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ハワイアンソウル  作者: Natary
キヨシ金城
32/48

大往生


“次も大往生だな。97歳のおじいちゃんだ。”


よかった。ジルは思った。カフナに続いて静かな死を見守れるだろう。


“ハワイカイのほうだ。ミリタリーのタウンハウスに住んでいる。”


たくさんの似たようなうちが並ぶタウンハウスは軍関係者が住む家賃の援助が出ている特権住宅だ。


“ミリタリーの人だったのかな?”


“ああ、日系2世だ。同じ日本人と戦った兵士だった。”


テトが言った。ジルはハワイで育ったので、大まかな歴史は把握していた。

ハワイにはたくさんの日本人がいる。1世2世の苦労はハワイの歴史に刻まれている。

彼らによって持ち込まれた文化や功績は数知れない。


南国の夢のような生活を目指して遠い海を渡ってきた日系1世の多くは沖縄出身者だった。

彼らの生活は過酷を極めた。鞭を持った白人の下1日10時間以上の肉体労働、

出身の国別に分けられ名前ではなく番号で管理される生活は奴隷のようだったという。

日本人の中でも沖縄出身者は同じ日本人にも下に見られ苦労したという。悲しい歴史。


1世の子供である2世は祖国と生まれ育った国との間で始まった戦争に翻弄される。

真珠湾攻撃の際、ハワイの人工の約40%は日本人だった。日本は何を思ってこの島を攻撃したのだろうか。


一度でもこの美しい島を見ていたら、焼き払おうと考えただろうか。


たくさんの日系人がこの攻撃のあと収容所へ送られた。

それでも彼らの多くはアメリカに忠誠を示すため、アメリカ兵士として自分の祖国と戦った。

白人兵士からの差別と戦い、祖国の日本人と戦った。彼らの苦しい立場は後々の日系人にも語りつがれている。

繰り返される悲しい歴史。戦争。

彼らは日本のみならずフランス、イタリアでも最前線で戦った。数多くの手柄を立てて帰国したが、

最前線で格闘したこの部隊は多くの戦死者と負傷者を出した。


彼らの勲章は7つの大統領感謝状、6000を超える個人勲章。

2つの部隊で獲得したその数はどの部隊よりも多かった。当時の大統領ハリートールーマンは彼らを讃えてこういった。


“君たちは敵軍との戦いに勝っただけではない。偏見との戦いにも勝ったのだ。”


日系2世の功績によりハワイでの日本人の地位は格段に向上し、

今の平和なハワイを日本人が快適に訪れることができるのも彼らのおかげだ。


“Go for Brake”


当って砕けろ。彼らのスローガンだった。常に腹をくくって生きてきた人たちだ。


“人を殺したピュアソウルだ。”


けれど、テトが言ったので、ジルは体が硬直した。

戦争で得た勲章は名誉かそれとも人殺しの証か。


“人も少しずつ進化して戦争が減ってきているけれどね、

もっとも低俗な風習の一つだ。同種なのに殺しあう動物は人間と虫けら位かな。

母親の腹を食い破って出てくるマムシの類と一緒だ。けれど個々のソウルに罪はないんだ。

彼も殺したくて戦争に参加したわけじゃない。そういうのは殺人にはカウントされないよ。彼個人が背負う責任じゃないからだ。”


テトが言った。テトがそういったので、ジルの心は少し軽くなった。

戦争に借り出された上に、人殺しと責められてはあんまりだ。

けれど、戦後生まれのジルには所詮、戦争は遠い過去だった。


“人間って集まると時々恐ろしく負のエネルギーを高めるんだ。

それが一方に憎しみとして向けられると戦争が始まるらしい。個人レベルではそれほど低いソウルじゃないんだけれど、

心がすさんできて、負のエネルギーがどんどんたまる瞬間がある。


心が地獄の状態だな。誰の性でもないその感情を誰かにぶつけないと収集できなくなる瞬間が。

そうすると変な理屈をつけて誰かを攻撃し始めるんだ。小さければ個人の殺人。

大きくなると一つになって戦争に向かう。その渦に色んなソウルが巻き込まれる。


竜巻みたいなもんだ。ピュアソウルですら逃れられない。ただ受け流すってことができないんだ。負のエネルギーはただ受け流せば消えるのに。”


テトが言った。

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