世界は勇者の目覚めを待っている(1)
私が勇者となる九条ナオトを知ったのは三日前のことだった。
「え……!? エリート揃いの九条家なのに働いてないんですか!?」
例によって九条専務の執務室。
私は大きな声を上げてしまうほど驚いた。
「身内の恥さらしとなるが聞いてくれ。実は今年で二十九歳になったが、就職もせず長らく引きこもっていてな……見たまえ」
そう言って大きなディスプレイに映し出されたのは普通の私室だった。
ベッドにゲーミングPC、漫画などが収められた本棚。そんななかに緩んだ部屋着の男性が一人、寝転がっておなかをポリポリと掻いている。
それでも普通の体型が維持されており、多少の清潔感も残っているのは九条一族が持つ超絶イケメン遺伝子の為せるわざなのかもしれなかった。
「え!? これもしかしてナオトさんの自室映像ですか!?」
「そうだが?」
「盗撮じゃないんですか?」
「そうだが?」
否定しないんかーい!
九条専務は相変わらず平然としていた。
「だ、大丈夫なんですか……? その、人権とか色々……」
「勇者に人権などない」
いろんな意味ですげー言葉!
「昔はそれなりに優秀ではあったのだがな。色々あって人を信じられなくなり、ああなってしまった。一族としても早く目を覚ましてほしいと様々な手を打ったが、残念ながら改善の兆しがなくてな」
さすがに鉄仮面の表情にも影が落ちていた。
「……兄として多少は思うところもあるが、家名に泥を塗るような存在をいつまでも甘やかすわけにはいかない。だからこうして突き放すことになった」
でもそれで違世界とか騙くらかして世界中に動画配信とか酷すぎね?
そう思うところもあったが、それはそもそも私が言い出したことなので黙っていた。
「では、私はこれから弟の部屋に行ってくる」
「え? 今からですか?」
「そうだ。違世界島イースは完成した……スタッフや冒険者も続々と島に移住を済ませている……あとはキメラどもがこれ以上増殖する前に勇者ナオトを違世界転生させるだけだ」
「……しかし、その方法はどうするんですか?」
「そこは悩みどころだった。トラックではねようにも部屋を出ない。同じく自室では通り魔にもあわない。過労死するにもただのニートだ」
完全なる温室育ちだな。
「だから私が睡眠薬を飲ませることにした」
「なるほど、たしかにその方法が一番無難なのかもしれないですね」
「ナオトを眠らせたらそのままイースに運ぶことになる。リリアン君も数日後には引っ越しだ。準備を済ませておくように」
「わかりました」
「では行ってくる。リリアン君は自席に戻ってよろしい。あとで眠らせたときの状況も共有するから、送付資料には目を通しておくように」
そうして九条専務は勇者ナオトの部屋へと出かけていった。
あとで送られてきた映像をオフィスで見ていた私はつい飲みかけたお茶を吹いてしまった。
九条専務から渡された睡眠薬入りの飲み物を含み、今まさに意識が朦朧とし始めた勇者ナオトに向けてこんなことを言っていたのだ。
「悪く思うなナオト……これ以上、一族の恥さらしを生かしておくわけにはいかない」
いや、あんたが殺す役なんかーい!
「う、うそだろ……? 兄さん……酷いじゃないか……」
今まさに倒れようとしているナオトは兄に裏切られ絶望の表情だ。
「せいぜい来世は違世界とやらに転生できるよう祈るんだな……フッフッフ……ハァーハッハッハ!」
お兄さん、ノリノリね。
フッフッフ……ハァーハッハッハ!
となってしまった人は高評価とブクマですよ?










