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ハワイアンソウル  作者: Natary
第一章
1/48

終わりの始まり


真っ暗な地中深く、真っ赤に燃え上がる太陽のようなエネルギーの塊がぐるぐると回っている。


真っ赤だった光の巨大な塊は何かを伝えるかのように一瞬真っ白な光を強く放った。

その瞬間。溶岩に囲まれた部屋で髪をとかしていた妖艶な美女の手がぴたっと止まった。


“ついに・・・”


美女はつぶやいた。


“妖精を集めなくては。テトをここに、ヒイアカ。ヒイアカ”


凛とした声が洞窟をこだました。


ー出会いー


“ふうー。”


山積みの書類を前にジルはうんざりしたようにデスクに座り、タバコに火をつけようとした。


ニューヨークにあるジルのオフィスは広いとは言えず、少し手を触れると書類がなだれ落ちるようにデスクに積まれている。一連の流れがすっかり癖になっていて、火をつけた後、ふと手を止めた。小さいけれど、保険会社を経営するジルは社長自ら営業、事務処理と奔走し、万年人手不足で、息をつく暇もなかった。朝から立て続けにクライアントにあっていたジルはやっとオフィスに戻り、昼前に書類を片付けるところだった。


“そうだ、禁煙するって言ってたんだったな。”


火をつけたばかりのタバコを灰皿に押し付けようとして、


“うおー。。”


とのけぞりった。腰を抜かすほど驚くとはこのことだ。

灰皿の陰には、羽の生えた大きな虫のような影があった。


“なんだ??”


驚きながら目をこらすと、親指ほどの大きさのそれは、小さいながらにもきちんと、目鼻口が整い、とてもハンサムな青年だった。すらっとした足を組み、灰皿の縁に腰掛けている。仕立てのよいスーツを着ていて髪はきれいに整えられている。モデルのようだった。人と違うところといえば、本当に小さいということ。それから、体と同じぐらいはある半透明の美しい羽があることだった。

ジルをにやにやしながら見上げるとその小さな青年は


“ほんとに見えるんだ。すげーじゃん”


とつぶやいた。


“お。。。しゃべった。”


再びのけぞったジルをちゃかすように青年はすっと飛びたち、ジルのすぐ目の前に降りた。


“あんたプレジデント??”


“え??まあ、一応、プレジデントだけど。”


“ふーん。案外すぐ見つかってよかった。


“あなたは誰?”


“おれ?妖精。知ってる?妖精って。”


“いや、知っているけど。本当にいると思ってなかったから”


“ふーん。そうだよね。普通見えないし。あんたプレジデントだから見えんのかな?いや、多分、テキが撒いた光のせいかな。”


“テキ??光??”


“いやいや、いいよ。こっちのこと。オレはテト。妖精界からきた使者。”


“使者?おれに妖精から使者?”


“そっ。人間に伝えなくちゃいけないことがあってさー。プレジデントっていう人間のリーダーを手分けして回ってんの。”


“プレジデントって。国のリーダーのこと?”


“そうだよ。皆に言うと大変だからさー。じゃあ、言うからよく聞いてね


アースが人間の増殖を止めました。だから人間は絶滅します“


“えっ!!”


ジルはあまりのことに判断がつかず固まった。


“意味がわかんないよ。プレジデントってもしかして大統領?

僕は、小さな会社の社長だから、そんなこといきなり、言われても。しかも何??絶滅ってなに?アースってなに?”


“なんだよー。さっきプレジデントっていったじゃん。”


“いや、会社の社長もプレジデントって言うんだよ。大統領はホワイトハウスにいるんだよ。”


“この会社ホワイトハウスなんたらって言ってなかったか?”


“ホワイトハウスインシュランスカンパニー。いやぁ。一流を目指すっていう意味でつけたというか。”


我ながら大げさな会社の名前をつかたものだとジルは少し照れくさそうに言った。


“紛らわしいな。まあ、いいよ。人間の能力なんて大して変わんないから誰に言ってもおんなじだし。ちゃんと伝えたからな。”


そのまま、テトは飛び立とうとする。


“ちょっとまって。”


必死に手の平をぱちぱちして捕まえようとするジル


“なんだよ。潰れたらどうすんだよ”


テトは再びデスクに降りると不機嫌そうにいった。


“説明してくれよ。絶滅ってなに?アースってなに?”


“もう、めんどくさいな。。じゃあ、説明してやるから座れよ。それでさ、コーヒー入れて。甘めでミルクたっぷりね。”


ジルは急いでコーヒーを入れると小さなフタにコーヒーを注いで、テトの前に差し出した。

自分は残りのカップを持つと、窓の外に向かって深呼吸を2回すると自分の椅子に腰を下ろした。



“いいか。”



テトは語りだした。


“アースっていうのは知ってる?”


“アースって地球のこと?”


“そっか、ここから知らないのか。説明大変だなー。。。”


テトは深いため息をつくと、観念したかのように話だした。



“あのね、地球っていうのは一つの生き物みたいなもんなんだ。

その心臓をアースって呼んでるわけ。それで、アースが自分の上に住んでる生き物をコントロールしてんだよ。

全部の命をね。そのアースが人間をなくすって決めちゃったんだよ。”



“なんで?”


“なんでってさ。



自分たちに聞けよ。


アースの上に住んでいる全ての命から嫌われてるんだぞ。

アースはずっと大目に見てきたんだよ。自分を傷つけられても、他の命のバランスを壊しても。

でもさ、ここまで嫌われちゃうとな。アースもかばいきれないんだよ。


大体アースのことや命のバランスについて知らないのって人間ぐらいだもんな。

それでもかばってきたのはさ、俺たち妖精のためかな。妖精ってのは、人間の希望が大好物なんだ。

だから人間がいないと、妖精も悲しむ。それがアースは寂しいわけよ。まあ、全部の命のなかで、俺たち妖精だけかな。

人間が必要なのは。あとの生き物は人間嫌いだもんな。ろくなことしないしな。”



“妖精にとって必要なんだろ、なんで絶滅なんだよ。”


“うーん。別に妖精はどっちでもいいんだよ。”


“なんでだよー。自分たちだって困るんだろ。”


“そこがさ、人間と大きな違いなんだよな。アースがバランスを取り戻すなら妖精だって人間だっていなくたっていいだろ?”


“よくないよ。そんな簡単なことじゃないだろ?”


“なに、死ぬのが怖いの?”


“怖いよ。当たり前だろ。”


“そこが変わってんだよなぁ。人間って。”


“なんでだよ。妖精は怖くないっていうのか?”


“怖くないさ、なんで死ぬのが怖いんだよ。あのな、命ってのは皆平等に一つずつなの。

お金持ちだって貧乏人だってさ、虫けらだって、象だってキリンだって皆、一つの命をもらって生まれてくる。そこまではわかる?”


“うん”


“よし。そしたら、死ぬのも1回。

平等なんだよ。

命が生まれる喜びと、死の喜びをもって俺たちはアースの上に生きてるわけ。

命が生まれたら嬉しいだろ?それと同じように死っていうのも幸せなことなんだよ。”


“なんで死が幸せなんだよ。”


“家に帰れるからに決まっているだろ?

生きているときって楽しいか?

つらいこともいっぱいあるだろ?そういう生きるっていう課程をまっとうすると家に帰れるように死っていうのを平等にもらって生まれてくるんだ。

死っていうのはさ、家に帰れるってことなんだよ。


考えてみなよ。死のない世界を。それだけでぞっとするだろ?


喜びもあるけどさ、特に人間は生きているとどっちかっていえばつらいことのが多い。

それがエンドレスで続いてみろよ。


皆気が狂っちまうさ。


チーターだって死があるってわかるからそれこそ必死になって獲物を追う。

つらいのは今だけだから耐えられる。それで、命をまっとうしたものは死によってやっと家に帰れるんだよ。

そりゃ、よくやってきたなっていうやつもいれば、なんだよ。帰ってきちゃったのかよっていう扱いのやつもいる。

でもさ、家っていうのはそれでも帰ったら嬉しい場所なわけよ。”



“家ってなんなの?”


“家って言うのはソウルがいっぱい集まっている最高にハッピーな場所さ。

アースから離れた場所にある。再び生まれるかどうかは、アースの支持で偉大な神、


カネがコントロールしているアースのことも勘のいい人間は神と呼んだりしてるな。

でも全体的に理解不足だな。それで、アースが最近、人間は出さないって決めちゃったんだよな”


“出さないって、どうやって人間は絶滅するんだ?大きな天災でもおきるのか?”


“いや、簡単なことだろ。子供が生まれなくなるんだよ。


人間は長い目で物事を見るのが苦手だろ。


だから、知らないうちに子供が減っていって、人間たちが知らないうちに、大人ばかりになって、やがて老人だけになって、

最後の老人が滅びたら絶滅ってわけ。次の歳は半分生まれないようにするって言ってた。

半分、次の年は、またその半分。そうやって遂にはゼロになるんだ。ゼロになるまで数年。

そこで生まれた子供が八十年生きるとして1世紀ぐらいで終わるかな”


“一世紀か。”


明日、明後日の話じゃないとわかって少し遠い目をするジル


“ほらな、もうオレ死んでるし関係ないって思っただろ?人間ってそういう生き物なんだよな。だから、そういうことだから。”



“ちょっと待ってくれ。どうして知らせるんだよ。もうどうにもできないんだろ?”


“いや、一応、妖精と人間の関係だからさ。ペレが何も知らないまま絶滅していくのはかわいそうだから教えてやれってさ。

アースの怒りが解ければもしかしたら決定が覆るかもしれないだろ。人間がアースの怒りに気づけばだけどな。

多分無理だろうな。今までだって散々サインはあったんだから。アースだって我慢の限界さ。”



“僕はどうしたら。”


“ふうん。別になにも。なにか出来る力なんてお前にあるの?”


“いや、ない。でも、聞いちゃった以上、なにかしないと。”


“へぇ。まじめなんだな。さすがプレジデントだ”


“いや、だから僕はただの会社の社長でプレジデントなんて大層なもんじゃないし。”


“だからさ、人間の能力なんて大して変わんないからおんなじなんだって。”


“わかったよ。アースの怒りを解く方法ってないのか?”


ジルはなんだかすがるような気持ちになって聞いた。


“うーん。あるけどさ。大変なんだよな。。”


“頼む。教えてくれよ”


“ピュアソウルの結晶を集めて玉を作ってさ、アースの心臓に投げ込むんだ。そしたらアースの怒りがやわらいで、世界が静まる”


“ピュアソウルって何?”


“お前、本当に何も知らないんだな。説明に疲れてきたぞ。”



“いや、テト。そうはいうけどさ、頼むよ。君が希望なんだ”


“希望か”


そういうとテトはおいしそうに口をもぐもぐした。


“うん、まあ食べれない味じゃなかった。悪くない。お前の希望、なかなかいい味してんな。じゃあ、教えてやる”


テトは一息ついてから再び話だした



“ピュアソウルっていうのはさ、わかりやすく言うとものすごーくきれいな魂を持って生まれてくる人のことさ。

人間ってのはこのピュアソウルが少ない生き物なんだ。100万人に1人ぐらいしかいない。

そのピュアソウルを見つけだすだろ。それでピュアソウルが死ぬとき、つまり家に帰るときに恐ろしく純度の高い結晶ができるんだ。。

それが最高の希望になる。”


“聞いたこともない不思議な話だな。”


“そりゃ、そうだろ。人間の目なんて世の中の十分の一ぐらいしか見えてないんだ。世界は見えないものの方が圧倒的に多いんだぞ。”


“そんなもんなのかな。で、ピュアソウルっていうのはどうやってみつけるのさ”


“感じるんだ。意識を集中して。”


“意識を集中??”

ジルは目を閉じて、意識を集中する努力をしてみた。


“おいおい。そんな簡単にできるかよ。第一、こんな人間が作った無機質な建物で感じれるわけないだろ。”


“そうか。わかった。テトに従うよ。僕やってみるから”


簡単に言った自分に少し驚いた。ここまで話を聞くと、ジルは人間全滅の危機感より、目の前にいるハンサムな妖精と出会って世の中のすべてにわくわくしてきた。

今まで眠っていた少年のような冒険心や、新しい世界への期待が胸を高鳴らせた。

もし、テトの話が本当なら、もっと世界を知りたい、生きている実感が欲しいと思うようになってきたのだ。

会社の雑務を全部ほうりだして、人類を救う為に旅にでるなんて、誰もが経験できることじゃない。


“ふん。しょうがないな。試しに付き合ってやるよ。”


テトはジルに対して抱いた好感を隠すようにそういった。

なかなか素直な人間だ。こういう人間はやっぱり嫌いじゃないんだよな。テトはそう思い始めていた。


“でさ、とりあえずどこ行くの?”


“うーん。そうだな。ペレんとこでもいこっか。あそこ自然がいっぱいあるし、何より火山は大事だろ?”


“ペレってもしかしてハワイ?ペレってほんとにいるの?”


“そうだよ。絶世の美人だぜ。”


“火山が大事って?”


“火山ってのはさ、アースの新陳代謝みたいなもんだからな。あれがドカーンといって新しい大地が産まれるだろ。

それでまた命が増える。そうやって地球は呼吸してんだよ。だからアースの意思を感じるには火山の側がいいんだ。

ペレはそこの番人っていうか、超一級に美人だからな。アースが側に置いときたかったんだろな。あれは命の傑作だ。”


“女神ペレか。まさか本当にいるとはな。”


“ああ、人間の中にも色々感じることができるやつがいるからな。伝説はあながちうそじゃないんだ。

でもさ、ペレに好かれないように気をつけないと。ペレは一目ぼれしやすいんだ。あの女に愛された男はみんな命を失っている。


“え。。”


“ふーん。まあ、お前は大丈夫だろ。あいつは彫刻のように完璧な顔が好きなんだ”


“複雑だな。。。”


ジルは早速、従業員を呼び出した。


“およびですか?社長”


“うん。ちょっとこれからしばらく出張行ってくる”


“出張ですか?どちらに?”


“ハワイだ。”


“ハワイ?実家に戻られるんですか?ご家族に緊急事態でも?”


“うん、まあそんなところだ。”


“わかりました。後のことはお任せください。”


“悪いけど頼むね。”


お辞儀をして出て行った従業員の女性はテトが見えないようだった。



“見えないんだな。”



ジルが不思議そうにテトを見る。


“なあ?世界のほとんどは人間に見えない。”


テトはおかしそうにいった。そして


“なんだお前、ハワイ生まれか?”


と聞いた。どうやらテトもハワイから来たらしい。


“ああ、ずっとハワイで育ったんだ。家族もみんなハワイだ。”



“なんだよ。それでペレって本当にいるのとか本気で言ってるのか?”


“だって会ったことないんだ”


“見たことしか信じられないなんて、人間の想像力って本当に貧困だな。”


“妖精ってこんなに憎たらしい口をきく生き物だとは意外だよ。”


“妖精の中でも俺はいじわるなほうなんだ”

テトがふふっと笑った。


意外にもすんなりと会社を出た後、ジルはつくづく思った。

休みなんて取ろうと思ったら簡単なことなんだな。

僕がいないと仕事がまわらないなんて、ほとんどのやつが勘違いなのかもしれない。

リーダーがいなくなれば、替わりのやつがリーダーになる。それが自然界なんだ。

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