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ハワイアンソウル  作者: Natary
ラナ
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妖精とラナ


ジルの心は重く、震える手でハラウのスタジオの扉をあけた。


ちょうどラナが古典のフラカヒコを踊っているところだった。


ペレをたたえるフラ。

イプへケと呼ばれる使う巨大なひょうたんのような楽器でリズムをとり、

低く響く荘厳なチャント(詠唱)のフラカヒコ。

ペレが題材だけあって大地を表現するために重心が低い体制で動きも激しい。


荒い息遣いのなか、長い髪を翻して踊るラナ。妹のフラを見るのは久しぶりだった。


“アレが君の妹か。ピュアソウルのフラはさすが光が違うな。”


テトが言った。


もともと現代フラのアウアナと違い、神々にささげる神事に踊られるフラカヒコは荘厳なものだ。


観光でみるショーダンスとは本来意味合いが違う。

ラナのクムは祈りをささげるように歌う。


クムとはハワイ語で先生という意味を持つ。

胡坐をかいた間に挟んだイプヘケでリズムを取りながら次第に早くなっていく踊りを先導するように歌っている。

低いよく通る声がハラウに響く。

チャントと呼ばれるハワイの言葉で唱えられるリズムのある祈りのような歌は聴いていると心が清められるような神事の魅力を持つ。

文字を持たなかったハワイアンは歴史や天変地異などをチャントに盛りこんで後世に伝えてきた。

特に王族一族に関しては、家系図をはじめさまざまな事実が、しっかり記録されている。

神々を讃える言葉や、王族の歴史、埋葬された場所など事細かにチャントに替えられ口伝えで後世に残されているハワイの文化はとても特殊だ。

ジルはいつでもラナやクムのチャントを聞くと厳かな気分になったものだ。


70歳を越えるクムに刻まれた皴はまさにハワイ文化の生き字引を思わせ、その存在は人間国宝だった。

クムフラとはそれだけ価値がある人なのだ。


パウと呼ばれる腰で履く、ひだがたっぷりと寄せられたハワイアンファブリックで作られたスカートを翻して、腰を振りながら踊るラナ。



“きれいだな”


自分の妹ながら、ジルは心からそう思う。


ラナに限らない、フラに打ち込むダンサーたちはどの顔もりりしく美しい。

ラナの瞳と腰まで伸びた黒髪がペレを思わせる。ラナは情熱の塊のような女だった。


“ハイナ!!”


フラが終わりに近づくと必ずかけられるお終いの意味のハワイ語ハイナを聞き取ってジルに再び緊張が走る。

ラナに一体何が起きるっていうんだ。



“ジル。何しにきたの?”


踊りおわったラナに声をかけられてはっとするジル。


ジルの肩にのっている妖精に眼を見張る。口が開いたまま動かなくなっている


“気の性じゃなければ妖精が見えるんだけど。。これってメネフネ?”


“まあ、なんというか、みたいなもんだ。テトだよ。”


“始めまして。ジルを女にすると君のように美しくなるのか。不思議だな双子って”


とテトが軽口をたたく。


“ラナよ。妖精と話しているなんて。信じられないわ。クムにも見えるかしら。”


“やあ、シンディー。久しぶりだな”


テトがクムに気安く声をかける。


“もしかして、テト??まあ、なんてこと。私が少女時代に遊んでいた妖精とこんな歳に再会できるなんて!!”


“シンディーが10歳ぐらいの頃、僕らはこの辺のビーチで遊んでいたんだ。”


テトが驚く二人に説明する。

あの少女がピュアソウルのクムか、縁とは不思議なものだなとテトは思った。


“私が妖精と遊んでいたって言っても偉大なグランマ以外は誰も信じてはくれなかったけれどね”


とシンディークムが笑う。


“すっかりおばあちゃんになっちゃったのに、よくわかったわね。”


“妖精は魂で区別がつくからな、肉体の見た目が変わったって間違えたりはしないさ”とテトが笑った。


“なんて素敵な日なのかしら。妖精と話せるなんて、本当に妖精なのちょっと見せて”


ラナが感嘆の声を上げる。そして、テトを点検しはじめた。


“羽がなんてきれいなのかしら、うわー。光るのね。


ちょっと飛んでみて。そう、わたしの手にも乗れる?


抱きしめたいわ。なんでアロハ着てるのー?


ジルとおそろい?仲良しね。ハグしても壊れない?”


“飛べるけど今まだちょっと痛いからあんまり飛びたくない”


テトがふてくされて言う。


“なんでー?なんで飛べないのに羽があるのに?”


“質問が多いんだよ。ラナ”


質問攻めに面倒になったテトがそういって笑った。


素敵な日。感激したようにラナが言った。


ジルが複雑な表情でそれを見ている。

ラナがもうすぐ死を迎えるから来た妖精なんだ。


死神みたいなもんじゃないか。


ジルは悲しくて仕方がなかった。


“おい、ジル。”


ラナの点検から逃げ出してきたテトがジルの肩に止まっていった

。乱れた服を整えながらジルの心を見透かしたように言う。



“僕は死を操ったりしない。


いいかい、肉体は滅びても魂は死なない。ピュアソウルを地球に返すだけだ。そんなに悲しむな。”


耳元でテトがささやく。


“僕は人間なんだ。そんな風に割り切れるか。”


苦しげにジルがつぶやいた。


まったく、カイの死を祝福できるとかなんとか言っていた矢先にこれだとテトは少し呆れた。

本当にピュアソウルなのか?けれど、テトは優しく言った。


“そうだな。人間は視野が違うんだった。ちょっと時間が必要だな。”


“ジル、今日はゆっくりしていけるの?妖精を連れてくるなんて、クムに会わせにきたの?

本当になんて素敵な日なのかしら。”


はしゃいでいるラナ。クムも久しぶりの再会に心を弾ませている


“テト、あなたは歳をとらなくていいわね。あの日のこと覚えている?”


昔話に花を咲かせているそばで、ラナは一言も聞き漏らすまいと嬉しそうに話を聞いている。

ジルは少し離れた場所でそれを見ながら、複雑な思いでラナの死について考えていた。


いつだ。どうやって。せっかくミスアロハフラになったばっかりだったのに。

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