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あなたを勇者にしてあげる 〜転生したと勘違いしている御曹司と偽世界を冒険中。なお全世界配信されてるから迫られても困ります〜  作者: nandemoE


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世界は勇者の目覚めを待っている(2)


 世界は勇者の目覚めを待っていた。


 森の中に勇者ナオトが横たわっている。そして彼が目を覚ました瞬間からこの違世界は動き出すのだ。


 彼を見守るスタッフの準備は万端。


 すでにシナリオという名の未来、運命も組み上がっている。


「準備はいいかリリアン君」


 ネコ耳型インカムを通じて九条専務の声が聞こえる。


「はい」


 私は超小声で答える。音声スイッチを切り替えれば誰にも聞こえないよう発声しても私の声が本部に届くのだ。


「返事は『はいニャ』だ」


「……はいニャ」


 そうだった。私はもう安藤梨里ではない。


 それこそ私も転生したくらいの心構えでいなければたちまちボロが出てしまうだろう。


「気を引き締めたまえ」


「はいニャ」


 私は真剣な顔で草陰からナオトを見守った。


 彼が目覚めたあと、私はモンスターに扮したスタッフに襲われる。そしてそこに偶然現れた彼によって救われ、違世界的にヒロインとしての出会いを果たすのだ。


「彼、なかなか目を覚ましませんね」


 隣に待機しているモンスター役の高橋さんが言った。彼はサル型キメラの着ぐるみだ。


「ええ。かなり強い麻酔だったみたいですから……ニャ」


「麻酔、ですか」


「彼が自室で眠りに就いたのが三日前。その後、ここ違世界島イースに運ばれる前にとある手術が行われたの……ニャ」


「もしかして、モンスターに対抗するための肉体改造手術とか……?」


「いいえ、九条財閥の超絶技術で脳内にブレイン・コンピュータ・インターフェース、略してBCIが埋め込まれたの……ニャ」


「び、BCI……ですか。それはいったい何ができるのですか?」


「驚かないで。なんとステータスオープンと発言すると目の前にステータスが現れるのニャ」


「……それだけ?」


 高橋さんが驚くのもわかる。


「ええ……たったそれだけのために、九条財閥は勇者の脳内に異物を埋め込んだのニャ」


「マジすか……人権とかどうなってんすか……」


「勇者に人権などない。……つまり、勇者は人間ではないのニャ」


「あ、あの……もうそれ以上は話してくれなくていいです……俺、知りすぎて消されたくないんで」


「それが賢明ニャ」


 高橋さんは肩を落とした。


「しかし九条財閥の技術ってすごいんですね……そこに存在しないハズのステータス画面をタッチすれば操作できるんですか?」


「そこはうしろに控えるスタッフさんが遠隔で操作してるのニャ。イースには至る所にカメラがあるから勇者の操作を見て合わせているニャ。その都合上、ステータス画面を表示するときだけは音声で合図させる必要があったニャ」


「ステータスオープンの発声にはそんな秘密が……!」


 高橋さんは驚いたんだか呆れたんだか複雑な顔をした。


 そんな雑談をしながら私たちは勇者の目覚めを待った。


「しかし、そろそろ起きてもらわないと困るわね……ニャ」


 私たちが痺れを切らし始めたときだった。


「……オト……目覚めなさい……勇者ナオト……今こそ目覚めのときですわ……」


 そんな女性の甘い声が森の中にこだました。


「お、これがいわゆる女神様の声ってヤツですね」


「そうニャ。勇者にしか聞こえない設定の女神様の声ニャ」


 勇者に対する必要な指示はこの女神の声が担当する。もちろんそれが勇者にしか聞こえないと現場が錯綜する可能性があるのでまわりにも聞こえるが、そこは聞こえないふりをしなければならない。


 しかしこの声、どこかで聞き覚えがあるような……?


「やっほー! せーんぱい! 女神役の天城ノアでぇーす! 声だけの出演ですみませーん! 私も日本から応援してますんで、頑張ってくださぁい!」


 お前かいっ! 私は無言でツッコんだ。


「こら天城君、真面目にやりたまえ。勇者に聞こえたらどうする」


「にゃふ~ん! きゅぴきゅぴ~!」


 本部での混乱がインカムを通じて私にも届く。


 だ、大丈夫なのか? こんな体制で本当にプロジェクトは上手くいくのだろうか……。


 私は一抹の不安を抱えながら、いまだ目覚めない勇者を見つめた。


「おいリリアン君。スケジュールが押す。そろそろナオトを起こすのだ」


 九条専務の指示がくる。


「そんニャ……起こすって言ってもどうやって……」


 私には役割があるし、下手に持ち場を離れるわけにもいかない。


「石でも投げて起こせばよかろう」


 そんな起こし方ってある!? 仮にも勇者に向かって石を投げるとか……。


 私は肩を落としながらも指示に従い、近場に落ちていた石を拾った。


「わかりましたニャ」


 そして私は勇者に石を投げた。


「いてっ」


 勇者が初めて声をあげる。


「会心の一撃。勇者に1のダメージですわ」


 そんな女神のナレーション要らんわ!


 そうこうしているうちに勇者はぼんやりとその瞳を開き、身体を起こした。


 石が当たった額から一筋の血が垂れている。


 ごめん勇者様、まさか顔に当たるとは思わなかったの……。


「こ、ここは……?」


 不思議そうな顔で森の中を見渡す勇者ナオト。


 ――今まさに、石を投げられて目覚めし勇者ナオトの伝説が始まった――



現実世界の物語ですので、もちろん魔法やチート能力などありません。

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