いやーん助けて勇者さま(1)
森の中で目覚めたナオトは不思議そうな顔でひととおり状況を確認していた。
そこへ女神ノアの音声が響く。
「目覚めたようですわね、勇者ナオト」
普段はキャピキャピのくせに女神のときはしおらしい声を出すのが少し憎たらしい。
「だ、誰だ!?」
ナオトは驚いて周囲を見渡す。ここで見つかってしまってはすべてが水の泡だ。現場で見守るスタッフは自然といっそう身を屈めた。
カメラはもう回っている。
「私は女神ノア……実の兄に毒殺された哀れなあなたを違世界『イース』に転生させた者ですわ」
それを聞いてナオトは驚いたが、すぐにそれを受け入れたようだった。
「そっか……俺、死んだんですね……ここはもう日本じゃないのか……違世界イース……本当に違世界ってあったんだ……」
信じちゃったぁー! 本当に信じちゃったよこの人!
「俺、これからどうすればいいんですか……?」
「それは運命が導いてくれることでしょう……しかしその前に、私から一つだけ教えておくことがありますわ」
ナオトは優しそうな女神ノアの声に聞き入っている。
「まずは自信を持って、大きな声で発声してください。ステータスオープン、と」
「ステータス・オープン!」
恥ずかしげもなく言い切るね!
しかし一方で勇者の視界にはステータス画面が表示されて見えるはずだ。
「うわっ! なんだこれ! 本当にステータス画面が開いた!? ……どうなってるんだ、これ」
脳内にBCIを埋め込まれた哀れなナオトは少し楽しそうな顔をしていた。
「それは勇者にのみ与えられたステータスの力……ナオト、あなたはこの力を駆使して己と敵の力を比較することができるのですわ」
「なるほど、鑑定能力ってヤツですね」
理解が早くて助かるわー。
「あなたにはこれから数々の試練が訪れるでしょう。ですが決して挫けてはなりませんわ……強く、強く生きるのです」
「ま、待ってください女神様! そんなこといきなり言われたって……!」
「すべては運命の導きのままに……」
そこで女神ノアの声は途絶えた。
このすべてを伝えないナレーションで彼を没入させていくらしい。
今ここでモンスターを倒す使命を与えないのは、後々自分で選択した形を取らせるためでもある。
「そんな……俺、この世界のことをなんにも知らないのに……」
勇者は不安げな表情を見せる。
だが心配はいらない。それはすぐに私との運命の出会いが待っているからだ。
さぁ! 出番だ!
私は意を決し、記念すべき最初のひと声を発した。
「キャー!」
これぞ物語を動かす始まりの一声だ!
そして茂みから飛び出し、ナオトから少し離れた位置に姿を現す。
「あれは……女の子!?」
よし! まずは私の姿を認識させることに成功した!
次は私に襲い掛かるサル型キメラに扮した高橋さんの登場だ。
「ウキ、キキィ! ギィー!」
上手い! 不気味かつ迫力のある演技でじっくりと私に迫ってくる様子を表現している。
「あれはモンスター!? 女の子が襲われているのか!?」
これも成功。完璧に状況を認識させられた。あとはナオトが立ち向う勇気を示せば恐れ慄いてサルキメラが逃げ出すだけだ。
「だ、だれか助けてニャ~!」
私は悲鳴を上げる。
「うぅ……見過ごすわけにはいかないが、俺にだってどうすればいいのか……そ、そうだ! ステータスオープン! 鑑定!」
さすがは勇者ナオト、違世界についてそれなりの知識があると見える。それだけに私たちの想定したとおりの行動をなぞってくれている。
「なるほど……あのモンスター、ステータス的には俺と比べて大したことないぞ……?」
よし! 裏方のステータス担当がそう思わせられるよう調整した数字を表示しているはず。
上手くいった!
あとはこれで私を助ける行動を何かしら取ってくれれば簡単に高橋さんが逃げていくはずだ。
「……だが待てよ。ここは俺の命もかかってるんだ。少し冷静になろう。まずはスキルも把握しておかないと……」
え?
ナオトはそこで立ち止まってステータス画面を操作し始めてしまった。
レッツ叫ぼう! ステータス・オープン!










