より鼻が高いからってその鼻へし折ってやりたいわ。


大体あんたのパパ、どの国の車乗っているのよ。日本の車じゃないの?

それを作った国をバカにするなんてその車に大金払ったあんたのパパもバカってことじゃない。

誰にも生まれてきた国や言葉をバカにされる権利なんてないわ。”


クリスはきっとにらみつけるとクラスから出て行った。


ラナは隣でおびえているゆりに言う。


“心配しなくていいのよ。英語なんてそのうち覚えるわ。ステップバイステップ。フラと一緒ね”

ゆりがラナにはにかんだ笑顔を見せる


“サンキュー”


“ちゃんと言えるじゃない。ゆり。私あなたの英語好きよ。マイディアー。”


そしてそっとハグをする。


“ありがとう。ラナ。”


ゆりは日本語でお礼をいった。


“You are welcome! 強くなるのよ。ゆり、負けちゃだめよ。”


ゆりは徐々に明るくなり、英語も習得した。


ラナに影響されて始めたフラにすっかりはまり、今ではラナの大切なフラシスターの一人。


2年前日本に戻ってからもフラのお教室を開き、ハワイと日本を結ぶ架け橋となっている。

ラナが日本へ行くときはいつもシンディーとラナの世話や各地イベントの世話に走り回ってくれる大切な友人になっていた。


“ラナはいつも大切なものを間違えたりしない”


ゆりは口癖のようにラナをこう表現する。ラナは知っている。


何が一番大切なのかをいつも知っていて、何かを決めるときその順番は絶対揺るがないの。だから信用できる。


 ラナの心意気は幼い頃から大人になるまで変わらなかった。

自分の信念を曲げない、敵を作ることを恐れない。

時には情熱的に時には優しく繰り返されるフラのステップのようにラナはいつだってラナのままだった。


 フラに対する熱意も一環していた。

数多くいたフラシスターの中でもラナの熱心さはクムの眼を引いた。

特に初めからダンスが上手だったわけでもない。どちらかといえば、目立たないフラを踊る少女だった。

けれどその熱意はきっと将来この子が中心にいるとクムに確信させるものだった。


思春期になって興味が男の子や勉強やファッションにうつっていく女の子たちの中、

ラナはいつでもフラに対して誠実だった。


 “クム、この振りは大地を表現しているならもっと沈んで下から手を上げるべきではないですか?”


 少女の時は子供とは思えない指摘の鋭さに驚いたりもした。


 美しく成長したラナのフラは神々しいほどだった。

奉納のフラをささげるとき、ラナが踊る前は必ずさーっと通り雨が降ってフラシスターの中でも有名だった。


 “次はラナよ、雨が降るからイプにカバーを。”


 皆当然のように大切なものやぬれたら困る機材などを大きな木の下に隠す。


 ラナがすくっと立つと晴れている空からサーっと雨が降る。

困るほど多くもなく気づかないほど少なくもなく、いつも数十秒清めるように祝福するように雨が降るとさっと止む。


 そしてラナが踊りだす。足首と手首に巻かれたマイレのグリーン、

たっぷりと寄せられたひだが美しいタパのパウスカート。

低いシンディーのチャントとイプヘケのリズムに合わせて踏まれるカホロのステップ。

パウスカートが地面につくほど体勢が低く、ラナのフラの安定感と存在感、下半身のハードな動きと対照的に優雅にながれる指先のモーション。

どれをとっても完璧だった。だから、去年、ミスアロハフラになったとき、誰もが思った。


 “やっぱりラナが。”


 と。シンディーも次のクムはラナにと決めていた。


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