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第4話、プロロー…グ

 まどろみの中、かすかに鈍い砲声が聞こえてくる。


 ……うるさい。そう思うのが、普通だろう。


 果てしなく眠いが、気になった私は目覚めてしまった。


 だが瞬時に遠方の音と確認し、2度寝しようと寝袋に潜り直した。


 「フォン・シュトラウス少佐、起きて下さい。ベイル大佐がお呼びです」


 その部下の呼び声で、万が一の事態を想像した私は飛び起きた。


 「何事だ。ハウト曹長」


 「ベイル大佐が歩兵連隊だけでなく、我々の戦闘団にも警戒体制を命じました」


 砲声が聞こえる以上、何かのあったのだろうが、命に関わる緊急事態ではないようだ。


 「分かった曹長。フォン・ランゲルト大尉を起こして、急ぎ全部隊の移動準備をさせるように伝えろ」


 急いで、私はヨレヨレの軍服を正しながら時刻を確認する。


 まだ午前6時であった。外は当然暗闇であり、寒さを我慢して歩兵連隊本部に向かった。


 寒いことには変わりないが、天候はここ最近で一番穏やかで風も弱い。


 戦車大隊本部にある気温計も、氷点下12℃を示しているに過ぎない。


 「遅くなりましたベイル大佐」


 「おお、待っていたフォン・シュトラウス少佐」


 ベイル大佐は返事をしながら熱いコーヒーを差し出してくれる。


 「ありがとうございます大佐」


 「砲声で気付いたかもしれないが、第10軍団担当地域全域で、ボリシェヴィキの大規模な準備砲撃が始まっている」


 「そのようですね。大佐」


 「我が師団も砲撃を受けているが、あくまでも敵の砲撃は第18自動車化歩兵と第290歩兵師団へ集中しているとのことだ。

 そこでシュトラウス戦闘団は夜明けを待たず、準備ができ次第、移動を開始してもらいたい」


 友軍の危機もそうだが、急がねばならない理由は幾らでもある。


 特に気象予報が外れ、ドイツ軍に都合の悪い今日に天候が回復したことは痛い。


 少し前に気休めで天候の回復を祈り、それと矛盾するようだが、この効果はもう少し後のはずだった。


 天候が回復したまま朝日が登れば、我らが冬眠中のルフトヴァッフェに比べ、元気な敵空軍機が活動する可能性も高い。


 「了解しました。この気温なら何時もより速く準備が整うでしょう」


 「頼む。それからフォン・ティッペルスキルヒ師団長は17名からなる歩兵小隊をシュトラウス戦闘団の支援につけることにした」


 「助かります。大佐」


 欠員だらけの装甲歩兵中隊を率いるカイデル大尉はさぞかし喜ぶだろう。


 その後、すぐに戦車大隊本部に戻った私は、戦闘団全体の出撃準備を急がせる。


 「フォン・シュトラウス少佐、戦闘団全体の移動準備の完了は7時40分を予定します」


 大隊本部付き参謀として、各部門を見て回ってきたブルク大尉が報告に来た。


 「ご苦労、大尉。夜明け前になるが、戦闘団は8時に出発することにした。

 それと、カイデル大尉に歩兵が17名加わるから、急いで受けいれろと伝えてくれ」


 「了解です。しかし今からとなりますと、連携に支障がでるのではないでしょうか?」


 大尉が心配そうに問題点を指摘する。


 「カイデル大尉に任せれば、問題ない」


 「そうですね。分かりました」


 遠方での砲撃音も気になるが、今は冬季の移動準備で、一番厄介な戦車のエンジンの始動状況を確認したい。


 向かった戦車の待機場では、整備隊の親方バックナー大尉が支援にきてくれている。


 戦闘団という小規模な戦闘単位だからこその恩恵だろう。


 「そこの奴、何時もより今日は暖けぇ―んだ。頭を使え」


 親方しか知らないようなちょっとした裏技を伝授され、怒鳴られてる奴には悪いが、ここは親方に任せよう。


 そう判断した私はすぐ近くにいる装甲歩兵中隊に方向転換をした。


 案の定、装甲歩兵中隊ではカイデル大尉は忙しそうにしている。


 「カイデル大尉、状況は把握しているようだな」


 「勿論ですフォン・シュトラウス少佐。

 ですが今までの補充要請を散々無視して、よりにもよって出発直前に17名も補充をよこすとは……どういうことでしょうか」


 カイデル大尉は真っ赤に霜焼けした眉間に、皺を寄せている。


 「確かに急だったな。

 このプレゼントをくれた第10軍団司令部が、今後の我々の任務を困難な物と判断していると推察できる」


 「まあ我々も文句の言える立場ではないでしたね。


 黙って彼らとの連携を確認します」


 そう言ってカイデル大尉は、ニヤリと笑った。


 そもそも、彼の装甲歩兵中隊にある3個歩兵小隊で、路外踏破能力の高い装甲歩兵小隊は1個しかない。


 残りの2個軽装甲歩兵小隊は、事実上自動車化歩兵小隊なのだ。


 補充兵を軽装甲歩兵にするのは、簡単なのだろう。


 装甲歩兵中隊には自動車化された重火器小隊1個と中隊本部もあるが、これも損耗している。


 懸案の装甲歩兵中隊も問題ないとわかれば、後は新たな作戦命令に従うだけだ。


 午前8時、まだ夜は明けてない。暗闇の中、別れの挨拶もそこそこに、我々は縦隊を組み前進を開始した。


 ただ、速度は非常にゆっくりとしている。


 暖かくなったと言っても、比較的と言うだけで、平野や道路上の雪は氷結しているからだ。


 それに、今の所、ソ連空軍が夜間功撃をする可能性は低い。


 ライトをつけても危険性が小さく、ゆっくり進めば事故のリスクを最小限にできる。


 しばらく、進むと第30歩兵師団と第290歩兵師団の境界に近づいてくる。


 境界と言っても何かあるわけではない。


 近くには、第46歩兵連隊の第2防衛線を形成する中隊がいるらしいが、暗闇で全く分からない。


 突然、無線機が機械音を発し始め、ハウト曹長が対応を始めた。


 「大佐、どうやらこの周波数で、第290歩兵師団の隊内通信が行われています。お聞き下さい」


 『確認出来るだけで敵は第1線の我が連隊を2ヶ所で突破した。

 第2線は警戒してくれ』


 『その件は了解している。

 西側の穴には第18自動車化歩兵師団からの援軍を投入した。

 彼らと共に敵の突破口を塞ぐのだ』


  続いて、我々が第290の師団長に無線で呼ばれた。


 『戦闘団に連絡士官を回した。彼の助言に留意せよ』


  どうやら、近くに第290歩兵師団の部隊がいて、我々の到着を知らせたようだ。


 すぐに装甲偵察隊に無線で知らせる。


 「中尉、連絡士官がこちらに向かっている。気をつけろよ」


 「分かりました」


 これで、装甲偵察小隊が人身事故を起こすこともないだろう。


  その後、午前10時を過ぎ、日の出前の空が大分明るくなってきた。


 「少佐、使者と合流しました」


 「ご苦労、中尉」


 二人の下士官を連れた連絡士官は、痩せた馬に乗ってやってきた。


 「第290歩兵師団司令部付き参謀ラッティン大尉でありますシュトラウス少佐」


 私はブルク参謀率いる大隊本部の装甲歩兵車に移乗した。


 さらに次席指揮官のフォン・ランゲルト大尉も呼んで、ブリーフィングを開く。


 「最新の戦況を聞きたい」


 「はい。まずソ連軍ですが、総兵力は相変わらず不明です。


 東西共に軍団規模の兵力と推計し、最低でも10万人以上いるのではないかと判断しています」


 「要は大軍としか分かっていないのだな」


 「申し訳ありません。フォン・シュトラウス少佐が仰いる通りです。


 我々が分かっているのは、西側の第一線である第502歩兵連隊の防衛線を、2ヶ所で突破されたことだけです。


 この内、1ヶ所は第18自動車化歩兵師団からの援軍が突破口を攻撃中で、もう1ヶ所に関しては完全に突破されました」


 既に、どうしようもなくヤバい状況のようだ。


 「そして、シュトラウス戦闘団には、まず東側、第一線を担当する第501歩兵連隊に支援部隊を分遣して頂きます」


 そしてラッティン大尉は申し訳なさそうに続けた。


 「その上でシュトラウス戦闘団には第502歩兵連隊と合流して、突破口を塞いで貰いたいとのことです」


 最初の任務は問題ないだろう。


 だが数万の兵力を擁する敵が、1度突破に成功した場所を簡単に明け渡すはずもない。


 しかし、それは言っても詮無きこと、私はすぐに次席指揮官のフォン・ランゲルト大尉に話しかけた。


 「フォン・ランゲルト大尉、残念だが兵力を2分するしかないな。


 私が第502歩兵連隊に合流する。よって君には第501歩兵連隊の支援を頼む」


 「了解です。少佐」


 「それから大隊本部、補給段列後、整備中隊だが、第501連隊に大半を残すことにする」


 これに一瞬、反論しようとしたフォン・ランゲルト大尉だったが、この戦況で後方部門を動かす危険を思い出したようで、素直に頷いた。


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