子供たち
着いた先は小さな教会だった。
“ここに親を失った子達の施設があってね。
私、毎晩ここに子供たちに会いに来るの。まだ皆小さいから、母親が必要なのよ。”
ジェニーがそういって、扉を開ける。中から元気の良い声で子供たちが飛び出してきた。
“ジェニー。ジェニー。来てくれたの?”
ジェニーにまとわりつく子供たちはまだほんの5.6歳で、どの子もジェニーが来た喜びで眼がキラキラしている。
“今日はお客様を連れてきたのよー。”
ジェニーが楽しげに言った。
“だれー。だれー?サンタさん??”
ジルとテトが恥ずかしそうに顔を出した。
“うわーメネフネ。”
子供たち全員が叫んだので、テトは
“まじかよ”
と呟いた。全員見えるのかよ。まいったな。テトはそう言っているようだった。
一人の子供がテトを捕まえようとこっちに向かってくる。
“メネフネ、メネフネ。”
手をぱちん、ぱちんと鳴らしながらテトを追いかける。
“うわー、潰されちゃうよ。”
情けない声をだして飛び回るテト。
そのたびに7色の光がキラキラと舞い散る。
吹き抜けの天井から流れ落ちるテトの光が子供たちの頭上に降り注いだ。
“うわー、きれいだなぁ。”
一人の子供が立ち止まってその光に手を伸ばした。
走り回っていた子供たちも立ち止まり上を見上げて、うっとりする
“きれいだなぁ。”
本当にきれいだった。テトから舞い落ちた光の粉がキラキラキラと宙に舞い踊っている。
7色に光る光の粉はゆっくりと下に舞い落ちて消えた。
“さあ、お客様って言ったでしょ?追いかけたりしたら失礼なのよ。”
ジェニーが優しく子供たちを諭す。
“ごめんね。メネフネちゃん。もういじめたりしないから。”
くるんとカールした髪がかわいい女の子が言った。
“ふう。子供に追いかけられて潰されるのはまっぴらだ”
テトがジルのもとに戻ってきて汗をぬぐった。
ジェニーは手早く8人分の子供たちの夕食を作った。
パンに、野菜を煮たスープ。贅沢とはいえない食事だったが子供たちはジェニーのご飯が大好きなようで歓声を上げた。
“ジェニーが作るご飯は本当においしいんだ。”
“きっとなんか特別なスパイスが入っているのかも”
“そうだな。”
テトが言った。
“ジェニーが作るご飯はマナがいっぱい入っている。”
スープを確認しながら言ったので、子供たちは
“やっぱりなー。やっぱりだー”
と口々に言って笑った。
本当においしいスープだった。ジルもテトもすっかり幸せな気分になった。
と、そこに大きな花束を抱えた老人が入ってきた。
白髪を後ろになでつけ、身なりの良い老人はジェニーを見ると顔をほころばせた。
“ハーイ、子供たち”
“ハーイ、アンクルジェイ。”
子供たちが口を揃えた。
“ハーイ、マイディア。”
ジェニーに近づくとそっと手をとって口付けをし、あついハグをする。
花束を渡しながら
ジェニーに言った。
“これを君に。”
“まあ、ありがとうございます。アンクルジェイ。”
ジェニーは顔をほころばせた。
けれど心の中でこう思う。
こんな大きな花束を買ってくるなら、子供たちにパンとミルクをくれればいいのに。
“今日はお客様かい?”
ジェイはジルを見るとそう言った。
“ええ、病院の関係のお客様が子供たちの様子をみたいとおっしゃって。”
“そうですか、僕はジェイ、始めまして。”
ジェイはジルにそういって握手を求めた。テトは見えないらしい。
ジェニーはその様子を興味深げに見ている。
“ジェニー、今日は、君の顔が見たくてよっただけだからこれで失礼するよ。
僕はいつだって本気だから、いい返事を待っているね。”
“わかりました。”
“アンクルジェイ。メネフネちゃんにはSay hellowしないの?”
くりくりした眼の少年が無邪気に聞く。
“はは、メネフネだって?子供の想像力には関心するね”
アンクルジェイは少し面倒くさそうに軽く少年をあしらった。
ジェニー意外には興味がない様子だった。
ジェニーが出口まで見送る。老人は待たせておいたリムジンの後部座席に乗り込むと走りさった。
“はぁ。”
とジェニーはため息をつきながら花束を見つめた。