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ハワイアンソウル  作者: Natary
キヨシ金城
33/48

過去


キヨシ金城。沖縄出身の97歳。

ハワイカイに静かに暮らす彼は大家族のようだった。

ベッドから起き上がれないキヨシのもとにひっきりなしに人が出入りしている。


“グランパ。お水が欲しい?”


“グランパ、どこか痛い?”


“グランパ。今日は何が食べたい?”


かわるがわるキヨシのベッドを訪れては何か聞いたり話かけて出て行く。

ある者は日本語で、あるものは英語でキヨシに話しかけては出たり入ったりしている。


キヨシの周りには子供大人も常に3,4人いて、どうやら家族以外、近所の人もちょくちょく来るらしい。

しばらく外から様子を見ていたジルはテトに言った。


“なんだかたくさんの人に囲まれたピュアソウルだね。”


“そうだな。戦後、この人はハワイの日系人のために全てを捧げて生きてきた。

おかげでハワイの日本人は大分快適になったはずだ。同じ人間なのに住んでいるエリアだけでなんで区切るのか人間って不思議だな”


“妖精にはないのか?”


“ないね。世界中、妖精は妖精だ。それ以外に何があるっていうんだ?”


テトは国という認識が理解できないようだった。


“言葉も文化も違うからな。”


“そんな些細な事気にする方がおかしい。

人間は一緒だ。目が二つ。鼻が1つ。口が一つ。2本足で歩いて羽はないから飛べない。


光らない。


身長も似たりよったりだ。大まかに分けると、

犬や鳥やキリンや象とは全然形が違うし、誰がみたって人間は人間だ。他の動物から見たらみんな一緒だ。”


テトがそういうので、ジルは心から納得した。そうだな。人間はただ人間だ。


それにしても、人と少し違うという意味で孤立しがちなピュアソウルに珍しく大勢の家族と人に囲まれたピュアソウルだな。

テトは感心したようにキヨシを取り囲む人々を見た。どの人も心からキヨシと少しでも一緒に居たいようだった。


“これだけ人が多いとな。そーっと俺一人で夕方にいくよ。”


ジルはうなずいた。僕が行ったら、まるで死神だ。



キヨシは今でも時々悪夢を見る。


銃を構えた日本人兵士が目の前に立つ。


“お前もこれで終わりだ。”


にやりと笑って引き金を引こうとした瞬間、キヨシが日本語で話しかける


“まってくれ。”


日本兵がびっくりして一瞬戸惑う。


“日本人なのか?”


一瞬ひるんだ隙をついてキヨシの後ろから同じ部隊の日系2世兵士が引き金を引く。


目の前に崩れ落ちる日本人兵士。


“なぜだ。なぜ日本を裏切る。”


その日本人兵士の悲しげな責めるような目が頭から離れない。


“なぜだ、なぜ日本人がアメリカ側にいるんだ?”


裏切り者、裏切り者。


日本兵の断末魔がキヨシの頭にこだまする。


“うーっ。”

“グランパ。大丈夫?グランパ。”


孫娘のケイレンが心配そうにベッドの横にいる。

ぐっちょりと汗をかいたかいたキヨシが夢から目覚める。


“大丈夫だよ。ケイレン。”


“グランパ、少し熱があるのね。うなされていたわ。”


キヨシは平和なベッドの上にいることを確認してほっと安心する。


英語と日本語を話す愛孫娘がハワイの空で笑っている。

戦争中は想像もできなかった平和な光景だ。よかった。終わったんだ。全部終わったんだ。

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