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ハワイアンソウル  作者: Natary
カイ
23/48

最後の夜


カイの最後の大仕事は、今から数年前、

ハワイの精神病院でカウンセラーを頼まれたことだった。

病院のスタッフたちも患者たちにはほとほと手を焼いていて、

すぐに辞めてしまうし、患者たちの暴言や暴力もひどく、病院はすさんだ状態だった。


カイは赴任すると、職員のミーティングに出るわけでもなく、

患者と直接あって手当てをするわけでもない。しばらくぷらぷらと過ごした。

何もしないこのカフナを初めはみな不思議そうに眺めていたが、カイがいつも楽しそうなので、

すぐに人気者になった。耳が聞こえないカイとは手話や

、筆談がメインだったが、すさんだ病院の光のようにカイはいつも朗らかで楽しそうだった。


やがて患者たちにも不思議なことが起きはじめた。


暴力的だった患者は次第に穏やかになり、スタッフの勤務態度も熱心になった。

詰まってばかりいた病院の水道パイプやトラブル続きだった電気系統もほとんど問題を起こさなくなった。


“あのカフナは何をしたんだろう”


病院関係者は首をかしげたが、激的な変化に歓喜した。


カイは、赴任してからずっとホ・オポノポノで病院や患者、施設の全てを清め続けた。


カイは自分自身を清めることで患者の心へも影響を及ぼす。


キーワードはLove。


この不思議なヒーリング方法の効果はてき面だった。

軽度の患者たちは次々に退院していった。

重度の精神障害を持った暴力的な患者は足かせをはずされ、自由時間を楽しむまでになっていた。


スタッフは余剰になるほど集まり、病院は見違えるような活気を取り戻した。

スタッフたちはこのヒーリングに、ただただ驚いた。


“まさにハワイアンマジック。カイは奇跡を起こした”


口々にそう褒め称えた。病院が清められ、もう大丈夫だと感じたカイはそっと身を引くようにカウンセラーを辞任した。

魔法使いのようにもてはやされ、有名になりすぎることを避けたかったのだ。

カイはいつでもひっそりと平和に生きることを願った。

耳が聞こえないカフナカイにとって静寂は心が安心する場所だったからだ。スタッフには手紙を残した。



親愛なる私の友人たちへ


私が去ったあとも、ぜひ、ホ・オポノポノを続けてください。


問題はすべて自分自身の中にあります。


I love youと唱え続けてください。


自分自身の記憶をゼロにして、神格からの愛を受け取ってください。


いつも、自分をクリーンにして愛で満たしていればすべての問題は解決されます。



スタッフたちは今も口癖のようにI love youと唱えている。



いよいよ満月の日、カイはベッドから起きれなくなった。


“ダディー、急にこんなに弱ってしまって、どうしたのかしら。”



心配そうなナタリーにテトなんでもないことのようにテトはいった。。



“カイは満月の夜旅立つよ。”


妖精はの明るさは時に無神経だ。


“満月って今日じゃない!”ナタリーが驚いていった。


“ダディーが言ったの?カフナは自分の死もわかるっていうの?残酷だわ。”


ナタリーが涙ぐみながら言った。


“そうかな。準備ができて幸せだろ。君にも会えるし、カイは充分に生きた。人間で80年生きたら充分だろ?”


“充分ってことないわ。私はできるだけ長生きしてもらいたいもの”


ナタリーが必死で訴える。


“あんまりよくばらないことだ。引き際ってのも大切だよ。

特にカイはピュアソウルだ。引き際は心得ているよ。君に迷惑がかからないように、そして静かに。”



“ああ、なんてこと。迷惑だなんて、迷惑をかけられても私はダディーが生きていた方がいいのに。”


ナタリーはしくしく泣き出した。

愛しい人を引き止めたい。ジルはナタリーの気持ちがよくわかった。


けれど、カイが本物のカフナなら、きっと今日旅立つのは間違いのないことなのだろう。


やっぱりこうなるんだな。ジルは少しがっかりした。

あのまま楽しい時が続けばいいと願ったのに。ナタリーは結局泣いている。

それにしても、満月に見守られた静かな夜。カフナの旅立ちにぴったりじゃないか。


テトはなぜナタリーが泣いているのかよくわからないようだった。


“幸せな死を喜ぶってこと人間には無理なのか?”


ジルに聞いた。


“目の前からいなくなることに耐えられないんだ。”


“そうか、そういえばセイラもそういっていたな。

人間ていうのは恐ろしく短い時間の感覚しかないのかもな。


待つっていうことができないんだ。また会えることも信じられないみたいだし”


“なかなかそう思えないな。”


ジルは人にはそれは無理だと思った。


“ナタリー、きっとダディーは君の笑顔が好きだよ。”


ジルはそっとナタリーに言った。


“さびしいわ、ジル。ダディーを失ってしまう日が本当に来るなんて。”


ナタリーは泣いた。それでも少し泣くとナタリーは決意したようにカイに寄り添い、

セレナーデを歌いながら微笑んで見せた。

カイも時々、娘の髪を優しくなでて微笑んだ。痛みも恐怖も感じていないような聖者の微笑みだった。


少しずつ弱っていく呼吸の中でカイはテトを手招きすると何かを伝えた。


“そうか、どうしたらいいかな。”


テトが少し考えていた。


“なんていったの?”


ナタリーがテトに聞く。


“最後に一つだけ我侭を聞いてくれって。君の声が聞きたいんだって。”


“まあ、私の声を。。”


ナタリーが声を詰まらせる。



“一つだけ方法があるな。”

“何十年も聞こえなかった耳を一瞬だけ復活させる方法が。”


テトがいった。

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