愛しい妹
“さて、次のピュアソウルは。ペレが唯一教えてくれたピュアソウルだったな”
そう言ったあと、テトの表情が少し曇った。まだ羽が痛むのかとジルは思った。
テトがめったにしない表情だ。けれど、次に続いたテトの言葉はジルの想像を超えるものだった。
“ジル、兄弟がいるのか?”
“ああ、カイルアに妹が住んでいる。双子なんだ”
“双子か。なるほど”
テトが少し考えるような目をする。
一卵性双生児の遺伝子は99%同じというが、ソウル的にも驚くほど近い。
ジルの双子の妹もジルと同じくピュアソウルだ。
テトは、ジルが家族の死を受け入れられるか不安を覚えた。
“その妹は何をしている?”
“今はフラハラウでインストラクターをしている。
有名なクムフラのアラカイ(弟子のインストラクター)なんだ。
週に一度はワイキキのホテルでステージをしている”
“そうか、フラダンサーか。ペレが選びそうなソウルだ。。”
“ペレが選んだ?もしかして次のピュアソウルはラナなのか。”
ジルの声が思わず裏返る。ピュアソウルの死をみてきたジルは次のソウルが自分の妹、ラナと知って愕然とする
“ま、待ってくれ。ラナが死ぬってことか??”
“死はペレが選んだから決まったのではない。初めから死ぬピュアソウルの中から選ばれている”
どちらが先でもジルにとっては同じことだった。
“まだ28歳だ。病気だってない。
この間、ミスアロハフラに選ばれてこれからって時だ。
なぜラナが。。。原因は?死因はなんなんだ?いつだ。いつ死ぬんだ?”
“落ち着けよ。全部はとても答えられない。とにかく行こうぜ。ラナのところへ”
ジルはまったく平静を失っていたが、テトをのせてカイルアへ車を走らせた。
パリハイウェイはいつもすいていて、緑の中の坂を上って下ったところにカイルアの街が広がっている。
ワイキキの喧騒と違い、1軒屋が多い落ち着いた住宅街で、ラナは実家に住みながら近所のクムフラのスタジオに毎日通っていた。
カイルアのビーチはとにかく青い。引き込まれるような青さだ。
いつも強い風吹いているビーチの空気は清らかで、真っ白な砂浜の砂は頬をすりよせたくなるほど決め細やかで美容液のようだ。
ジルもラナもこのビーチを庭のように育った。
“この時間はクムのところにいるはずだ”
眼をつぶっても運転できるなれた道。
ジルは実家にはよらず直接クムフラのスタジオへと向かった。
実際、こんな昼間から妖精を伴って実感を訪れる勇気もなかった。
母はラナを失ったらどうなってしまうだろう。