景色は、ずっとここにあった
掲載日:2026/05/19
まだ明るさの残る、夏前の夕方。
太陽は高いままで、
私は日傘を片手に外へ出た。
誰も歩いていない田舎道。
車だけが、ときおり横を通り過ぎていく。
右側には、背の高い銀杏の木々。
左側には、草と野花の広がる空き地。
葉は、夏へ向かう色をしていた。
濃くなりはじめた緑が、
陽の光を受けて静かに揺れている。
光の中で揺れる葉。
木陰で揺れる葉。
そのひとつひとつが、
宝石みたいだと思った。
こんなふうに景色を見たのは、
いつぶりだろう。
子どもの頃みたいに、
胸の奥が少しだけ弾んでいた。
野花が風に揺れている。
誰かに見られるためでもなく、
ただ空へ向かって咲いていた。
気づけば、
毎日に追われるばかりで、
空の色も、
風の匂いも、
見過ごしていた気がする。
景色は、
ずっとここにあったのに。
昼間の熱が少しやわらぎ、
風が頬を撫でていく。
聞こえるのは、
遠くを走る車の音と、
葉の擦れる音だけ。
それ以外は、
どこまでも静かだった。
誰もいない道を歩きながら、
私は銀杏の葉を見上げる。
風が吹く。
葉が揺れる。
ただ、それだけのことなのに。
少しだけ、
呼吸が深くなった。




